日本はダメ、海外を見習え!
第七章 悪夢の暗殺者
ルッツの死を聞いて落ち込むソフィア。落ち込んでばかりもいられないと貴族学院で過ごしながらも新しい街『レヴァント』の商業特区について日本で学ぶ夢美。日本はダメで海外を見習え? えっ!?
貴族学院の方は期末考査が行われて間もなく冬休みになる。
この学校では授業の単位というシステムではなくて最初に概論は聞くんだけど、後は課題がクリア出来たら授業に出なくてもいいのは助かるよ。なんか私やることが多くて結構忙しいからね。
既に課題を提出し終わったり実技試験が終わったりしている教科の期末試験はなくて算学なんかの一般教養の試験だけだ。
ユリアーナ先生の地理なんかは半分くらい私が先生に教えた事なので試験前に私に試験問題を持って来て『この内容で間違っていませんか?』と聞きに来たくらいなので私が満点でもおかしくない。
中央では新入生が貴族学院入学前に予習的に集められて2ヵ月程事前学習を行っているのだそうで普段通りであれば必ず中央がクラスとしてトップなんだけど今年の新入生はルントシュテットがトップだったらしくユリアーナ先生以外の先生方にかなり不思議がられた。
中央の新入生にはあの王女様もいるけど試験で忖度するのは難しいからね。普通に私が主席になったよ。いや日本じゃ私中学生だからねw。
でもこれが結構話題になっていて中央の教育系の文官が幾人も王女様に言われ辞めさせられたそうだ。
冬休み前には終業式的なイベントがあってそこで成績の優秀者が国の学術長でもある校長先生のマンフレート・フォン・アルデンヌ先生から表彰されるんだけどそこで先生と優秀者達を集めたお茶会がある。
お茶会は入学してからこれまでも何回かやっていて私の側使え達の手際の優秀さには感心している。でもその優秀者が集まるお茶会では学内の音楽の優秀者が演奏してくれるんだけど、その演奏に何人かの候補の中から新入生はこれまで選ばれなかったんだけど何故か私が選ばれて演奏させられる事になったよ。
音楽教師は教頭先生の娘であるクラーラ・フォン・ブライヒレーダー先生の前で一度シピオーネを弾いたけど、それ以降の強引な説得を断れなかったよ。
個人的にはあまり関心はないし忙しいから練習する時間も取りづらいんだけど本来貴族の嗜みとして皆楽器を演奏する中でとても優秀な者『ムジカ エクセレンティア』という称号(音楽の上手な人的な賞)を貰えるとても名誉な事なのだそうだ。周りからは『凄いです』と羨ましがられるけど私の本心としては忙しいから誰かに変わって貰いたいw。
これまでも私のお母さまや私の護衛のヘルムートが候補に選ばれた事があったそうで候補に選ばれたというだけでも貴族の間では『あの方は素晴らしい楽器演奏をする』と後々まで噂されるらしい。
贔屓目かもしれないけど私の護衛騎士のヘルムートはとても音楽の才能があると思う。
私は日本で久美子先生にお願いしてちょっと頑張って結構難しいロマン派のピアノ曲の練習を開始した。
◇◇◇◇◇
マクシミリアン叔父様が貴族学院のルントシュテットのサロンまで来て先日国王様が言っていたシーラッハの事について教えてくれた。騎士団でバーミリオンのメンバーのルッツが亡くなったそうだ。極秘に開発を続けていた兵器の機密をスパイのように持ち出そうとしたらしい。日本とは法なんかが違うから私なんかじゃこちらでの是非は判らないけど聞いた時は結構ショックだった。
とても優秀な騎士で明鏡止水も出来るようになった期待の人だったけど、叔父様は『女性にだらしない』という表現をしていた。
8歳の私に対してそんな話をするのが難しそうな感じだったよ。日本の私はもう中学生だから色々と知ってもおかしくないけど私は結構知らない方かも。
私の信頼からすると『あのルッツが、、、』という感じだけど世の中にはお金や異性に籠絡されて悪事を働く人もいるんだね。こっちのモラルについては日本よりも少しダメな感じがする。
その影響で同じ新入生だったエリアス・フォン・シーラッハが退学してルントシュテットへ戻った。
私は見ていなかったから詳しくは判らないけど貴族学院を引き払う際には死にそうな顔をしていたそうだ。日本の感覚だと本人以外には関係ない話かと思うけどこちらでは当たり前に重い罪は連座処罰される。
昔の日本でも何か問題があればみんなで責任を負う連帯責任のような制度があった時代があったけど、何か問題を起こす前に気が付いた人が止めるのが当たり前で、今は個人主義で『知らんけど』っていう感じがネットでも主体だね。
