釈放
「出ろ」
目つきの鋭い屈強な男が目の前の鉄格子の扉を開いた。
キキーと不愉快な音が大きく鳴り響き、僕は言われるがままに外へ出た。
外は肌寒く、冷たい風が容赦無く吹きつける。
「もう一枚上着を着て来るんだったなあ」
不機嫌そうな表情をした男を尻目に僕は小さく呟いた。
「お前は今日で自由だ。もう戻ってくるなよ」
男は表情をピクリとも動かさず言い放った。
「はい、長い間お世話になりました」
男に軽く一礼し、僕はその場を後にした。
長い間とは言ったが、実際それが長かったのか短かったのか僕にはよく分からない。
十年間の服役期間を経て僕は今日釈放された訳だが、
ずっと一つの事を考え続けていたせいで、時間の感覚がすっかりおかしくなってしまった。
ほんの数日間だったような気もするし、五十年間ここに居たような気もする。
まぁ、僕がどう感じようと十年という年月にそれ以上もそれ以下も無いのだが。
僕は一先ずポケットから煙草を取り出し、そして火をつけた。
出所したらまず最初に行こうと決めていた場所がある。
目の前には駅があり、電車を利用すれば二駅ほどで着くのだが、敢えて歩いて行く事にした。
「よし、行くか」
煙草の火を消し、僕は歩き始めた。
━━━━この男の名前は西山。
二十一歳の時に人を殺し、十年間を塀の中で過ごす事になってしまった。
殺した相手の名前は川田沙織。
彼女は当時十八歳で、西山とは先輩後輩の関係であった。
西山は、自分が何故彼女を殺してしまったのかが分からず、十年の間必死に考え続けていた。