探偵物語
美麗救出作戦!
探偵物語と言っても探偵さんは一切活躍しませんw。
櫻井さんって言う人だよね。
えーと、ポチポチ、、、。
トゥルルルル、、、
『はい、藤井です』
『す、すみません! 間違えました』
プチ。
~バルバリーベラ・オス~
『~美麗、櫻井さんの電話番号違うよぉ~』
『~あら、そうなの。でもスマホに登録してるから正確に覚えてないのよね。じゃあ0△0ー××××ー〇〇94だと思うわ~』
『~判った。今掛けてみるよ~』
ポチポチ、、、。
トゥルルルル、、、
『もしもし? 糸川ですが、、、』
結局この後3回程美麗に聞き直して、ようやく櫻井さんに繋がった。
櫻井さんは友達の九条ですといったら直ぐに判ってくれたけど、話は信じて貰えなくて美麗からの合言葉を言って警察に言わない方がいいと美麗が言ってると私が言うとそのまま直ぐに迎えに行くとようやく信じて貰えて電話を切った。
こっちの事何も教えてないのに私の家知ってるんかい!
私が引きこもっていたので美鈴先生の家庭教師はお休みだったけど、沢さんは来ているよね。
私は動きやすい服とパーカーに着替えて久しぶりに一階に降りると沢さんがいて、何か言われるかと思ったけど、
「何か食べますか?」
と以前のように普通に接してくれたよ。
こういう風に変に気を使わない子供に対して本当の意味で優しい大人もいるんだなと思った。
私も将来沢さんみたいな大人になれるといいなぁ。
「沢さん、ちょっと友達の美麗の所に行ってきます。もしかすると美麗の所に泊まるかもしれないからその時は連絡するって母に言っておいてください」
「判りました。でもこのお味噌汁飲んでってね♪」
「は、はい」
久しぶりにお腹に入れたお味噌汁はとても暖かくて鰹節の効いた優しい味だった。
車の音がしてドアが二度開いて閉じる音がした。
あれ? おかしいな。美麗の家の車ならあんな音しないけど、、、
私が玄関に行くと丁度呼び鈴が押されたので私が出た。
大人の男の人二人が来た。若い人とヨレヨレのコートの年配のおじさんだ。両方知らない人だよ。
「わたくしが櫻井です。九条さんの事はお嬢様からお伺いして良く存じ上げています。こちらは探偵の八田さんです」
「九条 夢美です」
~バルバリーベラ・オス~
『~ねぇ、美麗、八田さんっていう探偵のおじさん知ってる?~』
『~ああ、以前わたしが無くしたものを見つけてくれた人だわね~』
『~わかった、ありがと~』
「では移動しながらお話しましょう。今日は黒い車じゃないんですね」
正直結構ポンコツっぽいシルバーの車だ。
「いつものお嬢様の車ですと目立ってしまいますので八田さんの車でとお願いしました」
「乗ってもいいですか?」
「どうぞ~」
私が後ろ、八田さんが運転席、櫻井さんが助手席に乗った。
「夢美ちゃんだっけ、どこに行けばいいの?」
「多分、15号を南に行って多摩川を渡る手前の工場だと思います」
「九条さんはお嬢様と連絡が取れたのですか?」
「いえ、あの、えーと、以心伝心というか、、、」
「あっ、わかるよー、思春期の子供のそういうのってよくあるって話だよな」
「えっ! 八田さん、そんな話があるんですか? 聞いたことがありませんが、、、」
「ほら、よく思春期の子供がいるとその家でポルターガイスト現象が起こるっていうだろ? あれも思春期の子供の超能力が原因なんだよ」
あー、この八田さんってそっち系の人かな?
