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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第八章 夢のミサキ
82/129

宗教か人命の尊さか?

 昨晩はビジホでこれを書き直していましたが意外に早く終わり結構眠れました。お出かけ万歳という感じですw。

 今は用事で電車の中。結構面倒ですが何とかスマホで更新を試してます。おかしかったら教えて下さい。



 ようやくネレウス神と話しクジラ狩りを決意し実行するソフィア。

 レオン司教とシルバタリアのビルム子爵が乱入し力強い味方に!

 ヒーシュナッセの軍と衝突し敗走が続く。そしてソフィアは謎の睡眠が始まる。

 日本の早朝にたっくんの柏木家から衝撃の連絡が、、、。。



 間違えであってくれればそれに越したことはない。

 下手をすればオレアンジェスの騎士達も教会側かもしれない。


 ザルツ、カーマイン、ヘルムート、ミスリアは頼りになる。実践を取り入れた訓練や連携は出来ている。これまでも何度も私達は模擬訓練をしてきたけど仮に戦闘になれば、それは単純な剣術ではなくなる。


 騎士団ともなればプレートアーマーと呼ばれる甲冑を着ているし歩兵の多くも鎖で作られたメイル(鎖鎧)を着たり、頭にかぶる兜や胸当てを剣道の胴のように着たりもしている。


 プレートアーマーと言ってもここのは通常3種類くらいある。

 戦場で使う動きやすいもの、馬上戦などの防御に特化したほぼ動けない分厚いもの、パレードなどの為のめっちゃ薄い装飾されたのものだね。

 装飾の施された薄いパレード用のものなら普通の剣でも斬れる。馬上戦のものは剣では無理で相当な速さの槍でも刺さる事は稀だ。戦場で使うものは隙間があるのでそこを突けるという感じだね。


 ライフルの銃弾は貫通してしまうので銃が出回れば防げるものが流行るかもしれないけど、地球の歴史では戦争そのものが変わってしまうのでそれはおおよそ100年程度の間だけの話だ。

 ここではまだ人が人を倒す剣や槍、そして弓矢で倒すのが戦争だ。


 まあ斬れない事はないけど、単純に斬れば斬れるという訳ではない。そういう意味では、あの野盗に身を落としたイゴールさんのように凄く大きな剣で殴り倒したり、大型のハルバートのようなものでなぎ倒す方が効果がある。

 恐らく戦場ならイゴールさんなんて大人気だっただろうね。

 こちらの普通の剣は斬るのではなく、主に鎧を着ていない部分や隙間から刺す事を目的としている。


 ザルツ、カーマイン、ヘルムート、ミスリアは万が一の為、ハルバートを用意している。ミスリアが扱う小型のハルバートですら私には大き過ぎるよ。

 私は刀しか扱えないしダメなら無手で対処するしかないか。


 夜、少し微睡むと見知らぬ声の神様から話しかけられた。


『異界の魂よ、何を迷っておるのだ』

『ネレウス神様ですか? わたくしはソフィアです』

『ソミアだと聞いている異界の者よ。奇異な魂であるな』

『はい、それでは少しお話させてください』

『人の話を聞けと言うことか? 人と話すのは久しぶりだ』

『恐れ入りますがお願いします』


 ・・・


『この地では、クジラを神のミサキと崇めているようですが、これは事実でしょうか?』

『クジラはミサキなどではない。只の獣にすぎぬ』

『現在、クジラが増えすぎてしまい、我々人が生活を営む為に漁業を行っていますがクジラの食と重なり漁業が困難な状況になっています。クジラが増えた事による寄生虫のアニサキスも増え魚を食べられなくなっています』

『それは人から見たらの話しであろう』

『その通りです。でも、、、』

『奇異な魂よ。其方は異界でどれ程人が海を汚しているのか判るか?』

『プラスチック問題などですね。マイクロプラスチックとかですが、ペットボトルやレジ袋が問題だと認識しています。ネレウス神様は異界の知識もお持ちですか?』

『当然判っておる。しかしペットボトルやレジ袋などはほんの一部に過ぎん。マイクロプラスチックはもっと別のものが原因だ。判るか?』


 なんだろ。さすが海の神様だけど、こんなに生活用品まで詳しいとは思わなかったよ。

 これ環境問題のお勉強かな?

