外来種、ゴブリンとドワーフ
とてもファンタジーな生物と出会うソフィア。
本物か? 偽物か?
トールキンの伝承とは異なるとご本人が認識して書かれた創作物(指輪物語)に出て来る幻想生物ではなく、神話やサーガ、民間伝承、医学、自然学の書籍に多数残されている幻想生物はこんな感じです。
私達は後発の農業ギルドの肥料の届け物を待たなければならない。あと何日も掛かりそうだけど、この日はオレアンジェスの街を見せて貰うことになった。
オレアンジェスの文官のカトレアさんが案内してくれるという。
私達は領主館の北東にある墓地へ向かい亡くなったコーエンさんのお墓参りをしてから街へ行く。
ヴァリスもそうだったけどサクレールの街もかなり悲惨だったよ。殆どお店が閉まっている。食料品すらままならず、あっても僅かで高価な作物しかない。
その中で、一店舗だけ普通に営業している鞄屋さんがあった。
店をのぞいてみると綺麗な革の鞄で柔らかそうな革なのにしっかりした作りだ。
うん、家族のお土産はこれにしようw。
私は結構沢山の鞄を買ったよ。夫婦で営んでいるようで沢山買ったことをとても感謝されたよ。
いい物を作れば売れるからね。
「景気はどうですか?」
と当たり障りのない話をする。
お店の人と話すと革の仕入れが思うように行かず、もうあまり材料がないのだそうだ。
この領地では既に手に入らずに苦労しているらしい。
これだけのセンスや技術があるのに仕入れが出来ないのは凄く残念だね。
「お仕事が上手く行きますように」
と鞄屋さんを後にして他の店を見て廻った。
鞄屋さん以外はほぼ壊滅と言えるような状況だったよ。
カトレアさんによるとあの鞄屋さんは『小人さんが手伝っている』という噂があるそうだ。
笑いながら言ってたけどそんな話があるの?
こ、小人さんが手伝っている!?
マジっ!!
見、見たい!! 小人さん見たいよ!
こんなファンタジーな話は魔法以来久しぶりだよ!
側使え達に興味津々で尋ねる。
「なんとか見せて貰えないかな?」
「ソフィア様。あの鞄屋は革の仕入れに困っていたと伺いました。エミリーの街ブロンベルグの牛などの革を用立ててあげると取引すれば見せて貰えるのではありませんか?」
「ノーラ! それだよ。さっそくブロンベルグにお願いしてみよう」
大急ぎで尖塔師のウイルソンさんに伝えて貰う。即答でOKを貰ったよ。
私は大喜びで先程の鞄屋さんへ急いだ。
護衛達もマルテもノーラも慌てて私の後を追いかけた。
鞄屋さんにルントシュテットの領主の娘である事を話すと、どこかの貴族である事は判ったけどルントシュテットだとは思わなかったようだ。
口外しない事を約束し小人の話は本当なのかを確認すると本当の事だそうだ。
凄い。この夫婦が嘘をついてるとは思えないからこれは間違えないね。
「最初は材料を用意して完成品が1つしか出来ていない際にそのまま疲れて寝てしまったのですが朝には同じ鞄が綺麗な縫い目で幾つも仕上がっていたのです。わたしではとても一日で1つ作るのも難しいものが幾つもです」
「知らない内に出来ていたという感じなのですね」
「はい、同じように見本を置き材料を用意すると毎晩完成度の高い鞄が出来ていたのです」
「凄い技術なのですね」
「はい。一晩なのに何日も使って仕上げたような感じでした。不思議に思ってかみさんと夜確認したら裸の小人達が仕事場に現れて次々に鞄が出来ていたのです」
「そんなのってよくある事なのですか?」
「伝説で聞いた事はありますが、その伝説を調べると、人に見られたり服を与えたりするといなくなってしまう事と、もう手伝いが必要ないと判断するといなくなってしまうのだそうです」
「成程、それは難しそうですね」
「いなくなってしまってもわたし共は一方的に助けられただけですので構いはしませんが、この助かる状況は出来るだけ続けたいと思っております。かみさんは裸の小人を見て服を作ってあげたいと言ってましたがわたしが必死に止めたのです」
「その小人さん達をわたくしにも見せて頂く事は出来ませんか?」
