Episode 8
彰仁の単独行動が増え、統制が乱れつつあった姫森ファミリー。
鈴音の説得が効いたのか、それとも目的を果たしたからだろうか…
定位置から動かなくなったのである。
そんな中、アジトの警報が鳴りだした。敵襲の報せである。
航の声が司令室から通信機へと伝わっていく。
「聞こえるかい?ついさっき、敵襲があった。
相手の人数は正確に把握は出来ていないが、僕達とそう変わらない人数だと思う。
心して掛かってくれ。」
「暴れる準備は良いか、お前ら!!」
彰仁はいつにもまして気合が入っていたのか、ドスの効いた声で通信機で呼びかけた。
「おう!!」
全員の声が届いた。
戦闘を行う11人が建物内、外のそれぞれの位置に付いた。
敵の頭領と思われし大男が大きな剣を持ってやって来た。
「姫森ファミリーで、間違いねぇか…?」
「だったら何だ。」
不敵に笑う大男に対し、彰仁は冷めた態度で言い捨てた。
「うひょー…会ってみたかったもんだぜ、お前がボスか!?」
彰仁は突然のハイテンションに付いて行けそうにないのか、辟易とした表情をしている。
鈴音の方をちらっと見たが、彼女はこうなったら相手に合わせてと彰仁にジェスチャーをした。
仕方ないと思い、彰仁は自分がボスだと振る舞う事にした。
「ああ、如何にもだ…俺は姫森ファミリーのボス…柊原彰仁。
散りゆくのは、どっちだろうな…?」
凍り付く様な低音が響く。彰仁の普段の声と全く同じだが、表情が相まってまるで悪役の様である。
「楽しみにさせてもらうぜ、イヒヒ…!!」
「じゃあ、他に言う事は何もねぇな…行くぞ、お前ら!!」
彰仁が待機している11人に向かって叫ぶと、戦闘が始まった。
龍神ファミリーが初めて襲撃した時よりも、戦う人員が多いためにスムーズに討伐が進む。
香恋は槍から雷を出して遠くに居る敵を感電させたり、哲弥は拳を振り上げて倒していく。
彰仁はいつもの素早さで敵陣を切り裂いて行った。
一方、理央は照準を敵陣に合わせて様子をうかがい、
他の室内で戦うメンバーは同じように様子をうかがっていた。
そんな中、ボスであろう大男が鈴音の方に寄って来た。
更にはハンマーで攻撃してくるので彼女は身をかわしながらである。
鈴音は笑顔であるが顔が何処か引きつっている様だった。
「君、カワイコちゃんだねぇ…俺の女にならねぇ?」
「お褒めの言葉ありがとう。だけど…その誘いは乗れないね。」
鈴音がそう言うと、大男は逆上して襲い掛かろうとした。
動きが予測できていたのか、鈴音は素早く避けた。
「何故だ!?俺ってばこんなに強いし逞しいのに。君んとこのボス、もやしだろ?
あのもやしより俺みたいなムキムキの方が良いって。」
グイグイと来られるので鈴音は次第に表情が変わり、青い瞳は凍り付いた様に輝きが変わった。
「おじさん、勘違いしてない?」
そう言って鈴音は扇で大男の顔を切り裂いた。顔からは血が噴き出していく。
攻撃に耐えかね、顔を押さえ始めた。
「いっ…!?てめぇ、俺に何を…ぐわぁぁあ!!」
大男は突然来る激痛に悶絶し始めた。
何を隠そう、鈴音は扇で切り裂くのと同時に風の力を使い、切り裂いた傷を一気に広げ切ったのだ。
「私に近付くなんて1億年早いから。出会えてよかったね…これでもう、楽になれるでしょ?」
鈴音はまるでいつもと別人の様な冷たい態度で大男の体を踏みつけながら言った。
「ぐっ…俺はまだ、やられるわけには…。」
大男は気絶する寸前の所で耐えながら言った。
鈴音はまだ生きてたんだと言い、扇で自分の口元を覆っていた。
「ねぇ、最後に教えてよ。龍神ファミリーの事、深淵なる闇と言うのがボスなの。
そいつの事…何か知らない?」
「知らねぇ知らねぇ…!龍神ファミリーってのは…俺達なんかが到底かなわない連中だ!
