表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第六章 夢の火魔法使い
58/129

ピシュナイゼルへ

 何故かわかりませんが更新が失敗します。以前よりも頻度が高そうですね。

 これは上手く行くといいですね。


 1話が長すぎると言うお話もあるのですがこれ2000文字とかにしてPV稼いでも仕方ないですよね。でも長くなり過ぎないようには注意して行こうかと思いますw。(今だけかもw)


 同時期にルントシュテットでも大問題が発生していますけどそれは別の機会に。

 こちらは中央の事。時は遡り一週間前の国王様がルントシュテットの館に非公式に訪ねた後の話。マクシミリアンに命じられザルツ、カーマイン、ミスリア、ヘルムートのソフィアに近いリバーサイズの面々が火魔法使い確保の為にピシュナイゼルに向かう。

 現地の協力を得て火魔法使いを探すが果たして国王様の捜索よりも早く見つけ出す事は出来るのか?

 ソフィアが出演しないのでソフィア側のみのお話です。


 話は一週間程前に遡る。。。


「なんですと! ソフィア様がそのような事に!?」

「ああ、国王様(レクス)にのせられ思わず言ってしまったのだろうがこの言は取り返しがつかない」


 ソフィアの後を追い、スコーラの屋敷に移動してきたザルツとカーマインがマクシミリアンに呼び出された。ヘルムート、ミスリアも一緒だ。


「私は学生の頃、友人のピシュナイゼルのルートヴィヒ・フォン・クルツバッハ伯爵に火魔法の使い手がピシュナイゼルにいると聞いた事がある」


 カーマインもヘルムートも(いぶか)しげな顔をする。火魔法の使い手が訝しいのかピシュナイゼルに友人がいる事が訝しいのか二人の表情からはわからない。


「ピシュナイゼルにご友人が? ですが、ピシュナイゼルからはルントシュテットに密偵が来ていたのではありませんか」

「そうだな。ルートヴィヒの次女クラウディアが他の者らと共にルントシュテットで情報を集め、今は貴族学院で色々と探っているようだ。目的は予想がつくが、まあシルバタリアのビルムと変わらないと判断して放置をしている」


 カーマインが決意を込めた瞳でマクシミリアンを真っすぐに見つめた。


「で、わたくしはどのようにすればソフィア様のお力になれるのでしょう」

「このソフィア様に近い4名とわたしの執事マルクでピシュナイゼルに出向き、その火魔法使いを国王様(レクス)よりも先に連れて来て欲しい」

「その者はどちらにいるのかお判りですか?」

「判らぬのだ。しかしおそらくピシュナイゼルであってもクルツバッハ辺りまでなら蒸気自動車で行けるだろう。クルツバッハ伯爵にこの紹介状を渡し伯爵に詳しく話を聞いて早めに見つけ出して欲しい」

「マクシミリアン様。お任せ下さい。姫様の蒸気自動車があれば、国のノロマ共に後れを取る事はありますまい」

「ああ、ザルツ殿。もし連れて来れずとも見つかったならマルクが私に連絡出来るから無理はせずに直ぐに連絡が欲しい。こちらから出向こう。時間が合えばソフィア様もお連れしよう」

「了解いたしました」

「では皆、頼んだぞ!」

「「はっ!!」」

「ヘルムート。クルツバッハ伯爵にこの手土産を持って行ってくれないか?」

「畏まりました」


 こうしてこの5人は側使えも伴わずまるで馬の速駆けで戦場へ向かうように蒸気自動車でピシュナイゼルへ急いだ。


◇◇◇◇◇


【グレースフェールとピシュナイゼルの歴史背景~解説~】


 この国グレースフェールの建国は混乱と争いの時代がその始まりである。


 エウロパでの『ラーム帝国崩壊』後、『ガルムル民族大移動』後に見舞われた混乱と争いの時代から始まり支配層は支配の道具として宗教を利用して『教化』を進め民衆を支配する宗教を中心とした社会から始まった。


