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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第十章 夢の聖剣
96/129

悪夢の合宿

閑話 ゲートルード元王妃の手記に出て来たルーファスのような人物は後3名程予定しているのですが残念ながら第十章までではルーファスだけです。ネタバレすると最後の一人は達也だったりしますがそこまで届きそうにないのでちょっと残念です(org)


 今回は本物の黒魔法の手順の一つを結構詳細にだらだらと書いています。あまり興味のない方はこの回はスルー推奨です。

 お話の内容は一行でまとめると『ソフィアは夏休みを使ってグレグリストのゾームの樹海近くの小さな家を探しに行く』という事だけです。


 では次のページへお進みください♪w


 古刀とは日本刀誕生の平安時代中期から室町時代までに作られた日本刀の事で製造方法については資料がほぼ残っておらず詳しくわかっていません。古刀にどんな鉄を使用したのか? 古刀に使われる鉄の種類やら混合比率やら焼き入れの温度やらの情報伝達が完全に途絶え書籍も残っていません。物語のグレースフェールでは200年でロストテクノロジーになっていますが、日本でも1000年経つと失われてしまう貴重な技術があるのはとても残念ですね。


 あまりぱっとしない魔法が多いのですがソフィアの使う黒魔法のものと、恐らくなろう系がお好きな方々が好きそうな本当に存在するペンタクルもご紹介しておきます。因みに私が描いていますが全部本物ですw。


 フェラーリエス・シュミットさんはクラウとフェリックスの親方で以前私の刀を打ってくれたのはこのシュミット親方だ。クラウとフェリックスに炭素を数パーセント入れた、焼き戻し、焼き入れ、焼きなまし、焼きならしなどの鋼鉄の鍛造技術を教えた際に最も私の理想に近い事が出来たのがシュミット親方だから私の刀をお願いしたんだけどね。

 因みにこのフェラーリ(エス)(エスの部分はほぼ聞こえない発音)って鍛冶屋を意味するし、シュミットと言う家名も鍛冶屋の家柄特有の家名なのでもうこの親方は名前からして鍛冶屋さんなんだよw。(そう言えばなんか車にもそんなのがあったね。親方に車を作って貰ってたらブランド名がヤバかったねw。折れてしまった私の刀にはフェラーリと名前が入っていたよw)

 今、親方にはこの前折れちゃった刀をまた玉鋼から作って貰っている所だよ。



 ヒヒイロカネの事をクラウに聞くと『わからないので親方に聞いてみます』と聞いてもらったけど判らなくて、ユリアーナ先生の情報からピシュナイゼルのクラウディア様に取り次いで頂いてルートヴィヒ・フォン・クルツバッハ伯爵の家にあった赤い槍の事についてお話を聞かせて欲しいとお願いした。


 私はもうすぐ1年最後の合宿が始まり、出来れば夏休みの間に動きたいと思っていたから今週末にピシュナイゼルへ行けたら嬉しいと思っていたら週末に訪ねてもいいと言う事になったよ。


 明日朝出発の予定で運転はクラウだ。一緒にシュミット親方も話が聴きたいそうで同席をOKしたよ。何かしらこっちの鍛冶技術の詳しい話があったら彼らは心強いからね。


◇◇◇◇◇


 以前、美鈴先生に連れて行ってもらった、たたら製鉄『たたら炉』の見学と『和包丁の制作体験』ではなく、お金を出せば自分の刀が打てる体験が出来るものがあるそうだ。

 美鈴先生の研究室の仲間の方の知り合いだそうで、美鈴先生と新幹線で前のリして今日はその体験があるよ。


 刀匠の加治見さんは週末に短い日本刀を作る教室をやっているのだそうだけど、今日は美鈴先生と私の為に貸し切りの特別でもっと長い普通の刀を作るのを教えてくれるそうだ。

 長いとソリの加減が格段に難しくなるそうだ。でも普通に教えて貰えるこれは近代の刀の作り方であってかなり古い古刀の作り方は技術が失われてないそうだ。古刀っていうのは平安時代中期から室町時代までに作られた日本刀の事で当時の資料も残っていなく鉄の合金が判らないのだそうだ。口伝で残らなかったのだそうで残念だね。日本でもここまで古い技術はロストテクノロジーになってしまって現代科学でも判らないんだね。家にも一本だけあるよ。



