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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第六章 夢の火魔法使い
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陰キャの活躍

 小学校からの親友の高塚 知佳ちゃんが陸上の公式大会の400m走で優勝した。


 もう少しで新記録だったそうだけど、そのもう少しが難しいそうだ。まだ一年生なのに本当に凄いよ。頑張ったね知佳ちゃん。

 最近あまり連絡を取り合ってなくて大会があった事も知らなくて応援にもいかなかったんだけど何故か私に一番に連絡をしてくれたらしい。


 知佳ちゃんは小6の頃からグングンと背が伸び始めて今では学年でも高身長の部類に入っているスポーツ女子中学生だよ。テニスと陸上やるって聞いた時は絶対に活躍するって思ってたよ。

 私や舞ちゃんはどっちかっていうと陰キャ系だけど、知佳ちゃんは完全に陽キャで凄く明るい性格だ。やっぱ知佳ちゃんみたいな元気な娘が活躍してくれると似合っていて友達として嬉しいよ。


 中学に入ってからはクラスが違って新しいお友達も出来たろうし部活も違うから知佳ちゃんとも舞ちゃんとも少し疎遠になっていたけどもうすぐ知佳ちゃんのお誕生日なので優勝のお祝いを兼ねて舞ちゃんと一緒にプレゼントをしようよって事になったよ。


「わたし達さぁ、お誕生日会にまた呼んでくれるかなぁ」

「新しいお友達も出来たからね。呼ばれなくても後でプレゼントを渡すだけでもいいんじゃないかな」

「そうだね。じゃあ舞ちゃんはどんなのにする?」

「わたしは手芸部で色々と作ってるから知佳ちゃんが好きなクマさんのぬいぐるみを作るよ。優勝おめでとうって刺繍したリボンつけて」

「わぁ、いいなぁ。わたしなんかなんも出来ないからね。どうしよう」

「そんなの気持ちだけでもいいんだって」

「そ、そっかな。じゃあわたしもなんか考えてみるね」

「うん」

「じゃあね」


 舞ちゃんいいなぁ。色々と手芸でやって身についているんだろうなぁ。私ぬいぐるみとか作れないしどうしよう。考えてみれば私ってば学校の成績はそれなりに良くても色々とみんなに任せっきりで自分じゃ何も出来ないよね。


 学校の知識なんか色々と持ってても実際に自分でやってる経験者じゃないとまともな事は何も出来ないって最近良くわかって来たからなぁ。

 利佳子博士も優秀な学生が入って来ても誰も実験一つ出来ないってぼやいてたしね。


 身体強化の魔法も日本じゃ少しは役に立つ事もあったけど、向こうじゃみんな私の立場的に気を使って手を抜いてくれてるし、長くやってると結構疲れるから普段から使う訳にもいかないし、何か作るのも料理も工作も誰にもかなわない。


 気持ちかぁ。まあそうだよね。中学生だからドレス着ないし母に習って綺麗なお花のコサージュっていう訳にもいかないからハイデマリーと相談して小さなコサージュみたいなブローチとかにしようかな。


 私は美鈴先生のお勉強の後、いつもの手芸店に材料を買いに行って夕飯を食べたらさっそく寝る事にしたw。いや、これはハイデマリーに色々と相談して教えてもらうだけであって、決して寝るのが好きでお勉強とかさぼってる訳じゃないよ。ちょっといい訳っぽいけど、、、。むにゃむにゃ。


◇◇◇◇◇

 

「あれれ、姫様。今日は起きるのが早いですね」

「リナ。おはよう」

「おはようございます。姫様」


 しまった。お休みかと思ってたらまだ貴族学院の寮だったよ。曜日も判ってないよ私w。今日はユリアーナ先生のホームルームが残ってたね。

 まあ、いっか。確か今日はシルバタリアのフリッツ伯父様と次女のアンネマリー様とのお茶会があってお昼にはエミリア様も招待している。

 以前からずっとフリッツ伯父様から言われてたけど、冷風機は『忙しい』って自分に言い訳して後回しにしてたからなぁ。自分に対して『忙しい』っていう言い訳でやらないといつまでも出来ない事が良くわかったよ。

