『聖水』
そう言えば、来週週末ダメだったんでした。忘れてました。
しかも今日が土曜日w。
今回から改修した第八章を公開させて頂きます。
ブックマークをして頂いている方ですと途中を更新すれば更新された回とかが表示されるんですかね?
ヴァルターの名代としてアドリアーヌ王妃の意を受けてオレアンジェスに向かうソフィア。
果たして楽しい小旅行になるのか?
「ソフィア。オレアンジェスの使者の件頼んだぞ」
「はい。お父さま」
まあ冬休みだし、ちょっと位伸びても小旅行だと思えばそんなに嫌な話でもないか。でも私よりもウルリヒお兄さまの方が適していると思うのだけどお兄さまは貴族学院の騎士コースでの成績はとてもいいんだけど学業の方がちょっと心もとなくてこのお休みの間はずっとお勉強をしなければならないらしい。
そ、それと比べたら小旅行の方が格段にいいよねw。(←お勉強嫌い組w)
何か問題があればアドバイスねぇ。アドリアーヌ王妃からのお願いだというけど、いくら若い貴族でもルントシュテットの領主のお父さまが後ろ盾になれば普通は大丈夫だよね。
私はこの時はまだ完全に小旅行の気分でうきうきとしらながらオレアンジェスへ行く準備を進めた。
護衛はそれなりにいるけど大がかりなものでもなく、ルントシュテットの領主ヴァルター・フォン・ルントシュテットの名代としてオレアンジェスに行くので、支度をする側使えの方が今回は重要だ。
私はお父さまから持たされた書簡を手にオレアンジェスに向かう。
側使え見習いと護衛見習いは貴族学院があるから同行しないけど、エミリー達の成績が悪い訳ではないよw。
オレアンジェスは西へ向かいブロンベルグの先イエルフェスタを越えたさらに先にある。
私の好きな魚介類の産地なのだそうだけど、マクシミリアン叔父様の調査では近年は不漁で食にも困っているらしい。作物も取れないらしく、今回は農業ギルドに協力して貰いかなりの肥料も手土産に持って行く。
私達は蒸気自動車だけど、農業ギルドは何台もの運搬用馬車が後からオレアンジェスに届くという手筈だ。
ここまで色々な状況を学んできたのでおかしな問題があっても普通の話なら私でも対処出来るのかと思う。
でも子供なのであまり期待はしないで欲しい。
私達は護衛達と先発してブロンベルグで野営の前にウードのお店で夕食を食べたよ。
ここのお肉美味しいんだよ。ウードは私が来た事に大張り切りで美味しい料理をご馳走してくれた。
ふぃ~。
ご馳走様。
ノーラ達とキャンピングカーで先にマクシミリアン叔父様の調査結果を詳しく聞いて確認しておく。
資料を元に説明してくれるのはヘルムートだけど、ヘルムートは頭もいいし本当に頼りになるね。
先日、元領主のコーエン・フォン・サクレールが亡くなったそうで、嫡男ゲルフェルドは先日のイエルフェスタ事件で無期懲役で王城の地下牢にいる。
家督を相続したのは次男のアデルさんで私の1コ上のまだ貴族学院の子供だよ。この辺りはマルテが詳しかった。私の側使えなんだけど、私より他の学年の生徒の情報を詳しいとか、私なんか同学年の他の領地の学生なんて殆ど覚えてないけど私の側使えは優秀だよ。『領主の一族は特別です』というけどもうお任せするしかないw。
アデルさんは半年程前から貴族学院は休学中で領地に戻っているそうだ。
アデルさんの母親エリベートさんはとても美しく聡明な方だったそうだけど、数年前に病死している。
その後領主のコーエンは宗教にお金をつぎ込みオレアンジェスの財政がおかしな事になっているらしい。でもコーエンさんが亡くなったのならこれ以上おかしくはならないよね。
その財政がおかしくなった頃から、当時の嫡男ゲルフェルドはグレはじめ、自分が後を継ぐのなら財政をと悪事に手を染めたらしい。
気持ちは判るんだけど、その方法を間違えてしまっているね。
