閑話 桃色はピシュナイゼルの色
※ご注意:この物語りはすべて『フィクション』であり、登場する人物、団体等とは一切関係ありません。
ピシュナイゼルのコーイック男爵の街スボーレスで起こっているおかしな話。
ルートヴィヒ・フォン・クルツバッハ伯爵はスボーレスの参事会の腐敗を疑っているが、貴族学院の先輩であるコーイック男爵はとても世話焼きな人物で、なんとか彼の処刑を回避させるすべはないかと長女のラヴェンナに調査させていた。しかしルントシュテットのマクシミリアンによる告発と罠により中央の財務並びに福祉保健局の『ヴォータン・フォン・ブレドウ』のスパイ行為が発覚しヴォータンが処刑された。
ルントシュテットの調査で杜撰な会計やおかしな行動が全て明るみに出され処罰されたのだ。特に中央の福祉保健局は監査を行ったその監査そのものの内容がめちゃくちゃであった。
更に敵国のスパイであったヴォータンが手掛けていたスボーレスのフテーマにある基地は危険だとコーイック男爵は危険手当を地域市民に支給していたが、国王様に掛け合った所、ヘイノックへの小さな基地を改修し規模を大きくしてそちらへ移転するようピシュナイゼルのドミノスに命じられた。
しかしピシュナイゼルのドミノスから命じられコーイック男爵がこれを実行しようとすると、ヘイノック基地移転に反対する地域住民が工事を妨害し思うように進んでいないのが現状である。
コーイック男爵への陳情には『基地移転に反対』の声が圧倒的に多く、他にも『危険手当を増やす』、『行く宛のない孤児の救済給付金の増額』などの多数の声が寄せられていると言うのである。
ルートヴィヒは明らかに異常なこの状況に対しピシュナイゼルの腐敗を正す為、ソフィアの救済が確約された今、一気に片を付けようとクラウディアと騎士数名を先行させたラヴェンナの元へ送り込んだ。
◇◇◇◇◇
「あら、随分と早かったわね。クーちゃん」
「姉上、部下のいる前でその呼び方はご容赦くださいとあれ程、、、」
「えー、怒りんぼさんなんだから」
「ルントシュテットは早々に片が付きました。ルントシュテットの方から技術提供があり、そしてソフィア様は女神様でした」
「えー、本当?」
「はい。地母神ガイア様の生まれ変わりではないかと。わたくしを『使徒』にして頂き巫女の力が使えましたので間違いありません」
「ほえー、そうなんだ。でも使徒の巫女にして頂いたのならここの戦力としても助かるわね」
「調査の方はどうですか?」
ラヴェンナがこれまでの調査状況を報告する。
カテドラル(=大聖堂)の司教ニドーとその部下ゲアハード、アダルギーサは福祉の助成金を横領し保護下の子供達を反対運動の座り込みや陳情に使っていた事が判った。国の金を使ってあり得ない行為である。女児達も口の端に上らせるのも憚られるような恐ろしい目にあっているが彼女らの叫び声はコーイック男爵にまで届く事はなかった。いや届いても聞こえないふりをしていたのかもしれない。
「実際に中央に集計報告されたこの地の陳情書の元を見たのよ」
「えっ、見せてくれるものなのですか?」
「そんなの忍び込んで盗んで来たに決まってるじゃない」
き、決まっているのですか、、、姉上。
「基地反対派の筆跡はたった9名だけ。給付金の話なども全部多かった陳情はチョイナーのスパイと大聖堂で搾取されている子供達にその字だけを習わせて書かせたものだけだったわ」
「なんですと! あの数の意見だからと中央で通ったのに、、、。それでは完全にノイジーマイノリティではありませんか?」
「ノイジーマイノリティではなくて、これは裏の証拠から完全にスボーレスを乗っ取る為のスパイ工作ね」
「反対派が座り込んでいるとも聞いています」
「何日連続と書いて凄い反対のようにアピールしているけど本当にいるのはたまーにね。この前の工事の妨害を警吏が検挙したら殆どがチョイナーとマドグラブルの人で他は司教の所の孤児達だったわよ」
「ここの住民ではないではありませんか! 周辺民や居留民は普通、政には参加出来ないはずではありませんか?」
