Episode 7
作戦会議を終え、姫森ファミリーの面々はそれぞれ戦いに向けて準備をしていた。
武器の新調、強化…更には肉体強化に励むメンバーも居た。
そんな中、彰仁は単独で潜入調査を続けてる事にした。
真尋が言っていた、鈴音の病気を快方に向かわせるための材料を手に入れる為でもある。
龍神ファミリーが何か持っているかもしれない、と考えたのだ。
鈴音は、アンダーボスが不在になりがちな自分のファミリーの状況に不安を感じていた。
「誰か、あっちゃんが居ない理由…知らない?」
そう呼びかけると、真尋以外は特に反応が無い。
真尋はと言うと、何か知っている様な素振りを見せた。
「真尋ちゃん、何でもいいの。何であっちゃんが最近、一人で行動してるのか教えて。」
鈴音がそう言うと、真尋が流石に隠し通す訳には行かなくなったね、と意味深に呟き話し始めた。
「ボスの病気の事を話したんだ。
そしたら、彰仁くんは俺が何とかするとでも言いそうな顔になってね。
時々一人で行動する事はあったが、この頃は増えたと思うよ。」
「別に話しても良かったけど、あっちゃんに話すのはダメなんじゃない…?」
苦笑しながら、鈴音は最後に今更だけど、と付け加えて言った。
「責任感が強いし、基本的に人を頼らない性格だしね。
それでも私がボスになりたての頃はまだ、普通の男の子だったよ。
今のメンバーになって…変わったんじゃないかなぁ。」
「確かに最初の頃は、良く笑ってたもんだね…。今はもう、殆ど見られないよ。」
真尋が昔の姿を思い浮かべながら、何処か懐かしさと寂しさを覚えていた。
二人で話していると、香恋が話に入って来た。
「あのさ、ボス…アッキーが居ない時って大変じゃない?
代理を立てた方が良いと思うんだけど…。」
「うーん…それ、ずっと考えてたんだよねぇ。
でも…あっちゃんの役割って結構大きいものだから、負担が大きいと思うの。」
鈴音が悩んでいる様子だった。香恋は何となくであるが、ファミリーの運営の大変さを知っていた。
「アタシは、航とか良いと思うんだよね。彼は結構…しっかりしてるっしょ?」
「航くん、ねぇ…確かに頼りになるけど…どうだろう?」
鈴音と香恋が話し合っていた所に、航が入って来た。
「僕に彰仁の代わりをやって欲しいのかい?」
「そうそう、最近はアッキー…何かと不在じゃない?
だからさ、アッキーが居ない時でもボスの負担が減らせる様にと思って。」
「ふーむ…別に、断るつもりはないけど…彼が居ない時に決めて良いのだろうか。」
「大丈夫、事後報告するから。ね、ボス!」
香恋がそう言うと、鈴音のちょっとー、と言う声が聞こえた。
流石に勝手にあれこれ決めてたら、怒られるのではないかと思っていた。
「ところで、通信は出来るのかね。未だに彰仁くんから何も来ないんだが。」
真尋が言うと、航が確認をし始めた。
やれやれ、と言った表情になっている。
「全然駄目だね。彼が何処で何をしてるか、これじゃ全く見当が付かないじゃないか。」
「そう、いつも一人で出掛けてる時は何も無いの。
おまけに…私が部屋に居たりするときに出かけるんだよ、酷いよね…?」
鈴音が不満気な表情をしている。
それを見て真尋はニヤニヤし始めた。
「ボス、彰仁くんの事…好きなんだろう?」
「ふぇっ…!?変な事言わないでよ。」
驚いたのか、飲んでいたリンゴジュースをこぼしそうになった鈴音。
その様子を見て、真尋は続けた。
「図星じゃないか、全く…君は分かりやすいな。
彰仁くんが君の事をどう思ってるか、聞いて来ようか?」
「良いよ、そういうのは…。」
鈴音が珍しくしおらしくなっている姿を見て、香恋は珍しいと呟いた。
航も苦笑しながら、真尋に言った。
「真尋、あまり人をからかうモノじゃないよ。」
「面白いから良いじゃないか。まぁ、気を付けるよ。」
「目が泳いでるよ。」
「バレたか…まぁ良い、彼の帰りを待つとしようじゃないか。」
そう言って、航と真尋の2人はそれぞれの部屋へと戻って行った。
鈴音と香恋が映画の話をしていると、友介が用件があったのか、話しかけてきた。
「ボス、ちょっと良い?」
「良いよー、どうしたの?」
「深淵なる闇からビデオメッセージが送られてきた。確認して欲しいんだけど、今大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど…何故このタイミングなんだろう…?」
鈴音は怪訝な顔をしつつ、友介から渡されたファミリー共有のノートPCを見ていた。