麻薬なんかに手を出さずにその頭脳を効率は悪いかもしれないけど、領地の為に頑張ったのなら私なら応援していたと思う。
でも、済んでしまった事はどうにも出来ないので、アデルさんに頑張って貰えればいいのかな。
でも、不漁や作物の不作はやっぱり何か原因があるんだろうね。
農業改革を公布しているのに出来ないのは予算の関係かな。
「ノーラはどう思いますか?」
「そうですね。オレアンジェスは悪い方向へと転がっているように思えます」
「オレアンジェスの現在の貴族学院のサロンへのお金がかなり滞っているようで貴族達は自腹で食べ物も調達しているようです」
「本当ですか? そこまでひっ迫していたのですね」
マルテはそんな金銭事情にも詳しかった。
貴族でも領主でも商人の金融業からお金を借りる事は出来る。
でも確か金利はかなり高額で返せる当てがなければ借金が膨らむだけだ。
「姫様、そう言えば写本などのお仕事がないかオレアンジェスの貴族の子に聞かれました」
「家は秘密保持も含めた契約で製本工に出しちゃってるからね」
「その方を誘ってわたしがお昼をご馳走したのですが、ルントシュテットのお昼が美味しいって羨ましがってました。そこで色々とお話を聞いています」
「あははは、レシピを買うのもお金がかかるからね」
「元領主のコーエン様はエリザベートの死後にまだお若いのに髪が真っ白になる程気落ちしていたそうです。その弱い心の状態から宗教へ救いを求め、更には嫡男ゲルフェルドの放逐でまいってしまったのかもしれません」
おー、このヘルムートの説明は判りやすいよ。
でもだとしたらオレアンジェスはお先真っ暗と悲観した線が強いかな。
それをまだ子供のアデルさんだけでっていうのは確かに難しいか。
私は色々と考え始めてしまい、話し合いはお開きにしてお休みする事にしたよ。
◇◇◇◇◇
伯父様との約束なので地下の遺跡や貰って来た発掘物は公表はしないよ。
美麗の所でAMS法による炭素14年代測定を行ってもらう事になった。また文字についても詳しい人に確認して貰うそうだ。
伯父様との約束があるから、測定して貰う方も文字を確認して頂ける方にも守秘義務の契約を作って貰い知り得た内容は公表しないと念を押して貰うようにした。
検査はそう時間が掛からないそうで、これはちょっと楽しみだね。
この間にも神功先輩をあちこで見かけたよ。なんか私、先輩につけられている気がするw。
◇◇◇◇◇
朝早めに出発し、イエルフェスタの領境を通過する。
今回は私は一応お父さまの名代なので簡単に通れたよ。
もう冬で山の方の道は下手をすると雪に阻まれてしまう事がある。イエルフェスタとオレアンジェスの領境は2か所あって北側の山道を使わず、南の方の平地の領境からオレアンジェスの街マデレインに入る。オレアンジェスでも険しい山を迂回する為に、マーレ(海)側の街マシリアに出て今日はそこで一泊する予定だよ。
結構道の状態が悪く、思っていた程のスピードが出せずに時間が掛かってしまった。
街道の整備が出来ていないと商品の流通も滞ってしまう。この街でも貴族が上手く仕事が出来ていない事がこの事一つでも良く判る。普通は税収が少ないとお金の代わりの賦役で週に何日か市民を多数駆り出して道の整備を行うことがあるけど、それもままならないのかもしれないね。
それでも午後には海の見える辺りまで来たよ。
漁村があるけど、、、ちょっとおかしい位に人気が見えない。
ザルツが先に見て来てくれるという。
幾ら不漁だと言っても魚が全く取れない訳ではないと思うので買えそうなら魚が欲しいとお願いした。
少し待つと戻って来たけど、この村の歩ける者は全員桶を持って海へ行っているそうだ。
歩けない老婆だけが留守番をしていたという。
「魚は、、、?」
と聞くとザルツは首を横に振った。
「桶を持って海に? って何をするのでしょうか?」
「さあ何でしょう?」
