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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第一部 第一章 美味しい夢
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見てるだけ

 それにしてもあっちのウルリヒお兄さまには申し訳ない事をしたと思う。

 勝手に私が蛇に驚いて大怪我をして随分とお兄さまも驚いただろうし、クルトとカリーナはちゃんと夕食を作ってお兄さま達に出してくれただろうか?


 日本の私も情けない運動神経だけど、あっちの私はまだ幼女で、もう少し身体が上手く動けて運動神経が良ければあんな事にはならなかったのかと思う。

 でも私もびっくりして咄嗟には出てこなかったけど学校で習った圧迫止血法もマルテが出来るとは思わなかったよ。多分あっちの私もあれで大丈夫だと思う。とっても痛かったけどね。


 でもこっちのお母さんも驚いたよね。ベッドで寝てた娘が足に大怪我してたんだから。言い訳は思い付かないけど後でちゃんと謝っておこう。

 お休みして暇だった私はネットや百科事典で思い付く限りの事をヒントに夢の中の幼い私の世界が何処の国なのかを調べた。あれだと時代も絶対に過去だよね。


 ない、ない、ない。似てるけど違う、ない。


 結局判らなかったよ。もっと詳しく夢の中の色々なことを知ればわかるのかも知れない。


 沢さんがフルーツの缶詰から桃を出してくれて久しぶりに食べたら美味しかった。でも身体の中とかに異常がある訳じゃないから普通のご飯も食べられそうだけどね。この美味しいフルーツは病人の特権だよね。


 夕食は母もいるけど歩かなくていいように私の部屋へ沢さんが持って来てくれた。私の脇に座りベッドテーブルに綺麗に並べてくれた。これ、こうやって寝ながらも使えるから便利だよ。

 今日は鳥の照り焼きと母の好きなお刺身もある。

「沢さん、この照り焼きでみりんがない時は何か代わりになるものってありますか?」

「そうですね。お酒に砂糖を入れたりすると代りになりますよ。大体3:1くらいですね。でもはちみつの方が焼いた時に照りが良く出るからおすすめです。はちみつは糖度が高いから3:0.8くらいでしょうか?」

 おお、みりんの代わり出来そうだよ。

 でも肝心のお醤油がどうにもならない。


 沢さんが小皿に袋から薄茶色の粉を出した。


「沢さん、この粉はなんですか?」

「ああ、これは醤油なんですよ」

「醤油?」

「醤油は直ぐに酸化して味が落ちちゃうでしょ? いつも少ししか買わないから無くなった時の為に粉の醤油を置いてあるんですよ。水に溶かすと醤油になるのよ。今日は粉なの。ごめんなさいね」


 私は沢さんが水差しからお水を入れる前に粉の小皿を手に取って舐めてみた。沢さんが水差しの手を止める。なんかコクがあって確かにしょっぱいお醤油の味だ。


「粉をそのまま口に入れたら口の中がしょっぱくて黒くなっちゃいますよ」


 口の中が黒くなっちゃう?


 はっ! こ、このコク、これサーヤの実だ!


 多分あの粉がしょっぱければお醤油の味だよ。私は自分の記憶の中から何かが繋がったようにとても興奮した。ウルリヒお兄さまが「頭のいい鳥が食べる」と言ってたけど、あのままでは味が薄いけどいい栄養素で出来ている可能性も高いよね。元々木の実だから塩分は無いだろうけど植物性タンパク質も含まれているはず。

 もしもサーヤの実がお醤油として使えれば私レパートリーめっちゃ増えちゃいそう。私はパクパクとご飯を食べて嬉しくて待ちきれないように眠りについた。絶対に気持ち良く直ぐに眠れる自信があった。ふぁ~幸せ。



 まだ、朝になっていないのか薄暗く、ランプの明かりも落とされていた。


「姫様。姫様。目をお覚ましになられたのですね」

「マルテ、、、」


 ずっと起きてついててくれたんだ。


「姫様、まだかなり足がお痛みになるかと思いますが、わたしが姫様の手足となりお仕えしますのでしばらくのご不便と足のお痛みは我慢ください」


 あっ、そうだった。抗生物質と痛み止め飲んだし、もうあんまり痛くなくなってたからこっちの事忘れてたよ。マルテに応急処置してもらってあまりの痛さに気を失ってそのままだった。


「今、白湯をお持ちしますね」


 マルテが部屋のドアを静かに開けて出て行く。

 白湯よりも普通の朝ごはんの方が食べたい。そう言えば日本でも考えたけど昨晩、お兄さまは私の用意したトンカツと唐揚げは食べて貰えただろうか? ケチャップやマヨネーズも使って貰えたかな?

