第15話「異世界令嬢、華麗なるスイーツ対決に挑みますわ!」
カフェ・ルミエールの店内が賑わっていた。
「メルさん、本当にグラン・ベルのオーナーとスイーツ対決をするんですか?」
常連客が興奮気味に尋ねると、メルフィーナは微笑みながらカップを置いた。
「ええ、もちろんですわ。」
アレク・フォルティスからの突然の挑戦——
「あなたが本当に自分の道を選んだのなら、実力を見せてもらいましょう。」
その言葉と共に、彼はスイーツ対決を提案してきたのだ。
「テーマは『紅茶と合う最高のスイーツ』。それぞれがオリジナルの一品を作り、お客様にどちらがよりふさわしいかを決めてもらう。」
メルはその提案を即座に受けた。断る理由はなかった。自分が選んだ道を証明するには、これ以上の舞台はない。
「響、私がこの対決に勝ったら、何かお祝いしてくださる?」
カウンターで準備をしていた響は、少し驚いたようにメルを見た。
「……なんだよ、急に。」
「せっかくの晴れ舞台ですもの。勝利の祝杯くらいあってもいいのではなくて?」
メルが楽しげに言うと、響は肩をすくめた。
「まぁ……勝ったら考えてやるよ。」
「ふふ、期待していますわ。」
そのやり取りを横で聞いていた老婦人は優しく微笑んだ。
「メルちゃん、あなたらしく頑張ればいいのよ。」
「はい、おばあ様!」
そして迎えた対決当日。
会場となるのは、グラン・ベルの広々としたホール。招かれたのは、食通として知られる貴族や著名人たち。
メルは真っ白なエプロンを纏い、気を引き締める。
「さあ、始めましょう。」
審査員たちの前で、二人のパティシエがそれぞれのスイーツを披露する。
アレクが作ったのは、繊細なラベンダーハニーのタルト。美しい飴細工が施され、芸術品のような一品。
一方、メルが選んだのは——
「私のスイーツは、『ロイヤルミルクティーシフォンケーキ』ですわ!」
ふんわりとした生地に、香り高い紅茶の風味を練り込み、優雅な甘みが口の中に広がる。まるで貴族の午後を彩るような一品だった。
観客の間にざわめきが広がる。紅茶と共に楽しむことを前提にしたスイーツとして、メルのアイデアは興味深いものだった。
「さて、どちらがより紅茶と相性が良いか……審査開始です!」
審査員たちは、慎重にフォークを持ち、それぞれのスイーツを口に運んだ。
「これは……」
一口食べた審査員たちの表情が微かに変わる。
アレクのタルトは、まさに完璧な技術の賜物。ラベンダーの香りが華やかに広がり、ハチミツの甘さと絶妙に調和している。
一方、メルのシフォンケーキは——口に入れた瞬間、驚くほど軽やかに消えていく。だが、その後にしっかりとした紅茶の余韻が残るのだ。
「このふわっとした食感……まるで紅茶の香りがそのままケーキになったような……!」
「シンプルに見えて、紅茶の魅力を最大限に引き出している……これは面白いぞ。」
審査員たちは熱心に議論を始めた。
メルは静かに審査員の反応を見守りながら、拳を握りしめる。
(絶対に負けませんわ……!)
アレクは静かにメルを見つめ、ふっと微笑んだ。
「なかなかの出来ですね。ですが、勝負はこれからですよ。」
メルはその視線を受け止め、自信たっぷりに微笑み返した。
「当然ですわ。私のスイーツがどれだけ素晴らしいか、皆様にしっかりお伝えいたします。」
観客の注目が一層集まり、会場の空気が張り詰める。
次なる一口が、運命を左右する——!
→ 次回 「異世界令嬢、審査員を魅了しますわ!」
審査員たちの評価は!?メルの運命を左右する一口が試される!