「・・・真夜中でございますのでソフィア様に見て頂くようなものでは、、、」
「大丈夫だと思います」
「むさくるしい裸の小人達ですよ」
むさくるしい、、、w。
一瞬、裸の小人達を妄想してみる、、、うわー確かにw。
「だ、大丈夫だと思います」
「それだけでなく、問題もございまして最近は以前よりも出来る鞄の数が減っているのです」
「それは何か原因があるのでしょうか?」
「まだ判りませんが小人達にも色々とあるのだと思います」
これは益々面白い話だね。小人達に何があるんだろう。(興味津々w)
私はかなりの数の革を用立てる事を約束する。
その条件で見せて欲しいと言うと、
「ソフィア様。小人達を見るのは結構難しいのでございます。先程ご説明したように小人達はわたし達夫婦が寝静まった真夜中に仕事場に現れます。彼らは色々な事を話していますが、彼らと会話する事が出来ないばかりか、人に見られたことがバレると彼らはいなくなってしまうのです」
「では、どうやってあなた方は小人を確認したのですか?」
「はい、かみさんと確認しようと夜中に仕事場のしきりとしている布の影から覗いたのです」
「ではそこからわたくしも一緒に覗かせて貰えませんか?」
「はい。革を用立てて頂けるのでしたら見つからないように注意して頂ければ構いませんよ」
「では、是非お願いします」
私は夜にまた来る事を約束して夕食に領主館へ向かった。
今日もアデルさん達に美味しいルントシュテット料理を振舞った。
今日も文官の人達や武官の人達とも大勢で食べる。出来るだけ仲良くなった方がいいと思う。
文官のカトレアさんは、
「ルントシュテットの女神様と名高いソフィア様のお料理には何か癒しの効果があるのではないかと思う程これを食べると頭が冴えます」
文官長のハリエットさんがそれに同意し、武官のコアトさんは
「全く皆の言う通りです。わたくしも力が漲ってきます」
あははは、決してそんな力はないし、単に栄養がきちんと取れてるからですよ。
動物性タンパク質が減るような偏った食事では力も出ないだろうし思考もおかしくなっても不思議じゃないからね。この国にも栄養学が広まればいいなぁ。
アデルさんは今日もバクバク食べていた。まるでウルリヒお兄さまの食欲を見ているようだったw。
食後、尖塔師のウイルソン・フォン・クルーゲさんにブロンベルグに革をお願いするついでに食材も届けてもらうようにお願いする。
夜になりあまり騒ぎにならないように、マルテとミスリアだけを連れて鞄屋さんへ行こうと思う。
でもザルツ達が護衛が一人ではダメだと言うので目立たないように遠くからでお願いした。
マルテに用意して貰った美味しいお茶とお菓子で鞄屋さんの夫婦とお話して過ごした。領民の生活はかなり厳しく、干し肉などは驚く程高騰しているばかりか品物も殆ど手に入らず少しのパンと僅かに取れる野菜で食べ繋いでいるそうだ。
でも以前この領地で取れた魚はとても美味しかったそうで、鞄屋のご主人も奥さんも以前食べていた魚介類が懐かしいと思い出しているようだった。やっぱりクジラをどうにかしないとこれはダメそうだね。
美味しい魚を私も食べてみたかったよ。
夜遅くなり『そろそろだ』と鞄屋さんのご主人が言う。
布の仕切りのこちらで耳をそばだてると本当に鞄屋の仕事場で何やらごそごそと音がしだしたよ。
誰もいないはずなのに、、、。
とても小さな灯りが灯されたようだ。
仕事場をそーっと覗いてみる。
こ、小人だよ。本当に小人がせかせかと信じられない速さで動いてる。
わぁ、凄いよ。
あっという間に見事な鞄が一つ出来上がったよ。
暗い灯りの中だけど、こんなにはっきりとファンタジーな小人達を見られるとは思わなかったよ。
本当に裸で、もじゃもじゃと胸毛の生えている小人もいるw。
確かに夜寒くなってるからこれだと服を着て欲しいと思っても仕方ないね。
小人達の作業は早さだけでなく正確さも凄いようだ。鞄の縫い目はまるでミシンを利用したように揃い瞬く間に鞄を仕上げていく。これは相当な技術だね。
見ていても信じられない。本当に彼らと私達の時間経過は同じなのだろうか?
