お願いします!
礼拝堂でのお祈りで神の声を聞くソフィア。
日本では夢美がマジ泣き!?
国王様のお話が終わったので私はお兄さまとユリアーナ先生と王室の馬車に乗って貴族学院へ向かった。今度は歌は浮かんで来ないよw。
この馬車には騎士団が並走しているから側使えや護衛達は歩きで戻る。
っていうかこの辺りは道がいいから走りだね。
ゴトゴトゴト。
王城の門で王室、つまり中央の獅子の紋章の入った馬車とすれ違った。窓を見るとリーゼロッテ王女様が険しい顔をして正面を向いていた。ササッ。私は咄嗟に窓から離れて隠れちゃったよ。
昨日の陰険な顔とはちょっとだけ違うけど似たようなものだね。w
「ソフィア様。どうされたのですか?」
「今、リーゼロッテ王女様が馬車で王城へ向かっていました」
「まだ授業はあるのにおかしいですね。でも何故お隠れに?」
「な、なんとなくです。。。」
「なんとなくですか? ソフィア様。まさか王女様と昨日のお茶会で何かあったりしてませんよね」
ギ、ギクッ!!
「ウルリヒ様」
ウルリヒお兄さまも少しやばそうな顔をしている。まあ黙っててもしょうがないよね。
私は思い出すのも面倒だけど覚えている事をユリアーナ先生にお話した。
・・・。
「リーゼロッテ王女様を怒らせたですって!!」
「ユリアーナ先生。いやー、だって全部私がやったって言って良いとは聞いてませんよ。だから貴方が作ったのですかと聞かれて『どうでしょうねー』って誤魔化しただけですよ」
「それはそうですが、言い方っ!!」
だって凄いイヤな人だったんだもん。
「お兄さまは不用意にもケーキスタンドもケーキもわたくしが作ったと本当の事を言ってしまいましたけど信じて貰えなかったと思いますから大丈夫ですよ」
「す、すまないソフィア」
「ソフィア様の事はマクシミリアン様の案で今のところ女神様と噂にしているだけで、逆に誰も信じないという心理を利用しているのです。中央では国王様や宰相様など数名にしか本当の事は明かされておりません」
「国王様との昨日のお話もあるでしょうから後でお父さまと認識を合わせなければなりませんね。でも国王様からご家族には直ぐにバレてしまうのではないですか?」
「魔法契約ですからそれはないと思います。ソフィア様の本当の事を知られればソフィア様の身がかなり危険です。国王様はそんな愚かなご判断はなさらないでしょう」
「えっ!」
「ソフィア。わたしの考えが足りなかった。本当にすまなかった。わたしが必ず護るから」
「いえ、お兄さま。大丈夫ですよ。でも逆にそうなると嫌がらせくらいは有りそうですね」
「ええ、その通りです。第二王妃のアドリアーヌ様のご子息カーティス王子は大丈夫と思われますが、第一王妃ゲートルード様のご息女リーゼロッテ第三王女にはお気をつけください」
「ユリアーナ先生。他に注意すべき方も教えてください」
「いくつかの領地の貴族が問題です。ラグレシアのメレンドルフ伯爵、イエルフェスタのイエラル子爵、オレアンジェスのサクレール侯爵の密偵がルントシュテットで確認されています。直接貴族学院の中で事件を起こすような事になればおとりつぶしは免れませんから学院内は比較的安全と思われますが、外では別です。側使えや護衛達にもお話ください」
「「はい!」」
そんなに、、、。先生達も各領地から来ているから王女様、ラグレシア、イエルフェスタ、オレアンジェスは気を付けるって覚えておけばいいよね。
この後、ラーラの事をユリアーナ先生に話すとマクシミリアン叔父様のように驚くかと思ったけど、反応はそうじゃなくて、目を輝かせて『研究させて欲しい!』と大変だったよ。
ラーラはユリアーナ先生に渡しちゃいけない事が良く判ったよw。
お兄さまとユリアーナ先生、私の側使えや護衛達が王城から走って追いついて来たよ。
貴族学院前の門へ着くとミスリアやノーラ達もいた。
私はお兄さまに手を預けて馬車を降りた。
「それでは我々はここで」
「はい。ご苦労様でした」
騎士団と馬車が帰って行く。
「みんなどうしたんですか?」
「姫様が王城へ連れて行かれたとクルトから聞いて向かおうとしたら馬車が見えたのです」
「大丈夫ですよ、マルテ。国王様とのお話も無事に終わりました」
「ソフィア様が国王様とお話になられたのですか?」