 その後、勢力毎に争いが起こり弱い勢力は領土を献上し強い勢力が庇護する『支配層の再編』が行われた。


 元々『グレイシー王国』が『フェルメール国』を併合し『グレースフェール帝国』となったが、グレイシー王国の名残で皇帝ではなく国王の地位が現在も使われている。

 ピシュナイゼルの多くの者はフェルメール国の子孫だ。元フェルメールの勢力は解体され、砂漠の拡がる不毛な土地が与えられた。

 グレイシー王国に住んでいたグレスリアンと呼ばれるグレスリア人が9割を超え、フェルメールのアステフェール人、アステリアンはかなり少ない。


 残念な事にグレースフェールでは多くの貴族を始めピシュナイゼルの者を差別する事が少なくない。


 現在は『教会の腐敗』から教会は忌避される事も多く、更に『権力の中央集権化』、『商人の台頭』、『疫病、飢饉の蔓延』などから国には閉塞感がはびこり先のマドグラブルとの戦争で勝ちはしたがまだ国の疲弊が残っている。


 このような閉塞感は新時代の幕開けになる予感とも言えるかもしれないが、ルントシュテットとシルバタリア以外の多くの人にとっては新時代を信じるだけの情報は持ち合わせてはいなかった。


◇◇◇◇◇


 ザルツ達は荒れ果てた地を蒸気自動車で進む。

 多くの難民が集まるエリアも見えたが、この辺りでは砂嵐が頻発し生活はかなり厳しいものだ。特に水が問題である。天幕のような施設では少しは砂が避けられるのかもしれない。


 いくつかの小さなオアシスのような場所で水は手に入るが井戸も水が濁るものが多くお世辞にも清潔な環境とは言えず肺などの感染症で亡くなる方も少なくない。


「随分と厳しい場所だなカーマイン」

「はい、今のルントシュテットと比べてしまうとどうしても、、、」

「マルク殿、まだ進めそうか?」

「はい。この程度でしたら大丈夫です。マクシミリアン様の話ではクルツバッハ伯爵の館までは大丈夫だろうと仰っておりました」

「そうか。しかし緑も少なく道も厳しくなってきたな」

「はい、、、」


 マクシミリアンの話とは異なり砂漠化は以前より広がりクルツバッハ伯爵の館より前で蒸気自動車での移動を諦めた。

 そう遠くはないようだが皆歩かなければならなかった。

 ザルツ達は紹介状を持ちクルツバッハ伯爵の館へ向かった。


 館では直ぐに伯爵のルートヴィヒに取り継がれ、ルントシュテットという言葉を聞くと伯爵本人が出迎えた。

 ルートヴィヒは眼光も鋭く知性が感じられるが冷たい印象がある。

 

「ルントシュテットからか?」

「はい。ルントシュテットのマクシミリアン様からこちらを預かって参りました」

「マクシミリアン? 見せてくれ」


 マクシミリアンからの紹介状には『ルート。友人のよしみで火魔法使いの探索に力を貸して欲しい。姪のソフィア様にピシュナイゼルの火魔法使いをどうしても引き合わせたいのだ。そのソフィア様にピシュナイゼルの苦境を話したら『無償で構わないから民を救って欲しい』と言われたので手土産を持たせた。頼む』という簡単なものだった。


『無償で? 一体何を、、、。フッ、友人のよしみか、、、』

 貴族学院では学年も大きく異なりまるで子供のようだったマクシミリアンが優秀であった事は知っている。公爵家であるのにピシュナイゼルの者に接するにも人目を憚らず良くお茶会にも参加してくれたものだ。確かソフィア様とは噂のヴァルターの幼女を女神様と担ぎ上げていると理解しているが、、、。


 しかし、ルートヴィヒに火魔法使いの探索に協力してやるべき理由は見当たらない。


 ルートヴィヒは今もルントシュテットへ密偵を送っているが、マクシミリアンを使う正攻法もありか? この者らが使えるか? と思いめぐらせる。

 しかしこの無償と言っている手土産も何か判らず、置いて来たという場所まで従者にキャメールム(ラクダのようなもの)に砂ソリを引かせヘルムートと共に取りに行かせた。


「こちらへ」


 残ったザルツ達は応接室に招かれる。


 顔は見た者もいるが話した事はないな。いやピシュナイゼルの者と話したがる者などいないか。

 話からはマクシミリアンより爵位は下だろうが、紹介状によればザルツは引退した男爵家。それ以外の者達は、その男爵令嬢、騎士爵、兵士長だという話だがその身なりは皆兵士のようだ。


