特別な女(ヒト)
クルツバッハ伯爵の館で中央の騎士団に囲まれるソフィア。同じ国の騎士達を傷つけたくないソフィアは対処に戸惑う。それに対処したのは、、、。特別な女だった。
引き抜きの話で美麗に拉致同然で連れて行かれ問われる美鈴先生と夢美。美鈴先生の答えは、、、。
クルツバッハ伯爵の屋敷に泊まった翌朝、ドロミス神に朝早く起こされた。
『ソミア。起きろ。中央の騎士団に囲まれている!』
『えっ!』
ハッ!
「姫様。随分と早いお目覚めですね」
「おはよう、マルテ、ノーラ。直ぐに動きやすい服装で支度をしたいのでお願い!」
「「はい」」
明鏡止水で館の周りを感じると昨日見た10数名ではなく30名程がいた。
何これ。まさか中央の騎士団がピシュナイゼルの貴族の館を襲うの?
私は出来るだけ動きやすい服装にして貰い急いで一階の昨日伯爵様達とお話したサロンへ向かった。
まだ日も出ていなくて暗い。
ノーラがドアを開け中に入るとクルツバッハ伯爵様、次女のクラウディア様、叔父様達ルントシュテットの全員が揃っていた。いや、私早かったよねと思ったけど私が最後だったよ。
「クルツバッハ伯爵様。これは一体どういう事でしょうか?」
「中央の騎士達だ。当たり前だがこちらに非がないのに力づくで貴族の館を制圧など出来ない。これは火魔法使いサーラが外に出るのを待っているのだろう。こちらはわたしの兵が15名程だが守りは固めている」
こっちの数が足りないよ。でも同じ国の人なのに、、、。
「サーラ狙いなのでしょうか。国王様もしつこいですね」
「既に使いの者が来て『火魔法使いを渡せ』と言って来た。『そんな者はいない、いたとしても我が領民は渡せぬ』と断ったばかりだ。国王様にはこちらが保護した話が行っていないのではないか?」
「確かに国王様に話が行っていないだろう。結果、つまり火魔法使いを捉えられていないのだから国王様にはまだ報告していないのだろうな」
「尖塔師の方はいるのでしょうか?」
「報告があるだろうからいるはずだ」
昨日、あれだけ逃げてたのにね。つまり状況を報告しないで増援だけ頼んだんだね。それとも後発隊が到着したのかな。
「マクシミリアン叔父様。火魔法使いが狙いであればわたくし達だけで館を出れば襲われないのですか?」
「それはそうだろう」
「それは違うよ。マクシミリアン」
「ラーラ。何故だ」
「あの騎士団の指揮官アーデルベルト・フォン・イエラルはどさくさに紛れてソフィアを殺そうとしているよ」
「なんだって!」
「さっき側近とそう話していたからね」
これは私達が中央へ行ってっていう訳にもいかないね。私も狙われているのか。
私がノーラの方を見ると首を横に振った。これはまた刀は出して貰えそうにないね。
「わたしそこまで嫌われているの? 確かイエルフェスタの貴族だよね」
「ソフィアがいれば領地も繁栄するのに。でもそれと比較される方からしたら邪魔な存在なんだよ」
「比較なんかしないし今後イエルフェスタとは力を合わせる予定ですよ」
「多分それも面白くないんだと思うよ」
「ソフィア様。あの騎士団の指揮官アーデルベルト・フォン・イエラルはイエルフェスタの領主の弟で騎士団でもそう功績は立てていないが子爵様本人で爵位の立場上指揮官の一人なんだ。ルントシュテットにも密偵を寄越していたしあまりいい噂は聞かないな」
「あの指揮官アーデルベルトを倒すしかないのではありませんか? ソフィア様。わたしかビアンカなら剛弓であの付近に炸裂弾を撃てば制圧可能だと思います」
「カーマイン。ちょっと待ってくださいね。炸裂弾では他にも被害が出ますしご本人の命も危ないです。できれば被害が及ばずに納められるのであればそれに越したことはありません」
「・・・はい」
「では国王様に伝わるようにして国王様から止めて頂ければ良いのですよね」
