第1楽章 光の前奏
鶴岡八幡宮の境内は、朝の光に包まれていた。
池の水面は、光の粒をまとって静かに揺れている。
風が少し吹いて、葉の影が水に落ちる。
「偏光フィルター、持ってきたぞ」
湊斗がレンズを取り出す。
それを通して池を見ると、反射が消え、奥の鯉がはっきり見えた。
「すげぇ…光が消えた」
「消えたんじゃなくて、切り取ったんだよ。偏光って、特定の方向の光だけを通すから」
陽翔がうなずく。
「つまり、余計なものを見えなくするってことか」
「それって、ちょっと魔法みたい」
結菜が笑う。
「でも、心にも偏光フィルターがあったらいいのにね。見たいものだけ見えるように」
大翔が言った。
「それ、俺に必要かも。テストの点数とか」
「それは見えなくしても現実は変わらないよ」
4人の笑い声が、池の水面に跳ねた。
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境内のベンチに座って、湊斗がスマホを構える。
「投稿、いくぞ。『偏光で世界が静かになる。科学部、鶴岡八幡宮にて』」
「タグは?」
「#カマカガク #偏光 #科学の四重奏 #光のフィルター」
「それ、ちょっとエモすぎない?」
「旅の始まりは、エモくていいんだよ」
結菜がスマホをのぞきこむ。
「写真、これがいいんじゃない?池の前で、みんなでフィルター覗いてるやつ」
「俺の顔が変なタイミングで写ってる」
「それが味でしょ。科学部らしさ」
「俺ら、味で勝負してたっけ?」
「うん。モテないけど、味はある」
「それ、褒めてる?」
「もちろん」
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投稿された写真には、すぐに「いいね」がついた。コメントもいくつか届く。
「偏光って初めて知った!」「科学部、楽しそう」「光のフィルターって詩的」
湊斗がにやりと笑う。
「ほら、バズってる。科学って、伝え方次第なんだよ」
陽翔が少しだけ間を置いて言った。
「でも、俺は“感じる”方が好きかも。光の粒とか、水の揺れとか。伝えるのも大事だけど、まずは感じたい」
湊斗がスマホを閉じた。
「…それも科学だな。感じることが、最初の一歩かもしれない」
結菜が微笑んだ。
「Quatuor Scientifique、今日の光は、静かな前奏だったね」