「月刊マーに載ってたんだ」
ぷぷっ。そっち系が当たりだけど、私はもうこれに乗っかるしかないね。
櫻井さんは完全に引いてる。
「九条さん、その辺りに行ったとして場所が判るんですか?」
「近くに行けば判ると思います」
「判りました。今は手掛かりがないので信じるしかありません。お嬢様が警察に言わない方が良いと言うのでしたらそうなのでしょうけど、わたくしと八田さんで解決できるのでしょうか?」
「それは状況次第ですね。もう警察には届けたのですか?」
「いえ、情報収集に力を入れて既に情報に賞金が出ていますが警察は未だです。出来ればわたくし共の内々で処理出来ればと考えています」
「それで先に探偵の俺も呼ばれたんだよ」
「そうなんですね。でもなんか探偵さんとか日本に本当にいるんですね」
「そりゃ日本にもいるさ。でも普段は浮気調査ばっかだけどね」
ポンコツの車だけど結構速く走っていて大田区に入った。探偵さんはみんなこんなにスピードを出すのだろうか。
~バルバリーベラ・オス~
『~美麗。大田区に入ったよ。何か音とか聞こえる?~』
『~色々な工場の加工音は聞こえるわね。時々電車の音も聞こえるわよ~』
『~南を向いたとして電車はどっち側に聞こえる?~』
『~東側だわね。恐らく数百メートルは離れているんじゃないかしら~』
『~判った。直ぐに見つけるから~』
『~期待しないで待ってるわ~』
カーナビを操作して貰っておおよその位置に設定して貰った。
近くで美麗の気配が感じられれば見つかると思う。
「美麗の話ではマダムみたいなおばさんと黒服が二人、若い人が二人でその黒服が拳銃を持っています。今は若い人二人で、警察に通報された場合、若い二人が工場で立てこもっている内にマダムと黒服は裏の抜け道から逃げられると考えているようですね」
「成程、警察に通報すると人質立てこもりになるとお嬢様は考えていらっしゃるんですね。確かにそうなると命の保証はありませんね。でもその若い二人を捨て駒にしてその間にお嬢様も犯人も逃げるという事ですか?」
恐らくその時に邪魔だと美麗が先に殺されるだろうって言ってたけど、、、。
「美麗はそう考えているみたいですね。でも仮にそうだとしても上手くさせなければいいんですよ」
「九条さんも危険な事はダメですよ。何かあればお嬢様からわたくしが怒られます」
「大丈夫ですよ。無理はしません」
多分、ちょっとしかw。
もう私の近くで誰にも死んで欲しくないよ。
「住宅街かと思ったら結構工場も多いですね。恐らくこの辺りです」
「道が狭いな。ちょっと車を止めて来るから二人は降りて待っててくれ」
「判りました」
櫻井さんと私は車から降りた。
~バルバリーベラ・オス~
『~美麗。聞こえる? 多分近くにいると思う~』
『~まるで隣で話しているように良く聞こえるわ~』
『~相当近くだね。あの工場かな。今探すからちょっと待ってて~』
『~バットを持った若いのが二人がいるからそのまま踏み込んで来たら危ないわよ~』
『~判ってるよ~』
私は多重の身体強化を掛け明鏡止水を試みた。
『『~プテス ターテム コリポリ~』』
~明鏡止水~
人が多いなぁ。美麗の気配の感じは、、、。
いたっ! あの、青い屋根の工場だ。
『~リバーレ~』
「櫻井さん。あの青い屋根の工場の奥に美麗がいます」
「ほ、本当ですか?」
「恐らく私達が近づいても工場へ直接行かなければ大丈夫だと思います」
「そうですね。ちょっと八田さんを待って近づいてみましょう」
数分後に八田さんが来た。
私達は青い屋根の工場の方へ歩く。
櫻井さんが工場の写真を撮りGPSを確認している。
「お嬢様の安全さえ確保出来れば後は我々が踏み込みます」
「そうですね。まずは美麗の安全が先です」
もう準備しているんだね。
「ええ、勿論ですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そいつら拳銃を持っているんだろ?」
「今は持ってる人はいないみたいですよ」
「これで俺も情報料の分け前位貰えそうだが、かなりヤバそうだな」
「八田さんはサポートに回って下さい」
「お、おう」
あの脇の小さな窓が美麗の言ってたトイレの窓だと思う。
