スタァライトスゥサイド
「君はいつ死ぬ」
「お星さまが全て死んだら、その後に」
「なら永遠に生きるわけだ」
「いいえ、世界の滅亡なんて明日明後日にも起きるかもしれないものよ」
作家志望の女は、そこまで書いた原稿をビリビリと破り捨てた。合計で、十二万三千四百六十五文字。今書いた四つのセリフが、その全てを台無しにしてしまったのだ。
「うまくいかないこともあるわ。あなたが、悪いわけではないのよ」
柔らかいブロンド髪のレイアリスが優しい声でそう言ったのは、決してこの作家志望の恋人が恐ろしいからではない。今刺激してしまうと、余計に心を痛めてしまうのではないかと気を遣ったのである。
「なあレイアリス」
原稿をゆっくりと千切りながら、作家志望の女は語り始める。
「美しく飾られた切り花は幸せなのか。その真を探ることこそが、作家という生き方だと思わないか」
それは心の底にある言葉なのか、それとも思いつきなのか。レイアリスはわからないまま、恋人への返答を考える。
「己は幸せなのか、己の幸せはどこにあるのか……ああ違う、今日はもうやめましょう。私もあなたも、おかしくなってしまっているわ」
レイアリスは恋人に、いつも通りに接することができなかった。
彼女ももう限界。
この狂いかけの作家志望の女と暮らすより、二月前から自分のことを気にかけてくれているバーで知り合った女と一緒になったほうが幸せになれると、わかってしまっているのである。
「私にはもう、私にはもう、埃の積もった部屋の片隅で小説を書くことくらいしか残っていないんだ。なあ、レイアリス。君ならわかるだろう。世の中には、それしかできない人間というものがいる。だから、それしかできないまま死んでいく。わかるか、死ぬことが救済になる可能性は高いが、死んでしまってはそれを証明できない。多すぎるから、多すぎるから、それしかできないということに価値なんてなく、尊さもなく――」
レイアリスの心離れを察してか、作家志望の女は縋りつくように話し続けた。原稿を破る手を止めてまで、話し続けたのである。
「あなたは、疲れているのよ。今日は薬を飲んで休んで――きゃあ!」
いきなり頬を叩かれたレイアリスは、大げさによろけてみせた。わざと、わざとそうしたのだ。
「ああ! 疲れているさ! 毎日毎日心と脳に作用する薬を飲んで、悪夢を見すぎて眠ることすら安らぎにならない。もうわかっているんだ! 君が私と離れたがっていることも!」
「落ち着いて、落ち着いてよ」
「君は私のティンカーベルか? それともティンカーベル気取りか!」
「わかったわ。もうわかったから」
「なにがわかったんだ! 君は、私と違ってそれだけの人間ではないじゃないか! もういい。行けよ、君が行きたいところにい――」
作家志望の女はそのセリフを最後まで言い切ることができなかった。レイアリスに、撃ち殺されてしまったからだ。
「今、あなたは、私の逃げ場所まで奪った。でも責めるつもりはないわ、これは、私があなたを壊したことに対する罰なのだから」
レイアリスは戸棚の中からウヰスキーの瓶を取り出し、乱暴に飲み干した。
「貴方が大切にしていたお酒だけれど、いいでしょう? 私はもう、バーへは行けないのだから」
彼女は酔いが醒めたら、自首か自殺、どちらかを選ぶつもりである。