ファンデーション?
週末のお休みになる前日、朗報が届いた。
セリサイト(絹雲母)が見つかったのだそうだ。見せて貰うと間違えなくセリサイトだった。日本で本物を見に行って良かったよ。ユリアーナ先生がパァっと顔を明るくして教えてくれた。これでユリアーナ先生の母親イグリッツア様の為にファンデーションを作る事が出来るよ。
日本でも取れる地域が限られているから本当にラッキーだったね。オレゴーの山の中でかなり取れるらしい。やっぱりユリアーナ先生の知識は本当に役に立つね。
カオリン(白陶土)も見つかったよ。こっちはクラトハーンのあの濁った源泉の近くに沢山あったよ。
セリサイトは雲母の中で一番粒子が細かく、透明感のあるファンデーションになる元で、原材料の表記の成分表示には『マイカ』と書かれている事が多い。
カオリンはミネラルを豊富に含み、吸収、吸着、収れん、洗浄作用がある。この白い粘土は乾燥させて使うよ。
マイカパールは雲母を主原料とする鉱物を粒子にしたものでパールのようなキラキラとした艶がでる。
私は早速協力して貰っているお母さまに先に連絡を入れた。
ルントシュテットの商工ギルド長と一緒に中央に来て貰っている錬金術師にお願いしてこれらをすり潰して日本の『手作りコスメ教室』で習ったのと同じように作る。
大量生産する場合にはああいった教室はあまり役には立たないんだけど、やっぱり本物の絹雲母がどんなものなのか? などを知って基本を知る為にはとっても役に立つし今回のように少量を作るだけならあの内容でバッチリだ。
物を私がおぼえて理解しないと、今これが本物の欲しい物かどうかを判断出来るのは私しかいないのだからね。
私が習って手作りした時より錬金術師のみんなの方が上手かったよ。org. まあそりゃそうだねw。
細かく分量を調節して何種類かのファンデーション、下地用、アイシャドウ、マスカラが出来た。
色付の頬紅と海綿のスポンジもあるよ。
下地はお母さま用にはラベンダー系だけど、イグリッツア様用にはグリーン系だよ。オイルはUVカットのマンゴーバターオイルを加えている。合成ポリマーはまだ作ってないけどあれらはクレンジングが必要で肌荒れの原因になるかもしれないから効果は減るけど今は自然由来のものを使っている。
一応こっちでも念のため私の二の腕の内側に全種類を少し塗る。リナとエミリーにも協力して貰った。
今晩中にルントシュテットへ戻り、明日のお休みにはビッセルドルフに行けると思う。
勿論ユリアーナ先生も一緒だ。
◇◇◇◇◇
【ルントシュテット領主館】
ルントシュテットに到着してお母さまに挨拶した後、リナとエミリーを連れて洗面所へ向かう。
テストで塗った化粧品を洗い流して肌荒れを起こしていないかを確認する。
大丈夫そうだね。
夕食後にお母さまに先にお見せする事になったよ。
今日の夕食は、松茸の炊き込みご飯ときんぴらごぼう、茹でタコの和え物、温野菜に味噌汁だったよ。
(何、この凄い和食w)
これらの食材は日本でも海外の人達が食べていなかったことでも有名だけど、松茸の香りが変な臭いと思われていたり、根っこを食べるのか?とかだったり、タコは気持ち悪くて無理という感じでこっちでも避けられていたよ。最近はシルバタリアで取れたタコも氷で保存された状態で蒸気自動車で運ばれるからこっちでも少し高いけど手に入る。
松茸は焼いても炊き込みご飯でもとても香りがいいし、きんぴらごぼうは食物繊維も豊富で甘辛くてとても美味しい上にお通じにもいいからお母さまは毎回食べているそうだ。タコもプリプリで、タコに含まれるビタミンB2は、美容効果が非常に優れていると言われていて肌を綺麗に保ち更に新しくしてくれる効果があると言われてるよ。温野菜も美容にもいいからね。
以前私がそうお母さまに説明したらもうお母さまの好物の1つになっちゃったよ。貴族の女性の間ではお茶会でお母さまが話したお陰でシルバタリアとの取引も増えている。
でもこういったお母さまの美しさの探求には何か執念のようなものを感じるねw。
相変わらずエバーハルトお兄さまは忙しくてまだ帰れないそうけど、アメリアは少し背が伸びてきて可愛さに一段と拍車がかかってる。もう絶対わたしよりお姫様っぽいよw。
「ごちそうさまでした。ではお母さま、お姉さま、お休みなさいませ」
「お休みなさいアメリア」
「アメリア、お休みなさい。きちんと歯を磨いて寝るんですよ」
「はい。お姉さま」
うーん。もう素直だし超可愛い!