「えーと、じゃあ八田さんはあっちの工場で余った木材に何か木刀のような棒があれば貰って来てもらえませんか? 櫻井さんはこっちの裏の抜け道を確認してください。裏に人はいないようです」
「わかった」
「まかせろ」
中の若い二人にはまったく気が付かれていないね。
~バルバリーベラ・オス~
『~美麗。今工場の脇にいるよ。トイレの窓からわたしが忍び込んで行くからね~』
『~手が縛られているのよ。櫻井からナイフを借りて来て頂戴~』
『~判った~』
櫻井さんが戻って来た。
「逃げ道のルートの確認と一応通路の出口もチェーンで塞いできました」
おお、櫻井さん仕事出来る人だね。
「こんなのでいいか?」
八田さんが持って来たのは普通の猫足の机用の足だった。ニスが綺麗に塗られている。
これどう見ても余った木材じゃなくて使ってるやつだよね。
持ってきちゃったのか。まあいいか。ちょっとお借りします。
「どうしますか?」
「あの脇のトイレの窓からわたしが忍び込んで美麗を連れて来ます。窓が小さいからわたししか無理ですよね。それに美麗は手を縛られているようなので櫻井さんからナイフを借りて来て欲しいって言ってるけど持ってますか?」
「はい、かなり長いものもありますがこちらの短い物で大丈夫だと思います。お持ちください」
「お借りしますね」
「ちょっと待って、二人共この通信機を持っててくれ。ポケットに入れてイヤホンを耳に」
小さな通信機を八田さんから渡された。
「スイッチを入れておいて、話す時はこうやって目立たないようにここのボタンを押しながら口に近づけて話すんだ。全員に聞こえる」
グッ。
八田さんが内ポケットを握りながら口元に近づけて話す。
確かに通信機は見えないけどそれちょっと変な人だよ。
『聞こえるかい?』
『はい、聞こえます』
『ジッジッ』
「おお、櫻井くんは探偵のルールを知ってるのか? 判ったという合図はしゃべらずに今みたいに送信ボタンの二度押しだ」
私が二回押してみる。
『ジッジッ』
「いいね」
「じゃあ、櫻井さんは表口の見えるこっち側から見ててください。八田さんは櫻井さんが確認した裏側にいてもし裏に二人が逃げて来たら取り押さえてください」
「俺は体力担当じゃないんだけどな」
「頼りにしてます。では行きますね」
「九条さん、気を付けてください」
『ジッジッ』
私は木刀の代わりに机の猫足を持ってトイレの窓に近づいた。
小さなサッシの窓だけど鍵がかかっている。
でもこういうの開くんだよね。近づけば大丈夫だけど、、、。
私は壁に猫足を斜めに立てかけてそこに飛び乗った。
身体強化再開だよ。
窓をこう持って、、、。
(これは前島さんから教わった犯罪系のテクなので非公開だよw)
ほら、開いた。
私はトイレの窓を使って上半身からそのまま中に入った。
『九条さん、木刀代わりの棒を忘れてますよ! 九条さんは剣道やってるんでしょ!』
あっ! 足場にしてそのまま置いてきちゃったよ。まあいいか。
『ジッジッ』
答えになってねー(櫻井)
~明鏡止水~
若い二人は工場の表側で携帯を触っている。
このまま美麗のいる部屋の所まで行けそうだ。
私はトイレを静かに出て美麗の部屋へ向かった。
ドアのノブを廻してから静かにドアを開ける。
美麗がいた。
私は口元に指を付け静かにしてもらい櫻井さんから借りたナイフで美麗の手を縛っていたロープを切った。
ひそひそ声で話す。
『手を切らないで頂戴ね』
『焦ると切りそうだよw』
美麗の手が自由になる。
『一人で歩ける?』
『勿論よ』
『櫻井さんと八田さんと来てるから、トイレから逃げるよ』
『判ったわ』
私はもう一度ドアを静かに開けてトイレまで静かに急いだ。
トイレのドアを開け小さな窓を開ける。櫻井さんが直ぐ下にいるようだ。窓を開けて美麗を押し上げる。
『おい、車が帰って来たぞ!』
八田さんからの慌てた通信が入る。
若い二人が車の気配に立ち上がって美麗を確認に行ったようだ。
不味い。速く出ないと。
美麗の上半身が外に出て私が足を抱えて外に出す。
『お嬢様。そのまま大丈夫です』
美麗が外に出た。
私も直ぐに出ようと身を乗り出す。
「くそっ! いねーぞ。トイレから逃げたか!!」
二人が走って来た。ドアが勢い良く開けられた。しまった。鍵閉めてなかったよ。
上半身が外に出ようとしていた私のパーカーのフードを後ろから掴まれて引っ張られた。
グイッ。
うわっ!