しばらく見ていると、明らかに別の見た目の小人が出て来た。
彼らは肌の色が違うし顔も意地悪そうだけど、実際に鞄を作る小人さん達の邪魔をしているようだ。
鞄を作っていた小人達は一生懸命邪魔をする小人達に対処して暫くすると邪魔をしていた小人達が退散していった。革のいくつかが意地悪な小人達に汚されたけど、それを綺麗にするように洗浄を始め邪魔をされたことから復帰しているようだった。
小さな声で何か話しているようだ。
『ゴブリン達は嫌われ者』
『あいつらが来ると仕事が進まない』
『・・・』
他は声が小さすぎて聞こえなかった。
邪魔をしていた方の小人の事を彼らは『ゴブリン』と呼んでいるようだった。
私達は食堂へ戻り小さなランプの灯りで夫婦とお話し出した。
「最近出来る鞄の数が減っていたのはあの意地悪な小人達のせいだったのですね」
「鞄を作る小人達は彼らの事を『ゴブリン』と呼んでたみたいです」
「伝説には聞いた事がありますが、あの意地悪な方が『ゴブリン』だったのですね」
なんか私の日本のアニメ知識のとは全然違うけど、事実はこうだったよ。
でも面白い物を見せて貰ったよ。夜もふけて寝ないと明日が大変だから鞄屋の主人と奥さんにお礼を言って領主館へ戻って直ぐに寝た。
◇◇◇◇◇
あー、やばっ、寝坊したよ!!
このままこの学校なら内申書とかは関係なくストレートで高校に行けるけど入学以来初めて遅刻したよ。と思ったら何故か一時限目は先生がお休みで自習だったよ。
私の遅刻はなかった事になったw。
こんなラッキーな事もあるんだね。
お昼休みに美麗からスマホに連絡があり、今日の放課後にこの前の古代ヨーロッパに詳しいという幻想研究家の話を聞きに行くので付き合って欲しいと言う。私に他の人達も誘えという事だ。美麗の秘書の人になった気分だねw。
花音ちゃんも梨乃ちゃんも他の部員にも全員確認したけど、神功先輩と部長の葛城さんが一緒に行きたいというので美麗にそう連絡した。花音ちゃん達も興味はあるそうだけど、結果だけ後で教えて欲しいらしい。
研究者の方を訪ねるのは確かにちょっとハードルが高いので抵抗があるかもだね。私はもうそういうの大人達と色々話しているから慣れちゃったけどねw。
美麗は自分の車に神功先輩を乗せる事を嫌がっていたけど、部活なんだから気にしても仕方ないよと美麗を説得した。もう本当にこの人達はしょうがない事を言ってるよ。
確か私の知っている文字が何なのか判ったと言ってたから個人的に物凄く興味がある。
でもその人が研究しているという古代ヨーロッパにもいつの時代を探してもグレースフェールなんていう国はないけどね。
放課後、美麗の車に乗せて貰い幻想研究家の家に行った。
私はかなりファンタジーなあっちでも『魔女』や『魔法使い』というのに出会った事はない。
いるのかもしれないけど、基本的に魔女や人狼などは放火をした人と同じ死刑の火炙り、つまり火刑だからね。仮にいたとしても実際に私が見る事はないだろうね。
でも、この幻想研究家の雰囲気のある洋館はどう見ても私のイメージの『魔女』の家にしか見えなかったよ。雑草も含めて木も生い茂っているし土地もあるし間違えなくお金持ちだと思う。
幻想研究家は成瀬 京子博士で、古代ヨーロッパの研究を中心にラテン語などの様々な古い書籍を中心に研究を深めているそうだ。
私が知っている言葉は『ルーン文字と古代ラテン語の切り替え期の文字』なのだそうだ。
掘り出された全ての物が国宝級以上のお宝だと言い、これまでの世界の歴史がひっくり返るようなものばかりだという。
そう言われたからなのか、発掘したガラクタがこの前よりも凄いものに見えて来たよ。
こんなガラクラが国宝級以上のお宝!?