「ソフィア。新しい化粧品が出来たのですね?」
「はい。お母さま。ようやく素材が見つかりました。わたくしの肌に問題がないか確認出来た所です」
「では早速わたくしの部屋で試してみましょう」
「お母さま。これはお肌に影響がないか確認してからですよ」
「ソフィアに問題がなかったのでしたらその母であるわたくしに悪いものであるはずがありません」
えー、確かに遺伝的には大丈夫な確率は高いのかもしれないけど、、、。
「お母さま。きちんとお母さまも確認してからにしましょう」
「・・・、貴方がそう言うのでしたらそう致しましょう」
私達は食事を終えてお母さまのお部屋へ行った。
「こちらがファンデーションと下地、アイシャドウにマスカラです」
お母さまが綺麗な容器に入れられた化粧品を手に取った。
これとは別に美容液、メイク落としのクレンジング、ビューラー、小筆数本を出して貰った。こっちはお母さまももう知っている。後はルージュも一応使おう。
「これらはどのように使うのですか?」
「お母さま、二の腕の内側などに化粧品を少量塗って30分ほど様子を見て貰えませんか?」
「二の腕の内側?」
「はい、肌荒れを確認したいので目立たない所でお願いします」
お母さまが二の腕の内側へ少し付けた。
「この小さな筆でつけるマスカラというものは少し糊のような粘りがある感じですね」
「はい。でもほんの少しです。乾けば直ぐに固まります」
お母さまが二の腕の内側をつぶらに見ていた。
お化粧の手順や最近流行の方法などは美鈴先生や母でなく久美子先生に教わったよ。
(一番お化粧が上手くて得意そうだったからで、深い意味はないよw。私が作った三種類の日持ちのするケーキ(ブランデーケーキなんか)の報酬で教えてくれたよw)
「では順番を説明しますね。お顔を洗顔した後にこちらの基礎化粧品で肌をしっとりと整えます。その後、下地を置いてからファンデーションでお肌を均一に整えて、こちらの少し粉状になっている色付のもので頬などを少し色付けます。ルージュもこのタイミングでいいと思います」
「なかなか時間がかかりそうですね」
「はい、でもその価値はあると思いますよ。黄じみやそばかす、小じわも消えます。その後先にアイシャドウで目を際立たせてビューラーでまつ毛を整えてマスカラでまつ毛を綺麗に映えさせます」
「きちんと順番があるのですね」
「はい。マスカラを塗ってからではアイシャドウは難しいです」
「判りました。早く30分たたないかしら、、、」
お母さま凄い乗り気だよw。
「お母さま、実はわたくしだけでなくエミリーとリナも既に肌に合うかの確認を終えているのですよ。エミリー、リナ、あれから塗った箇所にかゆみなどはありませんか?」
「わたくしはございません」
「姫様。わたしも大丈夫です」
「明日の朝もかゆくないか確認してくださいね」
リナも可愛いけど、美人度で言ったら年上のエミリーの方が美人という表現に近いと思う。
ここはリナにお手本になって貰おうw。
「お母さま。では、先にリナでやってみますね」
「リナで!? 判りました。次はわたくしですよ」
「はい」
リナに洗顔石鹸で綺麗に顔を洗って貰いタオルでこすらないように水気を取る。
髪をタオルで上げお化粧の邪魔にならないようにして貰う。
最近日本で流行っているお化粧はやり過ぎだったり盛り過ぎだったりするのでリナだと基本薄めだよね。テレビとかでは人気ですと言われているらしいけど、私だとあの他の国のセクシーと言われる怖いお化粧もちょっと勘弁してっていう感じだよ。つけまつげも未だ無いしね。
リナの肌はとっても滑らかでファンデーションはいらないくらいだけど、一応肌の色に合わせた色で薄く合わせた。下地もこれだといらないけど、お母さまと同じラベンダー色にした。
まずスポンジの半分くらいにファンデーションをとって、右側の頬、額と内側から外に滑らせるように伸ばして行く。左側も同じようにやって、小鼻や目元などの細かい所はスポンジをとがらせるように折りたたんで小さく軽く叩くように仕上げる。