「九条さん!! 『お嬢様は確保したが代わりに子供が捕まった。直ぐに踏み込め!』」
「九条 夢美に傷をつけないで頂戴!」
「『聞こえたな! 子供を保護しろ!』」
痛たたた。もう。
若いヤンキーみたいな二人だ。
一人はバットを持ってる。
「あのお嬢様じゃねーぞ!」
「くそっ!」
「俺がこっちを捕まえておくから直ぐに外に廻れ!」
という方の男を転ばせ後頭部を加速させわざと地面に強く打ちつけた。打ち所が悪かったらゴメンね。
ガスッ!
外に廻ろうとしてもう一人が転ばされたのを見て驚いた顔をしている男の手をはたいてバットを落とし右手で顔を前から後ろに押し付けながら足を払いこれも後頭部をわざと強めに地面に打ちつけた。
ドカッ!
車から降りて来た黒服二人が驚いてこっちを見る。大人の女の人が小さく叫び裏に走り出した。この人がマダムだね。
黒服の一人が銃を取り出す。
私はバットを拾ってダッシュして黒服の手首を上から打ちつけた。
ガシッ!
地面に落ちたその拳銃を遠くに蹴った。
もう一人も拳銃を出そうと内ポケットに手を忍ばせる。
私は腕を叩いた人の喉をバットで突き、そのままもう一人の内ポケットに入れた右手の肘をバットで片手で打ちつけ、返す動きで側頭部を叩いた。
ビシッ、ガツン!
結構速く動いたので二人はほぼ同時に倒れた。
ほぼ閉じられたシャッターを破って装甲車のようなジープが2台工場へ突っ込んで来た。
ズガッ! ガシャーン。
もう男達は全員倒れている。
あの女は裏口に逃げたようだ。
これは美麗の味方が来たんだね。ナイスタイミング。良かった。もう大丈夫そうだ。
「大丈夫ですか!」
「わたしは大丈夫です。女が一人裏へ逃げました。裏口は閉鎖してあるから袋小路だと思います」
「こいつらは貴方が!?」
「はい」
「わ、わかりました。後はわたし達に任せて念のため外に退避してください」
「判りました」
私は壊れたシャッターをくぐって外に出た。
美麗と櫻井さんがいた。
「美麗。大丈夫だった?」
「もちろんよ。誘拐は初めてだったけど、貴方と話せてこんな時に安心出来るとは思わなかったわ」
「美麗。それダメだって」
「お嬢様。それは一体どういうことでしょうか?」
「あら、ごめんなさい。櫻井には内緒だったわね」
「な、内緒ですか、、、」
「パンツはちゃんとはけてる?」
「も、もう直したわよ! 手を縛られていたのだから仕方ないでしょ」
ズキューン! ズキューン!
銃声だ! 結構こもった音だけどここで撃ってるよね。
「えっ! 今のは、、、」
「あれは、多分殺している訳ではないわ。脅しているか動けなくしているだけね」
こ、これはおそらく細かく聞いちゃダメなやつだ。
「お嬢様。お家で皆さまも心配していますから戻りましょう」
櫻井さんも銃声はスルーですか?
