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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第六章 夢の火魔法使い
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閑話 奪還者

 ヴァルターが国王様(レクス)への報告からルントシュテットへ戻った頃。


 中央の文官ヴォータン・フォン・ブレドウを操っていたチョイナーの女スパイが恐ろしい事を自白した。

 チョイナーに新たな法が出来たと言う。『全てのチョイナーの民は命令されたら全て密偵として働かなければならない』というものだ。この女スパイも家族を人質として取られヴォータンを操っていたらしい。


 勿論、個人々々は誠実な者もいるが残念ながらいつでもスパイとなる者達を当然放っておく訳にはいかない。

 家族への愛情や誠実な者への想いが人一倍強いヴァルターであったが心を鬼にしてチョイナーの人々に対してルントシュテットから3日以内の退去を命じた。

 報告のある記録によれば数十人はルントシュテットにいたはずだがその殆どはルントシュテットから退去した。



 しかし、ここで大きな問題が発生した。


 ラグレシアの密偵との関係が疑われていたバルドゥール・フォン・シーラッハ男爵の息子であり騎士団で且つバーミリオンのメンバーでもあるルッツ・フォン・シーラッハが軍事機密を持ち出しチョイナーの密偵と共に逃げシルバタリアを抜けマドグラブルへ入ったとの報を受けた。

 逃げた先がグレースフェール内であればまだ対処のしようがある。しかし敵国であれば手を出すのはなかなかに難しい。このままチョイナーへ亡命するつもりのようだ。


 魔法契約も交わされているはずであるのに不可思議な事件であった。


 バーミリオンのカーマインもザルツもいないが何としても軍事機密は奪還しなければルントシュテットの、いやひいてはグレースフェールの危機となりかねない。


 騎士団長のビッシェルドルフ・フォン・クラトハーンが直ぐに向かうと息巻いたが、流石に国同士の事を大事にすれば侵攻の口実を与えてしまう。出来るだけ隠密行動で敵国へ侵入しなければならない為、大部隊を動かすのは不味い。騎士団の隊長のカイゼル、アイガー、カイ、ケリーのたった4名だが直ちに動いて貰った。


◇◇◇◇◇


「カイゼル隊長。今回は敵地での行動ですから生きて帰れるか判りませんね」

「ソフィア様のこの小型装甲車があるのだアイガー。我々は簡単には死なぬだろうが命に代えても機密は奪還もしくは破壊せねばならぬのだ」

「しかしこの装甲車は卑怯(ひきよう)ですよね。こんなのどうやっても歯が立たないからこれに乗っていればやられませんよね」

「頭を使えカイ。このまま動けぬように障害物で取り囲み弾薬の枯渇を待ち飢えるのを待てば勝てるであろう」

「むむむ。確かに」

「もしもの事があればこれも爆破する」

「これも爆破ですか? どれだけ炸裂弾が必要になるのか判りませんね。足りるかなぁ」


「カイ。砦の迂回は成功しそうか?」

「はい、間もなくですよ」

「問題はどちらへ向かったかだな。逃げている心理からは早く遠くまで逃げたいだろうが一休みもしたいところだろう。チョイナーへ向かうとなるとこのプー(そん)の可能性が高いと思うな。ケリーはどう思う」