「そうですよノーラ」
「ご、ご苦労様でした」
「週末には館の方に戻りますからみんなは心配しないで自分の仕事を進めてくださいませ」
「「はい」」
「心配してくれてありがとう」
「「はっ」」
もう、マルテ達は心配症だな。でもなんか嬉しいかも。
「では、ウルリヒ様、ソフィア様は昼食後に午後の授業に出てください。授業が終わったらソフィア様はリナ、マティーカ、クラーラとご一緒に魔法学の補講がありますのでヘルマン先生の所へ向かってください」
「はい」
補講かぁ。リナ達は走って来たのでまだはぁはぁ言ってた。
時間があまりなかったのでリナ達と素早くお昼にした。
食事は寮では一緒に学ぶルントシュテットの生徒達が一緒だからなんかこういう大勢で食べるのって少し楽しいかもだよ。日本ではお弁当だからね。
私は私達が出なかった午前の授業がどんなのだったか少しだけ話を聞いた。『礼拝堂でお祈りして先生に報告』しただけだそうだ。そこまで遅れてはないね。
私の食事が終わると、かなりの数の生徒が(主に上級生だけど)私に挨拶に来たよ。
みんな瞳がすごく輝いている。貴族だからかこういうのは日本の同年代とはまったく違う信念や志を持ち合わせているのが良く判る。もちろん私は安眠こそが望みだけど、日本のように誰かが作った平和というぬるま湯的な社会で、まるで戦争から目を逸らすようなのとは違う気持ちを感じた。どっちがいいとは今は考えられないけど、色々な戦争も身近に知って死も見てくると今は人としてこっちの方がより人間らしく思えたよ。
でも、、、いやいやいや、多すぎて直ぐには覚えられないから。同じクラスになる同級生すらまだ覚えてないからね。
同級生達と午後の授業へ向かった。
今日の午後の授業は国文学の授業で『古い国王様の物語』だった。
国文学はなんと教頭先生のゲルゾーン先生が教えてくれる。スカーフの色はバーミリオンより暗く赤いから確か注意しなければいけないラグレシア領の先生だね。
先生が概略を説明した後、生徒が順番に読んで行く。話が遅かったので物語の年表と人間関係をニューラルネットワークのようにノートに記載してポイントになりそうなイベントをリスト化したよ。
関係は太さと矢印で表してみた。つまり方向性のあるニューラルネットワーク関係だねw。
昔の国王様のお話なのでかなり盛ってあって、ちょっと中二病が入っていたかもだよw。
わたしも順番に音読したけど長い授業が鐘の音と共に終わった。
「姫様。今日はまだ終わりじゃなくてヘルマン先生の所へ行くのです」
「そうでしたね。マティーカ、クラーラ。行きますよ」
「「はい」」
「今日の古い国王様の物語はちょっと判らないところがあったのです」
「じゃあリナ。終わったらサロンで一緒に確認しましょう」
「ソフィア様。わ、わたくしもよろしいでしょうか?」
「もちろんクラーラもいいですよ」
「ソフィア様。お付き合いします」
「はい。じゃあみんなで復習しましょうね」
ヘルマン先生の部屋をリナがノックした。
『どうぞ』
「失礼します」
「ああ、ルントシュテットの生徒だね」
ヘルマン先生はスカーフが青だからブルリアの人だね。
「はい。国王様に呼ばれて出席出来なかった4名。参りました」
「では、礼拝堂に行ってお祈りして神の声が聞こえたら一人ずつわたしの所へ来て神の名を教えてください。時間が掛かる事もありますが補講はそれだけです」
「判りました。では行ってまいります」
礼拝堂へ行くとシスターだというベティーさんがいた。ベティーさんはここの礼拝堂で教育に携わっているから修道女さんではなくシスターさんだね。
お祈りの仕方を丁寧に教えてくれる。神様への問いかけは心の中で行い自然と聞こえて来るという。
なんかとても超常現象的なお話だね。もしかして神様の声が聞こえなかったら聞こえるまでずっと祈るのかな? さっきヘルマン先生が『時間が掛かる事もある』って言ってたけどこれエンドレスもあり得るよね。どうするんだろ。もう神様に早くってお願いするしかないねw。
私達はそれぞれお祈りを始めた。
『お願いします!』
神様、なんとか早く声を聴かせて!w
『ソミア、ドロミスだ』
やっぱりあの声は神様だったのか。
『お待ちなさいドロミス。わたくしがお話します』
はいっ? 誰?