どっちがいいのかは判らないけど未成熟な社会には必要なのかもしれない。
でも、はぁ~だね。
気分を変えて明るい話をすると、
その後、ルントシュテットのサロンまでマルテのお父さんとお兄さんがマルテと一緒にやって来て新しい商業都市の男爵として私に挨拶に来たよ。
私のお父さま宛に挨拶してくれればいいんだけど、これまでの流れから私に先に挨拶が必要だと家族で話し合ったそうだ。
マルテのお父さんはエメット・マンスフェルトさん、お母さんがエマさん、お兄さんがウィンデルさんで、お兄さんは遠隔商人をやって修行をしていたそうだ。
遠隔商人っていうのは遠くの領地間を渡り歩いて商売をする人達の事で危険も伴うけど貴族との付き合いや商売で学ぶ事も多いらしい。
お父さんのエメットさんはいい人っぽいけど抜け目ない商人という感じで、ウィンデルさんは好印象の持てる笑顔が素敵な好青年だったよ。
本来はマルテも私が貴族学院に入る頃にはお店の接客を学び始める予定だったそうなんだけど、私と一緒にいると商人として何かと都合がいい事が多いらしくてこのまま側使えを続けさせて欲しいのだそうだ。
私としてはマルテとは仲が良くてずっと続けて欲しいからそっちの方がいいけど、ここの結婚てかなり早めで、私のせいでマルテが適齢期を逃してしまうとちょっと申し訳ない気がするから早くいい男見つけようね。
いや男爵令嬢になったらそうもいかないかも。ちょっと心配だね。
準備状況の報告や今後方針などをつめましょうという話になった。
エメットさんに配慮して『街の名前をマンスフェルトにしましょうか?』と言うと逆に『家名をレヴァント』にしたいと言われたけど、お店の名前も売れてる大店なのでそれはどちらもやめて貰う事にした。
新しく作った街は私のお父さまと叔父様の方で森を切り開いていた場所が街の中心になる為、商人の街と言っても住民はその周りにしかいなくて中心街はルントシュテット家かマンスフェルト家のお店が殆どだ。
これらのお店の経営方針やら何やらの厄介な事をそろそろ決めないといけないし、商人の街に新しく来る司教さんにも色々と説明しなければならないのでちょっと面倒だなと思っていた所だ。
エメットさんは「司教様がいらしたらよろしくお願いします」と言ってたよ。丸投げか! いや一応私も領主の一族だけどこの辺りはエバーハルトお兄さまにお任せしようかと思っている。
聖職者と商人は仲が悪い。というよりも聖職者は基本的に『神』に仕える人なので「商売は悪」というスタンスなんだよね。
聖職者の上層部が腐敗しているというのは聖職者は商人に権威を与える事が出来る立場で、商人は金融業をやっている事も多く、日本で言うヤミ金融のような者にまでお金の見返りで権力を与えて、お金を借りた人が利息が高くて返せなくて、結局奴隷や人身売買まで増えているからだよね。
司祭さんというのは俗に言う神父さんの事で小教区の小さな教会にいる人だ。教区全部の取りまとめをするのが少し偉い聖堂にいる司教さんで今度来る偉い人は司教さんだ。街の中央には聖堂を置く作りだからね。
彼らは中央の大聖堂の大司教様へ集めたお金を送らなければならないので、私腹を肥やす為だけでなくて課せられた教区の税収のお金が足りなければ、金融業を行う為に『名誉助祭』などの権威を与えるんだけど、それが世の中の裏で酷い事に繋がっている事を知りながら自己矛盾しながらやってる人も多い。
教区に納める税は収入の1/10と決まっているのでルントシュテットでは農業から工業まで全部好調なので税が少なくて困っているような事はないよ。
金融業に関してはルントシュテットでは、既に金融業の上限金利を規定して異常な金利を禁止したよ。
少額では年利20%以下、高額では年利15%以下と決めて多くの金融業者が廃業した。
当然クレームも多かったんだけど多くが廃業する事が判っていたので領主直営でベンチャー企業を育てる為の投資会社を作って彼らを優先した。そんな風に普通の個人が起業しやすいようにしてからは新興企業が増えてその殆どが好景気に押されて成功しているよ。
起業したい人は申請して審査が行われ投資されるかどうかが決定される仕組みだ。
司教さんがレヴァントに着任するのは私の冬休みの時なのでマルテと一緒に行ける予定だからそう心配しなくても大丈夫ですよ。
◇◇◇◇◇
「だから川端 美鈴と夢美は早くうちの研究室に入るべきなのよ」
えっ!