「はい。わたしも位置的にはインチル村よりもプー村かと思います」

「よし、カイ。迂回が成功したらプー村へ向かう。道はシルバタリアで貰ったこの不完全な地図の案内を信じるしかあるまい」

「おそらく多くのマドグラブルの者に見られますよ」

「それは仕方ないだろうがこの国にはまだ水車もない程に技術力も低い。普段見かけないものが走っている事は判るが直ぐに何なのかは判るまい」

「そうかもしれませんね」


 道はかなり酷いがカイゼル達はプー村への道を猛スピードで進んだ。

 既に日が暮れていた。


「隊長! 蒸気自動車のタイヤ痕がありました」

「よし、ここで間違えないな。全員戦闘準備を整えよ」

「「はっ」」


「あの村か。カイ、一旦減速してライトを消してその茂みの脇で止めてくれ。アイガー、望遠で確認を頼む」

「蒸気自動車が見えます」

「良し! 追いついたか!」

「この地図によるとプー村の外郭にはマドグラブルの兵舎があるようです」

「だとするとあまり時間はかけられんな」

「ルッツが乗って来た蒸気自動車の周りにマドグラブル兵の護衛が多数おります。機密はあの蒸気自動車に積んであるままでしょう」

「ではルッツと女スパイはあの宿だな。どの部屋か判るか?」

「見ていますが判りません。2階の部屋は右端と左端両方にランプの灯りが見えます」

「ではどちらかだな」

「どういたしましょう?」


「兵舎との距離を考えれば急襲して奪還するしかあるまい。

 アイガー、カイ。ここから炸裂弾で護衛を狙い装甲車で急襲する。二人は急いで荷物を載せ離脱前にルッツらが乗って来た蒸気自動車を破壊してくれ。

 ケリーは私と共に急襲後に宿へ向かう。

 今の所どちらに潜んでいるか判らないから私が右、ケリーは左だ。

 現場では臨機応変に頼む」


「「はっ」」


「全員身体強化! 行くぞ!」


 シュン、シュン!


 蒸気自動車の両側へ炸裂弾を撃ち込む。着弾前に装甲車へ乗り込みライトを消したまま走らせた。


 ズガーン、ズガーン!


 グイーン。

 暗くなる中、カイゼルが装甲車からライフルを向け残った護衛を倒す。


 ズキューン。ズキューン。


「ひょー。隊長流石です。本当にそれ凄いっすね」

「お前ら、口じゃなく手を動かせよ」

「任せてください」


 キキー!

 ダッ!

 

 全員装甲車から飛び出した。


 大きな音に気が付いたマドグラブルの兵士が数人やって来る。


「ケリー! 少しだけ時間を稼いでくれ」

「お任せください。ハッ!」


 刀での実践は初めてであったケリーだが剣道で培った彼女の腕は伊達ではなかった。


「ハッ。フンッ!」

 

 ズビッ。ズシャ。


 その隙にカイゼルが明鏡止水で居場所を確認する。


「いた! ケリー、女と二人いるのは2階の左だ」

「了解! 直ぐに行きましょう」


 ダダッ!


 2階の部屋のドアを蹴破る。

 バン!


「ルッツ!」

「く、くそっ!」


 ルッツが長剣に手を伸ばす。


「遅い!」


 シュバッ。


 居合一閃、カイゼルがルッツの腕を切り落とした。


「ぐわっ!」

「あ、あ、、、」


「お見事!」

「ケリー、その女の小刀を制してくれ」

「はっ」


「お前は、、、」


 バシッ!


◇◇◇◇◇


「ケリー、こいつの止血を頼む」

「はっ」

「話を聞いてくれ!」

「ルッツは明鏡止水が出来なかったのか、、、。話は後よ。今は黙って止血されて頂戴」

「は、はい。。。」


「隊長。荷物は積み込みました」

「他の兵士達が気が付いたようです」

「この蒸気自動車は爆破する」

「これは頑丈だからかなりの炸裂弾が必要ですよ。でも勿体ないなぁ」

「しかたあるまい。頼む」

「はっ」


 シュー、ズガーン。ドガーン。

 炸裂弾によるいくつも爆発が重なり蒸気自動車は完全に破壊された。


「よし、このまま戻るぞ」


 グィーン!