「夢美。本当に助かったわ。ありがとう」
「いや、わたしもなんか美麗が誘拐されたって判って目が覚めたよ」
「そう言えば引きこもって学校に来てなかったわね。もう大丈夫なの?」
「うん、美麗のおかげかもね」
「よく判らないけど貴方にお礼がしたいわ。家で夕食を食べて頂戴。貴方は少し痩せたかしら?」
「うん、そうさせてもらうよ。ちょっと痩せたかもだけど今はもうお腹ぺこぺこだよ」
私はこの後、あの西園寺さんの豪邸で久しぶりのまともな食事をごちそうになり満腹の状態で家まで送って貰い久しぶりにぐっすりと眠れたよ。
◇◇◇◇◇
中央へ戻った翌朝、私とお父さま、それにバーミリオン部隊も王城に呼び出された。どうやらシルバタリアのビルムさん達も一緒に呼び出されたようだ。
王城に着くとお父さまがいるからか丁重にもてなされ直ぐにアドリアーヌ王妃に謁見する事になった。
アドリアーヌ王妃には私はまだお会いした事がない。
謁見室に行くと宰相様達だけでなく中央の第一騎士団のあの人達や武官の偉そうな中央の貴族の人達が並んでいた。
私達はアドリアーヌ王妃にヒーシュナッセを退けた功績を称えられ勲章を授与された。
アドリアーヌ王妃は一人一人に声を掛けねぎらうもので、ザルツは涙ぐんでいたよ。
私とお父さまが頂いたのが日本語的に言うと『護国宝珠賞』(テザウルス クイテエトル パートリアム)というものでヴァーミリオン部隊やシルバタリアのビルムさんが頂いたものが『英騎士称誉賞』(ブリタニクス エクエ ソーノル)というものだ。
私達のは国を守ったかけがえのない英雄の貰う勲章だそうで、英騎士の方は誉高きグレースフェールの騎士という意味なのだそうだ。これ結構凄そうだね。
本来は戦闘をした訳じゃないけどレオン司教にもあげたいね。後でお礼をしよう。
一般的には外敵との戦いで功績を上げれば報償金や昇爵などの事が普通だ。でもお父様は公爵だし私も成人すれば侯爵の内定があるからこれ以上は上がりようがないよね。国も開発を色々と頑張ってるからまだお金も余裕はない。
それだけでなく、また戦争かと思われたマドグラブル、チョイナー、そして今回ヒーシュナッセと敵に恐怖を植え付けて退けた事が第一騎士団と一緒に行った偉い人にキチンと見られてこれから先、簡単には攻めて来ないだろうとお墨付きを貰ったからだ。
私は『頑張らないと死にそう』と言うお父さま達から言われてた喫緊の状況からは抜け出せたようだよ。うん、安眠に近づけたねw。
でもあれ程戦って私達はたった数年から数十年の平和しか手に入れられないんだね。
確かに恒久の平和なんてないのかもしれない。
それでも復興期だったグレースフェールにとってはとても大きな事でそれでこの表彰と言う事なのだそうだ。
その後お父さまと私がアドリアーヌ王妃に残るように言われた。
護衛としてザルツとカーマインも残っている。
「ソフィアさんが大活躍であった事は伺っています。ここに建国の英雄クリストファー・グレイシーがハインツ・フェルメール国王に貰ったと言う伝説のヒヒイロカネと言う素材があります。国を救う優れた英雄に渡すように伝えられていますがここ二百年程は該当者がいませんでした。王家にあるものはこれが最後の物になります。この素材の合金で作られた剣は刃こぼれ一つなく他の剣を斬り裂く剣だったそうです。しかし世に出回る事がほぼなく、鍛冶職人に技術が伝わらず今ではこれの加工が出来る者は見つかりません。ソフィアさんは記念品だと思って受け取って下さいませ」
アドリアーヌ王妃の側使えの方が持って来たのは燃えるような赤い金属の塊だった。
でも何となくこの側使えの人どこかで見た事があるような、、、。
ヒヒイロカネ? 聞いたことないけど誰も加工出来ないんじゃ持ってても仕方ないんじゃないの?