 でもなんか貸し切りの特別とかちょっと恐縮しちゃうね。


 今回はかなり特別な事まで教えてくれると言う。美鈴先生もとても期待しているようだ。

 普段の教室でも短い刀の作り方を実践で教えてくれるのはそれだけでも本当に貴重だと思う。


『玉鋼』は砂鉄を使い粘土で築かれた『たたら炉』による『低温還元精錬』により純度の高い鉄を得る。

 これらは和鉄と呼ばれ、鉄鉱石と還元剤にコークスを使用した洋鋼材と比べると和鉄は粘りがあり、不純物の少ない極めて純度の高い上質の鋼材が出来る。

 この粘りが折れず、曲がらず、斬れ味の良い日本刀になると言う。

 そしてこの和鉄の最も良い部分が『玉鋼』だ。かなり少ない。でもこれは実際に作りたい刀の10倍程度の分量が必要になるよ。


 以前教わったように、日本刀を作る際の炭は『松』に限られ備長炭のような火持ちに優れた炭では決して作る事は出来ない。蒼い炎で火力を一気に上げる為の炎の一酸化炭素還元に適していないからだね。

 玉鋼を何度も繰り返し折り、結構大変だけど、刀を打ち始めると、もう作った経験のある私も美鈴先生もまるで何かにとりつかれたように打ち続けて鋼の中の炭素が酸化作用により脱炭されるのを出来るだけ防ぐよう鍛錬して行く。

 中を比較的柔らかい鋼にして外側が全体的に硬い鋼にしていくよ。切れ味と曲がりにくさを併せ持つ作りだよ。これが近代の刀鍛冶技術だ。でもロストテクノロジーの古い刀の方が良いのだと言うから判らないものだね。


 途中まで教わると美鈴先生も私も鍛冶に没頭した。


 次の工程となる際に加治見さんに教えて貰う。

 焼き入れのタイミング、焼きならし、研ぎ、、、。

 まるで自分の魂が抜けてこの刀に入って行くかのようだった。

 波紋が綺麗に入り凄く刀っぽくなったよ。

 最後に自分の名前を入れた。美鈴先生のは『美鈴』、私は『夢刀斎』と入れたよ。

 簡易なので一日で出来たけど絶対に和包丁より上手く出来たと思う。色んな所を加治見さんがやってくれたから出来たようなものだけど本当に勉強になったよ。


 夕方、汗だくのへとへとになった美鈴先生と私は加治見さんから言われて初めてお昼を食べていない事に気が付いた。いや休んでなかったから疲れる訳だよ。もう腕が上がらない。

 加治見さんは集中している私達に声をかけそびれたと謝っていたけど逆に集中出来て良かったよ。

 加治見さんに郷土料理をご馳走になったよ。


 出来るのを待っている間、「からすみ」と「みょうがぼち」を頂いた。

 両方共お菓子なんだけど、食べた事ないものだったよ。


 朴葉ずし、朴葉味噌、煮たくもじ、寒干大根煮、こも豆腐、鮎の塩焼を頂きました。

 とても美味しい料理で加治見さんも一緒に食べたけど、おもてなしを準備しておいてくれたようだ。

 加治見さん、ご馳走様でした。ありがとうございました。


 私達は布にくるんだ作った刀を持って東京に帰ったよ。

(多分、この時に職務質問とかされてたら捕まってたねw)


 美鈴先生も一緒に私の家に行きおじいちゃんに見て貰うと二振り共なかなか見事だと褒めて貰った。

 おじいちゃんのつてで鞘や柄を作って貰い警察署に所持の申請をして貰う事になったよ。

 申請が終わると家にある他の多くの刀と一緒に入っているあの警察署の許可の所持許可書と同じものが貰えるのだそうだ。


 美鈴先生はとても面白かったと逆に私に感謝してた。

 いや、私こそ美鈴先生のつてがないとこんな経験は普通は簡単に出来ないのでお礼を言ったよ。

 以前より刀に対する知見は確実に増えたかと思う。腕が未だ上がらないけどw。


◇◇◇◇◇


 クルツバッハ伯爵の家の側まで土壌改善が進み緑があちこちに見られた。効果が少しは現れているようだね。

 クルツバッハ伯爵の家まで蒸気自動車で行き、早速伯爵に赤い槍と盾を手に取って見せて貰った。

 槍はけら首から穂先迄の全てが赤い槍だった。盾の方は真ん中と枠を縁どるように赤くなってた。中の紋章はクルツバッハ家のものでなくご実家のものでクラウディア様が引き継いだのだそうだ。