「この音で完全に気が付かれてしまいましたね」

「なに。小さな小競り合いは幾つもあるのだ。何か問題があったとでも思われ直ぐにはグレースフェールからの入国だとは思わないだろう」

「今の内に出来るだけ距離を稼ぎたいですね」

「その通りだ。ソフィア様のこの装甲車のお陰で随分と助かるが馬を全力で走らせシルバタリアとの国境に連絡されたら厄介だぞ」

「そうならないように祈ってくださいよ」

「そうだな。しかしルッツがこんな事をするとはな」

「アイガー。その女スパイを見ろよ。俺でもグラッときちまいそうだぞ」

「カイっ!」

「うひょー、ケリー。普段は女と言えば騎士団しか知らないから無理もないだろうよ」

「それはわたし達の魅力がないとでも?」

「い、いや、そんな事は言ってないだろ」

「言ってるではないか?」


「二人共静かにしろ。カイ。お前には帰ったら話がある」

「は、はい」


◇◇◇◇◇


「隊長! どうやら抜け道に待ち伏せされています」


 200程の兵が待ち伏せしていた。

 地竜も2匹いるようだ。


「敵の動きがかなり早かったようですね」

「くそっ、ここを抜ければシルバタリアへ抜けられるのに。炸裂弾は後どれくらいある」

「後5発程あります」


「少なかったか。地竜に一発ずつとしてもあの人数では包囲網を崩すのは難しいな」

「銃で撃ちながら走れるだけ走ってみますか?」

「それは最後の手段だな。あの数では途中で行き詰まる可能性が高い」

「しかし、、、」


「隊長。わたしが出て切れるだけ切り刻んでやりますよ」

「落ち着けケリー! 幸いこちらはまだ敵には気が付かれていない。奴らに動きがあればまだ可能性はある。しばらくこのまま様子を見るぞ」

「はい」


 ・・・。


 敵の動きは見られずあくまでも封鎖を続けるようだ。


「このまま時間が過ぎれば近辺の捜索も始まりこちらが不利だな。仕方ないこの装甲車毎爆破して、、、」


「隊長! 前方から何かの音が聞こえます」

「むっ! 一体何だ」


 ズガーン。ズガーン。


「こ、これは!?」

「我々の援護なのか?」


 ズガガガガ。


「カイゼル!! 待たせたな!」


 小型の大砲を装備した砲車に乗り騎士団長ビッシェルドルフが敵を切り裂き到着した。


 砲撃により地竜や敵兵を蹴散らして近づいて来た。


「た、助かったか!」

「よし、あの崩れた間を抜けるぞ! カイ!」

「はっ!」

「このまま突破だ!」


 グィーン。

 ズキューン。ズキューン。


 ズガーン。ズガーン。


 装甲車はシルバタリアへ抜け砲車も後に続いた。

 そして敵兵は国を超えては誰も追いかけては来なかった。


 カイゼル達により軍事機密のライフル、弾薬、大砲等全ての機密の奪還に成功しルッツの亡命は失敗した。

 

◇◇◇◇◇


 様々な言い分はあるだろうが結果としてシーラッハ家は取り潰し、バルドゥール・フォン・シーラッハ男爵と残った家のものは投獄。色仕掛けによるチョイナーのスパイに籠絡されたルッツは供述を取った後処刑された。しかしこれはルッツそっくりな成り代わったチョイナーの者で本物のルッツは魔法契約により機密を盗み出した際に既に死んでおり後にルッツの死体が見つかった。


 その後バルドゥール男爵のスパイ行為も発覚しスパイ本人を除く関わった全員が処刑された。ヴァルターはシーラッハの関係者全員を国家反逆罪の一族全員の四つ裂きとせず重窃盗の斬首刑としたのは一部の領民からの非難はあったがヴァルターの優しい一面でもあるだろうと領民の間で話題となった。



 元シーラッハの領地はいくつかに分割されその一部がリバーサイズへ割譲された。元々リバーサイズの領地の一部であったシルバタリアの領境の森林部の開発が終わり、その東側のシーラッハ側とまとめて新しい街が作られた。



 このエリアが後にソフィアが商業特区とする街『レヴァント』となる。



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