 でもアンネマリー様達は新しい計画の私からの要望なんだけどね。

 後はマクシミリアン叔父様が『火魔法使い』のお話をしたいって言ってた位かな。

 そう言えば国王様が連れて来るとか言ってたけど叔父様のお話は私も知りたい。


 朝食の時間になるまでハイデマリーと一緒に小さな花の作り方を二人で考えた。

 まだ私の管理下にいるカリーナとハイデマリーは基本的に何処に行っても私と行動を共にするよ。


 私が説明したイメージと方法をハイデマリーが工夫して実際に絞り染めで染めた布を使うと花の中心と外側が違う色になってとっても綺麗な小さな花が出来たよ。本物のお花みたいだよ。内側が白くて外側が青い布。これってなんだかウルリヒお兄さまと以前に見たネモフィラにそっくりだね。

 これいいね。私はハイデマリーにこの布の縛り方とか染めた際のコツなんかを色々と教わったよ。

 こういうのって実際にやらないと出来ないからね。私も頑張って日本でもやってみようっと。


 朝食を食べてユリアーナ先生のホームルームが簡単に終わった。算学の授業に問題があった事が私達に説明されて来週の授業はお休みになるそうだ。

 レポートしたばっかなのになんかユリアーナ先生動いてくれたんだ。あのおかしな先生の授業を来週は受けないで済むだけでプラスになりそうだよ。でもちょっと早過ぎじゃない?


 先週と同じくお兄さまと一緒にルントシュテットの館まで蒸気自動車で送ってもらう。


 引継ぎや挨拶を色々と行う。

 今週は平日にもブルリアの領主の子供達とお茶会があったりしてたから色々とメモを渡したり説明したりしているようだ。お父さまやマクシミリアン叔父様に伝えないといけない取引きの要望などもあったよね。エミリーもリナもなんか側使えがさまになってるしルイーサとクラーラは、、、あれ? ヘルムートもミスリアもいないね。まあこの二人がいれば平気だけど。


 お父さまやお母さまはもう領地に戻っていて今この館にいるのはマクシミリアン叔父様とお兄さまだけだ。


 まだちょっと時間は早かったけど、シルバタリアのフリッツ伯父様とアンネマリー様が到着して一階のロビーで待っているそうだ。


 私としてはアンネマリー様とだけお話したいんだけど、まあ、そうもいかないよねw。いやフリッツ伯父様ごめんなさい。自分ばっかりじゃダメだよね。

 今日はフリッツ伯父様に冷風機の技術のお話をするのにシルバタリアの技官を連れて来ないで執事のビルムさんを連れて来たようだ。えーと確かちょっと注意しなきゃいけない人だっけ。


 フリッツ伯父様は先週国王様(レクス)への報告に中央に来たままずっと滞在してて私の時間が空くのを待ってたんだよね。流石にこれは対処しないとね。頭いいらしいから質問されたらきちんと答えないとね。


 当時の冷風機(あれ)は適当に作っちゃったけど、実際にはあれから美鈴先生達と色々と話し合った事もあるんだよね。建築付帯設備だろうからって建築の専門家の前島さんに聞くと、実際には建築付帯設備はその専門がまた違うそうだ。それでも詳しくて、最近は建築付帯設備の人と協力して『ZEB』と呼ばれるゼロ・エネルギー・ビルディングというものが流行っているらしい。

 これは出来るだけ電力の使用を減らして自ビルで太陽光パネルの発電を行ってトータルのエネルギー消費を出来るだけゼロにしようという試みだよ。


 実は今の私の知識でも高性能シリコンではなく結構適当で均一でなくても作れる太陽光パネルに使われるようなアモルファスシリコンの小さなものなら作れると思う。まあ電気はかなり必要だけど。

 でも炎上はしたくないんだけど正直な話をしてしまうと、私も美鈴先生も残念ながら太陽光パネルには『反対』なんだよねw。

(なんか私反対ばっかだねw)

 

『ZEB』って運用時だけを切り取って言えばそうなんだろうけど、実際はそれだけではなく太陽光パネルの場合はLCA=ライフサイクルアセスメントと言って全体の消費エネルギーを考えれば作成時にかなり電気が必要なだけでなく十数年しか持たないパネルや10年程度しかもたない高額の蓄電池なんかを使ってたら晴れの日はそれなりとしても天気でダメだし、破棄の際の有害物質も考えたらとても優先して作るべきものではないと思っている。

