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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第七章 悪夢の暗殺者
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閑話 沢さんの料理と数学と江戸前

【プロの技も慣れ一つ】

 ここまで、私は夢の中で様々な料理を作り、結構流行ったものも多い。


 日本の母が得意な料理は完全に塩分過多と言うより日本の普通の料理が塩分過多なので、仮に同じものを毎日食べてると余り健康には良くない。私は沢さんから色々と教えて貰ったプロの技なんだけど、一番難しいのは、味、栄養価、食中毒を起こさないという至極基本的な事だね。

 それもこれも全部プロ中のプロ沢さんのお陰だね。


 私は『いつも美味しいプロの味を教えてくれてありがとうございます』と沢さんに花束を贈ったよ。

 沢さんはかなり喜んでたから良かった。


 今の所、カロリー過多や塩分過多ということにもなっていないのは塩という必需品にも税金がかかっているからだよ。一般的にはそんなに使わない。

 シルバタリアで塩を沢山作って原価を下げたからようやく税金が掛かっても普通に使えるようになって来たんだよ。でも一旦身に付いた味覚はそうは簡単には変わらない。


 使えると言っても私が流行らせるからには味だけでなく、食べても身体に悪くないように塩分は控えるよ。

 一応基準を一日塩分6gまでと考えると1食2gまでだね。これがかなり難しいんだよ。


 日本人の私だけだったらこれはまったく無理だったろうけど、沢さんの力とこっちでの慣れのお陰でなんとかぎりぎり対処出来ている。

 特に、なんちゃって醤油となんちゃって味噌は、私が後で塩を加えて味を整える為、最近日本でも売っているような減塩系の調味料に匹敵する力を発揮してくれる。でも味は美味しいよ。

 ケチャップやソースも匙加減一つで、最近トマトの品種がケチャップに適したものが出来たので、ピューレの状態でもトマト味が引き立っているから塩分なしでも美味しい。


 恐らく、このまま私が大人になれば、私が作る料理は出汁は効いてても日本人には塩味が物足りないと思われちゃう料理ばかり作ってしまうだろうから、将来の旦那様は日本人以外の塩分の少ない系の薄味で出汁の違いの解る外国人と結婚するしかないねw。


【愛情の形】

 でも不思議な事に沢さんの作るうどんは、私の作るうどんよりもしっかりとした味でおツユも美味しい塩梅なんだよね。

 同じように塩分量に注意しているはずなのに、、、。


 この不思議な現象を沢さんに確認すると、


『この器のせいじゃないですか?』


 と言う。


 器?


 あ!! 判った。本当に器だよ。


 私が使ってるのは丼で、丸い感じだからあえて言えば半球のようなものだけど、沢さんの出してくれるうどんの器はまるで円錐を逆さにした形状だ。

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

   Bowl      うどんの器


 半球の体積は2/3πr^3

 つまり、半径x半径x半径x円周率x2÷3

 

 円錐だとすると、

 半径×半径×高さ÷3


 双方が同じ高さ10cmだとして半径を10cmとすると、

 半球:10x10x10x3.1415926x2÷3=2094.295cm^3

 円錐:10x10x10÷3=333.333cm^3


 こんなに違うんだ。見た目に騙されてた。計算しなければここまで小さいとか判らなかったよ。簡単になんとなく小さいかなって感覚で考えてた。料理にこの程度の数学は必須だったのか。

 満タンまで汁を入れるわけじゃないけど、同じだけうどんを入れて汁で満たすためには半球は恐らく約6倍(6.2831852倍w)もの汁が必要になるよ。(勿論うどんの体積を引かないとダメだけど概算だよ)

 これでは塩分過多になっちゃうから薄くしないと、、、と私がやってたんだね。


 成程、だから和食の汁ものは円錐の器なんだね。円錐小っさ!

 お蕎麦屋さんやうどん屋さんの器があの形なのは汁の量が全然少なくても汁が満たされるからなんだ。


 はぇー、昔の人は良く判って作ってるんだね。


 簡単な数学のお陰で私が作るうどんも更に美味しくなりそうだよ。

 あれは塩分の多い和食の『愛情の形』だね。

 あっちには無い形だから、速攻で器を作って貰おう。


 大人になって仮にこういう公式を忘れちゃうときっと見た目に誤魔化されたり、先入観で物事を考えたりしちゃいそうだから出来るだけ覚えておいてこれからも色々なものを計算しよ。



【出来ますよ】

 毎日楽しく勉強していて新しい事を知れて面白いのはきっと私がまだ子供で知識が少ないからだよね。根本的な部分では相変わらず勉強が好きっていう訳じゃないのだろうけど、色々な事を知ってどんどん面白くなる感じだ。

 教えて貰っている先生達のおかげだよね。ありがとうございます。


 私の乏しい知識で『そんなの無理』って思っている事が『出来ますよ』と言われた時の驚きと楽しさって言ったらないよ。


 中でも沢さんのそういう話は本当に驚かされる。

 知識だけじゃなくて、そのプロの腕前もそうだしどうにかしちゃう精神も凄いと思う。


 今回は、私が『冷凍されていない生の魚なんて、寄生虫が怖くてお寿司なんか作れない』って言ってたのを沢さんに聞かれて『お寿司出来ますよ』と言われた時の話だよ。

 たまに日本でも被害のあるアニサキスは鯨の糞に含まれるので鯨が増えると魚のアニサキスが増えると言う感じだね。見たことないけど注意していれば取り除けるらしいけど怖いよね。


◇◇◇◇◇


 沢さんは私の家で教えてくれるのではなく、一緒にお寿司屋さんへ行ったよ。


 沢さんとお寿司の事について話ながら歩く。

 沢さんの言う昔のファーストフードとしてのお寿司は以前美麗に聞いた早寿司の事だと思う。鮨、鮓、寿司と地方によって色々な漢字があるけど縁起のいい寿に司どるの文字は朝廷に献上する際の当て字で葬式の際の食事に巻物やいなり寿司の助六寿司が良く出されるのは、死後の喪が開ける49日迄肉や魚を食べないと言う宗教的な事でそうする地域が多いと言う事だそうだ。


 着いた。なんか明るいお店!