「王家からヒヒイロカネを下賜(かし)されたのですね。残念ながらもう加工出来る鍛冶職人はいません。そもそも合金が作れないでしょう」


 アドリアーヌ様も『この素材の合金で作られた剣は刃こぼれ一つなく他の剣を斬り裂く剣だった』と仰ってたからやっぱり合金なんだね。

 この素材はスカーレット色でとても綺麗なんだけど金のように柔らかくて比重は金よりも重い。なのでこのまま刀にでもすれば直ぐにダメになりそうなんだよね。使いづらそうだし。


「シュミット親方。これ何の合金なのか判りますか?」

「恐らくこれも質のいい鉄だと思うが銀も入っているかもしれないな」


 正確な分量も判らず、合金の作り方も判らなければ剣や刀を作るのは難しいね。

 これだと日本の古刀と同じでもう合金が判らなくて再現は無理なのかもだよ。


「合金だけでなく特殊な工具が必要だと聞いた事がある」

「どんな工具なのですか?」

「すまないが判らない」

「そうですか、、、」


 これ無理かもだね。


 この後、復興が進んでいて、更に原油の代金が大量に入って来た事についてお礼を言われ、領主の兄オズワルドなら以前少しヒヒイロカネについて話した事があるから何か知っているかもしれないから、あまり期待しないで待って欲しいと申し訳なさそうに言っていた。


 シュミット親方もクラウもとても残念そうにしてたけど、ヒヒイロカネの槍と盾を見せてもらって嬉しそうにしていた。情報がこれ以上ないのなら仕方ないので私達は中央に戻ったよ。


 中央へ戻ると早速ピシュナイゼルの領主(ドミノス)オズワルド様から尖塔師のフォルカー・フォン・シュタインベックさんに連絡があった。

 次のような話だった。


『既に失われた技術ではあるが、子供の頃、ある鍛冶屋が剣の隣にヒヒイロカネを置いておいたら夜の間に剣と同じヒヒイロカネの剣が完成していたという話を聞いた事がある。わたしが知っているのは以上だ』


 こ、これ、あのオレアンジェスの鞄屋さんの小人、ドワーフの話と同じだよね。

『戦争が始まる』『逃げなきゃ』ってあの夜以来いなくなっちゃったけど、一体どこに行ったんだろう。

 でもこれも本当に童話みたいな話しだね。


 シュミット親方とクラウに聞いてみたけど、シュミット親方も見習いの頃、同業者に夜に人知れず手伝ってくれる小人の話は聞いた事があるそうだ。

 シュミット親方の話も鍛冶で沢山蹄鉄を作らなければならない時に材料を準備して寝た夜に全部出来ていたそうだ。その後も色々なものを作ってくれて儲かって来た頃に夫婦で夜間に覗いてみたら小人だったそうだ。

 裸なのを気にして翌日奥さんが小さな服を用意してあげたら、その服を着て出て行ってしまったそうだ。これダメなやつだねw。


 シュミット親方は完全におとぎ話のようなものだと思っているようで、クラウと笑いながら帰って行った。


 ・・・。


 なんか小人のドワーフに会った事のある話は聞くと結構沢山あるね。


 この鍛冶屋さんを手伝った小人もあのドワーフ族だと思う。

 成瀬博士から聞いた話では、様々な言い伝えや童話、はたまた日本や地球の話とも全てではないけど共通点が多いというからね。


 まあ、でも言い伝えや童話だけど私達はオレアンジェスで実際に見たからなぁ。まあこれ以上成瀬博士に教わった事を思い出しても考えても仕方ないか。


 ・・・。


 一年生最後の考査が終わり私は貴族学院一年生の主席になったよ。まあ夢美が頑張って勉強してるからこっちでソフィアとしてあまり勉強する時間が取れなくても成績がいいのは不思議じゃないけど、厄介な婚約話も多いので正直私はあまりこれ以上目立ちたくはないかな。


 そして、、、。 


 到頭(とうとう)この時が来てしまった。


 貴族学院で一番の難関というか辞める人が最も多いというのがこの一年生最後の合宿だ。

 この合宿が嫌で逃げ出し貴族学院を辞める貴族が数人は出るらしい。


 これは黒魔法学の合宿でこれを越えないと魔法の事が判っているとは言えないのだそうだ。

 白魔法は黒魔法の対抗の為に生まれたものだけど、黒魔法を知らないのに相対する白魔法はうまく扱えないという考えからで、効果が正確には判らない黒魔法を実際に体験する合宿なのだそうだ。