葛城部長も神功先輩も泣きそうな程感激している。
何故か美麗はニンマリとしていた。なんか変な事を企んでないよねw。
「成瀬博士、実は私はこの文字が少しですけど読めるのですよ」
「まあ、貴方もルーン文字や古ラテン語のお勉強を?」
「ま、まあそんな所です」
「わたしが必ずここに書かれている全ての文字を解読します。でもこの黒い剣は幾度も試し聖別も行ったのですが抜けないのですよ」
「ちょっと貸してみて」
神功先輩が黒い剣を手に一生懸命抜こうとしたけど抜けなかった。
葛城先輩も同様だ。
聖別というのを行えば抜けない剣が抜けたりする剣もあるのかな。この前の聖水の話だよね。
私も貸して貰い抜いてみると何故かスルリと簡単に抜けたよ。
スラッ。
真っ赤な刀身の剣だった。なんかこの色はピシュナイゼルのクルツバッハ伯爵の家で見た事がある槍の色と似ているね。
「勇者」
神功先輩が変な事を口走っている。
「あ、あり得ないわよ。なんでこんなに新しそうなの。今再確認した結果をまとめて貰っているけどトンデモない古いものなのよ」
美麗の言う事も判る。年代がトンデモなく古いと言ってたからね。
「うーん、何ででしょうね。でも、この短剣のこの鞘の所に『品質保持』と書かれているよ」
「九条さん! こ、これがそんなに簡単に読めるの? これから詳しく解読しようと思ったのに。 ね、わたしと一緒に研究しない? なんで剣が抜けたの? これルーンで書かれている魔法の呪文よね。ルーンには全部の文字に魔法の力が宿るのよ!」
あっ、この博士ちょっと止まらない私も良く知ってる研究者側のダメな人かも。
良く見れば所々古くなっちゃってる所もあるけど全体的に見れば新しく見える。
これも白魔法か何かかな? 貴族学院で魔法文字って言ってたのルーン文字の事だったよ。
「いえ、あの私はまだ中学生なのでそれは無理です。結果が判れば後で教えてください」
「判ったわ。必ず全部を解読して連絡するわね」
「お願いします。でも成瀬博士は他にどんな研究をされているのですか?」
「古代ヨーロッパから更に古いものまで錬金術師や名士達が残した自然学や医学などの様々な書籍を多方面から研究しているわよ。それらに出て来る当時の妖精や幻想的生物なんかもアニメやラノベなんかと比べ物にならない程詳しいし出典も全部確かなものだから真実は面白いわよ」
幻想生物!? じゃあ小人も知ってるかな?
