祭り
グラディアム祭り(剣術大会)開催! ルントシュテットの騎士達が大活躍!?
解析をお願いしていた出土品を調べて数多くの魔法の呪文をゲット?
「ウルリヒお兄さま、どうしたのですか!?」
騎士コースで学ぶのでウルリヒお兄さまは時折軽い怪我をする事はある。いつもはアザが出来る程度だけど今回は結構怪我をしている。頭、腕、脇腹、足とかなり包帯を巻いているよ。
私はお兄さまの怪我を治しながら話を聞くと、今日の授業で第一騎士団の騎士団長様が特別に指導に来て、春の剣術大会『グラディアム祭り』に出場するウルリヒお兄さまに稽古をつけてくれたのだそうだ。
これイジメなのかと思う程酷い怪我だよ。
「ソフィア、心配するな。シュタイン卿は『グラディアム祭り』で昨年はルントシュテットのカイゼルを破りもう何年も連続で優勝しているのでわたしより強過ぎるだけだ。最初は筋がいいなどとわたしを褒めていたのだが、廻りを見てソフィアを探していたようで、ソフィアはまだプラマーリアの一年で騎士コースにはいないと言ったらシュタイン卿の剣が荒れてこのざまだよ。まるで怒っていたようだったよ」
「剣が荒れていたならこんなになるまで向かって行かないでください。でもわたくしを探していたのですか?」
「姫様、第一騎士団の騎士団長ランハート・フォン・シュタイン様でしたら本日の姫様宛の面会予約の列に並ぼうとされていましたがあまりに列が長いのでお帰りになったようですよ」
「側仕えじゃなくて?」
「ご本人様でした」
「そうなんだ。一体わたしになんの用なんだろうね。騎士団とか全く関係ないのにね」
「ソフィアはオレアンジェスで一緒に戦ったのではないのか?」
「うーん、最初に来た隊の人は見ましたけど、あの後私はヴァーミリオン部隊と合流したのでその騎士団長様とは面識がないですよ」
「そうだったのか。まああまり接点はないだろうが、本当にソフィアはモテモテだな」
「いやいやいや、それはきっと恋愛とかとは違うモテ方ですよね」
イヤ過ぎるんだけど、、、。
「ウルリヒお兄さま。終わりましたよ。確認してください」
お兄さまが手足を伸ばしてから頭の傷があった部分を確認する。
「ソフィア、助かったよ。これで明日は問題なく出場できそうだ」
「『グラディアム祭り』でもあまりご無理はなさらないでくださいね」
「判っているよ」
お兄さまは楽しそうに笑った。
本当に判ってるんだよね?
◇◇◇◇◇
私は昨日家に戻ってから父と母に引きこもって心配をかけていた事を謝って今日から学校に行ったよ。
クラスの友達や知佳ちゃんや舞ちゃんが来て心配してたよと優しくしてくれた。
舞ちゃんだって知佳ちゃんだって同じようにショックを受けてるはずなのにやっぱり私はこういうの弱いのかもしれないね。
でも美麗の事件で吹っ切れた感じがするよ。
美麗はちょっと見かけたけど特に話しかけては来なかった。
家に帰り、気が付くとスマホの銀行のアプリに通知の数値が付いている。時々『フィッシング詐欺にご注意ください』とかの連絡もあるからどうせそのたぐいだろうと思って開くと私の口座にとんでもない額のお金が振り込まれていたよ。
西園寺グループの企業っぽい名前だ。どうしよ。美麗と話すとまた口論になりかねないよね。
私は櫻井さんにスマホで電話した。
『九条さん。昨日は本当にありがとうございました。本日はどうされましたか?』
『櫻井さん。私の口座を教えてもいないのに西園寺グループっぽい会社からお金が沢山振り込まれているのですけど、、、』
『昨日お話したではないですか。お嬢様の情報に情報料として賞金が出ていると。九条さんはそれだけでなくお嬢様を救って頂きましたからその分も上乗せしてあります』
私の口座を知ってるのはスルーですか、、、。
『わたしは仕事でやった訳ではありませんよ。仕事ならお金を貰うのは探偵さんですよね』
『八田さんにも謝礼は出ていますよ。九条さんは他の収入もかなりあるでしょうから確定申告をすれば大丈夫ですよね』
『わ、わかりました』
『それではまた♪』
ツー。
もう完全にこっちの言いたい事が判ってスルーされているようだ。これ、櫻井さんは引いてくれないやつだね。色々と知ってる感じだね。
本の収入だけでも結構あるのに中学生がこんなにお金を貰ってもいいのだろうか?