 これらは美鈴先生と私の新しい本にもとっても詳しく書いているよ。ほらね、炎上しそうでしょ?w

 美鈴先生と私から『これ広まったら人類の黒歴史になりそうですね』とか言われて反論材料が少ない前島さんが小さくなってたよ。ごめんなさい前島さん。ちょっと調子にのっちゃいました。


 まあ、時と場合によっては便利なので、そういう使いかをするものだという認識でその時が来たらやろうかなぁっていうゆるーい優先順位だね。勿論破棄の方法が確立出来たらだけど多分これ忘れるな私。


 でも前島さんから聞いたその『ZEB』の試みの中で、かなり面白いなぁと思う技術がある。まあ技術っていうかやり方なんだけど、、、。


 地下というか地面の中って外が暑い時でも、寒い時でも外気と比較するとかなり温度が安定しているよね。外気が30度を超えても土の中は20度とかになってるし逆にすごく寒くても18度くらいだったりもする。正直、暑い部屋が20度になれば凄く涼しいし、寒い日でも18度ならとても暖かいと感じると思う。


 そう考えると私達は厳しい地表に住むよりも竪穴式住居や横穴式住居に住む方がエネルギー消費は少ないんだから縄文時代万歳って感じだねw。今の欺瞞だらけの『自然エネルギー』って騒いでる人達より縄文人の方がすごくエコだよねw。まあそう言うおかしな大人達の話はこれまでも実際には一切何の役にも立たないから別にどうでもいいんだけどね。


 ファンを使って冷暖房する際には外気を取り込むんだけど、この際のダクトを土の中を長くゴムワイヤーパイプ(本物は塩ビか何かかな? こっちでまだ作れてないものは勘弁して:笑)で通す事によって暑い外気が土の中で一旦冷やされて冷房効率がすごく上がるというものだ。もちろん季節が違えば逆に暖房も効率が上がる。

 水車の為の流れる水辺があるのならそこを通してもいいよね。


 建築付帯設備の空調の基本である喚気回数などは当然部屋の容積から求めていくよ。


 フリッツ伯父様との打ち合わせにはマクシミリアン叔父様も出席して私が簡単に整理した図面と理論を詳しく説明した。土の中が冷たい事はみんな当たり前に知ってたよ。


 シルバタリアは後3ヶ月くらいは暑い日が続くらしく早速試してみたいそうだ。

 水車の力はベアリングシャフトからゴムベルトである程度のシェアは可能で、ダクトをうまく引き回すとかなりの部屋へこの恩恵を伝える事が出来る。虫よけの空気流入口の網(フィルター)や水分の蒸発も簡単な装置で水場からほぼ自動化できるから最初の工事で土を沢山掘り返す必要がある以外は簡単だと思う。メンテナンスもそう手間がかからないよ。

 ほら、消費電力ないから私のこれ『ZEB』じゃんw。

 さらにここに燃焼装置を置いて温めるだけで冬には暖房も出来るよ。


 説明が終わってもビルムさんは何も質問ぜず、フリッツ伯父様はとても感激していた。


「フリッツ伯父様。大変遅くなり申し訳ありませんでした」

「いや、ソフィアが忙しかった事は聞いている。シルバタリアに水田も広がりソフィアには既に様々な恩恵を貰っている。そしてこんなに凄い技術を売って貰えるなら数年待ったかいがあるというものだ」


 シルバタリアでは水田を広めただけでなく塩田の場所を河口近くに変えてミネラル豊富な塩やにがりの制作、ノリの養殖、魚の養殖、各種農業、工業の近代化などをやっていてシルバタリアはルントシュテットの次に好調な領地として今では有名だ。街中にもまだ路線は1つだけど巡回蒸気自動車も走っているんだよ。