色付のもので頬を少しだけ紅潮しているように見せる。ルージュも可愛い形に塗るよ。
薄めにアイシャドウで二重を際立たせて目を少し大きく見せてビューラーでまつ毛を上に整えたらもう別人のように美人さんになっている。これに最終兵器マスカラでまつ毛を際立たせて完成だよ。
お化粧しているリナが私を見たら、なんか私が凄い美人さんに見られているようで、こっちが恥ずかしくなってきたよ。
「まあ! まあまあ、こんなに思い切りの凄い美人になるのね。今ボートカンプ家の娘リナが間違いなくルントシュテット一番の美人だわ」
確かにヤバイくらいだね。本当に可愛いだけでなくこんなに美人に出来たよ。
いや、これもう男性に見せちゃいけないレベルだ。(なんだそれw)
「ソフィア様。これは間違えなく素晴らしいものです。リナは素のままでも可愛かったですが、この美しさでは男性が放っておきません! 危険ですからリナに護衛が必要です!」
エミリーが驚きと憧れの目で見ている。エミリー、、、。
リナ本人は鏡を見るなり「ひゃっ」と言って顔を赤面させて固まったけど、その赤面も目立たないし頬紅が丁度いい感じの雰囲気と可愛さを醸し出している。
鏡に向かってぱちくりとする目のまつ毛が長くてなんか絵に描かれた妖精さんを見ているようだ。こんなに綺麗な整った瞳に見えるんだね。
「お母さま。これはユリアーナ先生が退職しないですむようにイグリッツア様の為に作ったのですよ」
「それは聞いて判っています。でもこんなに素晴らしい物でしたら勿論その後にはわたくし用に作って頂けるのでしょう?」
「も、勿論です」
「ここまでの物なら他家には売りたくないわね」
いやいやいや、お母さま! それはちょっとどうなの?
お母さまは半端じゃない瞳の輝きだよ。
「一日の終わりに洗顔で化粧を落としてください。落ちない場合にはこちらのクレンジング液で落とします。お顔が肌荒れしないように出来れば洗顔だけの方がいいです。そして美容液でお肌を整えてからお休みになればお肌をきれいなまま保つ事が出来るのです」
「ここまでが1セットなのね。お幾らなのかしら?」
「いやいやいや、お母さま。まだ試作品です」
「あら、そうだったわね。わたくしもそろそろよろしいのではなくて⤴?」
「は、はい」
この後、お母さまに何通りかのお化粧を試して、側使えのマチルダさんとミネルバさんに完全に出来るようにレクチャーした。
やっぱりお母さまも信じられないくらい美しくなったよ。
お母さまは鏡で自分を見てずっとうっとりとしていた。
でもこれまだお母さまには渡さないんだけど大丈夫だよね・・・。
◇◇◇◇◇
土木工学の紀州さんは美鈴先生経由で協力して頂いている男子大学生の中でも特に研究者肌の方で、考え込んでのめり込むとなかなか戻って来てくれないw。
土木工学は道路、港湾、上下水道、ダム、トンネルなどの施設や河川、海岸などを主な対象として安全で快適に人が利用できるよう計画、造成し、管理するための知識や技術を学ぶ学問だ。
材料・構造、水質・土質等を研究して、環境や災害、地震に対する対策も重要な研究対象で、防災対策を立てるための研究も行う。都市を暮らしやすく整備するための都市デザインも学ぶなど、その範囲は幅広く特に生活に密着した学問と言う感じだね。
紀州さんには現在最先端の砂漠化を防ぐ為の方法を教えて貰ったけど直ぐに回復するものでもなく効果も完全ではないという事なので河川が出来るまで何とか繋ぎになればと言う状態だね。
でも色々と面白い私の想像の範囲を超える様々な対処が試されている。
藁の保水だけではなく、ゴミを利用する土壌改善やそれらにヤシの実の繊維とか、サトウキビの茎を砕いた繊維とかを混ぜて保水効果を上げている。作物が育ちやすいように肥料、もみ殻、麦殻、トウモロコシ殻、落花生殻なんかも入れてるよ。