すると、あの時対峙したあの男が写っていた。
「やぁ…元気かい?姫森ファミリーのお嬢ちゃん。
私は君がとても、可愛くて…おまけに強い事をあの時知る事が出来て本当に嬉しいよ。
何はともあれ、決戦の日を設定するとしよう…Xデーは1ヵ月後だ。
また会えることを楽しみにしているよ。サラバだ…。」
そう言って映像が終わった。
友介は随分と気持ち悪い事ばっかり言うなぁ、と毒づいていた。
鈴音も嫌そうな顔をしつつ、時間があまり無い事を悟り焦りを見せていた。
「はぁ…どうしよう。あっちゃんがちょくちょく居なくなるし、
私がどうにかするしか無いのかな…。」
上の空でそう言うと、航が慰めるように言った。
「確かに時間はあまり無い。だから…僕も全力でボスの為に協力するよ、安心したまえ。
僕と乃蒼はあまり戦場には出れないけど、サポートならいくらでも出来る。
心配しなくても良いよ。」
航がそう言うと、鈴音は少しほっとした様だった。
そして、玄関の鍵が開いて開く音がしたので鈴音はそこに向かった。
ドアを開けたのは勿論、彰仁だった。
「ったく、真尋は人遣いが荒いぜ。俺に全部集めさせんのかよ…ってボスか。」
彰仁が愚痴る様に言っていると、鈴音が立っている事に気付いて顔を見た。
「ねぇ、最近よく一人で出掛けてるよね?どういうつもり…?」
「どういうつもりも何も…お前の、ファミリーの為に動いてるんだぜ?こっちはよ…。」
鈴音が何処か機嫌が悪そうなのに気付いてないのか否か、彰仁は弁論をし始めた。
「ふーん…肝心な時に居てくれなくて何がアンダーボスなんだろう…。」
「何が言いたい?」
「私がどれだけ心配したと思ってるの?それに、あんまり勝手に動いてもらったら困るんだよね。
あっちゃんが外に行って何をしてるのか知らないけど、
私は居なくなっちゃうんじゃないのかと思って…怖いんだよ。」
彰仁が相変わらずぶっきら棒な態度なのに対し、鈴音は感情を頑張って抑えている様だった。
わめいても仕方が無いからだ。
「とにかく、今後出掛けるなら必ず誰かと一緒に行って。お願いだから。」
鈴音は彰仁にそう言い放つと、書類仕事があったのを思い出して部屋に向かって行った。
彰仁は良く分からないと言った表情をしてソファに座った。
「アイツ…何であんなに機嫌が悪いんだ?」
「何でって…君は鈍感だねぇ。」
彰仁の問いに対し、真尋は呆れながら言った。
「心配で仕方が無いんだよ、さっきも…彰仁くんが居ないことが増えたから、
代理を誰か立てようかと言う話になったのさ。」
「それなら航が良いんじゃねぇの?強いし、良い奴だしな。
俺みたいなひねくれ者よりずっと受けも良いだろ。」
彰仁はまるでジョークの様に自虐めいた事を言っていた。
その表情はどこか自嘲めいたものだった。
「実際に、俺はボスとは上手くやれてねぇ。作戦会議の時くらいだろ、まともに話すの。
幼馴染ってだけで全然違うし、太陽と月みたいなもんだぜ。」
「そこまで違うかね…まぁ良い、材料は取ってきてくれたのかい?」
「種類が多かったもんでな…ほらよ。」
真尋に彰仁が大きな袋を渡した。
中には草花や草など色々なものが入っている。
「これを調合すれば、ボスの命を救えるものが出来るはずさ…ありがとう。」
「別に良いんだよ、ところで…それはどのタイミングで使えば良いんだ?」
「土壇場が良いだろうね。」
「ああ、それまで取っておいた方が良いか。」
彰仁がそう言うと、真尋が袋に入った材料を実験室に持ち込んで行った。
そして、哲弥が話しかけてきた。
「彰仁、帰って来てたのか。また何か探してたんだろ?」
「ああ、そんなところだ…見つかったみてぇだがな。」
「何でも良いけど、あまりボスに心配かけさせんなよ?心配してたぞ。」
「分かった、善処するぜ。」
哲弥は本当か?と言いながらも気を付けろよと言い残して行った。
彰仁はソファに座ってコーヒーを飲み始めた。
そんな中、理央が隣に座って来た。
「アッキー、そう言えば決戦の日がいつか…聞いた?」
「あ?まだ聞いてねぇけど…いつだって?」
「今日から丁度1か月後だってさ。まぁ…あまり時間が無いしやる事やるしかないよね。」
理央がいつにもなく真面目な様子なので、彰仁は一体どうしたんだと思っていた。
「お前、いつもならこんなの余裕とか言ってるだろ。何からしくないぞ。」
「オレは別に、いつもと変わらないけどね。
それよりアッキーの方こそ、一人でこそこそ何やってんだい?