「そうだが我々はわたしに連絡可能なマルクだけで尖塔師は連れて来ていないぞ」
「ピシュナイゼルでもこちらも外に出られないとなると中央への連絡は難しいな」
「ではわたくしが中央のルントシュテットの館に連絡します。叔父様、今誰か来ていますか?」
「丁度フォルカーが来ているはずだ」
「判りました」
~バルバリーベラ・オス~
『フォルカーさん。ソフィアです』
『ソフィア姫様。今どちらからでしょうか?』
『今ピシュナイゼルのクルツバッハ伯爵様の館にいます。火魔法使いをわたし達が保護したのですが多数の中央の騎士団に館を囲まれて身動きが出来ません。国王様にこの事を伝えて頂いて騎士団を引かせて頂くように伝えてください。そして国王様には後で火魔法を披露しますとお伝えください』
『はっ。王城の尖塔師に連絡し直ちに対処致します』
『お願いしますね。それでは』
「クルツバッハ伯爵様、マクシミリアン叔父様。今ルントシュテットの尖塔師に対処をお願いしました」
「ここから直接?」
「はい」
「そうか。フォルカーなら中央の尖塔師を良く知っているから直ぐに対処が出来るだろう。暫く待ってみよう」
・・・。
「ソフィア」
「何? ラーラ」
「今、騎士達に国王様から連絡が来たみたいだよ」
「良かった~。意外に早かったね」
「えーっ!!」
「どうしたのラーラ」
「大変だ。今指揮官のアーデルベルトが尖塔師を切り殺したよ」
「えー!!」
「多分これ無理やり攻めて来るんじゃない!」
「姫様。わたしとビアンカにご命令をお願いします」
これはイエラル卿は流石にダメだね。
このままだと、、、。
クラウディア様がいきなり私に跪き胸に手を当てて言った。
「わたくしは孤児達を保護する時より見せて頂きました。
女神様が奴らを傷つけぬようここまで御心を砕いて頂いているのに、あのような悪しき心を許す事は出来ません。
わたくしにあの者に鉄槌を下す事をお許し下さい」
えっ!? 女神様って、クラウディア様は一体何を、、、。
伯爵様と間違えてこれ私に確認してるんだよね。
クルツバッハ伯爵!?
クルツバッハ伯爵が私の方を見て頷いた。えー、これ私なの!
「ゆ、許します」
フォン。
この瞬間、クラウディア様が仄かに赤く光ったように見えた。
クラウディア様の額に何かの紋様か浮かんだ。何これ、神的魔法か何か?
「クラウディア。緋の槍を使え!」
「はい!」
クラウディア様は壁に飾られていた赤い槍を掴むとそのままドアの外に飛び出した。
クラウディア様が大声で叫ぶ。
「イエラル卿! 国王様の命に叛くとはご乱心か! 卿の部下は許しても女神様は見ているぞ!」
「な、何故其方らに判ったのだ。ええい、あの者とルントシュテットの小娘を切り捨てよ!」
クラウディアが身体の前で赤い槍を天に捧げるように持ち上げた。
『~マレウス・デイ~』
フォン!
赤い槍が仄かに光りクラウディア様1人で騎士団へ向かって走り出した。
「カーマイン、ビアンカ。普通の矢でクラウディア様の援護を!」
「「はっ」」
かなり距離があるからきちんと当たるか心配だね。
『ソミア。矢を見て『ティール』と唱え当たる場所を違うことなく示せ』
ドミロス神様かな?
『はい!』
矢を導く事が出来るの?
カーマインとビアンカが二つの窓を少し開け身体強化と明鏡止水を掛けたまま強弓を引き息を揃える。
「ビアンカ。行くぞ!」
「はい!」
「「はっ!」」
シューン。
『~ティール! ティール!~』
私は護衛二人の肩を二度指し示した。
二つ飛んだ矢が私の思った場所、護衛の人の肩を貫いた。
ドシュ。ドシュ。
護衛達が剣を落とした。あんなに遠くに本当に当たったよ。
カーマインとビアンカが館のドアを開け外に飛び出し剣を抜いた。
私達もそれに続いた。
ダダダダッ!