「海水を汲んでいる訳ではないかと思いますが、、、」
意味はわからないけど、私達は海を見に行った。
海の匂いには、海水だけでなく、海水が砂に染み込んで乾燥した時の匂いとか打ち上げられた海藻や死んだ魚介類の腐敗した臭いも混じっているのかと思う。
けど海岸へ近づくともの凄い腐敗臭が漂って来た。
人が集まっている場所がある。あそこだね。かなり離れているのに相当何かが腐敗しているのかこんな所まで臭いがしてるよ。
近づくと腐敗した巨大なクジラだった。こっちだとバラエーナと言う。
近くに集まっている手に桶を持っている人に話を聞くと、この『聖水』を汲みに来たらしい。
何かと思えば、『神の使い』の事をここでは『御先』(ミサキ)と呼ぶそうで、この地ではクジラがミサキなのだそうで、浜に打ち上げられたクジラが腐敗した後、そのクジラの脂を『聖水』として桶で汲んで持ち帰るのだそうだ。まあ鯨油だね。色々混じってるけど。
その『聖水』は万病に効くのだそうだ。
実際にはただの鯨油なんだから万病なんかには効かないと思うけど、これだけ信じていればプラシーボ効果は高そうだ。
神の使いという事は教会絡みだね。
魚はクジラの群れで取れないという。取れても売れるものではないのだそうで話を聞いたおじいさんは悔しそうだった。
この村の人はみんな痩せこけているのに信心はとても深そうな印象を受けたよ。
暗くなりかけた港の方を見ると船の数が少なく、壊れた船がいくつも浜に打ち上げられていた。
クォー。
沖からクジラの鳴き声が何匹も重なるように遠くまで残響が聞こえた。
私達はキャンピングカーに戻り、村の人達の事や『聖水』の事を側使えや護衛に聞いてみたけど、こんな話は聞いた事がなく『オレアンジェス特有の話ではないか?』と言ってたよ。
そう言えばオレアンジェスの紋章は『バラエーナ』だったよね。それでも他の領地では紋章の動物を『ミサキ』とは崇めている訳ではない。
でもここではクジラの脂の事を『聖水』として崇めているんだね。
でもあそこまで舟が壊れていたら漁業はこの村では不漁だよね。なんで不漁なのかはあそこまで痩せている人達には気が引けて私じゃ聞けなかったよ。
サクレールのアデルさんに聞けば判ると思うからだけど明日でいいね。
海風に当たって少し寒くなって来たので夕食は温かいシチューにして貰った。
身体も温まり熱いシャワーを浴びてこの日は暖かくして寝たよ。
◇◇◇◇◇
発掘物は黒い剣の他に小さな赤い剣、赤いペンなどがあったそうだ。
美麗からとても不思議な話を聞いた。
あの精巧な剣には間違えなく文字、それも私の知っている文字で、恐らく作者の名前や力をなどの文字が書かれていたから文字が使われてからのはずなのに、どうやら縄文時代よりも古いものらしいのだ。
美麗の研究機関の年代測定の精度は相当正確で数十年と誤差はないそうだけど、携わった人達が驚いてもう一度、しかも全ての出土品が再確認される事になった。
文字どころか道具すらままならない時代よりも古いとかちょっと想像は出来ないね。
まあそっちは結果が出るまで置いておいて、不思議な話の方は、美麗の知り合いの研究者の方が「後で洗浄するから『聖水』で清めさせて欲しい」とお願いされているそうだ。
『聖水!?』
いや、なんかそういうスピリチュアルなあっち系の人なのかな。
「美麗、その研究者の人『聖水』とかちょっとヤバい人達なんじゃないの? スピリチュアル系?」
「まあスピリチュアルと言えばそうに違いないわね。幻想研究家なのだけど、古代ヨーロッパに詳しい研究者だわ。その文字がなんなのか判ったそうよ。聖句や呪文があるから『聖水』での聖別が必要だと言ってるのよ。彼女の言う『聖水』って、わたしからしたら只の『塩水』だからあなたに確認したのよ。勿論塩水による被害がないようにメンテナンスはしてもらうわ」
『聖水』って只の塩水なの!? マジで!?