「では、鞄屋さんを手伝う小人とかご存知ないですか?」
「ああ、それはおそらくドワーフね」
「ドワーフ? なんかマンガとかで見たことがありますけど、小さめだけど人間のように大きいのではないですか?」
「いえ、ドワーフは間違えなく小人よ。グリム童話で言えばあの白雪姫と一緒にいた小人がドワーフで、原作は『白雪姫と7人のドワーフ』というのよ。それにグリム童話で言えば小人の靴屋も恐らくドワーフかしらね」
あの7人の小人ってドワーフだったの? なんかマンガとかのは全然違うじゃん。
自然学や医学の本が間違っているとは思えないけど、、、。
「地球の古い本に残る本物のドワーフの記述についてもっと正確に教えて貰えませんか?」
「いいわよ」
博士の話はとても詳しく、古い出典まで教えてくれた。それだけでなく何で私達が誤った姿をドワーフだと思っているのかも教えてくれたよ。
「ドワーフはヨーロッパ全域に存在する伝説の種族で人間よりも小柄で地下に住み優れた工芸の技を持つ小人達の事で、他の小人達と混同されることもよくあります。
最も古い記述は北欧神話のドヴェルグで原初の巨人ユミルの死体が土となりそこから生まれたとありますが、詳細に読むと、正確にはそこに湧いたウジからドヴェルグが生まれたと『古エッダ』の『巫女の予言』に書かれています。
彼らは地下に住んでいるとされているので『スヴァルタールブ』とか『デックアールブ』とも呼ばれます。スヴァルトとは地下世界の事でアールブはエルフの事なのですが、姿はエルフとは似ていません。
スヴァルタールブはスヴァルトにいるアールブつまり地下のエルフ、デックアールブは闇のエルフという意味になります。黒エルフと呼ばれる事もあります。
北欧神話ではドワーフもアールブなのです。神々と敵対している訳ではありませんが、正しく対価を支払えば神々の武装や宝を作り出す事の出来る匠で数多くの神具を作っている事でも知られています。
絶対に的を外さず手元に戻ってくる槍グンニグルや何でも砕く事が出来るトールハンマーもそうですね。他にも沢山のものがあります。
神々の使った魔法具の殆どはこのドワーフが作っていると言っても間違えではないでしょう。
実はエッダの頃には大きさに関する記述はないのですが、様々な古ノルド語で書かれたサーガが生まれた13世紀頃の話には小人として書かれています。
今ではお酒飲みであるとかコミカルな面が強調されて残っていますが、白雪姫の話などでは小人ですが太っているとかそういった表現はありません。
今の小説やアニメでドワーフがただの小柄で太った種族とされたのは、恐らくトールキンの指輪物語でそう描かれたからですが、トールキン自身は中に書いたドワーフは本物のドワーフとは別のものと考えていたようで複数形の呼び方も本物とはわざとスペルを変えていたというのが本当の所のようです。
仮に本物のドワーフがいたらトールキンの描いたような姿ではないでしょうね」
(※古エッダは北欧歌謡詩、サーガは古ノルド語で書かれた散文文学で英雄文学などいくつかに分類されます)
成程、ここまでの成瀬先生の説明だとあの鞄屋さんの小人達は間違えなくドワーフだね。
マンガのやつはトールキンの創作物に従っているだけなんだね。それ間違えてると言うか単なるトールキンの個人の妄想の姿じゃんか。本当の言い伝えとトールキンの作った今のマンガなんかの姿は全然違うんだね。
「成瀬博士、他の小人達と混同されるとはどういう事ですか?」
「小人達の伝説は世界中にあるけど、色々と共通点もあって混同される事があるのよ。
例えば、白雪姫のドワーフ達は鉱山で働いていたのですけど、鉱山でノミの音だけが聞こえるノッカーという小人と混同される事もあります。