 学校だとそんなところしか教えてくれないしこれちょっと判らないね。


『すみません、それ位しか判りません』

『女子の使う生理用品のナプキンだ』

『生理用のナプキンですか!?』


 そうなの?


『生理の期間中におおよそ20枚利用し、一枚のプラスチック量はレジ袋4枚分だ』


 そんなに多いのか。知らなかったよ。レジ袋なんかよりそっちの解決が先じゃんか。


『人がそれを対策しないのは様々な利己的な思惑もあろうな』

『だと思います』

『では、海の環境に悪いと、生理用ナプキンを使うのを止められるか?』

『もの凄く環境に気を遣う方が、公然の単なるアピールとしてやるのはあるかもしれませんが、恐らく無理ですね。火事が怖くて火を使わない、CO2が怖くて電気を使わないのと同じで生活の質が悪いものになるのは現代社会では無理だと思います』

『人から見ればその通りだ。では海ではなく陸の話もしよう。陸での最大の環境破壊は農業だが、環境に悪いと人は農業をやめる事が出来るのか?』


 なんか教科書で教わる事と神様のお話は違い過ぎる。でもよく考えれば農業ってその通りだね。


『それは無理です。海の動物達から見たら違うのですか?』

『獣であるからそんな事は考えない。今、クジラが増えオキアミを大量に消費した事によって枯渇し、この地にしかいなかったペンギンが2種滅びた。このままではもっと滅びるだろう。つまりは海を汚し大地を汚す利己的な人種(ひとしゅ)と変わらぬという事だ』

『そんな状況になっていたのですね。それは海の神様としてはどうお考えなのでしょう?』

『生物の滅びも営みの一つだ。(せい)の歴史は滅びの歴史でしかない。どれくらいでどう滅びるのかの違いだろう。クジラは獣でありこのまま増えれば滅びる種も増えるだろうな。増えすぎて自らも滅びるやもしれん』

『そうかもしれません。仮に種が破滅種であれば自らも滅びるかもしれませんし、滅びる種も増えるかもしれませんが、それらの種がもっと長く生き残る道もあるのではありませんか?』

『それは様々な種の相互作用だな。海の神と言っても人が易く滅びる事はあまり好まぬ』

『それでは、利己的でなく人と獣が共存できる環境があった方が良いのではありませんか?』

『其方は若いのに中々に判った事を言う奇異な魂だな。人は考える事が出来る種だ。クジラとは違い、人には考える力があるからそれは役に立つだろう』


『どういう意味ですか?』


 ・・・。


『ネレウス神様! ネレウス神様!』


◇◇◇◇◇


「もっとカッコイイ火魔法とかないの?」

「ありませんよ。白魔法は呪いに対するおまじないか普通に人が出来る事をやりやすくしているだけです。神功先輩は中二病ですか」


 しゅん。


 神功先輩は無理を言いながらも一生懸命魔法の練習をした。


『夢美、神功先輩もいるの?』


 美麗だ。


『いるよ』

『何が飲みたいのか聞いて頂戴』


「神功先輩、飲み物は何がいいか聞いてくれって美麗が、、、」

「うぅ、西園寺は魔法が出来るのをわたしに見せびらかしている」

「いや、この3人だけなんですから見せびらかすも何もありませんよ」

「お汁粉」

「本当ですね」

「うん」


『美麗、お汁粉だって。わたしはオレンジジュース』

『神功さんは面白枠だったのね。判ったわ』


 少しして美麗が温かいお汁粉とオレンジジュース、アップルジュースを買って来た。


「本当に当たってる。絶対に選ばないお汁粉とか本当に買って来た。取り換えて!」

「イヤですよ!」


◇◇◇◇◇

 