指揮官のアーデルベルトへ向かってクラウディア様が物凄いジャンプをした。
まるで鉄格子の門を飛び越えそうだ。
『~ポエナ ディビーナ~』
そのまま空中で槍投げの選手のように赤い槍を投げた。
ズワッ!
燃えるように赤い槍が一直線に飛んで行き甲冑を着た指揮官を襲う。
指揮官アーデルベルトの左足に深々と槍が刺さると同時に雷鳴が響き渡り赤い槍に落ちた。
ズガッ!
ピシッ、ドーン。
『インペラートル!!』(指揮官殿!)
クルツバッハ伯爵が声をあげたけど気を失っていて指揮官アーデルベルトの足はそのまま地面に串刺しで動かない。
「副官はいるか! いや全ての中央の騎士達よ聞け。其方らは国王様の命に背こうとしている。このまま反逆者となれば只ではすまさんぞ!」
クルツバッハ伯爵が大声で騎士達に声を上げた。
近くにいた騎士達も何が起きているのか良く把握出来ていないようだ。
尖塔師が指揮官に切られ指揮官は足が地面に串刺しで動かない。生きてるかな? 護衛達二人の両肩には弓が深々と刺さっている。かなり異常な事態だよね。
イエラル卿の側近が大声をあげる。
「くっ!! 何をしている! 早くその子供を殺せ!」
「其方らの命は火魔法使いの保護であろう。それは既にルントシュテットが保護している。それとも他領の貴族を害する事が目的か!」
殆どの騎士達が戸惑っていた。クルツバッハ伯爵の言葉には力強い説得力があった。
「中央の騎士らよ。もう判ったであろう。剣をしまえ!」
全ての騎士団の者達が剣をしまった。
「その側近を拘束せよ。罪なき尖塔師にまで手を掛けるとは。イエラル卿は神罰を身体に刻め!」
クルツバッハ伯爵が指揮官アーデルベルトの脚に刺さった槍を抜く。
ズビュ。
意識はないが血が吹き出した。
「マクシミリアン様。この尖塔師はまだ息があります」
「叔父様。わたくしが」
「ここでは不味いぞ!」
「騎士団全員に後ろを向いて貰ってください」
「判った」
「騎士団の者達全員こちらを見ずに後ろを向け! さすればこの尖塔師は助かるやもしれん! 早くしろ!」
ザッ、ザッ!
騎士団が叔父様の命礼を聞いて後ろを向いた。
~エルクルフルト クルリトン クレステペタル~
ブワン!
ソフィアの掌が白く輝き切られた尖塔師の傷がくっついていく。
クルツバッハ伯爵とクラウディアが詳細に見つめた。
クラウディアが呟く。
『ヴェルム デアム、、、』
うっ、それ本物の女神様の事だよね。
な、なんかへんな言葉がクラウディア様の方から聞こえたような気がするけど、きっと気のせいだ。
傷の治癒の感覚が掌に伝わり尖塔師は大丈夫そうだ。
ついでにイエラル卿の脚も治した。これ生きてるよね。
「騎士団の者達全員もう良いぞ! 尖塔師は無事だ。血を失っているから休ませるように」
「国王様にはわたくしの方からご連絡させて頂きました。この指揮官に関してはこちらで中央まで連行させて頂きます。どなたかお一人付き添いをお願いします」
「わたくしが参ります。ハンス=ユルゲン・フォン・アルニム、副官であります」
「副官さんは騎士団を率いて貰わないといけないのではありませんか?」
「もう一人副官がおります」
「判りました。ではお願いします」
「叔父様。クラウディア様は、、、」
「確かカムナギとか言う特別な女だ。恐らくピシュナイゼルに伝わる一種の神の使徒だろう」
「神の使徒!?」
今は判らないけどこんな凄い人はこっちでも見た事がないよ。
赤い槍が刺さった時も雷が落ちてたからね。本当に神様の怒りに触れた神罰を執行してくれたみたいだったよ。
でも神様ってこんな人の細かなやり取りまで気にする程暇な、、、いやお時間があるのだろうか?