 辞める人が多いのは、ここで教える黒魔法を実際に使うには色々な手順がありその手順が結構大変だからだ。


 ルントシュテットの一年生達も明日から始まる(これは人によって違うよ)合宿に戦々恐々としている。まあこれが終われば夏休みと2年生になれると思えば期末試験の一環だと思えばきっと大した事はないよね。



 黒魔術は色々な系統があり手順もそれぞれなのでこれだけという訳ではないけど、ここでは毎回このやり方を教えているそうだ。


 黒魔法を使う手順は、まず私にとって最も難しいのが、心構えの段階の事で、雑事や無関係な想念に心を乱されてはいけないので他の事、例えば仕事の事や婚約の事などを考えて心が動かされてはいけないという私にとって面倒な事がある。

 私はこのために張り切って私が確認しなくても大丈夫なように思い切り仕事を頑張る羽目になると思う。


 手順は、最初に黒魔法の計画書を作り、特別な紙に書く。

 その後、魔術を行う場所を見に行き、入浴、断食、待機という順にこなして行く。

 実際の魔術は占星術ではないけど星の合う日、時間に魔法円を描き、悪魔や精霊を呼び出してそれらに命令する。この際の霊達は階級の低い者からやって来て最後に偉い霊が来るらしい。

 その偉い霊に命令するのだ。

 勿論、通常、霊の方は命令を聞く理由などない。


 日本のおじいちゃんから聞いた話だけど昔の日本のテレビで、悪魔くん?という実写版の番組があったそうで、そこではメフィストという悪魔がチョコレートが大好きでそのチョコレートが欲しくて命令を聞くのだそうだ。

 笑える設定だよね。こう言うのは笑えるけど指輪物語みたいに有名になっちゃうと創作を事実と勘違いする人が大勢いるから、ゴブリンやドワーフが小人ではないと言うのはこれで言えば悪魔はチョコレートが好きと言ってるのと同じだねw。指輪物語の方が間違えを流布しているうえで罪の具合はより大きいと思う。現代日本では古い錬金術の本も古書も頑張れば手に入れる事も出来るしラテン語も教えてくれるので皆さんは映画や創作物が真実だなどと言うおかしな人にならないように気をつけて下さいねw。


 まあ、それは作り話だから別にどうでもいいけど、本来はチョコレートではなく、ペンタクルで悪魔や精霊を()()()()()()命令をする。『ペンタクル』は霊を恐れさせたり様々な要望を叶えたりする為に必要なものだ。

挿絵(By みてみん)

木星の第3のペンタクル

(霊を召喚した者を守ってくれる。このペンタクルを見せると霊はすぐに服従する)



 階級の低い霊達はワーワーと騒ぐのでこれらを静かにさせる為にお香を焚く。

 目的によって日時が異なるので最初の計画や日程が重要になる。


 ちなみにこれらの約束事は『魔術の達人』であればあまり気にしなくていいそうだけど、初心者は必ず守らなければならないのだそうだ。こっくりさんなんかでもそういう話があるって言うけど、こういうのって手順を守らないと碌な事にならないよね。

 

 これが一年生の最後の課題の合宿で、場所や施設は貴族学院が用意してくれるし、同じ領地の二年生と三年生が弟子役として手伝ってくれる。本来は3人の仲間か弟子と言う事だけれど貴族だから側使えならいるけど本物の魔法使いじゃないから弟子とか普通一年生にはいないからね。

 この役も3日間断食があるから結構嫌がられているけど、貴族学院から報酬も結構出るので下級貴族には人気だったりもする。

 でもこの仲間や弟子の代わりに少年少女や忠実な愛犬でもいいんだけど、悪魔の儀式だから普通は怖いよね。

 仮に本当に霊が呼べなくても、自分の愛犬がなんか暗闇に向かって吠えたりしたら私ならそっちの方が怖くて卒倒しちゃいそうだよw。


 普通の上流階級は一般的には資金も多く、断食などの経験はあまりないので、その辺りで諦めてリタイヤする人も出るという感じだよ。基本的に子供だしワガママも多いからね。


 むむむ、果たして私は9日間粗食で、3日間断食など出来るのだろうか?

 良く考えてみたら私もちょっと心配になって来たよ。


 手順はまあいいとして実際にこれをやって本当に霊が来るのだろうか?

 もしも霊が来てペンタクルを怖がらなかったらどうすればいいのだろうか?

 霊と呼んでいる悪魔や精霊などの悪しきものが来たとして自分自身で呼んだのに何かあれば神は助けてくれるのだろうか?