他との共通点は、
人に見られると二度と来なくなる。
服を与えると来なくなる。
小人がいる家には幸福が訪れる。
などで、家のお手伝いをする小人、と言ってもこっちは小さな子供位の大きさだと言われますけどブラウニーなども人が気が付かないようにしてご褒美をあげないといけないし、服を与えるといなくなります。
そういう意味で言えば日本の座敷童なども同じかもしれませんね」
「そうなんですね。ではゴブリンというのは何か記録がありますか?」
「ええ、沢山ありますよ。
ゴブリンはイタズラをする小人ね。でもイギリスやフランスの古い言い伝えには沢山あるけどあまり正確に記述された物語は少ないわね。アングロノルマン語のゴベリンが元という説もあって、ラテン語ではゴベリヌスというわね。
洞窟や地下に住むと言われている妖精の一種で顔は醜く邪悪な性格をしているわ。大人でも身長は30cm位で、姿勢が悪く実際は20cm位かしらね。
人を困らせる事ばかりすることから、他の妖精達はゴブリンと間違えられるのをとても嫌うわね」
「どんなイタズラをするのですか?」
「大した事じゃないのよ。牛乳を腐らせたり、果実の実が熟す前に落としたりするくらいだわね」
「間違われるって、小人達は人とは話さないのではなかったでしたっけ?」
「人と全く話さない訳ではなくて、白雪姫なんかではドワーフと意思疎通が出来ているわ。酷い話なんかでは、基本的にはだらしない家に住み着くのですけど、人と会話する際に『私は良いドワーフです』とか嘘を言う事もあるようですね」
成程、評判のいい小人を騙って悪さする訳だね。酷いな。
「それはあんまりですけど、やっぱりドワーフと同じように大きさ的に誤解されていますけど、、、」
「それもトールキンの話や、日本のラフカディオ・ハーンは日本の小鬼の事をゴブリンと言ってるのでそういう影響ですね。過去のヨーロッパの記録に大きなゴブリンの話は一切ありませんよ。全部作り話の偽物ですね」
「そうなんですね」
「トールキンに出て来るのは正確には善良なゴブリンという意味のホブゴブリンで、これはブラウニーなどと同じように少しの報酬で家事を手伝ってくれる妖精で、小学生くらいの大きさね。本来ホブゴブリンの下半身は鹿のような姿をしていると言う記述もあります」
いいゴブリンは本物のゴブリンとは別の生き物なんだね。
だとすると普通のゴブリンは困った小人なんだね。
「つまり人を困らせるイタズラをするのがゴブリンな訳ですね。ゴブリン達はどうやってだらしない家だと判断するんですか?」
「色々とあるわよ。例えば、瓶の牛乳を配達して貰っているとすると、飲み終われば家のドアの脇に出しておくけど、その瓶に木っ端を入れておくのよ」
「木っ端を?」
「ええ、そしてそれが片付けられていない家はだらしない家だと判断され、だらしなく鍵を閉め忘れた窓などから家に入り住み着くわね。すると先程お話したように牛乳を腐らせたり、人を困らせたりするイタズラをするのよ」
「それは困りますね。目撃されたりする事もあるのですよね」
「目線の低い子供は椅子の下などで良く目にするから『子供にしか見えない』などと伝わる話もあるわよ。家を綺麗にして清潔に保てばいなくなると言われているわね」
「夢美、面白そうな話だというのは判ったけど、いつまで幻想生物の話をしているのよ! 言語も判ったのならそっちから調べて成瀬博士には解読が終わったら連絡を貰えばいいわね。わたくしこの後会議が入っているのよ」
「ごめんごめん」
面白くてつい夢中になっちゃったよ。
って、美麗はなんかの重役なの?