 土地、気候を考え適した野菜や果物をリストアップする。

 ここでは育てていなかったものも入れたけど、農業の支援がここまで行き届けば以前より収穫量も見込めるかと思う。

 

 ルントシュテットから大量の肥料が無事に届いた。

 騎士団のビアンカとホルガーが護衛についてくれたからだ。二人にはザルツ達と認識合わせをしてもらい、私は領主アデルさんにアドバイスを進言するのはこのタイミングだと実行した。



「領主アデル様。ルントシュテットからの肥料が届きました。問題の大きな地域から対処してください。新たに開発した種子もこちらの表をご確認頂き、ルントシュテットへ申し付けて頂ければこちらで対処します。農業が完全に復活するまでは食料も補助致します。各街へ週に一度炊き出しを行い農業復興まで頑張りましょう」

「あ、ありがとうございます。ソフィア様。お父上のヴァルター様の後ろ盾があればこそ。感謝いたします」

「はい。農業も頑張って行きましょう。しかし本題はここからです」


「は、はい」

「わたくしは王家のアドリアーヌ王妃よりご依頼されたアドバイスについて次の事を進言致します」

「な、なんなりと」


「漁民総出でクジラを狩ります。船は既にシルバタリアへ依頼しておりますから漁具を乗せ直ぐにでも開始致します。クジラの数を漁業と共存が出来るまで減らし、魚介類を以前と同じように取れるように対処致します。不漁の際の対処として、簡単な魚から生簀(いけす)で餌を与えて育て調整致しましょう」


「反対です!」


 えっ! カトレアさん! 文官さんに意見を求めてないよ!


「クジラは神のミサキなのです。教会がそんな事を許すはずがございません」

「わたくしはあなたや教会に進言しているのではなく、領主アデル様に進言しています。それにわたくしは王妃アドリアーヌ様からアドバイスを一任されております。ご反対なさるのでしたらそれは王家に逆らうとお思いください!」


 ぐっ!


 ちょっと強く言い過ぎたかな。


「ソフィア様。わたくしはおしゃる通りに進めたいと思いますが、この地には教会に救われた経験もあり信者も多いのです」

「その通りです。それではソフィア様が司教様達を説得して頂けますか?」


 司教様達って下手すると全部あっちの人達かもしれないよね。

 でも、ここで引けばオレアンジェスはダメになるし、説得出来れば一気に進む。


「判りました」

「それではわたくしが教会に連絡し各地の司教様に集まって頂くように手配致します」


 なんでカトレアさんがと思ったけど彼女の言う通りにお願いした。


 借りている部屋に戻る。

 あー、気が重いなぁ。

 敵の真っ只中に入って行くかもしれないと思うと本当に気が重い。


 そうこうしているとドアの外に聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「姫様。レオン司教様が、、、」

「ソフィア様!」

「レオン司教! 何故ここに!?」

「ソフィア様がお困りなのかと思い馳せ参じました」

「その法衣は、、、」

「はい。中央の大司教の全権代理を請け負って参りました。ここの教会の現状を教えてください」


 なんかこんなタイミングで力強い味方が来てくれた感じだよ。

 私はこれまでの話をレオン司教に説明して私がどうしたいのかを話した。

 ネレウス神という神様とお話した内容もほぼ正確にお伝えした。

 勿論異界とか地球の話はしていないよ。


「それでは原因がクジラと判っているのに、人をないがしろにしてミサキでないものをミサキと崇めているという事ではありませんか! そのせいで漁業が壊滅ですって!?」

「いや、レオン司教、落ち着いてください。まだスパイと証拠がある訳ではありませんから、正論で行くしかありません」

「完全にクロだと思いますが、ソフィア様がそう仰るのでしたらそう致しましょう。普通貴族は強硬に対処してしまうものですが、さすがソフィア様です」


 いや、いくら私が貴族でもそんな横暴な事はしないよ。


 続いて朗報が舞い込んだ。

 シルバタリアのフリッツ伯父様にお願いしていた蒸気船が大量に届いたと私の所に報告に来たのがビルム・フォン・ハッセル子爵だった。


 サクレールに呼び出していた漁業ギルドのギルド長に振り分けと漁具の積み込みを急いでお願いし、ヒーシュナッセを回り込んで北側のターオン海峡の方も対処してもらう。


 司教さん達を説得すると言ってもクジラ狩りを待つ必要などない。

 アドリアーヌ王妃にアドバイスを一任されているのだ。先にクジラ狩りを始めて貰う。

 漁民に反対する者はいるのかを漁業ギルドのギルド長に確認すると『そんな馬鹿は誰もいません』と力強く答えてくれた。


 よし、クジラ狩り開始だ!