 正直判らない事だらけだね。


 実際に行いたい望み毎に占星術的な星が異なり、日時が異なる訳だけど、目的によっては日時が最初から決まっているものもある。つまりその特殊な望みの場合は一年に一回しかチャンスはないんだよ。

 それが多く集まるのがこの夏季休暇の前でこれから白魔術を習う準備として一年生のこの時にあるんだけどね。


◇◇◇◇◇


 悪しき悪魔や精霊に命令して行う魔術なので、黒魔法の目的は悪い事が多い。

 勿論、黒魔法を悪しき事に使えば魔女、魔法使いとされ、ここの法では火炙りの刑、つまり火刑にされる重罪になる。

 例えば、『透明人間になれる魔術』は泥棒さん達ご用達だし『詐欺を成功させる魔術』もろくでもないよね。他にも様々な呪いがある。でもこんなのを貴族学院の子供にはやらせられる訳がないので生徒が選べる魔術は限られているよ。



『旅をしても疲れない靴止めを作る魔術』、『人から好かれ愛される魔術』、『盗まれた物を見つける魔術』、『霊から知識を得る為の魔術』、『霊が所有する宝物を得る魔術』、『運動中の事故死を防ぐ魔術』の中から選ぶんだけど、私は『霊から知識を得る為の魔術』にする事にしたよ。


 生徒に一番人気だったのは『霊が所有する宝物を得る魔術』だけど、なんか判る気がするよw。


 地球で恐らく最も有名かなと思うのは魔術師ファウストで、彼は15世紀から16世紀にかけて実在した魔術師で後にゲーテやハイネ、そしてトーマス・マンなどによって文学的題材としてとりあげられたからゲーテなんかは有名だからみなさんもご存知かと思う。


 これに出て来るのが森の中で呼び出された霊「メフィストフェレス」だ。

 彼の話によるとペンタクルは使わずにこの霊「メフィストフェレス」と取り引きを行い4つの事を約束する。霊との24年間の契約の後、ファウストは永遠に彼のものになり、宗教の教えを捨て、教徒の敵となり、血でその証文を書くという約束だ。

 この話があったので、悪魔と取り引きして命を捧げると言う話が独り歩きしているという感じだね。

 本来正式にはペンタクルで悪魔に命令するんだけど、ファウストはあまり高貴ではない出で、この黒魔法の悪魔を呼び出す儀式もどこで習ったのかは判らないから正式なものではなかったのかもしれないよね。皆さんも霊を呼び出す時にはこのような正式な方法を覚えないと悪魔と命の契約をする羽目になってしまう事もあるだろうから気をつけて下さいw。


 そのファウストが全体的にこの契約期間で行った事は『隠された物事の知識』を得ようと務めていたことだ。まあ悪魔の助けを借りて、普通の人間では得られない知識を手に入れようというのが目的なのだ。


 これらの人の知らない知識の御業の事を『マギ達がすること』やそれに類似した怪しげな行為を『マギのわざ』、『マギ的なわざ』、あるいは単に『マギ』と呼んでいたそうだ。

 この辺りはアニメのおかしな解釈もあるから魔法の事だと誤解している人も多いかと思う。悪魔から教えて貰った知識そのもの、あるいはその行為の事を言うんだね。

 

 英語では『マギ』(Magie)だけど、こっちでは『マジエ』と言うよ。


 私は「メフィストフェレス」の話も知ってたから『霊から知識を得る為の魔術』にしました。

挿絵(By みてみん)

水星の第4ペンタクル

(あらゆる事柄について知識と理解を得る事が出来るペンタクル。全ての秘密に精通する事が出来、直ちにそれを実行させる事が出来る)


◇◇◇◇◇


 術師が行う事はここにも書ききれない程に多い。


 でも私の場合は、そこにたどり着く前に、同級生には頼めないので、頼みの(笑)マティーカ達はあてに出来ず、マクシミリアン叔父様やラスティーネ様、側使えもマルテとノーラにかなり面倒な話をお願いしてようやく業務的にフリーになれそうだよ。

 その見返りにと約束した色んなのはこの合宿が終わってから考えようw。


 まず計画や合宿の時期だけど、私の『霊から知識を得る為の魔術』は特殊なもので、満月が磨羯宮(まかつきゅう)に入っている間に魔術を行う事が必要になる。

 その為私は今日から始めたって言う感じだ。

 普通は目視可能な惑星によって決まる。例えば木星なら名誉、富み、友情、健康の維持などが相応しいという具合だよ。


 私の仲間は下級貴族じゃなくて二年生の側使えエミリーと護衛騎士のルイーサ、それに女騎士のビアンカが仲間として付き合ってくれる事になったよ。入浴の儀式なんかもあるから女性だけだね。


