キミのとなりで
憧れを海に捨ててしまった。
波間から拾い上げた鏡にはやつれた私が映っている。
華奢な小舟が波に揺られてぐらぐらと今にも板がはがれおちていってしまいそうだなとぼんやり思った。
船がギシギシときしんで、と思っら何かにぶつかって激しく揺れた。私も一緒にぐらぐら揺れた。
「あ」
船の底に穴があいてしまって海の水がしみ込んできていた。いよいよこの船は海の底にきえてなくなってしまうだろう。
いっそのこと一緒に沈んで溺れてしまおう、それが一番いいはずだ。
なのにかたく決心したのに
「ぼーっとするな」
と、私と一緒に船に乗り込んでくれたキミが壊れかかった桶を私に手渡した。
「早く掻き出せよ、のろまめ」
と言って、渋い顔をして自分も桶を手に取っていた。
「くじらかイルカが助けに来てくれるよ」
もちろん私は助けてもらおうなんて思っちゃいなかったけど。
「んなわけあるか。むしろサメに喰われる」
相変わらず現実的なんだね。
「サメだからって肉食とは限らないよ、ジンベイザメはおとなしいから平気じゃない?」
「憶測で物事を語らないでくれ」
私は何も言えなくなってしまった。
キミは諦めたのか、私から桶を取り返した。それから自分の上着をぬいで、放っておかれていたオールにくくりつけて
「じゃ、あんたはこれ持って、振り回して。」
拒否権は認められません、なんて顔で言い渡されてしまったら、もう観念するしかなかった。
キミはボロボロの桶で必死に海水を掻き出し続けている。私は黙々と、情けない旗を振り続ける。
時々キミの姿を盗み見る。汗でびっしょりになって、なんでこんなのしかないんだよ!とかだから一緒に来たくなかったんだとかそんな文句をいいながらも決して休むことはなかった。
それを見ているうちに、なんだか私も必死になってきていた。
気づいたら「誰か助けて」と大声を張り上げていた。
不思議なものだ。本当に。
まだ助けはやってこない。遠くでクジラが潮をふいたような気がしたけれど。
精神的に不安定な時期に書いたもの。
いっそ溺れてしまいたい自分と、カッコわるくても遮二無二がんばるキミ。
という感じでした。