 尖塔師のウイルソンさんにマシリアの街とセンスルビーチェの街の間辺りに出向いて貰いクジラ狩りの状況を報告して貰うようにした。

 ラーラを連れて来なかった事を今更ながら後悔した。


 数日するとクジラがかなり取れ初め、サクレールにも大量のクジラ肉が回って来たよ。

 鯨油も加工品に廻しかなり活発に業者が動くようになって来た。


 私は早速カリーナにクジラの天ぷらを作って貰い食事に出す。

 夕食にカトレアさんは同席しなかった。


 クジラめっちゃ美味かったよ。

 領主のアデルさんも文官長ハリエットさん、武官のコアトさんもクジラの焼いたものは食べた事があるけど、天ぷらにしたのは初めてだそうで、めっちゃ美味しそうに食べてたよ。

 クジラが増えすぎたのならしばらくクジラ料理だね。竜田揚げが美味いんだよ。


 鯨の竜田揚げ、生姜のくじら巻き、鯨の生春巻、鯨のカレー衣揚げ、鯨のおろし煮、くじらのスープ、クジラのカツを使ったソースカツ丼。


 クジラの料理店があれば何店舗も作れそうなくらい街に出回り、私はレシピを無料で配布した。


 最初は宗教から不安視していた人も多かったけど、クジラ肉が安く出回り、レシピが広まると徐々にクジラ狩りは領民に受け入れられてきたようだ。


 尖塔師のウイルソンさんから次々に朗報が入る。

 各街へのクジラ肉の納品だけでなくイエルフェスタやシルバタリアまで出荷が始まったそうだ。

 

 蒸気船は豪快に海を駆け回り見た事がない程のクジラが陸揚げされているらしい。

 いや、ウイルソンさんはクジラ漁とか見た事ないよねw。


 レオン司教は資料をまとめると部屋へ籠り、私はビルムさんと街の様子を見に行く事にした。

 今回はビルムさんにも状況は詳しく説明してある。


 街は以前よりは活気を取り戻し、僅かながら肥料が出回り、新たに届いた種子も売っている。

 クジラ肉も出回り、クジラ肉を使った食事処も始まったようだ。


 私のレシピが少しでも役に立つなら今回は無料公開でもいいか。お父さまも後ろ盾だしね。


 ダッ!


「姫様!!」

「ビルム様!」


 二人の黒いフードの男が後ろから走って近づいて来た。

 手元にナイフを持ち、身体にくっつけている。


 このまま体重を乗せて体当たりされれば、私もビルムさんも確実に刺される。


 私だけならどうにかなりそうだけどビルムさんが、、、。

 ガシッ!


 ビルムさんの護衛として来たヴェルナーさんが男に横から体当たりして転ばせた。

 よし!