 私達はこの合宿で親友みたいに仲良くなるんだけど、この9日間は饒舌に話す事も控えなければならないから逆に心が通じ合えたのかもしれない。

 饒舌な話だけでなく、不信仰、不純、邪悪、極端な事は全て避けなければならない。

 特に最後の三日間は絶食(と言ってもパンと水一食だけはOK)というものがある。

 そんな訳でこれは寮の生活では難しくて合宿なんだよ。


 魔術用のナイフなど必要なものも多いけど最初に用意するものは全て準備済みだよ。


 まず、手順通りに魔術の計画を正確に記載する必要がある。

 筆記用具も準備するのが大変だ。


 これは特別な羊皮紙で悪魔祓いされていて、真新しく、清潔で、まだ一度も使用していない『処女の羊皮紙』と呼ばれるものだけが利用可能だ。

 これに使われるのは、死産された子羊、生殖をしていない子羊、出産される前の母親の胎内から取り出された子羊の皮だけが使える。

 これは葦のナイフで作るのだけど、この葦のナイフを作るのも大変で沼地の葦を魔法のナイフで『一撃』で斬り取り、葦に聖なる羊皮紙が作れるように神にお願いする呪文を唱える。

 その葦でナイフを作り始めて羊皮紙を作れるという手順だ。


 次にペンとインクだけど、ペンは羽根ペンで、オスのガチョウのヒナを手に入れ右から3番目の羽根をむしり取る。この際にこのペンから偽りを無くす魔法の呪文を唱える。

 魔術用のナイフでペンの先をとがらせ、香水を付け聖水を振りかけ布に保管する。

 その間に土か他の材料でペンスタンドを作る。

 このスタンドには木星の日と日時に神聖な名前を刻まなければならない。これは難しい昔の文字なので名前とは判らないんだけどね。

 インクは、悪魔祓い、香水散布、聖水散布したものが使える。

 この羊皮紙とインクだけでもとても大変な事が良く判るよね。


 私の魔術の目的は『霊から知識を得る為の魔術』と決まっている。

 これの為の呪文も悪魔祓いも覚えたし、日時もばっちりだ。

 後準備するものは、ペンタクル、ローブ、ブーツ、冠だね。

 これらを用意した紙にインクで記述して行く。


 次に魔術を行う場所だけど、普通は人里離れた場所が良いとされている。例えば、廃屋、洞窟、森、庭園、湖畔、十字路などで基本的には人のいない夜に行うものだ。


 でもこれらは貴族学院で用意された場所から選ぶんだけど、私は森の中を選ばせて貰ったよ。

 その場所にもきちんと魔法円を描く場所が既に準備されていてとっても便利になっている。

 この魔法円を描く場所も普通は魔法円が描ける広さがあって、その周りも広く開いていて、垣根などで他から見えないようになっている場所なんだけど、これは貴族学院の方でとても良く整備されている。

 人里離れてはいるけど、整備は万全だね。

 普通の魔術師は自分で作らないといけないからこれは楽ちんだよ。

 本来はこの9日間で色々と場所の段取りを整える必要があるよ。


 正直黒魔術を使う手順が大変でもう面倒になってるんだけど、、、。


 入浴は黒魔術だけでなく降霊術も同じで、川や小川に行く他、秘密の部屋に桶を準備してもいい。

 まあ貴族学院の場合は、普通に小さな部屋の特別なお風呂が用意されている感じだ。

 これは塩を使って呪文を唱える2回入るもので最後に正装をする際にこの入浴を行う。

 

 ペンタクルは44種類あるんだけど、私の場合は磨羯宮(まかつきゅう)なので地のサインが入っていてかつ、月が徐々に満ちていく期間に作らなければならない。

 これはメダルでも羊皮紙でもどちらでもいいんだけど、メダルはそれぞれに金属の種類があり、羊皮紙にはそれぞれにインクの色がある。

 一応私は両方用意したよ。


 このペンタクルは、ペンタクル用の魔法円を描き、その中心に火桶を用意して、炭、アスチック、乳香、アロエを焚いて呪文を唱えながら作ったペンタクルを燻蒸し、終わったら布にくるんでおく。