 ケチャップは少し寝かせると美味しくなるって沢さんが言ってたけど、私が砂糖を入れ過ぎたら唐揚げが凄く美味しかったんだよね。


「姫様、白湯です」

「マルテ、私普通の朝ごはんの方が良いのですけど、、、」

「怪我をされている際には刺激物はあまり身体に良くないのですよ。白湯をお飲みになったら足の包帯を交換しますね」


 そういうものなの? 私は自分の小さな足の包帯を見ると日本で見てたのと違ってかなり血だらけだったよ。これ血液を失ってる分、沢山食べなきゃだめじゃない? 栄養ぷり~ず!


 ベッドに座って足を延ばしている私の足の包帯をマルテが「失礼します。痛かったらおっしゃってください」と丁寧にといていく。鎮痛剤が効いているのか全然痛くない。

 包帯がとけるとマルテが止血してくれた血だらけの布が出て来た。

「では交換いたしますね」

 とマルテが布を外す。露出した私の小さな足を見ると一滴の血の跡もなく、傷跡も良く見れば判る程度でなんか見た目にはもう少しすれば治りそうに見えるくらいだ。


「えっ!」


 マルテが固まった。


「マルテのおかげで直ぐに治りそうですよ。マルテ、ありがとう」

「そ、そんな訳はございません。止血したわたくしが一番姫様の傷を覚えています。あんなに酷かったのに今の姫様の足には血の一滴もついていないのですよ」


 うーん、さすがにこれは不味いかな。でもこうなったらもうマルテのおかげで押し通そう。

 

「ですからマルテのおかげできっと傷も綺麗になったのですよ」


「・・・」


 マルテは無言のまま傷に綺麗な当て布をあてがい、さっきまでよりも軽く包帯を巻いてくれた。


「わ、わたしノーラと交代してレオノーレ様に姫様のお目覚めと経過の報告に行ってまいります」

「マルテ、先程『私の手足になってくれる』と言ってましたよね。戻ったらお願いしたい事があるのです」

「かしこまりました」


 なんとなくマルテがうわの空で返事したようだけど一応言質(げんち)はとったよね私。


 ノーラとお話をしていたけど随分とマルテが遅いと思っていたら、お母さまと知らない白い服の女の人とマルテが一緒にやって来た。


「ソフィア、随分と良くなったと聞きましたが、傷を見せて頂いてもよろしいかしら?」

「はい、お母さま。大丈夫です」


 お母さまは白い服の女の人に目配せして白い服の女の人が手際よく包帯を外し当て布を傷口にくっついていないか心配そうにゆっくりと取った。

 白い服の女の人は傷跡を見ると目を大きく開いて直ぐにお母さまの方を見たけど私の方へ向き直り、

「ソフィア様、お痛みの方はいかがですか?」

「はい、まだ少し痛むと思いますけど今は全然痛くありません」

 まだ鎮痛剤が効いていると思う。


 当て布だけ新しいものに交換して包帯をもう一度巻いてくれた。マルテよりもぴっちりと巻いていた。


「このまま数日で歩けるようになるでしょう。それでは大人しくお部屋でお過ごしくださいませ」

「はい」

 この白い服の人はお医者さんだったんだね。松葉杖か車椅子を用意してくれたらもう負担を掛けずに動けると思うんだけど。いや、この幼い身体だと松葉杖はちょっと難しいかも。

 お母さまはお医者さんとマルテをもう一度連れて部屋を出て行った。

 えー、マルテにお願いしたかったんだけど、、、。


 ノーラに私のパンと飲み物をお願いしたら直ぐに持って来てくれた。部屋の外にワゴンがあったようだ。どうやら調理人が言うには『魔法の薬と元』がないと私のお願いするパンや食事はこれ以上作れないのだそうだ。いやいやいや、それただの生イーストと干しキノコの事だよね。いつから魔法になったのよ。


 怪我をしてからまだお父さまやお兄さまとは会ってないし、ユリアーナ先生も講義でこちらには来ないのかなと思ってノーラに聞くと、私のいるこの建物には私と妹のアメリアしか住んでいないので男性は立ち入り禁止なのだそうだ。

 えっ、私妹がいるの?