 ミスリアが剣を鞘毎男に突き立て、突進を防いだ。

 そのまま喉をつき、転んだ男と共にナイフを取り上げ無力化した。

 ミスリアの見事な突きだった。


「ソフィア様の護衛は優秀でございますね」

「ビルムさんの護衛もたいしたものですよ」


 ミスリアとヘルムートが直ぐに暴漢の口に布を詰め込みロープで縛りあげた。


「しかし、ソフィア様の仰る通り、これは相当危険な状況でございますね。わたくしとヴェルナーはソフィア様と別行動とさせて頂きたく存じます」


 別行動で何をするのか判らなかったけど、私と別行動の方が危険は少ないのかもしれない。


「判りました。今回はビルムさんも狙われたようですから気を付けてください」

「ありがとうございます」


 ビルムさん達とそのまま別れた。


 暴漢の二人は兵士に預け動機などを自白させて欲しいとお願いした。


 明日は、レオン司教も同席してくれるというけど、オレアンジェスの司教達との話し合いがある。

 美味しいクジラでも食べて頑張ろうねw。


◇◇◇◇◇ 


 美麗の方はわたしに対する『ボカ・リモーティス』がほぼ完ぺきになり神功先輩にも自由に連絡が可能になった。


「これだと、完全に頭の中の会話だから期末試験では夢美に聞けば相当いい成績になりそうだわね」

「美麗、、、」

「冗談よ。わたくしがそんな卑怯なまねをする訳ないでしょ。そんなもので手に入れた成績は偽物。人としても偽物にしかなれないわ」

「そうだね。ちょっとびっくりしただけだよ」

「びっくりしたって、まさか本当にわたくしがカンニングでもするかと思ったのかしら」

「いや、よく考えてみれば美麗がそんな事する訳ないよね」

「よく考えなくともよっ!」


 いやー本当に美麗は面倒くさいなw。


 私は神功先輩と美麗に付き合わされながらも期末試験では主席になったよ。

 私達はしばらくすれば春休みを迎え、その後中二になる。


 中二になれば中二病かなと思うけど、この中二病の正体って一体なんだろうね。


 それでも私のクラスでも緩やかな変化がある。

 間もなく中二になるからかやっぱり思春期という名の子供と大人の狭間は確実に存在すると感じた。

 私もそうかもしれないけど、みんな特別な大人のふりをしたいのだ。

 大人になるのなら他の人と違い自分はとっても凄いのだと思いたくなる。


 同じクラスのみんなが様々な変化をしているよ。


 ・洋楽を聞き出す

  普通のポップスじゃなくて「洋楽を聞いてるんだ」という大人っぽい話題が増える。

 ・ブラックコーヒーなど大人の飲み物を飲む

  「香りがいいんだよ」とか沢山の香りの違いを知っているとは思えないけどそう言う。

 ・やれば出来ると思っている

  逆に子供では上辺の理解しかなくて何も出来ないのにそう言って勉強を嫌う子もいる。

 ・母親にプライバシーを尊重してくれと言いだす

  大人はプライバシーがどうのなんて事を特別に言う事はない。

 

 残念ながら自分は闇の眷属でどうのという中二病特有の人はわたしのクラスにはまだいないw。


 なんかこういうのが思春期っていうやつなのかもしれないけど、あまり大人びた事をやって背伸びすると色々と疲れそうだよ。私は寝ていたいだけなのにw。

 やっぱり、自然体が一番だね。成人するまでは少なくとも子供だし親子は大切な仲だしね。


 私はもう少しゆっくりと大人になるよ。


◇◇◇◇◇


 サクレールにある聖堂はかなりの大きさだ。カーマインの運転するキャンピングカーにノーラとマルテを残し、ビアンカの乗って来たものからレオン司教が降り、そのまま蒸気をキープして待機して貰う。