触れちゃいけねぇパンドラの箱ってやつだぜ…!」
慌てて大男が弁明をしだしたので、鈴音は呆れた様な顔で言った。
「ふーん…じゃあ、私からはこれで最後。
姫森ファミリーのボスは私…女の子だからって舐めてたでしょ?判断を誤ったね、おじさん。」
そう言い捨て、鈴音は大男の頸動脈目掛けてとどめを刺した。
大男はそのまま絶命し、辺りには血の海になっていた。
「随分と馬鹿な大人も居るものだね…。」
鈴音はその場でしゃがみながら呟き、遺体の処理を業者に電話でお願いし始めた。
そしてファミリーの情報を乃蒼に確認してもらおうと写真を送った。花園ファミリー、との事だった。
彼女がやり取りをしている中、真尋から通信が入った。
「大変だ、彰仁くんが負傷して倒れこんだ!今から治療室へ運んで行く事にする…後は頼んだよ!」
「ちょっと待って、怪我の程度はどのくらい?」
真尋の慌ただしい様子に驚きつつも、鈴音は冷静に対応していた。
「横から撃ち込まれている。見たところ、深い様だ…。」
「流れ弾でも喰らったのかな…真尋ちゃん、後で私も行くから治療はお願い!」
「了解、仰せのままに!」
そう言って真尋からの通信は切れた。
鈴音は無線で話している時は落ち着いていたが、次第に不安で青ざめていた。
次第に敵陣が全て散り、遺体となったので他の構成員が鈴音の元に駆け寄って来た。
「ボス…無事だったんだね!」
最初に声を掛けたのは香恋だった。
声が震えつつも、無事な事に安堵している様子の彼女に対し、鈴音は香恋の手を取って言った。
「余裕だったよ…相変わらず、何かナンパしてきて気持ち悪かったんだけどね。
そんな事は良いんだけど…あっちゃんが倒れる前に何があったか、教えてくれないかな?」
鈴音が香恋に言うと、震えながら話し始めた。
「アタシは迎撃だから、もしアジトの中へ入って来ようとするんだったら
槍で貫いてやろうと思ってたんだ。
それで雷で遠くに居る奴を撃ったりしながら様子を見てたんだけど…
そしたら、突然酷い銃声が聞こえてさ…。そしたら、アッキーはそのまま倒れちゃった…。」
「ありがとう、話してくれて。香恋ちゃんも怖かったよね…。
それで、他の皆は怪我してない?
もし…少しでもしてるんだったら真尋ちゃんの所に行くか私が応急処置してあげるよ!」
鈴音がそう言うと、他の構成員は問題ないのか大丈夫と返事をした。
友介が心配そうな顔をして鈴音に尋ねた。
「彰仁、大丈夫かな?」
「今は分からない、深い傷を負ってるみたいだから…。でも、私は信じてるよ。
あっちゃんは大丈夫だって。」
そう言って励まそうとしていた時、航が通信室から出て来て鈴音の元に来た。
「ボスは大丈夫なのかい?何も怪我とかしたりしてないよね…?
乃蒼も心配で仕方が無いみたいで、医務室へ向かったみたいなんだ。」
珍しく慌てている様だったので、鈴音は微笑みかけながら言った。
「大丈夫だよ…私は大丈夫。航くんも気が気じゃ無かったよね…?
とにかく…あっちゃんの無事が分からない以上、今後の事は後で会議室で話し合うから。
準備の方、よろしくね。」
「ああ、任せてくれ。」
航はそう返事をし、会議室の鍵を鈴音から受け取って準備をしに向かいに行った。
緊急事態が起きてしまった。
そう、アンダーボスの彰仁が敵の銃撃を受け生死の境を彷徨っているのである。
各々が不安に駆られる中、鈴音はボスとして落ち着いて対処しなければと振る舞っていた。
準備が出来たと航から通信が入ったので、鈴音はそのまま呼びかけた。
「会議室に集まって!これからの事を話し合いたいから…よろしくね!」
「了解!」
彰仁と治療している真尋以外の全員が返事した。
後で真尋が通信を送った。
「ボス、ウチは今手が離せない…始めててくれ。」
鈴音は良いよーと送り、そのまま会議を始める事にした。
そして、彰仁と真尋を除く10人が会議室に集まると…鈴音が話し始めた。
「まずは皆…お疲れ様。敵襲があった時に、警報が鳴るようにしてたんだけど…気付いたよね?