『ソミア。わたくしは原初の神、地母神ゲーです』
『地母神ゲー様。わたくしはソフィアという名で、ソミアと以前からドロミス様も間違えています』
『我々が貴方を認識した名がソミア=夢なので間違っていないでしょう』
夢? そうかソミアってこっちだと『夢』の事だからね。それってもしかして『夢美』の夢かな。
『貴方が異界で幼かった頃、長い眠りについていたドロミスを覚醒させました。その後そのお礼にとドロミスが貴方の為に幾人かの神々を目覚めさせ、貴方に力を貸しています。長い眠りについていた神々が目覚めたのは貴方のお陰なのでわたくしは感謝をしているのですよ』
ま、まずいな。これちょっと記憶にないよ。あの日本の子供の頃の記憶が曖昧な時のかな。
わっ!! 日本の幼い私が穴に落ちた時の映像が頭に浮かんだよ。
えっ! 血っ! 血がいっぱい出てるよ。これ死にそうじゃない?
『思い出しましたか?』
『い、いえ。すみません』
『いずれ時が来れば思い出すでしょう』
『地母神ゲー様。今日はわたくしはお祈りをしてご加護を頂いている神様とお話し、その御名を確認しなければなりません』
『まあ、それは大変ですね。何故なら貴方にはかなりの数がいるからです。覚えるのは大変ですが、、、』
『では、ノートにメモをしてもいいでしょうか?』
『はい。では多すぎるので私が神の名を紹介しましょう。良いですか?』
『はい。お願いします』
私はノートを開いてメモの準備をした。万年筆が出来たからここでも書けるんだよ。
わたくし地母神ゲー、天神ウーラノス、奈落神タルタールス、恋愛神エロース、山の女神レアー、海神オーケアヌス、天極神コイオス、天雄羊神クレイオス、太陽神ヒュペリーオーン、異民族神イーアペイトス、農耕神クローノス、輝神テイヤー、法掟神テミス、記憶神メモシン、光明神ポイベー、海泉神テテュス、英知神メティス、天空神ディオネ、先考神プロメテウス、後考神エピメテウス、支持神アトラース、狩猟貞潔神フィービー、・・・・・・
平穏神ドロミス、軍神ベッリ、豊穣神フェルティリタス、植物神プランタールム。
『この48の神々が貴方に加護を与えています』
多いよ。めっちゃ多いけどこれ普通なのかな。
『地母神ゲー様。ありがとうございました。おかげさまで全部書けました』
『はい。迷ったら礼拝堂へおいでなさい。わたくしか誰かが答えるでしょう』
『ありがとうございます。それでは失礼します』
『ソミア。またお話しましょう』
いや~、結構長くお話しちゃったね。
私は目を開けお祈りのポーズを辞めてベティーさんに終わったとお話した。
「えっ、貴方、今、手を合わせて一瞬ですよ。もうお話されたのですか?」
はぁ? だってあんなに沢山地母神ゲーとお話したよね。
あっ!! 私、目を閉じて手を組んでお祈りしてるのにメモなんて出来る訳ないじゃんか?
私は慌ててノートを見ると、神々の名前が全部書かれていた。
どゆこと?