古ラテン語とルーン文字なんだね。ドワーフとゴブリンも概要は判ったよ。もっと詳しくも聞いてみたいな。
お開きにして美麗はそのまま帰り、神功先輩が車を呼んで葛城部長と私は神功先輩に送って貰ったよ。
二人共かなり興奮していた。
縄文期より古いかもしれない文明の名残り、何故か判らないけど古ラテン語やルーン文字のものが発掘されているという古代の世界史を根底から覆しかねないトンデモない発見だと二人が言っている。
二人にも美麗の研究所にも口外しないという契約をしているけど、だ、大丈夫だよね。
家に帰ったけど、ご飯の後、さっき成瀬博士から聞いたドワーフやゴブリンについて簡単にまとめた。
幻想生物を目にしたなんて、きっと成瀬博士なら私の事を羨ましいんだろうなぁ。
◇◇◇◇◇
日本で聞いた地球の正確なドワーフやゴブリンのお話がこの世界と全く同じと限らない。ザルツなら古い話も知っているかと聞いてみると、
「奴らは役に立つ事もありますが、基本的に邪魔な外来種ですな」
と言う。人にとっての外来種と認識しているっていう事は完全に存在していると考えているんだね。
「邪魔というと?」
「洞窟などに住み着いており、イタズラをしますし大量発生して数が増えてしまうと踏みつぶしてしまうのですよ」
「えっ! 踏みつぶす?」
「はい。子供達が洞窟でゴブリンの大群に遭遇して泣いて帰って来ることもあります。沢山踏みつぶしてしまって気持ち悪いという事です。あまり泣く子には『ゴブリンに連れて行かれる』と脅して躾けることもあります」
ミスリアが何故か唇を噛むw。
ザルツに小さな頃そう言われてたのかな。
『悪い子はいねがー』(妄想w)
でも小人だから連れ去られるとしたら沢山で子供を運ぶのかな(妄想w)
「えっ、そんなに弱いのですか?」
「ゴブリンなどは成長しても靴位ですが、醜く姿勢も悪いため掌程もないのです。地面一面にカエルが一杯いてそこを通らなければならないとしたら姫様は大丈夫ですか?」
地面一杯のカエル!!
そ、それは無理だし、走ってぐちゃぐちゃと踏みつぶしたらもう気絶しそうだよ。
「な、成程、そんな感じなんですね」
小さな生物が大量にいるなんて絶対に遭遇したくないね。(フリじゃないからねw)
私はこの日、もう一度、鞄屋さんへ行き、邪魔をしているゴブリンは家を清潔にして出来るだけ綺麗にすればゴブリンはいなくなると説明した。
いや、地球の話が正しいかどうかは判らないけどこれまでから同じである可能性は高いよね。
奥さんがいるのに『だらしない家』とか失礼だったかもしれないけど、牛乳瓶の木っ端のお話をしたら、そう言えばと昔何度か木っ端が入っていたのを見た事があるそうだ。
おお、なんか本物の逸話だったよ。
私はこの夜もドワーフ達を見せて貰う事にした。
でもあんまり遅くなると夢美が寝坊して遅刻しちゃいそうだから今日は程々で引き上げるけどね。
夜間、ドワーフ達がまた来た。
でも鞄を作らないで道具や材料を見てから、
『もう大丈夫かな?』
『戦争が始まる』
『引っ越さないと』
と言っていた。結局この夜はドワーフ達は鞄を作らずに姿をそのまま消し、ゴブリン達も現れなかった。
「ソフィア様。これは、、、。戦争が始まるのでしょうか?」
「えーと、そんな話はわたしは全然聞いていません。でももしかしたらこれでドワーフ達はもう来ないかもしれませんね」
「そうかもしれませんが、わたしたちに利益しかもたらさなかったのですから後悔はございません」
「革はまだ届きませんがご用立てした方がよいですか?」
「はい。お願いします。また私が丁寧な仕事で鞄を作り続けるだけですよ」
「そうですね。ドワーフに頼らずとも素晴らしい鞄を作り続けて下さいませ♪」
「ありがとうございます」
◇◇◇◇◇
来週は私用でお休みです。
次回:様々な事を教会に邪魔されるソフィア達。
側近達と話し合い、ある一つの答えにたどり着く。
日本では任那に捕まり白魔法を任那と美麗に教える事になる夢美。
様々な問題はさらに大きく、、、。
お楽しみに♪