「ソフィア様。これは以前よりさらに良くなっているな。うちもこれにしたい」

「マクシミリアン叔父様。写しがありますからこちらをどうぞ♪」

「ありがとうソフィア様。ところで今日は何でアンネマリー様をご指名して呼び出されたんだ?」

「はい、この技術と引き換えにアンネマリー様にお手伝いして欲しい事があるのですよ」


「わ、わたくしにですか? ソフィア様」

「そんなに緊張しないでください。フリッツ伯父様よろしいですか?」

「待ってくれソフィア。冷風機の技術と引き換えというのは大変ありがたいのは事実だ。しかしアンネマリーの話はその手伝いの内容によるだろう」

「それはそうですよね。では少し早いですけどお昼にしましょう」

「わかった」

「そうそう、わたくしお昼にイエルフェスタのエミリア様をご招待しているのですよ。ご一緒にお願いします」


「何! イエルフェスタだと!」

「イエルフェスタの領主の子女ではないか!?」

「フリッツ伯父様もマクシミリアン叔父様も落ち着いてくださいませ。大丈夫ですよ。わたしくの貴族学院でのお友達ですから」

「そ、そうなのか」



 これまで私は色々な美味しい料理を改善して作ってもらって来たけど日本の料理を知っている私からしたら正直まだまだだ。


 前にドラマか映画か忘れちゃったけど中世ヨーロッパの貴族のお茶会の様子が再現されていて、簡単なクッキーのようなお菓子や豪華なフルーツが出されているのを映像で見た事がある。

 いや、その画面に映る葡萄は近年に日本で開発されたもので中世にはなかったと思うけど、まあ画面に突っ込んでも仕方ないよね。


 中世のものは正直興味はないんだけど、こっちの野菜や果物、お肉も日本のものとは違っていて正直あまり美味しくない。

 シルバタリアへ行った際にこっちで初めて見た『ムーザ』というバナナもとても小さくて種が入っているものもある。でもこれが普通で、トマト(リコペルシ)はみんな酸っぱいし(良い言い方で酸味が強いっていうよ)葡萄(ウバエ)は酸っぱいのが多くて苺(クラーシク)も小さいよ。

 味もそこまで美味しい訳ではないんだよね。お城で食べた果物もあまり美味しくなかったんだよ。


 お肉も日本で食べるものとは全然違っていて、少ない飼料で育てても野生のお肉でも霜降りなんて間違っても存在しない。中二病のファンタジーならそんなあり得ない事もあるのかもだけど当たり前にないよ。多分冬眠前の一部の動物や冬を前にした魚なんかだけが少し脂がのっているだけで、筋切りとかしないとまるで硬いゴムみたいで私が食べるのが難しいくらいなんだけど、こういうのって中々実際に食べないと伝わらないかもだね。ダメなら自分で良くするw。


 私の今回の『野望』wとしては、美味しい野菜、美味しい果物、美味しいお肉がこの国で食べられるようにする事だよ。いくら料理が上手でもこれは出来ないからね。

(でも『野望』って確か身の程をわきまえない望みだっけ。まあいいやw)


 シルバタリアのマンゴーみたいにかなり美味しい果物もある。その美味しい果物の地で育ったアンネマリー様。

 むふふふ。ここまで得た情報からアンネマリー様は果物が大好きでしかも恐らくかなり特殊な味覚の敏感さを持っているんだよね。


 実はメイドのケイトもそうなんだけど、人には舌にある味蕾が遺伝子の変異で普通よりも数が多く倍ある人がいるんだよね。とっても細かな味の違いが判る人で辛いものなら感じ方として私達の倍くらい辛いのかもしれないけど、苦手でも食べられない訳じゃない。日本人には意外と多いらしいんだけどよく辛いものが苦手っていう人は結構これだったりもするよ。


 ケイトの事は私も以前から知っていて良く味の相談をしていたし、平民なのにフェルティリトの判定を私の代わりに食べに行って貰っているのもその為だよ。ケイトは野菜が好きで、まあ好みは色々とあるんだけど味覚の感覚の正確さは私が保証するよ。


 アンネマリー様のそれを実証する為に、今日のお昼は私がカールと仕組んだものでw、色んな味付けの小鉢と果物が用意されている。

 伯父様達は別メニューの中華だよ。


 それで微妙な味付けの違いを確認してみる。


「アンネマリー様。私達のこれはちょっとしたお食事のゲームなのですけど、少し食べて頂いて美味しい順に小鉢を並べてみてください」

「はい、面白そうですね。ぱくっ。ぱくっ。えーと、こんな感じですね」

「エミリア様もやってみてください」

「は、はい」

「おお、成程、成程。では甘い順では?」

「甘味なら、、、こうです」

「難しいですね。こうですか?」

「おお、では塩味ならどうでしょうか?」

「それは簡単ですよ。こうです」

「これでお願いします」


 ピンポンピンポン! アンネマリー様は全問正解。

 塩やさとうの量を計ってやってみたけど、私もカールでも微妙に料理に誤魔化されて判らない順もあるのにやっぱアンネマリー様の舌は確かだよ。

 エミリア様は私と同じくらいの普通だねw。


「わたくし、アンネマリー様とエミリア様にお仕事をお願いしたいと思っています」

「はい?」

「お仕事、、、ですか?」


「このウバエ(葡萄)を食べ比べてみてください」


 ぱくっ。ぱくっ。


「甘くてとっても美味しいです。明らかにこっちの大きな方が美味しいですね」

「わ、わたしもこっちです。こんな美味しいウバエは初めて食べました」

「そうでしょう? これは実際には元は同じ品種だったのですけど、ルントシュテットでたまたま出来た大きくて美味しいものを更にそればかりを育てていたらこういった品種になったのですよ」