調査だったらオレも暇だったら行くし、罠の解除だってお手の物さ。」
「あぁ…まぁ、色々しなきゃいけねぇ事があるんだよ。」
彰仁がグイグイ来ている理央に辟易としつつも、適当に答えた。
それで理央が納得するはずも無かった。
「てっちゃんが言ってたけど、アンダーボスが不在の時に攻めて来られたら…
大概のファミリーは壊滅してしまうって。結構危険な状態なんだよ。
片翼しか居ない状態になるんだからさ。」
「果たして、俺がそのアンダーボスになって…良い事あったのか?」
「良い事しかないよ。今までアッキーの存在があったからファミリーは強くなれた。
何か、自信無さげに聞こえるけど…どうしたのさ。」
理央がそう問い詰めると、彰仁は上の空で答えた。
「俺は分からねぇんだよ。何で必要とされてるのか分からねぇ。
誰かを導くような器じゃねぇし、一人で何でもやって挙句の果てにボスから怒られてるだろ?
お前らに重荷を背負わせたくねぇから、俺がやってるだけなのに。」
「別に重荷だなんて…。」
「理央、アンダーボスってのはすげぇ大変だぞ。昔の俺はそれを良く分かって無かったんだ。」
そう言って彰仁はまた屋上へ向かって行った。理央はやれやれ、と言った表情をしていた。
混沌とした空のままだが、外の空気は相変わらず美味しいからだ。
しばらく黄昏ていると、鈴音がやって来た。
「またこんな所に居て…風邪引くよ?」
「平気だ、お前と違って丈夫だからな…こっちは。」
「ふーん…。」
鈴音との間に微妙な空気が流れた。
しばらくの沈黙の後、鈴音が口を開いた。
「私の病気の事、真尋ちゃんから聞いたの…?」
「ああ、聞いたよ。それがどうした?」
「一人で行動してる事が多いでしょ?それに、私のためってどういう事なのかなぁって。」
鈴音が問い詰めると、彰仁はそのまま答えた。
「お前の心臓…そのままの状態じゃ長くは持たないってな。
だから、俺はお前を少しでも長く生き永らえさせようと思って…材料を集めてたんだ。
ファミリーの下っ端を脅して手に入れたよ、何なら戦闘だって発生したな…奴が不在の時だが。」
「危ない事してたの?」
「当たり前だろ、お前のため…ファミリーのためならいくらでも自分の手を汚せるぜ。
血塗れだろうが構わねぇ。」
「はぁ…私の病気の事、気にしてくれるのは嬉しいけど…
正直、不安ばっかりで前より眠れなくなってるんだよ?
あっちゃんは気付いてないかもしれないけど。」
鈴音が不満気に言うと、彰仁が顔を覗き込んできた。
「お前…改めて見ると、可愛い顔だな。」
「急にどうしたの!?」
「事実だろ、何を慌てふためく必要があるんだ?
とにかく、お前は俺に傍に居て欲しいってわけだ…もう、出歩く用事もねぇしな…。
善処するよ。」
「そうしてください。」
鈴音は溜息を付きながら言った。
彰仁は更に一言付け加えた。
「良い夢見ろよ、スズ。」
そう言って彰仁は屋上から部屋へと戻って行った。
鈴音は突然、馴染みの呼び方をされた事に驚いていた。
でも内心、嬉しかった様である。
二人の心の壁は無くなっていくように感じた。