まあ、これまでも美麗にはお世話になってるし、お金のおかげで美麗に下手な恩を売るみたいな事にならないと思えば少しは気が楽かもだね。
美鈴先生が来たので石油製品の技術の続きをお話する。
原油は様々な温度で幾つかのものに分解できる。
昔はガソリンについては原油から取り出せなくて消えてなくなってたんだけどね。
初期の原油の蒸留技術は単独釜を用いた回分蒸留で、温度をみながら留出油を順次分離するというかなり面倒なものだけど、19世紀末にはアメリカで単独釜を連続的に並べて蒸留する方法が確立されて1910年にはパイプスチル式の連続蒸留装置がカリフォルニア州のベロン製油所に建設されて近代的連続蒸留法への道が開かれたという感じなんだね。
現代はもっと効率が上がりこれらには日本の技術も凄く貢献している。
触媒を用いて、高品質で収率の高いガソリンを製造する接触分解法を進化させた接触改質法で出る水素を増やして、かなり危険な技術でもやっぱり水素化分解法が良いのかと思うけどこれには細心の注意が必要だね。
後進国型事故が起こりそうな人達のレベルでははやらせられない事がよく判ったよ。成程、それで石油プラントが自国で出来てる国は少ないのか。
これは私も一つ一つ進めて行くしかないね。
蒸気機関はエネルギーを蒸気に変えて二次的にそれを利用する。私のは効率を上げてるけど、地球では初期の蒸気機関なんて4リッターのピストンで一馬力程度しか出ていない。
その後色々と地球の歴史でも改良があって、私のは現代の技術で更に進んでいる。
でも、直接のエネルギーを利用出来るガソリンエンジンはあの小さな50ccと言われるバイクでも7.2馬力もあるんだよ。50ccってたったコップの1/4の大きさだよ。
こんなに小さいのに本当に凄いよね。
この差はとても大きい。
焦りはしないけど、これは必ず頑張って切り替えて行かなくてはだよ。
◇◇◇◇◇
【中央闘技場】
『グラディアム祭り』が行われたのは古くからある闘技場で地球のギリシャのよりも小さいけど人もかなり入る。王家のアドリアーヌ王妃も見学するもので満員だったよ。
こんなに沢山の人の前で剣術で戦うなんて私なんかだと恥ずかしいけどウルリヒお兄さまはとても誇らしそうだった。
午前は女性の部で貴族学院から出た他の人達は負けちゃったんだけど、プラマーリアから出場したルイーサは1回勝ち上がったよ。年齢の区分はないからあの歳で勝ち上がるって本当に凄いよね。
年齢も身体の大きさも戦場では関係ないからね。
ルイーサが勝ったのは相手が子供相手に侮ったと言ってたようだけどそれでも本当の戦争ならそれで死んでるからね。そんな言い訳は戦場では通じない。ルイーサは本当にかなり強くなっていると思う。
騎士団のエッダ・フォン・ヘルフは昨年と同じ2回戦勝ち抜いてその後敗退。それでも各領地の精鋭だから本当に凄いよね。
驚く事にあの大怪我をしたルントシュテット騎士団のビアンカ・フォン・リングスタッド(カイゼルさんの妹)は、ベスト4にまで残り惜しくも第一騎士団のフランチェスカ隊の隊長でグレグリスト出身のフランチェスカ・フォン・ブラウヒッチュに破れたけど決勝でのフランチェスカの相手は私の護衛騎士ミスリア・フォン・リバーサイズで落ち着いて対処したミスリアが優勝した。
昨年ミスリアはベスト4だったそうだけど本当にこの国一番の女騎士になったよ。
ミスリアはかなり喜んでいて私も『おめでとう』って言って来た。
なんかルントシュテットはみんな活躍してるね。
もちろん私もヘルムートも大喜びだ。
「ヘルムート、ミスリアが優勝ですよ。ミスリアが一番です」
「はい。もうわたくしよりも強いですね。ソフィア姫様の教えを一番熱心に繰り返しやっていましたからね」
あっ、、、。ミスリアがあそこまで強いとヘルムートの将来がちょっと心配になって来たよw。尻に敷かれるってやつかな?w
女性の部が終わりお昼を食べたら男性の部が始まる。
今年からだそうだけどルントシュテットスタイルと言われている屋台の出店が幾つも出ていて、リナにホットドッグと飲み物を買って来て貰う。
その間に知らない男の人が私の所に来たよ。
どんどん近づいてくるから護衛のクラーラが慌てて割り込んだけどスイッとクラーラをすり抜けて私の前まで来た。
あまり悪意は感じられないけど、、、。
誰?