「抜け駆けはダメ。中学生に勤労させるのは余り良いとは言えない」
いや、神功先輩も、、、あーもう、なんでこうなるんだろ、、、。
この2週間で学校の改築が行われて、歴史研究会が『部』に昇格してその部室がとっても豪華になったよ。
資料も日本で販売されていた歴史の本が殆ど集められたそうだ。勿論、こんな事が出来るのは美麗のお陰なんだけど、美麗のこういう所は私の常識からすると本当にトンデモない。
今はその部室の脇の会議室の一つで美麗と神功先輩に商売の事について詳しく聞こうかと時間を取って貰った所だ。
今度新たに作る商業特区レヴァントの街を運営するのはマルテのお父さんが管理するんだけど、新しい商業の街を作るのにその殆どがルントシュテット家のお店を出す事になる。
街の運営やうちのお店の接客や経営をどうしたら良いのかを日本で相談している所だ。
そもそも商売の事なんて私も優秀な家庭教師陣も誰も得意じゃない。
建築の前島さんと橋の三矢さんが少し普通なだけで、他の講師陣は特化し過ぎていて他の事に余り興味がないんじゃないかと思う。そして何かの商売の社長だとかそんな知り合いは一人もいない。
やっぱ美麗に頼るしかないんだけど神功先輩も片神無グループの重役の娘だって言ってたから一緒に聞いてみるしかないと今聞いているという訳なんだよね。
『日本はずっと経済成長が止まっている』って言われていて、マスコミの話も経済学者の話も『日本はダメ、海外を見習え!』っていう話ばかりを聞くよね。
正直私とかではあまりピンと来ないんだけど、、、。
確かに数字を見ると売り上げや利益は日本の企業なんて話にならない程凄くて一体どうやってるの? っていう位だよ。日本のママゾンなんかも海外から来てるのに大成功を収めているよね。
日本でも美麗や神功先輩の西園寺グループや片神無グループは上位ではあるけどそこまで特出している訳ではなくて、海外の企業のように凄い売り上げを上げている別の企業もいくつかある。なんかそれらの企業のトップは経済の寵児的に扱われている有名人だ。
私みたいな中学生が知っている日本の商売のやり方じゃあ将来的にきっとダメなんだろうなぁ。
その辺りはやっぱり全然判らないから聞いてみよう。もしかしたら将来日本でも私の役に立つかもしれなし真面目に聞かないと『商業特区』が失敗したら目も当てられないからね。
色んな経済や企業経営、商売の本を読んで一応はそれっぽい知識を得たつもりではいたんだけど、
『日本がダメダメで海外を見習えって具体的にどういう商売をやったらいいのか教えて欲しい』
って私が言ったらこのありさまだよ。
いやいやいや、テレビでもそう言ってたしなんで二人揃って意見が私と違うんだろ。
「夢美は何かそんな風に書いている本でも読んじゃったのかしら?」
「一応そういう感じの経済の本を何冊か読んだよ。『日本がダメダメな理由』、『日本企業のダメダメな共通点』とか数冊だけど、、、」
「あー、それ全部ダメな本。都合のいい話しか取り上げないで都合の悪い話は全部無視してる」
「まあ、そんな事だろうとは思ったわよ」
「それは全部タチの悪いプロパガンダ的な本」
「えっ!! マスコミもそんな風に言ってるよね」
「それはマスコミも殆どプロパガンダだから」
・・・。
マジかぁ。じゃあそんなの何を信じればいいの。
「夢美は海外で何か購入してトラブルが発生してその対処をして貰った事があるかしら?」
「うーん、海外のものはそんなに沢山は購入してないからそういう経験はないかな。でも買って来て貰った物が最初から使えなくて諦めた事はあるよ」
出てた絵と実物が全然違って最初から壊れてたんだよね。確かに日本じゃそんなのも少ないかも。
「そうなの。ならばよく知らないのも仕方ないわね。殆どの海外の一流と言われているメーカーのサポート窓口なんて連絡先がほぼ見つからないし見つかって連絡しても電話にすら出ないのよ」
「うんうん。それはその通り。何日も繋がらない」
「えっ。そうなの?」
「でも日本のサポート業務は100%の受電率でないにしてもとても熱心にやってるわよね」
「日本のなら普通に連絡して判らないのを聞いた事があるよ」