「だから簡単に摘発出来るけど、コーイック男爵は人がいいから」
「それは単なるお人好しで付け込まれているだけです」
「その通りね」
「おのれ、司教のニドー。これは子供達を救出して執政官に告発して証言させればよいのではありませんか? コーイック男爵が判断を間違えるとは思えません」
「それが、その執政官と行政担当官が問題で、参事会の長のターマックも担当官のヤマシールもスパイなのよ」
「ぐっ。なぜそのような者が執政官に」
「まあこれはどこでもよくあるけど参事会の市民達が買収されたようね」
「本当にこの地の政は腐っている、、、」
「領民の本当の民意を調べる為に数ヶ月かけて調査を進めていたらエメストとリンドが殺されかけたわ」
「えっ!」
「いや、大丈夫だったんだけど、怪我をしたら参事会のヤマシールの所の者が来て『お手伝いしましょう』なんて言うのよ。笑っちゃうわよね。でも仕方ないから狭い範囲を任せたら、基地反対派意見が98%以上だと言うので私達が同じ地区を再調査したら0.2%だったわね。領民の意見はきちんと聞かないといけないわね♪」
「・・・そんな事までが虚偽、、、」
「そればかりか、殆どの市民達は逆に迷惑がっていたわね」
「ここまで酷い状況になっていようとは、、、」
「お父さまには申し訳ないけど、コーイック男爵を守るのは難しいわね。人はいいんだけどねー」
「そうですね。それは仕方ありません。このような腐敗や工作を見逃していたなら統治の能力などないでしょう。このまま放置すれば領主のオズワルド様、ひいては国王様の統治能力まで疑われる事になります。直ぐに対処が必要な事は明白ですね」
「お金の流れ、交友関係、マドグラブル、チョイナーとの関係、ほぼ全員の全て掴んでるわよ。残りは黒幕だけね」
「黒幕!?」
「コーイック男爵の第二夫人ガウナよ」
「えっ!」
「よく調べたらガウナ夫人はチョイナー出身の両親で第一夫人のモッペルとの婚姻の際に司教のニドーに条件としてあてがわれたようだわ」
「これは、、、双方一気に制圧する事が必要ですね」
「明日の参事会で孤児達の補助金が決まる予定なのよ。あまり信じられない報告で成果は昨年と全く変わらないのに補助金は倍になるのだそうよ。そこでのガウナの発言を聞いてからね」
「なんですかこの収支報告書は。孤児達にフラワーアレンジメント教室を開いているのはターマックとヤマシールの身内ではないですか! それにこんなに高額なものなどあり得ません!」
「そうなのよねー。孤児達の補助金は全部こいつらの身内で廻しているだけなのよ」
「こんな事が許されるのなら国が滅びます! 姉上。わたくしはもう聞いているだけで頭が痛いです」
「その参事会の席に第二夫人ガウナとターマック、ヤマシールも出席するから狙いはそこね」
「国王様の命を受けオズワルド様(ピシュナイゼルのドミノス)が命令したのに背く言があった場合には容赦はしません」
「それを確認してから捕まえて、証拠も揃ってるから後は中央に任せましょう」
「判りました。司教の方は?」
「ピシュナイゼルの色、桃色のテントを明日出して炊き出しで孤児達を集めるわ。孤児達だけでなくお腹を空かせた子達にも与えて親子の縁を切らせる契約をさせているのよ」
「慈善を騙る悪魔ですか!?」
「民意と異なる報告や数々のスパイ行為、孤児達からの搾取、領民の扇動と証拠を押さえたとお父様経由で中央に許可を貰ってるから今日位に制圧の許可が来ると思うわ」
「姉上、一つだけお願いがあります」
「何?」
「ルントシュテットのソフィア様の耳に入れて頂けるように手配して頂けませんか?」
「うーん、こんなピシュナイゼルの恥を女神様にお伝えするなんて、、、」
「それでもお願いします。巫女の力がある方が制圧が楽になります」
「判ったわ」
「では後は中央からの連絡を待てばよいのですね」
「そうなのよ。クーちゃんの分の水着もあるから海行こ、海」
「えー、姉上の水着ですか、、、」