「シュタイン卿、おふざけはその辺りにして頂きたい!」
ヘルムートが大きな声で止めに入った。ザルツは私の横で警戒している。
シュタイン卿? ああ、この人が中央の第一騎士団の騎士団長さんか。
言われてみれば大叔父様やザルツのように隙がないね。でもこの人大会前なのにウルリヒお兄さまをコテンパンにした人だよ。
近い、近い。でも丁寧に頭を下げたよ。
「初めまして。わたくしはランハート・フォン・シュタインと申します。お見知りおきを」
「ヴァルター・フォン・ルントシュテットの娘ソフィアです。どのようなご用件でしょうか?」
「何故、ソフィア嬢は大会に出場してくださらなかったのか? フランチェスカも貴方と対戦するのをとても楽しみにしていたのですが、、、」
「わたくしは剣士ではありませんよ。貴族学院では普通は騎士コースか護衛騎士から選ばれるのですよ。フランチェスカさんでしたら先程わたくしの護衛騎士ミスリアに破れたみたいですね」
「ソフィア嬢の護衛騎士なのですね。オレアンジェスでの貴方のご活躍をレイモンドから伺っています。どうです? この大会でわたくしが優勝したらわたくしと手合わせをして頂けませんか?」
レイモンドさんって誰? 先に来た騎士団の人かな?
「お断りします。ですからわたくしは剣士ではないのですよ」
「そうおっしゃらずに。わたくしの剣を見れば気が変わるかもしれません」
「いや、私は別に戦う事が好きという訳ではありませんよ」
「そんなはずはないでしょう。それではわたくしの優勝をお待ちください」
「ちょっと、シュタイン卿!」
もう、なんなのあの人。人の話を聞いてくれないよ。
「姫様。シュタイン卿はこの国でも珍しい剣の加護を頂いている騎士なのです」
「珍しい? 確かあのライナーさんも剣の加護を頂いているというお話でしたよね」
「はい。公にされているのはあのオレアンジェスでソフィア姫様が倒したライナー・ハインリヒ・フォン・シュテュルプナーゲルと二人だけのはずです。剣の加護の場合隠す事は少なく騎士としての名声を高めますから。ライナーは昨年のこの大会の準優勝だったのです」
ありゃま。あれちょっと興奮し過ぎてもう良く覚えてないんだよね。あれ日本のおじいちゃんに知られたら絶対に怒られてたよね。いや未熟未熟。
「恐らく第一騎士団のレイモンド隊からソフィア姫様がライナーをものともせずに素手で倒した事が伝わっているのかもしれません」
やっぱり先に来た隊の隊長さんなのか。
いやあれは刀が割れちゃったからだけど、、、成程、それはちょっと面倒だね。
「判りましたヘルムート。出来るだけ関わらないようにしましょうね」
「はい。そうお願いします」
リナがホットドックと飲み物を買って来てくれた。木のコップは大き目なのに毒見でかなり減ったけど私には丁度いい感じだったよ。このタイプの出店は凄い人気だね。この木製のコップは返却するんだね。
『グラディアム祭り』って本当にお祭りみたいな騒ぎだね。いや祭りっていう位だから当たり前かw。
中央だけなんだけどこんなイベントがあったんだね。
午後、男性の部が始まる。
中央の第三騎士団に所属するイエルフェスタのザルダン・フォン・ザグレブがカイと対戦する。
お父さまが中央に急襲した際に止めようとした騎士団の団長さんらしい。
ヘルムートによると以前襲われた際の野盗に身を落とした大男イゴールの弟だそうで、昨年もかなり勝ち上がりとても力自慢が有名な騎士なのだそうだ。
この人も相当身体が大きいね。頑張れカイ!