「『サービスの質』という意味でも『商品の質』という意味でも海外企業は日本企業には太刀打ち出来ないわね」
「えっ、でもママゾンなんかは成功しているんじゃないの?」
「ではママゾンのサポートの連絡先を探せるかしら?」
「ちょっと待ってね。えーと、、、あれ? 見つからないね。あれー!?」
「普通にあって商法上問題にならないように公開はしてるけど諦めるくらいには判りづらいわね」
「まあ商品のサービスは実質商品提供元の日本企業がやってるからママゾンは特別な事例」
「その通り。でもママゾンそのもののサポートは全然ダメよね」
・・・。
「日本に進出してくる海外で成功している企業がどこも成功せずにほぼ全部撤退しているのはご存知かしら?」
「『日本の土壌とかルールみたいのが問題』で、、、みたいな話は聞くけど、、、」
「そうじゃないわね。日本レベルで商品を提供して日本レベルのサービスをやったら儲からないのよ」
「そんなサービスの質は海外では出来ない」
「えー、だって給料も海外企業の方が高いっていうし、、、」
「夢美の先程の条件なら『一代限りで儲かればいい』ではなくてそのまま継続出来る商売を成功させたいのでしょう? ならば同じ土俵に立てば日本の企業にはどの海外企業も歯が立たないわよ」
「でも唯一可能な方策がある。日本の優良企業の筆頭株主になればいい」
「そうね。それをおバカな政治家が進めようとしているのをうちもなんとか阻止しようとしているわ」
「わたしの所も買われそうな所のホワイトナイトになってる」
「あら、任那も良く判っているのね。うちに来ない?」
「何言ってるの。いやわたし先輩でしょ」
「任那先輩♪」
「行かない。でも目的が同じなら手は組めるかも」
いや、この二人は何か恐ろしい日本の経済を動かしちゃうようなお話をしているとしか思えないよ。
「つ、つまり、最終的に、将来的にも正しく生き残りたいなら日本企業のやり方でという事だね?」
「そう。でもそれは日本人だから出来る」
くっ、あの経済の本の嘘つき。
でも、なんで日本人が出来て海外じゃダメなんだろ。
「なんで日本人だから出来るんですか? 神功先輩」
「それは日本人のルーツの話まで戻る。歴史は後で教えるけど日本人はほぼ全員が誠実だから出来る」
「そうね。海外の人間と話して日本人を表すのに親切とかいろんな表現があるけど、最も多いのがポライト=誠実だわね」
「普通の国はそんな人珍しい。いても自分だけバカを見てるって諦めちゃう。そういう人間ばかりだから日本人にしか出来ない。本来の価値がダンチなのを海外にも安売りしてる」
「あらゆる日本製品が人気なのもそんな理由ね」
日本人が誠実な理由の歴史は後で教えて貰うとして、誠実にやって行く事が最終的に生き残る商売が出来るんだね。よし、新しい街の運営は誠実さを目指そう。
「でも、誠実なだけじゃダメなのよ。海外のハゲタカに骨までしゃぶり尽くされるわ」
うわ、何それ怖いよそれ。向こうで言えば悪い貴族にっていう感じかな。
「そ、それは防げないの?」
「だから法的なルールが大切になる」
この後、まだ2時間位かけて商売の事だけではなく他国のハゲタカからどうすれば守れるのかを二人に教えて貰った。
ルントシュテットのお父さまに説明して法を整備して貰わないと。
しかしこの二人、少し予想はしてたけどかなりヤバイ人達だったよ。
この日、遅くなったので美麗に送って貰った。神功先輩は美麗の家のと同じような長い車が迎えに来ていたよ。
◇◇◇◇◇
美鈴先生に以前約束して貰ったコンピュータの作り方の先生を紹介して貰って教わった。
もう卒業している大学の先輩だという新倉 礼先生で何の事はない兄の家庭教師だった人だった。
世の中広いようで狭いね。
美鈴先生によると情報処理の基本を学んでいると本来誰でも知っている事らしいけど新倉先生程詳しく判りやすく教えてくれる人は他の情報処理技術者では知らないそうだ。
すごく優しい先生で誰からも好かれそうな感じだった。
2進法の話なんだけど本当に判りやすくて絶対にすぐに自分でも作れると思えるとても上手い教え方だった。シリコンでなくてもこれ作れるね。
兄の成績が良かった理由が判った気がする。
新倉 礼先生ありがとうございます。