「カーマイン、ビアンカ。ノーラとマルテをお願いね」

「お任せください」

「はっ」


 入口にいる兵士2人を大司教の法衣を着たレオンが一瞥した。


 ざわざわとした大きな礼拝堂には結構な人数が集まってはいるがそれでも椅子は1/4も埋まっていなかった。この人数だと小教区の司祭さんまで来ているようだ。


 私とレオン司教はそのまま前に行った。

 レオン司教が話そうとすると、でっぷりと太った司教服の人が野次を飛ばす。


「イエルフェスタの『狂犬』助祭ごときがオレアンジェスまで何をしに来たのやらw」

「ドゴール司教。今はルントシュテットのレヴァントの司教を任されております」

「商人の街の司教など笑止千万。商人の飼い犬として牙を抜かれたのか」

「どうでしょうか?」

「むっ」


 以前のレオンであれば、ここで大喧嘩になる所だが抑えたようだ。


「この法衣を見てもお判りのように中央の大司教から一任されているレオンだ。まず全ての教会でこちらのソフィア様がお祈りをさせて貰う事が出来なかった理由を聞こう」


 さっきのドゴール司教が答える。


「知れた事。この地に於いて神のミサキであるクジラを狩ろうなどと言う神をも恐れぬ悪人ですぞ」

「わたしは中央の大司教とも話したが、人がないがしろにされクジラの命を守るなど我らの人の神がそんな事を言うのだろうかと疑問に思われている。これはご神託なのか?」

「そ、そうだ。ご神託なのだ」

「そのご神託に従い宗教を守らせ人を飢えさせるのがここの宗教か? キミらが守るべきは宗教なのか人の命なのか?」


 レオン司教がかなり強い口調で言う。心が動かされる熱い言葉だ。


「神の教えに決まっておる」


 全員がそうは思っていないようだ。半数以上が俯き、かなり青い顔をしている。


「アドリアーヌ王妃の命を受けたソフィア様のクジラ狩りの命に賛成で、人の命を守る事が大切だと思う者はこちら側の席に移動してくれ」


 おおよそ2/3の司教と司祭が移動した。


『ソフィア様』

 

 私の番なのか。何を話そう。

 レオン司教が移動した人の一人に何か話している。


『其方は?』

『セクワーナの街のコアントローです』

『コアントロー司教。すまないが左に残った者達の名前を後で一覧にして領主館まで届けてくれないか』

『畏まりました。簡単です。新しく聖堂を建てた所の方々ですね』

『判った。頼む』



「ドゴール司教。貴方がクジラをミサキにとのご神託を?」

「そ、そうだ」

「普通の神々は人の神であり、海の生物を見てはいないと伺っております。海神オーケアヌス様でしたら人の為の海流をつかさどるのでクジラは見れおられませんが、一体どの神様からのご神託なのでしょうか?」

「い、いや、あ、あれはどなたであったか、、、」


 何この人。こんな適当な話なの? これ絶対嘘っぽいよね。


「地母神ゲー様は全ての動物、植物、人を見ていますから何かをことさら優先するような事はございません。地母神ゲー様の子、海の神ポントス様と地母神ゲー様の子にネレウス神がおりますがネレウス神様ではございませんか?」


「そ、そうだ。ネ、ネレウス神であった。ネレウス神からご神託を頂いたのだ」


 ネレウス神の話と違うよ。


「そうですか。因みにネレウス神様はどのような方でしたか?」

「め、女神様だ。世にも美しい女神様であった」


 なんなのこの人。これ絶対にネレウス神様とお話してないよね。


「わたくしは昨日、他の神々に導かれ、ネレウス神様とお話しました。ネレウス神様が仰るには、クジラはミサキなどではなく只の獣にすぎぬと仰っていました。それでも漁民達が困るクジラを守りますか?

 因みに、ネレウス神様は他の神々から『海の老人』と呼ばれるおじいさんでした」

「「えっ!」」

「くっ!! 衛兵! こ奴らを生きて帰すな!」


 

「姫様っ!」

「ザルツ、出口まで強行突破しますよ。ヘルムート、ミスリア、レオン司教様をお願い!」

「「はっ!」」


「行きます!」


 入口の所に2人。


「姫様、お任せください」


 ヌォー!!


 ガシーン。


 ザルツがハルバート一振りで二人共なぎ倒した。

 聖堂を出るところにもいるだろうね。


 既に丁度ビアンカが二人共倒した所だった。ドゴール司教の大声で蒸気自動車を止めようとしたらしい。

 別行動していたビルムさん達が駆け寄る。


「ソフィア様。ソフィア様の仰っていた通りでしたよ」

「ビルムさん、今はそれどころではありません。至急ヴェルナーさんとビアンカの車に乗って領主館でお話を聞きます」

「はっ!」

「レオン司教もこちらのカーマインの車に!」

「はい」


 私達は急いで領主館へ戻った。

 そのまま領主アデルさんに報告した。


 ドゴール司教のクジラがミサキだという神託の話は嘘だった事、クジラ狩りに反対しているのは新しく聖堂を建てた4つの街の司教と司祭、そしてドゴール司教だけだという事。


「ソフィア様。こちらのリストと契約書をご覧ください。弓や食料などの物資がヒーシュナッセからメダイの街の聖堂へ運び込まれる日程です。聖堂をヒーシュナッセに明け渡す手順とその契約書。ここにヒーシュナッセの貴族、ドゴール司教とメダイの貴族のサインもございます」