カイの試合が始まった。
大男ザルダンは木製の盾と片手剣の代わりに長剣の木剣を持っているけどカイは竹刀を使っていた。
「なんだその丸っこい木剣は。ふざけているのか?」
「これは貴方に怪我をさせない為ですよ」
「何だと! ふざけるな小僧!」
ダッ!
ザルダンがその巨体に見合わないスピードで飛び込んで大きく木剣を振ってカイを横に薙ごうとする。
カイは完全に間合いを見切って後ろにステップしてギリギリで躱して直ぐに飛び込み籠手を打つ。
「籠手~!」
ビシッ!
ザルダンが持っていた木剣が大きな手から離れ振った勢いでかなり遠くまで飛ばされた。
ザザッ。
カイがズイっと前に出てザルダンの首元に竹刀を突きつけて止めた。
やったー。
カイが勝ったよ。
ワー!
歓声が凄い。これはかなりの番狂わせのようだ。
「ソフィア姫様。これはかなり凄い事ですよ。相手は中央の第三騎士団長ですからね。カイはこれ程強くなっていたのか」
「これは嬉しいですね」
カイはこの後も勝ち進み初出場だった同じヴァーミリオンのカーマインに破れベスト8だった。
ううっ、同じルントシュテット同士じゃなきゃ勝ち上がったかもしれないのに、、、。
でもこの成績だとルントシュテットに戻ればお父さまから表彰されるね。
カーマインはリバーサイズの兵士長で貴族ではない事が民衆の人気を受けての凄い歓声だ。
さっきの対戦で第一騎士団のイザーク・フォン・クルーゲさんを破ったのも大きい。第一騎士団はこの『グラディアム祭り』で必ずと言っていい程上位の成績を収める強い人達の集まりなのだそうだ。イザークさんは昨年カイゼルさんと同じベスト4だったからね。それをうちのヴァーミリオン部隊の兵士長が破ったんだからね。
カーマインは恐らく今大会で一番有名になったと思う。
でもそのカーマインも組み合わせの悪さで、ルントシュテット騎士団のカイゼル隊長と当たり敗れたよ。なんかルントシュテット同士ばっかだよ。org.
ルントシュテット騎士団の隊長のカイゼルさんはもう騎士団長の大叔父様やザルツより強くなってるかもしれない。
カイゼルさんは昨年ベスト4でめっちゃ有名になったそうだけど今年は決勝だよ。
頑張れカイゼルさん!
決勝戦はあの第一騎士団のランハートさんだよ。彼は危なげなく勝ち上がって来た。カイゼルさんは昨年ランハートさんに敗れているらしいから今年は是非勝って欲しい。
『グラディアム祭り』の最終戦で祭りの盛り上がりも最高潮だ。
「また今年も勝たせて貰いますよカイゼル殿」
「胸をお借りします第一騎士団長殿」
「しかしそのルントシュテットの者達が使っている木剣は何なんだ」
「これは練習の際に相手を出来るだけ傷つけないようにクイスフェルメンタムで作ったものです」
「クイスフェルメンタムだと、子供のお遊びかっ!」
「お遊びかどうかは受けて頂けば判ります」
「何っ! わたしに剣が当たるはずないだろう。直ぐに終わらせてやる!」
二人が構え試合が始まった。
カイゼルから仕掛けて行く。
剣の加護を持ち剣の天才と言われたランハートの方が何故か防戦一方だ。
パシッ! パン。
『くそっ。何故だ。何故こんなにカイゼルの剣が避けにくい。また来た。んぁっ!』
スパッ!
『昨年のように剣をむやみに撃ち合わせても来ない。しかしこれはまるで私を避けにくくしているようだ。魔法ではあるまいな。んぁっ!』
タン!
『はっ! そうか判ったぞ。奴はわたしの呼吸を見て攻撃のタイミングを作っているのだな。私が息を吐き終えこれから吸おうとする最も息を止めて力を入れづらいタイミングで全ての攻撃を仕掛けてきているのか。よし、こちらも、、、』
ランハートがカイゼルの呼吸を確かめようとしても判らなかった。これはカイゼルがゆっくりと長く息を吐いて呼吸を悟られないようにしているからだ。肩を上下させる事もない。
人が踏ん張ったり力を入れ受けたり、早く動こうとしたりする際には吸い込んだ息を止め力を入れる必要がある。夢美が免許皆伝である九条流ではそれを最もやりづらい呼吸タイミングで仕掛けるのが常である。これは無手の際も同じで太刀も無手も同じであるが、剣も無手も同じ極意である事を九条流では『長短一味』と言う。
(陰流も同じ)
『くそっ、判らないじゃないか。何なんだ。 はぁはぁ。うわっ、またっ!!』
一瞬ランハートが息を吐き終わった瞬間にランハートが息を止めるタイミングを逃し動けずに手を打たれそのまま頭を打たれた。
ピシッ。パン!