でもそれよりずっと前に美鈴先生と電気の要らない『機械式計算機』の方はもうやってるよ。
こっちは10進法で計算するものだけど、実際に地球でも20世紀中頃までは使われていたらしい。
大規模発電はラスティーネ叔母様がダムと河川の整備を始めて貰ってるから数年後に出来る予定だけど、それまでは電気が局所的にしか使えないので機械式計算機の方が都合がいい。
職人達も頑張ってくれていたけど、仕組みを説明して実際に職人に説明したのは数学好きのマティーカで、マティーカにやって貰ったら面白くてハマってしまったみたいだけどマティーカは職人達から神童扱いだったよ。いや確かに8歳だからね。
現代知識で改良してダイヤルを回すんじゃなくて数値で打てるから凄く便利だよ。
商人の街のお店が始まる前に導入したいと思っている。
◇◇◇◇◇
後数日で成績優秀者が集まるお茶会になる頃、貴族学院の側使えや護衛騎士達と貴族学院の敷地内を見て廻ったよ。貴族学院の中をゆっくりと見た事がなかったからね。
前から予定していた事で私も楽しみにしていた。
貴族学院は広くて設備も整っているけど、とてもお金をかけている事が良く判る。庭の木なんかも凄く綺麗に整えられているよ。落葉樹の紅葉が始まってとっても綺麗だから寒くならないうちにみんなで外でピクニックみたいにお弁当でも食べたいくらいだよ。まあお茶会は出来るけどそんな事は貴族は出来ないけど。
広いスペースで『ポーム』をやっている人達がいた。
『ポーム』っていうのはテニスやスカッシュみたいなここの殆ど唯一のスポーツみたいなものだ。他は剣術とかだからね。木や蔓を硬くしたラケットでコルクの重いボールを打つんだけどみんな慣れていて結構上手だ。
私の足元に白いボールが転がって来たよ。
みんな気付いてリナが拾おうとしたけど私が一番近かったので私が拾ってボールを追いかけて来た人にそのまま投げると硬いラケットで器用に受け取って『ありがとう』と言って走って行った。
なんか変な笑い顔だったよ。
でも白いボールが濡れてた感じがする。
あれ!? 手が熱い!? 痛い、痛い。
何これ!!
「あぅ、、、」
私は左手で右手の手首を掴み、激痛に耐えた。
「ソフィア様。どうされましたか?」
「手が、、、手が痛いのです。さっきのボールが濡れていたようでそれが悪かったのかもしれません」
ハッ!
側使えのエミリーが咄嗟に全部を判断する。
「クラーラ。今の男を捕まえて来て。ルイーサはこのままソフィア様の護衛。リナ、マティーカ大至急手水を用意して! 全員走って!」
「「はい!」」
クラーラが男を追って走った。
「リナ。あのガゼボに水が来てた」
「わかった」
マティーカとリナが走って行く。
エミリーがリネンのハンカチーフを取り出し私の手を丁寧に拭いてくれた。
もう真っ赤になって指が炎症を起こしている。凄く痛い。
「エミリーありがとう。これは一体何が起こったの?」
「ソフィア様。おそらく先程のポームのボールに何かの毒が塗られていたのではないかと思われます」
「ど、毒!」
えー!!
そう言えば色々と注意しろって言われてたよ。
でもあんなの判んないよ。
痛い。熱い。
これも怪我の一種だろうから魔法で治るかな。
『~エルクルフルト クルリトン クレステペタル~』
左手を右手にかざして掌が光る。
ダメだ。痛いままだ。ていうよりなんか余計に痛い。効かないよ。なんで!? 神様!
『ソミア!』
『ドロミス神様。魔法が効きません』
『まだ手に毒液が残っている。いくら癒してもその毒がほんの少しでも残っている限りずっと痛めつけられるだけだ。早く洗い流せ』
『は、はい』
私は気を失いそうな痛みを我慢しているとリナが手桶を抱えて走って戻って来てくれた。
エミリーが私の手を水で丁寧に洗い流しマティーカが抱えて来た手桶と交換する。
「リナ。もう一度!」
「はい」
私はリナの元気のいい返事の声を聞くと痛みでそのまま気を失った。
(なんかこれデジャヴってるような気が、、、)
すみません、おそらく2週程私用でお休みさせて頂く事になるかと思います。
次回:日本医療の限界!? 対処をしてくれたエミリーまで酷い状態に!
そしてお茶会当日、、、。