第4楽章 風のアレグロ
海沿いの道に出ると、風が一気に強くなった。
潮の匂いが鼻をくすぐり、空は広く、雲は流れていた。
自転車のペダルを踏む足に、風が押し返してくる。
「風って、見えないけど、確かにあるよな」
陽翔が言う。
「風は気圧差で生まれるんだよ。空気が高いところから低いところへ流れる。だから、風力計で見える化できる」
湊斗がリュックから風力計を取り出す。プロペラが回る。
「おお、回ってる。風、元気だな」
「風って、背中を押す力みたいだよね」
結菜が言った。
「友情も、こういう見えない力で動いてるのかも」
「それ、ちょっとエモすぎない?」
「旅のテンポは、加速していいんだよ」
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4人は海沿いのベンチに座った。風が髪を揺らし、波の音がリズムを刻む。
湊斗がスマホを構える。
「投稿、いくぞ。『風が押すペダルの先に。科学部、七里ヶ浜にて』」
「タグは?」
「#カマカガク #風力計 #風の見える化 #科学の四重奏」
「それ、ちょっとエモすぎない?」
「旅のテンポは、加速していいんだよ」
結菜がスマホをのぞきこむ。
「写真、これがいいんじゃない?風力計を囲んでるみんなの笑顔」
「俺の髪、風で変な方向向いてる」
「それが味でしょ。科学部らしさ」
「俺ら、味で勝負してたっけ?」
「うん。モテないけど、味はある」
「それ、褒めてる?」
「もちろん」
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投稿された写真には、すぐに「いいね」がついた。コメントもいくつか届く。
「風力計って初めて見た!」「科学部、楽しそう」「風って、背中を押す力って素敵」
湊斗がスマホを見ながら言った。
「科学って、伝え方次第で、誰かの見え方を変えられる」
陽翔が少しだけ間を置いて言った。
「でも、俺は“感じる”方が好きかも。風とか、空気とか、動きとか。伝えるのも大事だけど、まずは感じたい」
湊斗がスマホを閉じた。
「…それも科学だな。感じることが、最初の一歩かもしれない」
結菜が微笑んだ。
「Quatuor Scientifique、今日の音は、ちょっと速めのアレグロだったね」