「美味しいものだけを育てる?」

「はい。それを品種改良といいます。美味しさだけではなくて育ちやすさや実をつける多さ、実の大きさ、病気、暑さ、寒さに強いなんていうのも優れた特性で、そういった優れた品種を作る事を指します」

「「は、はぁ」」


「これには、何回も育てて実を取り、味を確認して、美味しいものをまた種から育てるという本来ならばとても時間のかかることなのですよ。そこで聖女エミリア様の力、そしてアンネマリー様の力、わたくしの知識と合わせて次々と品種改良を進めて、ご自分の領地でそれらを育てて美味しいものを領民のみんなに食べてもらおうという計画です」



 勿論将来結婚する際には幸せな結婚が望ましい。

 でも辺境伯家の次女ともなると明らかに政略結婚のコマだけど貴族だからこれは今は正直仕方のない仕組みだ。これはエミリア様のような領主の長女でも家督を相続でもしない限り同じなんだけど、嫁入り前に私のお母さまのように手に職を持っていて商売が上手くいっていると嫁ぎ先でもかなりの地位を獲得できる。どんな領地であっても安定した収入源はとても力を持つからね。

 

 品種改良にはいくつかの方法がある。

 自然界で突然変異する有用種を選択するもの、有用種同士の交配、放射線などの人為的な突然変異、遺伝子組み換え、ゲノム編集という感じだけど、今は出来ない遺伝子組み換えとゲノム編集、危険な放射線などを除いてもつまり作物が育って実が出来ないと判らないっていうのが問題なんだよね。何世代も選りすぐって実際には数年~数十年かかかって新しい品種を仕上げるのが普通だよ。

 これはとっても大変な作業で気が遠くなりそうな話だ。


 でも、聖女エミリア様、アンネマリー様、ケイト、マンドラゴラのラーラがいれば絶対にもっとずっと早く上手く行くと思う。


 エミリア様もアンネマリー様もご自分のお立場と私が話した意味を正確に理解してもらったようだ。エミリア様は側使えと相談してるけど瞳が輝いて来た。うん、これは行けそうかも。


「各領地の収穫量を増やす農業改革は国王様(レクス)にお約束して頂きました。そこでわたくし達で力を合わせてこの国のみんなに更に美味しい野菜や果物を食べて頂けるように始めませんか? 私が労働の対価としてお賃金をお支払いした上で、私達が開発した品種はご自分の領地で育てる分には無償で全て提供いたします。いかがでしょうか?」


「植物でそんな事が出来るのですか?」

「ビルム様、聖女エミリア様とアンネマリー様がいれば簡単に可能です。エミリア様、アンネマリー様いかがでしょうか?」

「お父さま。わたくしソフィア様とエミリア様と共にもっと美味しい果物を開発したいです」

「ああ、許可しよう。そうさせて頂きなさい。ソフィアの言う事を良く聞いてしっかりと務めを果たすのだぞアンネマリー」

「はい、お父さま」


 よし、これでアンネマリー様は決まりだ。以前はもっと陰キャかと思ってたけど今より子供で恥ずかしがってただけだね。

 陰キャ的にはエミリア様だってちょっと負けてないよ。

 いや、二人共ゴメン。私もだねw。


 エミリア様の力は全領地にっていうのは難しいけど土壌さえきちんと用意すればこういう限定した使い方なら無敵だよ。


「わたくしもソフィア様のお力になりたいし領民の皆に美味しいものを食べてもらいたいです。ですが植物神プランタールム様はこれ以上わたくしの力を使うなとわたくしに申されました。もう一度お話してお許しが得られればご協力させてくださいませ」

「判りました。わたくしからも申し上げておきます」

「えっ、ソ、ソフィア様もプランタールム様のご加護を?」


 し、しまった! 