お父さまも私も遠慮したけどどうしてもと言う王妃様にお断りする訳にもいかないのでうやうやしく頂きました。
二百年も該当者がいなかったのか。
これはこっちでは結構長く感じる。
日本ではSDGsなんていう話もあるけど、持続可能な社会なんて日本は2000年以上の歴史があるのに、世界2位、3位のデンマークもイギリスもその半分の1000年程度だよね。1000年王国とか言っても日本の半分だから足元にも及ばないよね。SDGs一番と言われるスウェーデンなんかも500年しか歴史がないのに2000年以上続く日本がその1/4の歴史しかない国からどんな持続可能な事を学ぶんだろうね。聖徳太子が聴いたらきっと笑われちゃってるねw。
でもこの誇るべき歴史である『万世一系』を女系天皇とかおかしな日本に合致しないルールで壊そうとしてる人達がいるらしいけどまともな大人の人達には頑張ってもらいたいと思う。
まあおかしな王朝が始まったら私は海外に行くよw。また脱線しそうだけど、
で、地球でもそうだけどこっちでも普通の国は短くて100年程度で長くてもおおよそ300年程度の歴史しかない。戦乱の時代からやっと国が安定してきた状況だからね。
その中でも500年も歴史のあるこのグレースフェールはかなり長い方だと思う。
建国の英雄っていうからつまり英雄が活躍したのはそれ位前のものって言う事だね。日本だと安土桃山時代の後期かな。日本の歴史を考えればそんなに前って感じはしないけど、こっちでは遥か昔って言うイメージがあるよ。
確かに最後が200年も前の話なら持続する社会が続いている日本なら残ってそうだけど、普通のあまり持続しない国では技術が失われても仕方ないのかもね。
バーミリオン部隊を中央へとのお話も頂いたけど、武器の管理が難しく危険であることをご説明してルントシュテットの私の配下に留まる事になったよ。
この後凱旋のパレードを行いたいと言ってたけど、国王様が倒れている件もあると言って回避した。
アドリアーヌ王妃様は国王様のようにワガママを言わず私の話も聞いてくれたので助かったよ。
でもこの後カーティス王子の嫁に来ないかとしつこく言われたけど婚約していますからと丁重にお断りした。
「ソフィアさんは騎士科に進む予定ですか? 指揮だけでなく剣でも凄い活躍だったと伺ってます」
「いえ、わたくしは騎士ではなく研究系に進む事を考えています」
「国王様があの状態で新年の舞踏会は中止になりましたが春の剣術大会『グラディアム祭り』は開催されます。第一騎士団の者達が是非ソフィアさんに出場して貰いたいと言ってましたよ」
「それは騎士の方々にお任せします」
「そうですか。残念ですが貴方に嫌われては困りますから無理強いはしません」
「ありがとうございます」
お父さまも冷や汗ものの謁見だったけどどうにか乗り切ったよ。
お父さまに後で詳しく報告して欲しいと言われ王城で別れて私は貴族学院へ向かった。
私は久しぶりの貴族学院だ。休学だったそうなのでユリアーナ先生に聞くと復学手続きは先生がやってくれたので特に必要ないそうだ。
サロンへ行くとエミリー達がいた。エミリー達とも久しぶりだね。
ひとしきり再会を喜んで授業の遅れや新年以降の状況を聞く。
リナがノートに記録してくれた内容を見せてくれた。全部読んだけど授業の方は余り心配ないようだ。もう教科書の方も全部読んで解ってるからね。
年末にまるで私が貴族の粛正をやったように思われているようでかなりの人に怖がられている反面、多くの貴族は逆にすり寄って来ているらしい。
私は公爵家の娘だけど跡取りはエバーハルトお兄さまなので、王家ではないから降嫁とは言わないのだけれど伯爵家位までなら嫁ぎ先としてはあり得る。
ルントシュテット内では流石に遠慮しているようだけど他の各領地の貴族達から私が復学したら是非早々にお茶会をと列をなしているそうだ。
逆に嫌われている領地は私の演奏を聞いた方々からお茶会の予定をと予約されたけど粛正と思われてる話でキャンセルが相次いだようだ。下手に不味い事を見られて取り潰しにでもされたらと避けられているらしい。そんな事をするつもりもないし敵対などしたくないんだけど、みんなそんなに腹黒いの?w
私はあまり期待していなかったけどみんなにヒヒイロカネの事を聞いた。
ユリアーナ先生が知ってたよ。
「それはピシュナイゼルに伝わる伝説の鉱石のお話ですね。ピシュナイゼルでは赤く燃えるような剣が未だ残っているそうですよ」
「そうなんですね。あっ!」
あったよ。この前クルツバッハ伯爵の所へ行った時に赤い槍も赤い盾もあったよ。
あれがヒヒイロカネのものなのかな?