良い戦いをしてたと思う。私も、ボスなのかよく解んないのと戦って倒し切ったんだからね。
でも、最悪な事が起きちゃったよね…。言わなくても分かるかもしれないけど…言うよ。」
途中まで話すと、いったん深呼吸をし始めた。
そして続きはこうだ。
「あっちゃんが負傷してしまったの。しかも、深い傷を負ったって聞いたよね…?
今、真尋ちゃんが処置を行ってくれているという状況なんだよ。
私は大丈夫だと信じてるし、皆もそう思いたいと思うけど…最悪の場合も考えなきゃね…。」
鈴音はまた、深呼吸をし始めた。話すのも大変そうである。
「と言う事で、しばらく代理のアンダーボスを…航くんにお願いしようと思うの。
作戦指揮と掛け持ちになるけど…大丈夫かな?」
「ああ、任せてくれ。彰仁がいつ戻ってきても良い様に全力を尽くさせてもらおうじゃないか。」
航がそう言うと、他の構成員はその頼もしさにひとまず安堵した様だった。
「書類仕事は私がやるから、他の事をアンダーボスとしてやってくれると助かるなぁ。
本当に頼んでも良い?」
「良いよ、ボス。」
航はそう答えた。
すると、乃蒼が口を開いて言った。
「もし、アンダーボスの仕事で手に負えない様だったら…私が代わりに指揮をするわ。
いつも作戦をノートにまとめてくれているでしょう?困ったら頼って頂戴ね。」
「ああ、ありがとう。君が居ると本当に助かるよ。」
航は乃蒼にそうお礼を言うと、鈴音の隣へと移動して短めの挨拶をした。
「さて…ボスから任命されたからには全力でやらせてもらうよ。
しばらく僕は代理でアンダーボスをやる事になった、皆…よろしく頼む。」
そう言うと、理央や香恋からは頑張れと言う声援が届き、
哲弥のこれは頼もしいなと言う声が聞こえた。
「と言う事で話は終わり…皆、休んでいいよ!」
鈴音がそう呼びかけると、会議室からはあっという間に人がはけて行った。
そして鈴音と航の2人で部屋を片付けて、そのまま会議室を後にした。
廊下を歩いていると、先に航が話を始めた。
「医務室、行ってみる?」
「うーん…真尋ちゃんの邪魔しちゃいけないし、行っても良いって言うんだったらね。」
「それもそうか…また、後にしよう。」
そんな会話を二人でしていると、真尋が走って来た。
「2人とも、まずはちょっと話を聞いてくれないかい?」
すると、鈴音と航はどちらも頷いていた。
「とりあえず、一命はとりとめたが…いつ目を覚ますのか分からない状況だ。
下手したら、容態が急変して亡くなってしまう事もあるだろう。
ウチは彼に出来る事を全てやったんだ。
お願いがある、忙しい時は仕方がないと思うが…見舞いに来てやってくれないだろうか。」
「良いよ!私はもう、毎日行くから。航くんは?」
「僕も行く事にしよう。ファミリーの一員としても、アンダーボスとしても先輩だからね。」
「そうか…ありがとう。彰仁くんは口ではああ言ってるけど、皆から愛されてると思うよ。
特にボス…君からは本当に分かりやすい程にね。」
真尋がからかうように言うと、鈴音が照れながら言った。
「やめてよー…もう…私をそんなにからかって、面白いの?」
「誰だって面白いさ。良い反応が貰えなくても、それはそれで個性だからね。」
「はぁ…程々にするんだよ。」
航が苦笑しながら言うと、真尋は口笛を吹きながら頷いた。
まさかの事態になった花園ファミリーとの戦い。
これは龍神ファミリーとの決戦の前哨戦なのだろうか。
そして、彰仁は目を覚ますのだろうか。
色々な思いが、ぐるぐるとめぐり始めていく。




