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第8話  異世界令嬢、スイーツの頂点を目指しますわ!

 カフェ・ルミエールの厨房には、甘く芳醇な香りが満ちていた。

 メルフィーナは、白いエプロンをつけながら、カウンターに並べられた焼きたてのシフォンケーキをじっと見つめる。


「ふふ、メルちゃん。随分と手際がよくなったねぇ」


 老婦人が微笑みながら、シフォンケーキの焼き上がりをチェックしている。


「当然ですわ! 私はこの世界のスイーツを極めると決めたのですから!」


 メルは腕を組み、自信満々に胸を張った。


「まあ、最初の頃は卵を泡立てるだけで腕が疲れるって言ってたのにな」


 響が苦笑しながら、椅子に座ってメルを見上げる。


「むぅ……それとこれとは別ですわ。貴族とは、日々努力するものなのです!」

「はいはい、お嬢様の努力はすごいすごい」


 響は適当に相槌を打ちながら、コーヒーを口に運ぶ。

 そんな二人のやりとりを眺めながら、老婦人がふと思い出したように言った。


「そうそう、メルちゃん。この街で今度スイーツコンテストが開かれるんだけどね……よかったら、参加してみるかい?」

「スイーツコンテスト!?」


 メルは驚き、響も思わず顔を上げた。


「この街で開かれる毎年恒例のイベントさ。街のカフェやお菓子職人たちが、自慢のスイーツを持ち寄って競い合うんだよ」


 老婦人は楽しそうに説明しながら、手元で紅茶をそっとかき混ぜる。


「出場者たちは、それぞれ自慢の一品を作って審査員や来場者に振る舞うんだ。その出来栄えや味、見た目の美しさを競い合って、最も優れたスイーツを決めるのさ」


 メルは耳を傾けながら、想像を巡らせた。

 貴族の社交界では、格式高いお茶会で手の込んだ菓子が供される。だが、この街では職人たちが技を競い、評価される場があるというのか——。


「ルミエールも毎年参加しているんだが、今年は出場者がまだ決まってなくてね。メルちゃんが出てみるのもいいんじゃないかと思ったのさ」

「なっ……! 私が!?」


 メルは一瞬、言葉を失った。

 この世界に来たばかりで、スイーツ作りを始めたばかりの自分が、大会に出場するなんて——そんなこと、考えたこともなかった。


「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! 私、まだお菓子作りを学び始めたばかりですのよ!? そんな私が出場するなんて……」

「だからこそ、いい機会じゃないか」


 響が腕を組んでニヤリと笑う。


「お前、さっき『スイーツの道を極めますわ!』とか言ってたよな?」

「そ、それは……」

「だったら、実力試しにもちょうどいいだろ? それに、お前がどこまでやれるか、俺も見てみたいしな」

「むぅ……!」


 メルは唇を噛む。


 確かに、スイーツ作りの腕を磨くには、実践の場が必要だ。

 だが、それはせいぜいカフェでの経験を積むことだと思っていた。いきなりコンテストに出るなんて、あまりに無謀すぎる。


 しかし——。


(……でも、この世界のスイーツは、私がいた世界では見たことがないものばかり。もし、私がこのコンテストで何かを学べるのなら……!)


 胸の奥で、挑戦したい気持ちがふつふつと湧き上がってくる。


「お前さ、どうせやるなら“頂点”狙えよ?」


 響が軽く肘で小突く。


「この街のスイーツ界で名を轟かせたら、お前の夢のティーサロン開業にだって近づくんじゃねぇの?」

「っ……!」


 メルはハッとした。


(ティーサロン……私だけの特別な店。私が作ったお菓子と紅茶で、たくさんの人を幸せにする場所……)


 この街で店を持つには、まず自分の存在を知ってもらうことが必要だ。

 ならば、このコンテストは絶好の機会ではないか?


「……ふふ」


 メルは静かに微笑み、目を閉じた。


 そして——。


「いいですわ! 私、コンテストに出場いたします!」


 勢いよく宣言するメルに、響は満足げに笑い、老婦人も優しく頷いた。


「よし、決まりだね。じゃあ、さっそく準備を始めるとしようかね」

「お菓子作りの基本はしっかり叩き込んだから、あとはどんなスイーツを作るかだな」


 響がメルの肩をぽんっと叩く。


「もちろん、誰にも負けない最高の一品を作るつもりですわ!」


 メルは胸を張り、自信満々に言い放った。


 こうして、異世界令嬢メルフィーナのスイーツコンテスト挑戦編が幕を開けたのだった——!




→次回:「異世界令嬢、秘策のスイーツを考案しますわ!」


 果たして、メルはどんなお菓子を作るのか!?

 彼女の貴族的発想が、異世界スイーツに革命をもたらす——!?

 次回もお楽しみに!!

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