「して伯爵様、本当に火魔法使いはおるのですか?」

「ああ、いる。しかし貴殿らでは話す事も捕まえる事も出来まい」

「な、何故ですか」


 フッ。


 ルートヴィヒは口元で笑うだけで答えない。


「ああ、すまない。この水はオアシスの地下水をクァナトで運んだものだから遠慮なく手をつけてもらって構わないぞ」

「は、はい」


 ルートヴィヒは振舞った水を指さして話を逸らした。

 クァナトは地下水路の事で伯爵と言えど飲める水の確保には苦労しているようだ。

 そうこうしているとヘルムートが戻って来た。

 

「クルツバッハ伯爵。こちらでございます」

「ムッ! これは!」


 樽のようなもが運び込まれた。ヘルムートが伯爵にマクシミリアンからの手紙を渡す。


 ~これがルートが欲しがっていたであろうソフィア様に授けて頂いた浄水器だ。ルントシュテットの上水道はこの仕組みを使っている。制作方法もここへ記載する。

 私が『クルツバッハ伯爵にも面子があるだろうからこれまで間諜も見ないふりをしていた。伯爵に話を持ちかけ売ってはどうか?』とソフィア様に進言したが『そんな下らない面子の為に民が苦しむのを見ないふりをするのですか?』と逆に諌められた。すまない直ぐに役立ててくれ~


 !!!


 クックックッ。


 この技術を手に入れる為にどれ程の密偵をルントシュテットへ送った事か。今も娘のクラウディアに探らせていたが、正攻法でマクシミリアンを頼れば良かったのかとルートヴィヒは額に手のひらを当て自分の愚かさを笑った。

 相変わらずマクシミリアンの明晰さには呆れるばかりだと素直に思った。これでこの地の者達が幾人救われるか技術まで教えて貰えばそれは計り知れないだろう。

 ここでも救ってくれたのをソフィア様とするか。


「カイル! 急いで井戸の濁り水を汲んで来てくれ!」

「はい」


 ルートヴィヒの持つ緊張感にザルツ達は息を飲んで待った。


「其方らはこれの使い方が判るか?」


 ミスリアが答える。


「はい、わたくしがソフィア様の様子を見て存じています。上の蓋を開けて水を入れ、下の口をひねれば良いだけです」


 ルートヴィヒがもう一度制作方法を見ると下の蛇口と書いてある部分にはパッキンというゴムなるものも使われているようだ。これらはルントシュテットで普通に買えると書かれていた。


 水が運ばれ浄水器が試された。これは過去の簡易な技術だけでなく勿論ソフィアの設計したもので濁った水もチョロチョロと下の蛇口から出る際には綺麗に飲料に耐えうるものになっている。


 グラスに注ぎ光に照らして水を確かめるとルートヴィヒはそのまま口にした。


「は、伯爵様!」


 他領から運ばれたものを毒見をせずにそのまま口に入れた事にカイルが慌てて声を掛けたが遅かった。


 ゴクリ!


「美味いな。マクシミリアンの奴、、、。どうやらわたしは中々の友人を持っていたようだ。其方らに全面的に協力しよう」

「真でございますか? ありがとうございます」


 ヘルムートが感謝の意を述べた。

 ルートヴィヒとの話し合いが開始された。


◇◇◇◇◇


 ここピシュナイゼルでも緑の残る場所にはいくつかの街がある。民は裕福ではなかったがそれなりの物流もありそれなりの生活をしている。

 しかし人の集まる場所では孤児も多く、ゴミをあさったりわずかな民の恵みを受けたりするがそれでも彼らは常に空腹である。

 時折大道芸のような見世物でお金を稼ぐ事もあるが、街の治安を守る兵士や貴族に見つかれば只では済まされない。そんな中、常に多くのお金を稼ぐのが「火魔法使いサーラ」である。