 初めて知ったよ。聞いたことないし一度も会ってないんだけど、、、。私は驚いたようにノーラを見た。


「アメリア様でしたら間もなく遊びに出られると思いますのでソフィア様と好きなだけ一緒に遊べますよ」


 やったー。妹のアメリアは離乳食や少し動けるようになってから挨拶とかに顔を出すのか。そう言えば私もそうだったよ。日本では兄弟はお兄ちゃん一人しかいないけどここではわたしお姉さんだよ。なんか嬉しい。


 ようやくマルテが戻って来た。もう日が昇って普通に朝食が終わってお勉強を始めるような時間になっていた。


「マルテ、遅かったですね。私の手足として動いてくれるというマルテにお願いがあるのです」

「えっ、わたしですか?」

 アルテはうわの空みたいだったけどこの様子は本当に覚えてなかったよ。

「マルテは先程『手足となりお仕えします』って私に約束したじゃないですか」

「そ、そうでしたね。姫様、何なりとお申し付けください」

「でしたら森へ行って取ってきて欲しいものがあるのですよ。早く行かないと美味しい木の実なんで他の人に取られちゃうでしょ?」

「あの森は全てルントシュテット家の敷地の中ですから誰もそんな事は致しませんよ」

「えっ、でも小さなお家がいくつかありましたけど、、、」

「あれは庭師達のお家です」


 うわぁ、あの大きな森も家の敷地内だったよ。そうだったのか。どんだけ広いんだよわたしん家。じゃあネモフィラの丘もわたしん家か。ウルリヒお兄さまと外に冒険に行っていたと思っていたけど家の敷地内だったよ。

 日本のお家と比べたらもう信じられないくらいだね。


「で、では簡単な地図を描きますからお願いしますね」


 私はサーヤの実のある場所やシイタケのあった倒木、ブドウのあった場所などを簡単に地図に書いてマルテに渡した。


「イグランディウムとウバエそれにフンゴスとサーヤの実を取ってきて欲しいのですよ。美味しいイグランディウムやウバエの木には私の頭くらいの高さに×印をつけてありますからそこからお願いしますね」

 これはクルミと葡萄と椎茸のことだ。マルテには何度もブドウって言ってるからブドウでも通じるんだけどね。干したもはもちろん干しブドウかレーズンそれと干しシイタケだよ。

「姫様、他のものは判りますが、サーヤの実ですか? あれは茶色い粉みたいになって食べても全然美味しくないですよ」


 あはは、マルテも口に入れた事があるんだね。


「はい、それでいいのです。出来るだけ沢山取ってきてください」

「わかりました。わたしが沢山取ってきますから姫様は良い子にしてお休みになっていてください」

「はい」


「ノーラ、その棚にある瓶と干ししいたけを見習い料理人のクルトとカリーナに渡して来てください。それと『お昼はキャーゼウスとラルドゥムのオムレツと鳥の唐揚げをお願いします』と伝えてください」

「はい、それではマルテが出かけております故、護衛騎士のミスリアをドアの内側に立たせます」


 ノーラがドアを開けてミスリアを中に入れた。

 ミスリアが跪いた。

「ソフィア姫様、わたくしは姫様の護衛騎士ミスリア・リバーサイズと申します。ドアの内側へ立つ事をお許しください」


 おお、なんか美人の女騎士さんだよ。私にも護衛騎士さんなんていたんだ。


「許します」


 ミスリアがドアの内側に立ち、ノーラが部屋を出て行った。

 

 しばらくしてノーラが戻って来たけど、やることがないから遊び部屋の絵本を持って来てもらった。

 私はもう基本文字は大体判るから簡単な絵本なら問題なく読めるよ。

 内容は、なんか日本の中二病のラノベみたいに大魔法を使って敵をやっつけたり大きなドラゴンを剣でやっつけたりするようなお話が多い。絵本が中二病ってどうなの? 日本の私も中二くらいになったらそういう病気になるのだろうか?