まあ、でもなんか日本でもお清め的な感じであるしそんなものかな。
古代ヨーロッパか。でも縄文時代よりも前なら古代ヨーロッパなんて新しい時代とか関係ないだろうし、そもそもそんな昔に文明があったという話は聞いたことがないよ。
仮に日本の古い文字だったとしたら神代文字だろうけど全然形式も違う。
でもあの文字が判ったのならその研究家さんの言う通りなのかと思うから任せた方がいいね。
『聖水』の効果は判らないけど、研究家がそういうのならそうして貰おう。
「『聖水』については判ったよ。お願いします。でもその研究者の話は後で聞いてみたいよ」
「直ぐに連れて行けるわよ。なんか面白い事になって来たわね」
「いや、公開しないからね」
「あら、お金になりそうなのに、、、」
おい。
はっと気が付くと、陰から神功先輩が覗いている気配がした。
話に加わればいいのに何をやってるんだろ。
◇◇◇◇◇
オレアンジェスの各街にはかなり大きな聖堂がある。どちらかと言えば宗教色の強い領地だね。
サクレールよりも栄えていると言っていたヴァリスの街も、作物を育てる畑はその殆どがあまり育っておらず、家畜の厩舎も肝心の家畜は見当たらなかった。街中のお店も殆ど営業しているとは思えない。
これは農業や畜産の復旧にはかなりの時間が掛かりそうだ。
人もかなり少なかったよ。
サクレールの街に入るとアデルさんのいる領主館に直ぐに着いた。
門番はいたけどここも人気は少なそうだった。
中に通して貰い領主の執務室まで案内して貰った。
途中、何かおかしいと思っていたらノーラが小声で、
『ソフィア様。絵画や芸術品が一切ありません。これは、、、』
私はコクリと頷いた。
ノーラの言いたい事は判ったよ。貴族の家に行ってこんなにさっぱりした屋敷は見た事がない。
金策の為に売ってしまったのかもしれないけど、もう売る物が殆どない感じだね。
領主の執務室へ入るとアデルさんがいた。
かなり痩せてる人だね。
マルテが小さく私に耳打ちする。貴族学院にいた時より格段に痩せているという。
流石に食べる物がない訳ではないと思うけど、色々と心労も多かったのかと思う。
「領主アデル・フォン・サクレール様。わたくしはルントシュテットの領主ヴァルター・フォン・ルントシュテットの娘ソフィアです」
「アデルでございますソフィア様。ソフィア様達がいらっしゃる事はアドリアーヌ王妃から伺っております。貴方のお命を狙った兄と血縁の弟です。どうかわたしを裁いて頂き、斬首刑にしてください」
!!
な、何を言ってんのこの人!?