これはクラウディア様かクルツバッハ伯爵に聞くしかないね。
そう言えば日本の発掘した剣も赤かったような気がする。
でも面白そうな話だから私が時間をとってこっちで『探偵さん』みたいに調べてみようw。
学院の騎士コースでも選抜で男女3名ずつ『グラディアム祭り』に出場するそうで先日行われた選抜大会でなんとウルリヒお兄さまが騎士コース二年目の5年生なのに活躍して選ばれたそうだ。
それだけでなく貴族学院始まって以来の事だそうだけど、私の護衛騎士ルイーサがプラマーリア2年から出場が決まったそうだ。
凄いよ二人共。
私がルイーサを褒めると凄く照れていた。なんか、可愛いよ。
ルントシュテットからは毎年活躍しているカイゼルさんや今年はカイとカーマインが出場するそうで、女騎士は騎士団からエッダとビアンカ、それに私の護衛騎士ミスリアも出場するそうだ。
なんかみんな親しい人達ばかりだからお祭りの時は応援に行こう。
◇◇◇◇◇
【中央第一騎士団宿舎】
剣の加護を持ち剣の天才と言われた第一騎士団の若き団長ランハート・フォン・シュタイン。
貴族学院騎士コース卒業と同時に戦争が始まり、あれよあれよと出世して今では国一番の中央第一騎士団の団長だ。春の『グラディアム祭り』では5年連続で優勝しこれまで一対一では誰にも負けていない。
先のオレアンジェスへの出征ではルントシュテットの兵器に流石の第一騎士団も出番は殆どなかったが、この最年少の団長であり最強騎士もオレアンジェスから戻って以来宿舎に引きこもっている親友の事が心配で対処に困っていた。
「レイモンド。どうだ。閉じこもってないでたまには飯でも食いに行こうか?」
「い、いや、俺はいい」
「そろそろ俺に相談してくれてもいいんじゃないか?」
「怖いんだよ。もう俺は騎士団を辞めてパープラングに戻って畑でも耕す」
「何を言ってるんだレイモンド! お前は第一騎士団の副団長だろ。レイモンド隊はどうなる」
「ランハートはあれを見ていないからそう言っていられるんだよ」
「一体何を見たって言うんだ」
「・・・」
「そろそろ教えてくれレイモンド」
「ルントシュテットのソフィア嬢だよ」
「あのバーミリオン部隊の指揮で活躍していたルントシュテットの姫様か。あれは見事な用兵だった。確かお前の部隊は先に到着して姫様が前線で剣を振るってたのを見たという話だろ? お前の部隊の他の者にも聞いたが奮闘が凄くて『英雄』のように戦ってたと言うがどうせ眉唾だろ? まだ子供じゃないか」
「『英雄』なんてものじゃなかったんだ。あれはまるで『戦神』、でなければ『悪魔』だったよ」
「な、何を言ってる!」
「あんなのが戦場にいたら命が幾つあっても足りない。俺はもう騎士団を辞める」
「おい!」
「見たんだよ。剣が折れる程暴れていたあの姫様のその先を」
「その先? 何を見たんだ」
「オレアンジェスのライナーがいただろ」
「ああ、ライナー・ハインリヒ・フォン・シュテュルプナーゲルの事だな。奴は去年の『グラディアム祭り』では随分と腕を上げてわたしも決勝戦で苦戦したぞ。今年が楽しみだったが今回の戦争で亡くなるとは残念でならないよ」
「ライナーは強化された鋼鉄の剣を持ってグレースフェール側ではなく敵のスパイの司教側にいたんだ」
「何だと! それは報告と違うじゃないか!」
「ライナーは身寄りもないからルントシュテットがこれまでの功績から罪を隠してあげるためにそう報告したのだと思う」
「何で、、、。いやライナーの事を考えればそれは判る。が、だとすればルントシュテットの兵器にでもやられたのか?」
「あの姫様だよ」
「何だと! どんな兵器でやられたんだ」
「あの姫様は・・・・・・」
「う、嘘だろ。いや、まさか本当なのか?」
「・・・俺は騎士団を辞める。あんなのを見たら俺はもう戦場になど行きたくない。止めないでくれ」
「・・・」
次回:グラディアム祭り(剣術大会)開催! ルントシュテットの騎士達が大活躍!?
解析をお願いしていた出土品を調べて数多くの魔法の呪文をゲット?
お楽しみに♪