「ビルムさん。これ!!」

「はい。ソフィア様の仰る通り、奴らはヒーシュナッセに通じたスパイでした。ここに対価としての報酬も記載されております」


 えっ、お金の為!?

 そんな事の為に、、、。そんな事の為にこんなにも多くこの領地に死者を出したの!!

 私は生まれて初めて怒りで身体が震えた。

 

「これを一体どこで?」

「はい。ドゴール司教の執務室の鍵のかかった書庫に偶然入っていました」

「ビルムさん。本当に、、、貴方は貴族なのですよ。思っていた通りトンデモない方ですね」

「ああ、昔の事ですね。ソフィア様がシルバタリアへいらっしゃった際には、危うくそのお二人の護衛に捕まる所でしたが今回は上手く行きました」


「ええ、でも今は最高に頼りになる方です」

「お褒め頂き恐縮です」


「領主アデル様。ハリエットさん、コアトさん。お聞きの通りです。このリストでは他の場所は未だ先のようですが、メダイには既に物資が運び込まれています」

「これは、、、」

「領主アデル様はアドリアーヌ王妃へヒーシュナッセとの大々的な戦争を防ぐ為に動く事をご連絡願います。コアトさん、この4つの新しく聖堂が出来た所以外の兵士の半数をこの館の守りにつけ、残りを早馬でわたくし達の後を追ってメダイに向かわせてください」

「はっ! しかしメダイの貴族はライナー・ハインリヒ・フォン・シュテュルプナーゲルですぞ」

「ライナーさん? どなたですか?」

「姫様。ライナーは剣の加護を持つ達人で昨年の剣技大会でも優秀な成績を収めた猛者です」

「成程、それは出来るだけ戦いたくはありませんね。こちらの戦力はまだでしょうか?」

「間もなくとは思います。中央からも第一騎士団が動き早馬でいくつかの隊がこちらへ向かっているとの事です」

「判りました。この日程からはもういつヒーシュナッセが聖堂を要塞の橋頭保として占拠してもおかしくありません。私達はこのまま出てそれを防ぎます。ビルムさんはシルバタリアとルントシュテットに説明して頂けますか? レオン司教は中央の大司教様へご報告をお願いします。ノーラとマルテは後発の者達が来たら状況を説明してください。ノーラ、刀を」

「ソフィア様、、、。無茶はなさらないでくださいませ」

「判っています。では直ぐに出ましょう」

「「はっ!」」


 この日程表を信じるならば今あるとしたらメダイの街だけだ。ここで4方面になったら対処は無理だから本当にこの日程で助かったよ。

 間に合えばいいけど、、、。


 ・・・。


 メダイの聖堂へ着くと兵士がいた。見た事のない鎧を着た兵士もいる。

 間に合わなかったのか。見えているだけだけど、十人程度なら強襲すればどうにかなるかも。


「あれは、ヒーシュナッセの鎧です」


 もう兵士を招き入れているんだね。


「カーマイン、ライフルの弾丸はどれくらいありますか?」

「すみません、今回はこのような戦闘にまでなるとは思いませんでしたので2ダース程です」

「判りました。カーマインはここからライフルで援護してください。他は全員で急襲します。向こうの援護が増えれば直ぐに引きます」

「判りました姫様。最初の数十秒がキモですな」

「その通り。では参ります!」

「「はっ!!」」


 ダッ!!