アデルさんは両目を硬く閉じて私の返事を待っている。
ちょっと驚いたけどそんな事は出来ないよ。罪は罪でゲルフェルドが法に従ってそれを償っている。
ゲルフェルドが放逐されたからにはアデルさんにその責務はない。
客観的に見て、結構どうにもならない程の状況に嫌気がさしているのかもしれないけど、、、。
「アデル様。法に従って貴方の元お兄さまは罪を償っておいでです。お兄さまはこの家から放逐された訳ですし貴方に罪はございません。それよりもこの領地がどのような状態なのかわたくしにお話頂けませんか?」
「もう、どうにもならない事になってしまい私が命を掛けても復興など無理な状況です」
「どうにもならないかはお話をお伺いしてからですね。命がけで復興を考えておいでなら怖い物はございませんでしょう? それでは少し早いですが、連れて来た料理人に食事を作らせお腹を満たしてからお話合いを致しましょう」
「ソ、ソフィア様、、、。一方的なご命令かと思いましたが、親身になって頂きありがとうございます。それではお部屋に案内しますので、、、」
「先にわたくしに調理場を教えてくださいませ」
「わ、判りました」
私は先に調理室を案内して貰ってカリーナと共に向かった。
あれだけ沈んでいるならお腹を満たして幸せな気分になってからだよ。
まあ普通、貴族なら一方的に『何かをやれ』と言って終わりかもしれないけどそんなの何の助けにもならないからね。
この領地にくれば魚介類が手に入るかと思ったけど、今回は持って来た食材でたっぷりと美味しい料理を作って貰おう。
小一時間で料理が出来てアデルさんと側近達の分まで用意が出来たよ。
身体も温まりボリュームのある肉を色々と使った料理で、アデルさんは食が進まないのかと思ったけどバクバク行ってたよ。
まさか本当に領主が食料が足りない訳じゃないよね。
見てちょっと怖くなったよ。
食後に会議室を借りて現状を聞く事になった。
アデルさんだけでは細かな話も判らないかもしれないので、長年サクレール家に勤めている執事のザンクさんや文官長ハリエットさん、武官のコアトさんにも加わって貰った。他にも文官の人達が少し壁際に立っている。
現状はかなり悲惨なものだった。
ここの状況を領主アデルさん達から直接伺った。
5年程前にアデルさんの母親エリザベートさんが流行り病で亡くなったそうだ。
当時アデルさんは4歳でも面影は覚えているらしい。
その頃までは作物が不作の年はあったものの漁業が主体の領地なのでそれなりの税収があり領民も活き活きとしていたそうだ。
その際に、父親のコーエンさんはまだ若いのに髪が真っ白になる程憔悴しきっていたそうだ。
領地の仕事も手につかず、文官達もかなり困ったようで当時はもう領の政務に戻って貰えないのではないかと心配したそうだ。
なんか今の国王様と似ていると言えば似ているかもだね。でも中央にはアドリアーヌ王妃がいるから大丈夫だけどね。
父親のコーエンさんは毎晩エリザベートさんの肖像画の前に佇んで涙を流していたそうで、食事量も減って痩せこけてしまったらしい。これは完全に精神的なものだね。
この噂を聞きつけた教会の人間が毎日のように領主の元に来るようになり、暫くするとヒーシュナッセとの国境があるモンセンローラの街とメダイの街、それに海沿いのノートレードの街とセンスルビーチェの街に聖堂が建てられたそうだ。
これらは全部領主の資産で、既にこの時点で資産は枯渇したらしい。
その後も教会に対する献金も増え、お金が回らなくなる為、税率を上げたそうだ。
翌年、この領地全土で作物の不作が始まり、領政はどうにもならなくなったそうだ。この時に司教から、古くからある焼き畑農業を薦められ領主のコーエンさんはそれを領地全土で実施し、作物はそれなりに取れたらしい。この時点で農業従事者も多くが教会を崇め、この領地の紋章にもあるバラエーナを神の使徒と崇める『センテレリージョ教』という教えが広まって行ったそうだ。
この年の気候は良く海流も魚に適したもので魚も作物も沢山取れていた。
それまではクジラも取っていたが『センテレリージョ教』の教えによりバラエーナの漁は禁止された。
ここから歯車は悪い方に廻り出す。
通常、焼き畑農業を行った場合、土地を暫く休めて土地を回復させる。
しかし領地の全土でやってしまった為に農業を行わざるを得ない。その為どこも連作を行い、土地の栄養がなくなり作物は大不作となった。
まあ、これは当たり前の話だね。
そんなのは地球でも数千年前から判っている事だしこっちでも昔からある話だからね。
その影響でこの年の暮れには殆どの家畜が処分されたそうだ。
徐々に漁を禁止したバラエーナが増え、魚が取れなくなって来たそうだ。
クジラは海の食物連鎖の頂点と言っても過言ではない。
クジラの食べる量は半端ではなく、オキアミからカタクチイワシ、サンマ、スケトウダラ、イカなどを大量に食べ完全にこの地の漁業と競合する。これは漁業に深刻な影響を与えるレベルだ。
またクジラが増えればクジラの糞に含まれるアニサキスが増え、その糞を餌とした食物連鎖により取れる魚にアニサキスが大量に発生する事態に陥る。
全く食べる事が出来ない訳ではないが、アニサキスが多いと除去も大変で、売り物にするのは難しい。またクジラの大群で小さな舟は沈没する事態になっているそうだ。
そんなに増えてるの?