 この作業の事を『聖別』と言うよ。


 因みに、良い霊に捧げるのは良い匂いのお香で、悪い霊には悪い匂いのお香を捧げるという事になっている。私のは知識を教えてくれるので良い霊だと思うから良い匂いだよw。

 このお香も作り方があってアロエやジャコウなんかで呪文を唱えながら作る。


 これまでに使った聖水や聖水を蒔く為の散水器も自分で呪文を唱えながらルールに従って作るよ。


 後は、ローブ、ブーツ、冠だけど、ローブは白いリネン、ブーツは革(色は白にする)、冠は素材の規定はないけど普通は羊皮紙で作る。

 これらには決まった赤い刺繍が必要で、ローブとブーツの刺繍は同じだけど、冠は術者と弟子(仲間)の刺繍が異なる。 この糸はこの9日間に若い処女が作ったものでなくてはならないので後半に焦って自分で刺繍したからあんまり綺麗じゃないけど大丈夫だと思うw。

 正直、貴族学院の方で色々と整えて貰っていたけど9日じゃやる事が多くて足りないと思ったよ。


 毎日、朝に一回、夜に二回のお祈りも欠かさず実施した。


 最後の3日間、ほぼ一食だけど、みんなで美味しいパンが食べられるようにしたよ。

 パンと水だけの絶食なのでそのパンと水はせめて美味しいものがいいよね。


 で、耐えられるかどうか心配だったんだけど、この間に日本の夢美はもりもりと食べて、毎回お腹一杯で寝てたからこっちでも全然苦にならなかったよw。なんかずるい感じがするけど大丈夫だろうか私。

 満腹で寝てるだけの夢美だけど、二年生の一学期の期末試験はまた一番だったからあまり責めないでねw。

 そして最後は徹夜なので夢美が丁度お休みで一日寝て居られる日程だから大丈夫だと思うw。


 前日、完全に絶食して入浴してから塩を入れた入浴を再度行い秘密の部屋で神に罪を懺悔して悔い改め儀式を出来る準備が終わった。

 この時は私は地母神ゲーとお話して『頑張ってますね』とお言葉を頂いたw。(はい、頑張ってます)


 正直黒魔術がここまで大変なものだとは思っていなかったよ。日本のお話にある呪いの『お百度参り』なんかも人に見られずに毎日やるんだよね。あれも絶対に黒魔術の一つだよね。

 こっくりさんも怖い都市伝説も多いから人を呪うのもなんか大変だねー。



 時間になり儀式を開始する。

 

 円形鎌を魔法円となる位置の中心に置き9フィートの紐で魔法の短剣と結びコンパスのように地面に円を描く。

 私が利用する魔法円を描いていく。東西南北をきちんと考えて、四隅に1フィートの円を描きそれぞれ呪文を書き入れその位置に香炉を置く。

 この際に北側の一部の円をつながずに中に仲間が入れるように開けておく。

 時間になったら聖水を蒔いて霊を召喚する儀式を始める。仲間を魔法円の中に入れ、魔法円を閉じる。

 仲間を4方に配置して東の者にペン、インク、紙などを持たせ他の仲間には剣を持たせいつでも抜けるように準備する。東の者が私だよ。

 ここから呪文を唱えるんだけどこの呪文は4段階あって、最初は普通の呪文で、それでも霊が来なかったらペンタクルを左手に持って短剣を右手に持って強力な呪文を唱える。

 それでも来なかったら短剣で空中を斬りつけ、さらに強力な呪文を唱える。通常はこの段階で霊が現れるらしい。それでもダメなら最終手段として羊皮紙に霊達の名前を書き燃やして『炎の召喚術』を行うけどこれでほぼ完全に霊が来るのだそうだ。


 で、私はと言うと、最初の『普通の呪文』でなんか来たよ。魔法円もなんか少しこの場所の雰囲気が変わったように感じた。

 正直かなり驚いたので慌てて左手のペンタクルを見せたのだけど、霊の悪魔は驚く風もなくクスクスと笑っていた。

 会話が成立したよ。この悪魔は私が望んでいた地の磨羯宮(まかつきゅう)の悪魔で『カスヨイヤ』というそうだ。本人曰く、悪魔ではなく、天使だという。


『そのようなものはわたしには役に立ちません。ソミアの事は知っています。何が望みなのですか?』

『私の望みと引き換えに何か生贄が必要ですか?』

『その用意した生贄の肉で充分です。終わっても誰も食べてはなりません』

『判りました。わたくしはヒヒイロカネの加工技術を探しています』

『あら、随分と珍しいものを持っているのですね。でもそれはもはや人の記憶にはありませんよ』

『では、ヒヒイロカネを加工する事はもう叶わないのですか?』

『いや、そうではありません。北にあるゾームの樹海の南側にある小さき家を訪ねてみると良いでしょう』

『そこに行けば加工出来るのですか?』

『フフフフフ』


 もう、これ以上『カスヨイヤ』という天使は答えてくれなかった。

 えー、答えてくれないよ。


 私の黒魔法の実技はこれで終わったよ。

 召喚の終わりの呪文を唱え霊を帰らせる。


 魔法円を開けまず私が魔法円から出て、その後に仲間が一人ずつ魔法円から出る。

 最後に聖水で顔を洗いこれで儀式は終了だ。

 この後は普通の生活に戻れるよ。


 終わったー!