 サーラは火魔法使いと言われ火魔法を披露する事で多くのお金を得ていたが、兵士や貴族でそれを目にしたものは少ない。

 常に他の孤児達から守られ、兵士や貴族がいない事を確認してから行われるからだ。そして彼らは逃げ足も速い。


「ザック。どう?」

「今日は大丈夫そうだ。でも兵士なんか来てもオイラ達がどうにかするさ」

「じゃあ、やりましょう」

「よし、サーラ。今日も頼んだぜ!」


 燃えやすい案山子のような麦藁で出来た小さな人形が建てられザックの口上で人が集まって来る。


「さぁさ、お立合い。正義の味方、オイラ達の火魔法使いがどんなに悪どい奴らもやっつけてくれるよ。見ないと損するよ。カッコイイと思ったらここに見物料を入れてくんな!」


 大勢の民衆が集まって来た。


 サーラが登場する。


 いつもの黒い手袋をはめ頭には布を蒔き顔が良く見えない程のフードをかぶっている。

 サーラが振りかぶるように少し後ろを向き、フードに手を入れた後、、、。


 シュバッ!

『~イーニス ピーラ!~』


 革の黒い手袋をしたサーラの掌の上で火の玉が燃えた。


 おおー!

 見物客が声を上げた。


『ハッ!』


 サーラは火の玉を勢いよく小さな人形に投げつけそれが人形に当たると人形の半分以上が火まみれになり燃え上がる。


 歓声が上がった!


 わー! わー!

 す、すげえな。

 悪い教会の奴らやお貴族様をやっつけてくれ!


「ありがとうな」


 チャラ、チャラ、チャラ。

 次々と見物料が集まり入れ物に小銭が溜まった。


 遠くからローブを着た四人が見ていた。

 確保するにはかなり邪魔ではあるが集まった民衆の余りの多さに少し驚いていた。


「カーマイン! 間違えない。あれだっ! ヘルムートと後ろへ廻れ。わしがこちら側を抑えるからミスリアが接触してくれ」

「「はっ!」」


 カイルの案内でクルツバッハ伯爵に聞いたアリスレーン地区に身分が判らないようにローブを着てやって来た面々は早くも火魔法使いを見つけ出した。

 伯爵が言っていた通りに火魔法使いは黒い手袋をしてた。


 この込み入った地区で逃げ足の速い孤児だそうだが、身体強化をしているリバーサイズの兵士がそう簡単に引けを取るとは思えない。


「ちょっと貴方。お話があります」


 ザックから丁度サーラに話しかけるミスリアの脇の長剣が見えた。


「はっ!!」

「サーラ、やばい兵士だ! 逃げろ」

「ちくしょうめ!」


 ザックがミスリアに体当たりをした。

 ズガッ!


 ダッ!


「カーマイン。そっちへ逃げたぞ!」

「任せておけ」


 シュバッ!


『~イーニス ピーラ!~』


 サーラが再び掌に火の玉を出現させカーマインに投げつける。

 わずかに避けられずカーマインの脇腹に当たると脇の下から太腿にかけていきなり火が拡がった。


 ブワッ!

「うわっ!」

「カーマインっ!!」


 バサバサバサ!

 ミスリアとヘルムートがカーマインに駆け寄り慌ててフードでなかなか消えない火を消した。


 この隙に人形も見物料も孤児達は持ち去り、火魔法使いにも逃げられた。


 ・・・。


◇◇◇◇◇


 カーマインは右胸の下辺りから太腿にかけてかなりの火傷を負いマルクが包帯を巻いたが火傷の跡は結構酷かった。傷もかなり汚れ水で洗い流してもなかなか落ちなかった。


「カーマインはゆっくりと休んでおれ」

「うくっ! と、取り逃がしまして申し訳ございません」

「まさか、本当にあんな火魔法を使うものがおるとはな」

「なかなか火が消せませんでした」

「ソフィア様がおっしゃるように火が空気に触れないように布を被せてようやく消えました」


「あれは孤児のようでしたね」

「ああ、おそらくどこかに潜んでおろう」

「これはマクシミリアン様に連絡して対処を仰いだ方が良さそうです」


 ザルツ達はソフィアの力になれなかった己の力の無さに沈んだが判断は正しかった。


 直ぐにマクシミリアンに連絡し状況を説明した。


 

 次回:先輩達よりもみすぼらしいプレゼントに渡すタイミングを逸してしまう舞と夢美。

 でもそれは、、、。

 ブロンベルグの牧場の状況と貴族学院の授業が終わりサロンへ戻ったソフィアにマクシミリアンから火魔法使いが見つかったと聞かされる。

 お楽しみに♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