これらは殆どがシルバタリアのゴミなんだけど大活躍だねw。衣服の布のゴミも入ってるけどこれも保水効果があるそうだ。
お父さまによると既に白アリの発生が確認されているそうで土壌の改善が始まり、場所によっては草が生え始めている箇所もあるらしいのでこのまま上手く行って欲しいと思っている。
日本の土木工学では大学で基礎として測量を学ぶそうだ。測量の方法や様々な機器の使い方、測量値の計算や計算機での解析等を詳しくやるそうなんだけど、私がこれらの『測量機器の出来るだけ単純で高性能な作り方』を聞いたらは紀州さんはまりまくってしまった。
向こうでもこれまで大規模な工事や建築が行われてない訳ではないよ。簡単な測量機器だけどかなりの精度で建設出来ている。でもより便利により正確に安全性を高めるには精度の高い測量機器は欠かせない。
地球でもあのエジプトのピラミッドの建設の頃の領地の区分も紀元前3000年頃には河の氾濫なんかで何度もやり直していたけど、紀元前2500年頃には水準測定器・垂直確定器・定規といった測量に必要な機器がすでに使われていてとても精度が上がっている。この頃水平を見るのは錘を下げた紐で下に目盛りがあるものにどれだけ合わせられるのかで水平を見ていた。この頃のピラミッドだと東西南北の誤差は1cmくらいなのだそうだ。中世には地球は平だと思われていたけど当時は地球が丸いと考えられていて誤差は結構あるけどその大きさも計算されていたんだよ。なんか凄いよね。
ラスティーネ叔母様の河川工事規模になると領地を跨ぐしマクシミリアン叔父様のオレアンジェスからパープラングまでの道路なんて完全に地球が丸い事を意識しないと計算が合わなくなるレベルだ。
因みにこのラスティーネ叔母様の河川工事、マクシミリアン叔父様の道路工事、ラスティーネ叔母様の夫ヴィクトール様のダムの工事は全部リンクしていて、様々なケーブル埋設工事を道路沿いに行うよ。
ハスの断面のようなゴム被覆したケーブルを領地を跨いで引いておくのはこの最初のタイミングがベストだと思って頑張ってますw。
ガラスの円筒にアルコールと気泡を入れて密閉したアルコール気泡管を用いた水準器は17世紀半ばに発明され今まで使われている。これは後に大工さんも使うようになった物だね。
丸い形の四方の傾きが判るものは普通はプラスチックで作られているけど、これをガラス職人のヴェルナーさんにガラスで中にアルコールを密閉して作って貰う。アルコールは危険だし正確さが命だけどさすがヴェルナーさんだ。
三角測量は地球では結構古くから使われていて、16世紀のフランスではこれで大規模な測量が行われ始めて大規模な科学的測量が行われたそうだ。
角度を求めるトランシットは18世紀に作られ大幅に精度が上がったそうだ。
トランシットにも使う望遠鏡をこれまでも作っていない訳ではないよ。航海には必要だからね。
レンズそのものは地球では紀元前7世紀頃のものが見つかり大英博物館に展示されている。
レンズが物を拡大して見れると述べたのは2000年程前のローマの事だけど精度を上げて今では光学的に欠かせない物だね。
紀州さんと美鈴先生のタッグのお陰であらゆる箇所の計画が土木工学のお陰で進み今は何処もかしこも基礎(ファウンデーション)をしっかりと組み作業が進んでいる。
ちなみにこの建築の基礎はファウンデーションと言いお化粧はファンデーションと言うけど同じ基礎と言う意味でこっちでは両方フンダメントムと言うよ。
何で日本の外来語が違うのかはよくわからないね。
誰か頭のいい方、私に教えて下さいませ。
第八章の割り込み更新を先に行います。
ある時点から公開するお話が途中の回になると思いますがよろしくお願いします。
次回は、フラグ回収回、女子の嗜み/不器用な男の生き方です。
イグリッツァ様はどう変わるのか? ランハートとソフィアが対戦!?
その前に第八章かもしれません。
お楽しみに♪