少し胸の大きさに問題が、、、。
スボーレスの海はとても綺麗だった。これを我々は守らなければならない。『ピシュナイゼルの未来は明るい』と女神様に仰っしゃて頂いた。
後は私達がこの腐敗した者達を倒し疲弊しきったピシュナイゼルを立て直すしかない。
汚れた手で新しい歴史のページをめくる事などあってはならないのだ。
◇◇◇◇◇
参事会の出席者は第二夫人ガウナ、参事会の長ターマック、担当官のヤマシールと司教ニドーの部下が出席し、他の参事会のメンバーは急遽休みとなっている。他の3名がいづれも都合が悪いなど一般的にはあり得ない。ナニカがここで話し合われているのだろう。
『このまま上手く引き伸ばして頂戴。ヘイノックへ移転させてはなりませんよ。侵略しづらくなりますからね』
『このターマックにお任せくださいガウナ様。お人好しの領主様には人の肉壁が効果ありますからいくらでも引き延ばせますよ。ヤマシール、もっと効果的な女子供を集め工事を妨害するのだ』
『居留民や周辺民など使い捨てですが最近は集まりも悪くなっておりまして市民に反対されております』
『今もニドー司教が攫っておるわ』
『左様ですか。幾人か女児をこちらに廻していただけると助かります。つきましてはお約束の補助金の増額の方は、、、』
『今年から倍にすることになるわね』
『ありがとうございま、、、』
バン!
クラウディアが巫女としてソフィアの意を受け再び加護を授かったその力はいとも容易く鍵の掛かるドアを蹴破った。
神の使徒巫女の力である。
「だ、誰だ! お前達は!」
「ぶ、無礼な! 参事会中であるぞ」
「無礼だと! お前達に尽くす礼など持ち合わせてはいない!」
「ドミノスの方からやって来ました~♪ 今のお話は残さず聞かせて頂きました~♪」
「ヘイノックへ移転させてはならぬの言質、確かに聞いたぞ!」
「何! これはまずいな。衛兵! 衛兵っ!」
「無駄だ。既にこちらで全員眠って頂いた」
「あ、貴方達はわたくし達の進めようとする慈善事業を愚弄する過激派ですか!」
「そうやって慈善事業と綺麗事を楯に言い逃れて来たのかガウナ夫人。聞いて呆れるな。もう全て証拠は揃っているぞ」
「わたくしはこの街の貴族の夫人ですよ! ユーリック・フォン・コーイック男爵に会わせなさい」
「無理だな。コーイック男爵も良い人ではあったがお前達を放置する愚か者であった。それだけだ」
「桃色のテントも今頃制圧されているわ。諦めなさい!」
くそっ!
ダッ!
担当官のヤマシールがナイフを抜きクラウディアに突っ込んで来た。
「ダメよ。クーちゃん!」
ドゴッ!
グワッ。
「判っています姉上。このような者をこの槍で刺せば槍の方が穢れてしまいます」
「こいつらを拘束しろ!」
「「はっ!」」
「わたしの、わたしの娘は、、、」
「静かにしろ! ガウナ夫人。 直ぐに全員に会えるだろう」
◇◇◇◇◇
参事会の長のターマックと担当官のヤマシールは国家反逆罪で一族全員四つ裂き刑で処刑、コーイック男爵も二人の嘆願は叶わず国家反逆罪で一族四つ裂き刑で処刑となった。第二夫人ガウナが娘に会えたのはその処刑場であり目隠しをされ半狂乱の状態であった為愛娘の認識は難しかったと思われる。
「父上。コーイック男爵をお救い出来ず申し訳ございませんでした」
「ソフィア様にはお話したのか?」
「はい。罪なき第一夫人モッペルや子供達が処刑される事を大変嘆いておられました」
「そうか。それも今の国のありようでは仕方あるまい。もしもこの国が変わるとしたらそれはソフィア様の時代かも知れぬな」
「まさか、ご冗談を」
「あら、クーちゃん。物事の価値観なんて考え方一つだわよ」
「そんなものですか。子達を残せばまた恨みの連鎖が繰り返されると思う今のわたくしには理解が及びませんが女神様でしたらやって頂けるかも知れませんね」
「そうだな。それまでは我々は信じてこのピシュナイゼルを立て直すしかあるまい」
「「はい!」」
そしてピシュナイゼルの開発が始まる。