「ち、地母神ゲー様にですよ」

「そ、そうですか、、、。それと農奴も一人雇っては頂けないでしょうか?」

「そうですね。農業に詳しい方、作業を実際にされる方も必要ですからわたくしからもお願いしたいです」

「判りました。ありがとうございます」


 あれ? そう言えば私にも植物神プランタールム様の加護ってあったね。私お話出来るかな?


「ソフィア様。これはどちらでおやりになるのでしょうか?」

「はい、貴族学院のすぐ近くに場所を用意いたしました。お昼休みにでも行ける近さです。そこにエミリア様が唄いやすいように声が上手く響く音響ホールの形をしたガラス張りの温室を2つ作る予定です。講義の妨げにもなりませんし、週に約2回唄って美味しい果物や野菜を食べるだけの簡単なお仕事ですよ」


「わ、わたくしのような引っ込み思案が、たったそれだけでお賃金を頂くなんて、、、」

「いえ、それはきっちりとしましょうね。マクシミリアン叔父様。いかがでしょうか?」

「本当にこれらの成果が出れば食通の国王様を始め喜ぶ貴族も多いだろう。わたしは大賛成だ。掛けになるかもしれないがわたしが出資したい程だな」

「それではマクシミリアン叔父様も是非出資してくださいませ」

「ソフィア。わたしも頼む」

「はい。フリッツ伯父様もですね。いいですよ」

「ああ、そう言えばケイトとラーラにも手伝って貰う予定です」


 ケイトは平民だけど野菜が好きな味の感覚が優れたメイドだと直ぐに理解してもらったけど、マンドラゴラのラーラの説明にちょっと苦労した。それでも大丈夫だったよ。理性的な人達で助かった。


 よし、行けそうだよ。神様お願いしますね。

 美味しい果物と野菜を日本に負けないように作るからねw。


 色々と計画を立ててお話を進めようとノートにまとめる。

 まあ、お肉はルントシュテットの農業ギルドのホルツさんと始めてるんだけどちょっと贅沢して飼料をエネルギーやたんぱく質豊富な、トウモロコシ、大豆油粕、米糠なんかの濃厚飼料で試しているところだよ。これはまた後でお話出来ると思う。



 ラーラと話すと『進化』だねと難しい言い方を知っていた。ラーラは他の植物との会話が好きみたいで快く協力を約束してくれた。


 忙しく色々とやって疲れて寝ようと微睡むとドロミス神が話しかけて来た。


『ソミア』

『平穏神ドロミス様ですね』

『そうだ。お前が礼拝堂に来ないからわたしがソミアの微睡の時に声を掛けただけだ。地母神ゲーからお話がある』

『わたくし植物神プランタールム様とお話がしたかったのですけど、、、』

『母上の話を聞くのだ』


 母上? 地母神ゲー様はドロミス神のお母さまなのかな。


『ソミア。プランタールムがエミリアに歌を禁じた事は知っています。エミリアはプランタールムの言いつけを破り唄いました』

『そうなのですね。でもエミリア様は飢える領民の為に唄ったのだと思います』

『そうかもしれませんが、プランタールムは怒っているのです。今のイエルフェスタは枯れた土地が広がっています』

『そうだったのですね』

『イエルフェスタに限らずこの大地の生命は人だけではありません。エミリアの加護の力は植物を成長させますがそれは別の言い方をすれば全ての植物を枯らせてしまうことも出来るのです』

『それは確かにそうですね。でも自然の営みの中の一つではありませんか?』

『ソミアが指摘したように、植物達にとっての栄養が足りなければそれは枯れた土地を作りやがて加護を失った砂の地となるでしょう』


 これ砂漠化の事だね。


『わたくしがそうならないようにお力になれると思います!』

『そうですね。わたくしはソミアの試みに反対しているのではありません。ラーラからも植物の声をよく聞き、正しい自然の営みであればエミリアの力を使い豊な自然の営みを進める事は賛成ですよ』

『ありがとうございます』

『プランタールムにはわたくしからエミリアに話すよう伝えましょう。それと困った時には礼拝堂へお祈りに来なさい』

『す、すみません地母神ゲー様』

『それではソミア。健やかな眠りを』

『ありがとうございます』


 ・・・。


◇◇◇◇◇


 これまでにない気持ちいい目覚めだったんだけど、ほんのちょっと困った事が起きた。


「あわわわ、ゆ、夢美ちゃん、()()()()()