これだけの人数だと中央へ戻るにもちょっと蒸気自動車の定員人数をオーバーしちゃうかな。
後2台くらい蒸気自動車が欲しいね。
「叔父様。蒸気自動車が足りないようなのでフォルカーさんに廻して貰えるようにお願いしますね」
「判った。もうあまり運転出来るのものがいないな。ラスティーネくらいか?」
ビクッ!
ん? マルテとノーラがなんかおかしい。
ノーラは汗が吹き出し顔が真っ青になってフラフラして倒れそうだ。
『お、おじいさま、そんな所に。わたしも今直ぐに、、、』
マルテが変な事を呟き出した。マルテのおじいさまってもう亡くなってるよね。
あっ、いや、そうだった。
確かにラスティーネ様のあの運転はちょっとトラウマになってる人もいるから別の人でお願いしよう。
フェリックス達が丁度中央にいたよ。なんとなく私も命拾いした感じがするw。
◇◇◇◇◇
「では今はダメなのね」
いや、いきなりだけどどういう状況かと言うとお家にいたんだけど私と美鈴先生が殆ど拉致同然に美麗のホテルに招かれたところだよ。引き抜きの話だね。
「ご返事させて頂いた通りです」
「そう。貴方がお金には靡かない事は判っているわ。大切なのに。今は諦めるけど、将来気が変わったらいつでも言って頂戴ね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
いやー、美鈴先生ってこういう話出来るんだね。って失礼なw。
美鈴先生の引き抜きの話は思いきり美麗が関わってたよ。
「二人共、もしも片神無グループに行くならその前に必ず教えて欲しいの」
「はい」
「約束ですよ。その約束の代わりにあなたの研究室にわたくしのポケットマネーから少し寄付させて頂くわ」
「えっ、そ、そんなの結構です」
「いえ、ダメよ。貴方は研究ばかりでまだお金の大切さが判らないのよ。この先大規模な実験や研究がしたければ必ずお金が必要になるから今回は理解して頂戴」
「判りました」
あー。美鈴先生、これで片神無グループに行くという道は殆どなくなっちゃうじゃんか。まあ後でお話しよう。
「それに夢美」
「はい?」
なんで私も?
「中等部2年の神功 任那には気を付けて頂戴」
「えっ! なんで?」
「片神無の重要な取締役の娘、つまり片神無側の特別な女だからよ」
「この前、歴史研究会に入って一緒に歴史の討論したばかりだよ」
結構上からの人だけど日本の歴史も詳しいし古文書も読める凄い人だったけど、、、。
「知っているわ。だからよ。そもそも片神無の関係者がうちに来るのは想定外なのよ。わたくしも時間が取れ次第歴史研究会に入るわ」
「美麗も?」
「ええ、そう顔は出せないけどわたくしが入れば仮のものでなく正式に部にするわね」
「はぇー。そんな事が出来るんだね」
このお嬢様。いや確かに清廉は西園寺グループの私立だけど部としてのルール無用のこういうの出来ちゃうんだね。でも正式に部になれば予算もあるし本も買えるねw。
さすが美麗お嬢様。
いや、美麗が入部ね。
美鈴先生は真面目なので誠実に美麗に対応したのだろうけど私からもう片神無の方へそのまま行きづらくされてる事を指摘すると『あっ、そうだね』って笑ってたよ。もう研究ばっかだからこういうのはあまり得意じゃないのかもだね。私が見ておかないとw。
美鈴先生の研究室への西園寺グループからの寄付は数億円だったそうで年間の研究費の数十倍だったらしい。
美麗のポケットは相当大きいんだね。はぁ。
私からしたら、いや誰が見ても美麗が特別な女だよ。