 私が本を読んでて眠くなり、少しうとうととしてたらマルテが戻って来た。


「姫様、沢山取って来ましたよ。お部屋の外にウバエ、いえブドウも沢山運んでもらいました」

「ありがとうマルテ、本当に沢山取って来てくれたのですね。では一緒に処理しましょう」

「ダメです。姫様はお怪我をされているのですから、わたしとノーラでやります」

「ノーラ」

「はい。姫様は美味しい料理を色々とご存知なのでわたくしも精一杯手伝わせて頂きます」

 

 ノーラもニコニコだったよ。

 

「じゃあマルテ、調理室へ行ってお塩とお酒を貰って来て頂戴」

「姫様、お塩はいいですけどお酒はダメですよ」

「料理に使うのです。白ワインのようなお酒をお願いします」

「白ワインとはなんですか?」

「えーと、葡萄をいえ、ウバエを発酵させたお酒なのですが、皮を剥いたウバエの果汁で作ったものが白ワインでウバエを皮ごと果汁にしたものから作ったものが赤ワインです」

「ウバエを? そんなもの聞いた事がありませんよ。姫様、ウバエを沢山取って来ましたけどこれで作れますか?」


 日本では密造酒は禁止されているけど沢さんに聞いた話では同じくイーストで発酵させれば出来るはずだ。でも私はお酒なんかより美味しいパンを作る為の生イーストを作りたいのだけど、、、。


「ソフィア姫様、是非そのワインというお酒も作りましょう」

 なんなのこのノーラの瞳の輝きは、お酒が好きな人? なんかドアの所でミスリアが祈るように手を組み合わせている。そっちもか!

 日本では勝手にお酒を作るのは違法だけどここは夢の中。みんなが喜んでくれるなら快眠グッズと美味しい料理の次位には頑張ってもいいかな。


「わかりました。やった事がないから上手く出来るかどうかは判りませんがブドウが沢山あるならやってみましょう。まずウバエのジュースを作りますよ」

「姫様はやった事がないのに作り方をご存知なのですか?」


 マルテが私に聞いた後、ハッとしたように口を両手で押さえた。ノーラがマルテを睨む。


「え、えーと、聞いた事があるんですよ。はははは」


 沢さんからちゃんと詳しく聞いてるよ。マルテもそれ以上は聞いてこなかった。


 煮沸した瓶に皮付きの葡萄ジュースと皮なしのジュースを入れ普通にイーストを入れて布の様なもので栓をした。何日か発酵するとガスが出て来るからガスが逃げられる様にするんだよね。


 ワインの仕込みが終わって私はマルテにサーヤの実を取り出して貰い、黒い薄皮をとって白い小皿に粉状に崩してもらった。最初はテストで塩を5~10%位入れてお水を入れてかき混ぜる。

 こ、この匂いはやっぱり醤油の匂いだ。この木の実にはアルコールのような揮発成分とか含まれているのだろうか? 凄くいい香り。白い小皿に生醤油のような綺麗な濃い茶色い液体が出来た。

 私は指を伸ばしてサーヤの実の醤油を指先につけ口に入れた。


 うん! やったよ、これ本当に醤油そのものだ。これなら使う時までクルミみたいに保管出来るから直ぐにダメになったりしないしこれだけあれば相当使えそうだよ。


「マルテ、大成功です。これでとっても美味しい料理が沢山作れますよ」


 マルテが手でぐうを握り『やりましたね姫様』と一緒に喜んでくれた。



 私達は部屋の外まで届いたオムレツと唐揚げの昼食後、マルテが取って来てくれた食材を全部処理した。


 結構大変だったよ。見てるだけの方が疲れたけどとても気持ち良く眠れそうだよ。



 次回、ギルド長にお願いしていた器具が出来てレパートリーか広がりメニューを書き出すソフィア。身内の叔父様と騎士団長の大叔父様が来てソフィアの運命が動き出す。

 お楽しみに。

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