 私が一番早く敵の前に着いた。


「オレアンジェスの兵士は投降してください! さもなければ倒します!」


『て、敵襲ー!』

「敵襲って、ここはグレースフェールですよ」


 私はそう言いながらヒーシュナッセの鎧を着た人の腕を斬り落とした。

 メイスを着ていても腕や足、首などはメイスが行き届いていない部分もある。


 ザルツやビアンカ達も容赦なくハルバートでなぎ倒して行く。

 ミスリアもヘルムートもそれに続いた。


 私はかなりの数を既にこの急襲で倒したけど、次々に兵士が聖堂から出て来る。 

 しまった。これ思ったより沢山の兵士が既にこの聖堂にいたかもだね。


 貴族の恰好をした胸当てや手甲、足甲を付けた人が出て来た。

 もしかすると武官のコアトさんが話していたライナーさんかもしれない。


「むっ! 子供!?」


 私がライナーさんへダッシュすると『シュテュルプナーゲル卿!』と叫びながら二人のプレートアーマーを着た兵士が飛び込んで来た。

 私はそのままプレートの上から刀で腕を斬り落とした。

 刀がもう限界かもしれないけどどうにか斬れたよ。刀に少しでも迷いがあれば切れなかったね。

 もう一人は剣を持つ方の肩当の下を突き刺した。

 グィ!

 しまった。


 ガキン!


 刺されたそのまま体を廻して刀を割られたけど兵士はそのまま倒れたよ。

 護衛かな?

 実際に命を盾にこんな事をする人がいるとは思わなかったけどなんか凄い。


 仕方ない無手で行くしかないね。


「容赦はせん!」


 ブワッ!


 ライナーさんが斬りかかって来た。

 剣の加護を頂いているといってもこれくらいなら見えるよ。


 正直この後は興奮し過ぎて良く覚えていない。

 刀が折れる前に十人程度を斬り、その後ライナーさんを含め数十人は倒したかと思う。

 弓矢もどんどん数が増えて来たけどよく見える。

 

 地面は意外に凶器になり、地面を使って頭部を強打すると下手な棒などで殴るより余程やっつけ易い。

 九条流の無手の技では頼りになる凶器だ。


 でも、ちょっと疲れたのかなんか少し眠くなってきたよ。

 まだ戦わなきゃ。

 

「ビアンカ! ヘルムートでも構わぬ。ソフィア様を止めよ!」

「ザルツ様。む、無理です。戦神のようで手が付けられません」

「次々とヒーシュナッセの兵が増えておる。このままではいかん。ヘルムートなんとか出来ぬか」

「これでは近づけません」

「第一騎士団の早馬とカイ達が来ました」

「不味いな」


 ミスリアがソフィアの元へ走る。

 ミスリアが目を見張った。殆どのソフィアの周りの敵兵が倒されている。


「姫様! 姫様っ!」


 ミスリアの顎にソフィアの肘が当たる。

 ガシッ!

 ミスリアは瞬きすらせずに必死に両足で踏ん張った。

 ミスリアはソフィアに殺されるかと思ったがソフィアにそのまま抱きつき大声で止めた。


「あっ、あれ? ミスリア、危ないですよ。ミスリアまで倒しそうでした」

「ヒーシュナッセの援軍が増え続けています。こちらも僅かに援軍は来ましたが、先程姫様がおっしゃっていたようにここは一旦引きましょう」

「そうですね。でも、ちょっと、眠くて、、、」

「わたくしが担いで行きます。ゆっくりとお休みください」


 ミスリアがソフィアを抱きかかえ車に走った。


◇◇◇◇◇


 朝早くに目が覚めてしまった。

 夢の中の戦闘が頭に残っていて少し頭がぼやけた感じがする。


 まだ朝5時なのに家の電話が鳴った。

 出なくてもいいかなと思ったけど私が起きていたので電話に出たよ。


『えっ!! たっくんが!』


 

 次回:落胆する夢美は食事も取れず眠れなくなる。ソフィアの睡眠は続く。

 ソフィア抜きで踏ん張るザルツ達。

 起死回生のヴァーミリオン部隊は間に合うのか?

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