 ビアンカにゾームの樹海の事を聞いてみると、グレグリストにある危険地域だと教えてくれた。

 危険地域!? 調べる必要があるね。

 呼び出した霊に授かる『マジエ』は冗談のようなものも多く、『マジエ』に従って探したお宝などもガラクタである事が多いそうだ。これはこっくりさんの悪い霊のようなものかと思う。

 日本のコックリさんでも別の低級霊と呼ばれる霊が代わりに呼ばれるなどという事もあるらしいけど、この黒魔法の場合も目的の偉い霊が来てくれるとは限らず騙される事も多いのだそうだ。

 正直怖いなと思ったけど、私は一応今の時点では他に情報もないから信じるよ。


 これが終われば夏休みだしこの『マジエ』を信じてその間に行くしかないよね。


 私は結構早く終わったようで、リナは呪文を3段階まで使い、マティーカとクラーラは4段階まで使って黒魔術を行ったそうだ。

 普通通り階級の低い霊からやって来てなかなか偉い霊が来なくてリナは焦ったそうだけど、出来て良かったね。

 いや、普通に出来ない事もあるだろうと思ってたけど、みんな結構出来るんだね。

 

 問題が発生する事も多いらしいしリタイアする者も多いらしいけど、ルントシュテットからはいなかったよ。

 みんな頑張ってくれて良かった。 


 ルントシュテットのみんなも『霊が所有する宝物を得る魔術』にした人が多かったのだけれど、成果を聞くと『古い銀貨一枚』だとか『古い割れた壺』などだったそうでみんなが期待していたお宝とは違っていたそうだ。

 あらら、ちょっと残念だったよね。

 

◇◇◇◇◇


 で、日本の私はお休みの日、ソフィアは徹夜だから一日中昼寝してて父と母に呆れられたけど、夜には普通に眠れたよ。

 寝るの好きで良かったよw。


◇◇◇◇◇


【おまけ】

多分、魔法が好きそうな方々が好むと思われる本物の黒魔法のペンタクルの種類をご紹介♪


挿絵(By みてみん)

富と名誉を手に入れ財産を築くペンタクル。


挿絵(By みてみん)

栄光、名誉、威厳、富み、あらゆる良い物、心の平穏を得るペンタクル


挿絵(By みてみん)

月と日の時間に銀板にこのペンタクルを掘り、水に沈めると激しい雨を降らせるペンタクル。水から出さないと雨は止まない。


挿絵(By みてみん)

透明化する事が出来るペンタクル。但し正確に作らなければならない。


挿絵(By みてみん)

別の場所に人を移動させる霊を呼び出すペンタクル。どんなに遠い場所でも瞬間移動が可能。


【成瀬博士が使っていた聖水(魔術水)の作り方】

 水星の日と時刻に薫香と香炉を用意する

 真鍮、鉛、土、いずれかで作った器を用意し清廉な湧き水を満たす

 塩を手に持ち次の呪文を唱える

「ツァバオト、メシア、イマヌエル、エロヒム・ギボール、ヤハウェ。真実と生命を創造なさった神よ、この塩を祝福し聖別してください。そして、これから行う術に助力と保護をお与えください」

 器に塩を投げ込む

『詩編』102編、54編、6編、67編を唱える。

 以上です。


 散水器は機会があればご紹介します。多分ないかなと思うけど。

 

 合宿で色々と周りに迷惑をかけたソフィアがそれらの対処を行います。

 日本では発掘物がヤバイ事になりそうなので誤魔化そうと夢美も必死ですw。

 そんな中、これまでニヤニヤしていた美麗がついに動き出す。

 ソフィアはなんとかヴァルターを説得し夏休みの間にグレグリストに行く事になり、早速ゲートルード元王妃が仕掛けてきますが、、、。

 次回:「合宿のお礼と発掘物の考察」

 お楽しみに♪

 

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