『くっ! う、嘘だ! わ、わたしが動けなくて敗れただと!』
その場に尻からへたり込むランハート。
「勝者、カイゼル殿!」
やったー! カイゼルさんが優勝だ。
カイゼルさんは礼節を持って礼をしてからランハートに近づいた。
「第一騎士団長殿。頭を打たれても大丈夫だったでしょう?」
「頭が割れ血は出ているが確かにそこまでの被害ではない。しかし何故そこまで強くなったのか?」
「いえ、わたしなどまだまだですよ。上には上がいると慢心せずに鍛えるだけです」
「その上とはソフィア嬢の事か!?」
「ルントシュテットの騎士団の事はお答え致しかねます」
「そ、そうか」
カイゼルが手を差し伸べランハートを立ち上がらせ、ここでようやくカイゼルが観客に手を振った。
ワー!
会場の興奮は最高潮に達した。
いやー、ルントシュテットの騎士達は大活躍だったよ。
あの第一騎士団長さん優勝を待てとか言ってたけどこっちにはカイゼルさんがいたから優勝を阻止してくれたよ。一方的な話で本当に助かったね。
カイゼルさん達はアドリアーヌ王妃が見守る中、宰相のファルクさんから表彰されてたけど、表彰の後みんな私の方を見て深々と礼をしていたよ。
いや、みんなおめでとう~!
◇◇◇◇◇
幻想研究家の成瀬博士から連絡があった。いくつかの事が判ったそうだ。
葛城部長や神功先輩、美麗に話して放課後に尋ねる事になったよ。
この時期なのに成瀬博士の家の近所でお祭りでもあるのか祭り囃子の音がして子供達が駆けて行く。
落ち着いた大きな洋館だった。
「これは17世紀にテムズ川の底で発見された『魅惑の剣』と言われているものとほぼ同じだわね」
「『魅惑の剣』?」
「まあそれは愛称なんだけど、アングロサクソンの短剣は『スクラマサクス』と呼ばれていたのよ。アングロサクソン7王国の一つケント王国のものだとされているわね。九条さんはこちらが読めますか?」
「ライルートと言う恐らく名前が書かれています。その他はルーン系で持ち主を守り力を与えると書かれていますね」
「その通り。これは呪文ですね」
「これが呪文なんですか?」
これルーン文字でそのままの事を書いているだけだけど、、、。
「そうよ。この場合はこれでこの剣の持ち主に呪文の力が与えられます」
成程、つまりこれはルーン文字そのものにこの前聞いた言霊があるからという事なんだね。
「テムズ川のものは8世紀頃だけどここまで古いのは元がこの系統であちらが後に作られた模造品かもしれないわね」
「川の底っていうことはそっちのは錆びているんですか?」
「ええ、銅、青銅、銀の地金だけどかなり錆びてしまっているけど、英国本土で見つかったものの中では特に貴重なものね。大英博物館に実際に展示されているわ」
「美麗、見た事ある?」
「興味がなかったから覚えてないわよ」
そりゃそうか? えっ、でも大英博物館って相当な貴重品じゃないの?