「どうしようって言っても美鈴先生が出ればいいんじゃないですか?」

「だ、だよね~。でも陰キャの私が、、、。夢美ちゃんも一緒っていうのは、、、?」

「ありませんよ。わたし中学生なんですから」

「うっ、、、」


 美鈴先生本人すらこれは絶対に売れないって言ってた本をたまたまある有名な作家がSNSで取り上げると、アッと言う間に話題になってデジタル版と文庫版が合わせてミリオンセラーになったというだけなら別にいいんだけど、TVの生出演が決まって美鈴先生がインタビューされる事になったんだよねw。

 一部の方々からは案の定おかしな批判をされて炎上したのも売れた原因だというw。


 インタビューの内容とかは事前に打ち合わせしてマスコミに不都合な話は聞かないのだと思う。

(歴史の教科書もそうだけど、なんかもうこういう大人の事情を聞いて行くと私の性格がひねくれそうだよw。こういうのが大人になって来たとか言うのだったらちょっとイヤだね)


 勿論、私は中学生だからそんなのには出ないよ。TVは嫌いだしw。



 放送当日。間もなく放映時間になる。


「ママ、これ美鈴先生が出るよ」

「ええっ! 本当!? 録画しなくちゃだわね」

「そうだね生出演だからね」


 母はTV録画に慣れているのかリモコンで簡単に録画を始めた。


「本日お越し頂きました川端 美鈴さんです」

「ど、どうも~」


 あちゃー美鈴先生、声が裏返っちゃってるよw。


「川端先生のかなり大胆な書籍『発展の歴史にもしもがあったなら、、、』が人気ですが、こちらはどのようなきっかけでお書きになられたのでしょうか?」


 いやー、いくらマスコミに都合の悪い内容っていっても『かなり大胆』とかあからさまな言い方だね~w。ちょっと受ける~w。


 あれ? 美鈴先生?


「川端先生?」


 ま、不味い。美鈴先生完全に舞い上がっちゃってるよ。


 ~バルバリーベラ・オス~


『美鈴先生っ!』

『えっ、何これ、心の中に、、、夢美ちゃん?』

『美鈴先生。落ち着いてくださいよ。別にとって食べられちゃう訳じゃありませんよ。深呼吸、深呼吸』

『そ、そうだね。ふぅ~。ありがとう』


「私、今共同執筆してもらった中学生の家庭教師をやっているんですよ。その子と歴史的な様々な発展の技術をこうだったらどうなっていたかっていう話を常々していて、前作の陣形の本も、戦で負けた人達はどの時点でどうすれば勝てたのかって討論している際に書いたものです。今回の発明を集めたものは、今行政で行われている環境アセスにも問題点が多くて、、、」


 おお、なんか大丈夫そうだよ。一度話し出せば美鈴先生は頭いいから平気だね。でも正論で行政の批判の話の方に行っちゃテレビ的にダメだよ~w。でも話し出せて良かった。


 私も美鈴先生もSNSとか内輪でしかやってないけど、やってたらあのアンチとか言う人達から炎上してるかもしれないね。私は事実にしか興味ないけどw。


「夢美。これ、あなたの事を話してるんじゃないの?」

「そうみたいだね。あの本、私と共著なんだよ」

「まあ、なんで言わないのよ。今日はごちそうにしなきゃね。沢さん! 沢さん!」


 ・・・。


 いや、このネット社会でTVとかどうでもいいけど、うちの母みたいなTV世代の人達にとってはなんか違うのかもしれないね。多分本の内容とかじゃなくてそっちなんだろうけど、まあ、少しは付き合ってあげるか。


 この晩、父も母からの連絡で早く帰ってきて、豪華な食事とケーキを食べながら美鈴先生の出演番組のビデオを2回も見せられたよw。


 でも、母はこの本のタイトルをまだ覚えていない。まあそんなもんだねw。


 でも、沢さんのごちそうとケーキがあったからいいや。うまうま。


  

 次回:時は遡り一週間前の国王様がルントシュテットの館に非公式に訪ねた後の話。マクシミリアンに命じられザルツ、カーマイン、ミスリア、ヘルムートのリバーサイズの面々が火魔法使い確保の為にピシュナイゼルに向かう。

 現地の協力を得て火魔法使いを探すが果たして国王様よりも先に見つけ出す事は出来るのか?

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