「らっしゃい!」

 愛想の良さそうな大将だね。職人さんも1人いる。


 時間的にお昼には遅く、お客さんも他には見当たらないね。

 っていうか入口にあった営業時間案内では夜の営業までの間の準備中時間の気が、、、。


「珍しいね」

「この娘はわたしが料理を教えてるんだけど、江戸前寿司を教えてくれない?」

「教えてる? ああ九条さんか。江戸前かい? あいよ」

「えっ、沢さん、いいんですか?」

「いいのよ。あれうちの旦那だから」


 えー! 沢さん家お寿司屋さんだったんだ。

 こんなのこのお店を沢さんが手伝えばいいのに。


「なんで私の家の手伝いなんか来てるんですか?」

「旦那と毎日顔を合わせてもしょうがないでしょ」


 そ、そんなものなのか。大人じゃなきゃ判らないのかもだけど夫婦って複雑なんだね。


 どうやらお店は夜まで一旦締めて夕方から再開するのだそうだ。


「沢さん。なんで江戸前寿司なんですか?」


「前に夢美ちゃん魚の寄生虫とか怖いって言ってましたよね。それだけでなくて生魚は足が早いものも多いのよね」


 足が早いって確か早く悪くなっちゃうって事だよね。まあ生魚だし、、、。


「お寿司って鮒寿司からはじまってるのだけどその後のファーストフードとしての江戸前寿司は食品を冷凍など出来ない時代に火を通したり酢や()けで調理して江戸時代でも食べても大丈夫にしているんですよ。エビも生エビじゃなくて茹でてあるものや茹でダコ、漬けのマグロなんかも食べた事があるでしょ?」


「そうなんですね。ぜひ教えて貰いたいです」

「あいよ。任せときな」


 あっという間にお寿司を一人前作ってごちそうしてくれた。

 沢さんが作ってくれるお寿司とそっくり似ていたよ。

 うーん! 玉子もめっちゃ美味しい。うん、これ沢さんの卵焼きの味だよ。

 そうだね。手をかけた江戸前のお寿司なら向こうでももう食べられそうだね。


 なんか俄然やる気が出て来たよw。


 私はお寿司の基本として幾つもの作業を教わった。

 基本的な料理はずっと沢さんに習って少しは出来るようになって来たと思うけど江戸前寿司はかなり難しいね。


 魚の身を潰さないように綺麗にさばく事から、漬け、締め、煮付け、シャリ切り、卵焼きと教わった。

 まるで大将(沢さんの旦那さん)の弟子になったつもりで教わったよw。


 例えばコブジメなんかは乾燥昆布にお酢で殺菌する意味がある。身を綺麗に残して昆布を布団のようにかける。

 漬けは、柵のまま塩で締めて熱湯に入れ、すぐに冷水で洗い、水気を切って漬け醤油で半日漬けておく。

 沢さんと同じ美味しい卵焼きは、伊達巻と中間みたいなので、エビ、大和芋、すり身を入れた後に卵を沢山入れてパンケーキのようになるまで混ぜる。

 玉子用のフライパンに乗せ気泡が出てくるのを待って、裏の焼き色を見てひっくり返すよ。

 両面を綺麗に焼いて出来上がり。


 一番難しかったのが、シャリ切りだ。


 まずご飯を炊く。炊きたてを飯台にあけて潰さないように切るように酢を混ぜる。

 ダマを残さずに切る。この切り方が難しいんだよ。ネバネバにならないように本当に切る感じだ。

 目一杯急速に冷まして綺麗にお酢を混ぜる。

 私はこのシャモジが刀だと思って切ってたよw。


 穴子を蒸してからタレで焼く。

 タレの加減もめっちゃ美味しい。


 握る際に水は手に浸けすぎない。

 シャリは表面から少し取って丸める。

 転がしながら少ない手数 大体4回でまとめる。

 形は舟のような扇型で押さないで握るよ。締めるようにして力で握らない。

 ネタが暖まらないように食べるギリギリで乗せる。


 難しかったけどなんかコツがつかめた気がする。


「随分と手際も仕事もいいね。うちで働くかい?」

「何言ってるのよ」

「あははは、わたし中学生なんでもっと修行してから考えます」


 コブジメや漬け、茹でとか色々と殺菌の効果なんかをここまで考えられて作っていたんだね。

 シャリ切りでもお米を潰さないように出来るようになったしシャリのすくい方もネタ毎にかなり違うのが判ったよ。お寿司の技術って凄いね。ネタを温めないように食べるギリギリで握るとかこれ凄い勉強になった。


 ここまでネタに気を使っていたんだね。


 本当はここまでで終わりなんだけどおまけの最後に笹切りと言って、笹が殺菌効果や防腐効果があることから包丁で芸術的に切ってお寿司に添えるというので練習させてもらってエビみたいなのを作ったよ。


 今は名残りで残っているあのプラスチックのバランの事だね。

 あははは、これは難しいや。

 夜の準備で忙しいのに教えてくれて沢寿司の大将に本当に感謝します。


 よし、今晩は私がお家のお寿司作っちゃおうかなw。


 

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