「じゃあそれ貴重品ですよね」
「ここまで綺麗なら国宝級以上だわね。是非この赤い金属の組成も調べたいところだわ」
あわわわ。でもヒヒイロカネの正体が解るかも。
葛城部長が質問する。
「それらは何故日本で見つかったのでしょうか?」
「わたしは幻想研究家なので日本の歴史にはそこまで詳しくありませんけど、日本人の祖先が大陸からの渡来人という説はDNAの解析でもう間違えである事が判っています。かなり少数でした。世界で類をみない程日本人のDNAが多様なのは人類発祥期やその後も太陽信仰、エデンの園などの信仰から特に敬虔で真面目な者達が東を目指しその者達が集まる東端が日本であったからではないかという仮説を考える事が出来ます」
「それらの際に争いがなかったのは日本が自然豊かだったからですね」
「その通りです。縄文時代ではどんな時期でも何かが取れると言う有名な狩猟カレンダーね。流石に歴史研究部の方々は良く学んでいますね。ですので様々な信仰や、かなり古い古語などが持ち込まれる事はそう不思議な事ではないのかもしれませんね。恐らくはそのように多様な文字が持ち込まれた為に神代文字が多様なのかもしれません」
「わたしは神代文字までは読めない。でもその特に敬虔な者達が集まりそれぞれの家での教えが誠実な人を形成してみんなで力を合わせ現在まで残ったから日本人は誠実という説もある」
「神功先輩の言ってた日本人の誠実なルーツというお話はそういうお話だったのですね」
「だとしても夢美。これどうするのよ。今の成瀬博士のお話だとこれは大英博物館の貴重品よりも凄いものだわよ」
「うーん、伯父さんとの約束があるから公表は出来ないよ」
「開発工事を止めたくない私達資本家じゃなくて貴方の様な人達が考古学の発展を阻害しているんじゃないのよ! もう!」
「いや、そうかもしれないけど、、、」
利己的と思われても仕方ないけど、こっちとしては夢のお話の事もあるからこれは不味いんだよ。
「ルーン文字とラテン語の切り替わりについて教えて貰えませんか?」
「ルーン文字は古い魔術的要素を時代遅れとしてラテン語に変わりましたけど、一部ではルーンは中世後期まで用いられてました。一般的な言葉として使われていましたがラテン語に切り替わってから後の方がその魔術的要素がより際立ったという感じで色々な物に残されたと考えられています」
「古くには一般的に使われて、ラテン語に切り替わった際に魔術的要素でルーンで残ったのですね。それで碑文などにルーンが使われているという事ですか?」
「その通りだと思いますよ」
「剣以外の他のものはどうでしたか?」
「主に誰がこれを作ったのか? 誰の持ち物なのか? が書かれていましたけど、他は魔法の呪文が多く、『力を与える魔法』『傷を癒す魔法』『人を虜にする魔法』『富を得る魔法』『死を悼む魔法』などこれまでに見つかっていないような貴重なものでした。これらのすべてがお宝。大発見祭りでしたよ。むふふふふ」
あー、成瀬博士すっごい喜んでるよ。
でも非公開の契約しちゃったからね。
ここまで聞いてると博士は探求が目的で公開なんかどうでもいいというおかしな私の周りに多い研究者側の人なのかもだよw。
でも、これらってつまり全部魔法って事だよね。後で全部試してみよう。
「うーん、魔法と言うよりそれだとみんな呪いっぽい」
「これらの魔法は呪いへの対抗として生まれたものですからそれで正しいですよ」
博士がこれらの話のレポートをくれた。
「成瀬博士。色々と調べて頂いてありがとうございました」
「いえ、また手に入るようでしたらお持ちください。いや、それよりも是非わたしも一緒に、、、」
「あははは、また手に入ったらお願いします」
私達は成瀬博士の家で別れたけど、葛城部長と私は美麗に送って貰ったよ。
とっても興奮していた葛城部長を送って降ろすと美麗が私に言って来た。
「あの古代の街、発掘すべきじゃないの? 恐らく世界的な大発見だわよ。大英博物館よりも凄い展示も可能だわ」
美麗は博物館でも作りたいのかな。
うーん、でもこれはかなり不味くなってきたよ。
「一応伯父さん達と相談してみるね」
「ええ、そうして頂戴」
いつから美麗がこんなに発掘物に興味を持つようになったんだろ。
成瀬博士、葛城部長、神功先輩、美麗、、、。いや私モテモテだねw。
でもこれは困ったよ。
大発見みたいな公表は伯父さんも私も困る。
何とかする言い訳を考えないと、、、。
◇◇◇◇◇
その頃、夢美の知らないところで、ある企業が倒産し暴力団の一つに警察の捜査が入り幹部の殆どが逮捕され、国会議員二人が辞職した。
そして暴力団の組長の元愛人や直接関係した者達は行方不明扱いとされた。
仕事の都合で恐らく3週間位お休みしなければならないかと思います。
次回:また日本でもトラブルに巻き込まれる夢美。
いや、最近は日本でも結構物騒になってきましたね。