更にこの年から貝類が取れていた沿岸沿いに巨大な人食いザメが出没し貝類も取れなくなっている。
これはクジラの群れに追われサメが沿岸に来ているそうだ。
作物が取れず無理して農業を続けた土地では砂漠化も始まり、不毛の地が増えて行く。
土地がこうなると取れる作物も徐々に限られてくる。
それも何年も続くものではなく、既に限界が来ている状況のようだ。
いくら私が国王様の前で『農業改革』ですと力説しても肥料を買うお金が無ければ手の尽くしようがない。焼畑農業をやってしまって連作を続けるのならもうどうしようもない。
この領地を継ぐはずだったゲルフェルドは母親エリザベートさんの死後にグレ始め、裏社会の繋がりから麻薬に手を出し早期の金策を狙っていたようだ。
そう考えれば、ゲルフェルドの根は良い子だったのかもしれないけどその方法がダメだったね。グレたりしないで勉強していればね。この状況からは焦りたくなるのも判らないではないけど超えてはいけない一線はある。
この状態でもこの領地の人々は焼き畑農業で過去の成功があった『センテレリージョ教』の教えを守り、僅かな作物で食べ繋いでいるそうだけど、明らかに誰もが栄養不足に見える。
領民達には餓死者も出ているし、動物性タンパク質を取れない年若い人も突然死が相次ぐという状態だそうだ。若い人達まで突然死とかだともう限界なんだね。
それでも宗教を信じて教えを守っているのか、、、。
神は神罰は与えても救ってなどくれないのに、、、。
神の加護は貰えても人を救えるのは人だよ。
私はアデルさん達に、アデルさんが成人するまでルントシュテットの私のお父さまが後見人になるという書簡を渡し、私達の後に続いて大量の肥料が届く事を話し励ました。
このお話に少し笑顔にはなったけど、元々魚介類の産地であったこのオレアンジェスでは農業だけでなくメインの漁業も壊滅状態だからね。
稀に浜に打ち上げられるクジラを放置して、自然腐敗させれば『センテレリージョ教』の言う『聖水』が手に入るだけという状況なのだそうだ。これは昨晩見た異様な光景の事だね。
そんなの宗教だけで人が生きていける訳がないよ。
私個人の考えではその『センテレリージョ教』の言う神の『ミサキ』であるクジラを狩り、人にとって正常な漁業となるようにクジラとの共存が出来なければ無理なのではないかと思う。
でも、、、。
その宗教の事は取り敢えず置いておくとして、陸の食物連鎖の頂点である私達人間が、海の食物連鎖の頂点であるクジラを狩っても本当に良いのだろうか?
こっちの神様達はどう思っているのだろう?
地球でもクジラ漁に関しては凄く反対されているからそれらの理由も確認する必要があるかな。
かなり酷い状況だったのでみんな口も重かったけど、お茶菓子とお茶を私達が振舞い、この日から領主館に滞在する事になったよ。
なんか私達が歓待しているみたいだ。
◇◇◇◇◇
話を追加した事にもなりませんでしたよ。
この方法なら更新した事を隠したまま全話行けそうですねw。
次回:とてもファンタジーな生物と出会うソフィア。
本物か? 偽物か?
トールキンの伝承と異なるとご本人が認識して書かれた創作物(指輪物語)ではなく、神話やサーガ、民間伝承、医学、自然学の書籍に多数残されている幻想生物はこんな感じです。
お楽しみに♪