「はい、お話したようです」
「そ、そうですか。ではお祈りは終わりです」
「はい。それではわたくしは側使え達が終わるのを待ちますね」
「判りました」
私が暫く待つとマティーカがお祈りを終え、クラーラも終えたけどリナがまだお祈りをしていた。
その後20分くらい待つとリナもお祈りを終えた。
「皆さんはとてもお祈りを終えるのが早いですね。大変結構でした。ご苦労様」
「はい。ありがとうございました」
これ結構時間が掛かったと思うんだけど、、、。
ちょっと意味は判らないけどシスターさんから『大変結構』を頂いたのならいいね。
ヘルマン先生の所へ戻る途中にクラーラから聞いた話によるとお祈りの時間が短い程、神様に愛されているというような事を言っていたけど、ちょっと意味がなんとなくしかわからないよ。
本来は個人情報なんだけど、みんな仲がいいから自分から教え合っている。マティーカは英知神メティス、リナは光明神ポイベー、クラーラは狩猟貞潔神フィービーとお話したそうだ。
おお、なんかみんなピッタリ合ってるっぽいよ。でも、これもしかして普通は加護が1つなの?
『姫様はどうだったんですか?』とリナに聞かれたけど、嘘を言うのも嫌だしどうやって誤魔化そうかと考えた末、真実の事『地母神ゲー様と話しましたよ』と答えておいた。
ヘルマン先生のお部屋の扉の前で、終わったのとは逆の順に報告へ入った。
『おお、随分と早いな』
・・・
私の番だ。
「失礼します」
「ソフィア嬢。他の皆から聞いたが、一番お祈りを終わるのが早かったようだね。どれくらい掛かりましたか?」
「わたくしの感覚ではとても長くお話していたのですが、シスターのベティーさんによるとお祈りを始めて一瞬だったそうです」
「なんと! それは本当かね」
「はい。その長いお話の間にわたくしは沢山の神の名をお伺いしてメモを取っていたのです」
「メモを? お祈りをしていたのではないのか?」
「はい、わたくしも不思議に思ってノートを拡げると全部メモが残っていました」
「ちょっとそのノートを見せて貰えないか?」
「はい、どうぞ」
!!
「なんという数だ! わたしの知らない神まで、、、」
「普通はもっと少ないのですか?」
「普通、神の加護は1つで聖女など尊き者が2つという例がある」
確かエミリア様が地母神ゲーと植物神プランタールムだったね。
「こ、これは前例がない程だ」
ありゃ、ちょっとまずそうだね。
「ヘルマン先生。これは個人情報で他の方にはお話されないようにして頂けるのですよね」
「そ、そうだが、これは国へご報告しなければならないレベルだと思うのだが、、、」
「個人情報を大切になさってくださいませ」
「そ、そうだな、魔法契約でもある。では少し待ってくれ。この神々の名を写させて欲しい」
「ご指導に必要なものですからごゆっくりどうぞ」
「すまない」
ヘルマン先生が目を輝かせながら私がメモした神様の名前を写していた。
先生が知らない神様の名前まであったのなら役にたつ情報だろうけど、魔法契約があるから他の人にヘルマン先生から広まっちゃうような事はないと思う。
結構時間が掛かったけどこれでやっと補講が終わったよ。
どうしようか。お父さまとかに相談した方がいいのか後で考えた方がいいね。お兄さまはどうしてるんだろう? まあいいか。今日は貴族学院の寮で泊りだから週末に考えようっと。
私達はサロンに戻って今日の『古い国王様の物語』について復習した。
私のまとめ方やポイントのあらすじのまとめ方を紹介したら受けてたけど、リナ、マティーカ、クラーラだけじゃなくて結局講義に出たみんな参加してきて、各登場人物の感情の変化をグラフにした辺りでみんな盛り上がっちゃったよ。
色々な感じ方の人がいるなぁと改めて思ったけど正直授業よりもずっと面白かったw。
みんなのおかげで少し気が晴れたよ。
でも色々とあって昨日今日はマジ疲れたね。
◇◇◇◇◇
私は直接電話で問い合わせしてみたよ。
『明日は天気もよく適していますから蒸気機関車の試運転を予定しています。是非お越しください』
『本当ですか!!』
『はい、抽選会で当選すれば試乗も可能ですから是非そちらにもご参加ください』
『ありがとうございます。是非抽選に参加させてください!!』
『それでは失礼します』
プツッ。
や、やったー、年に何回かしかやらない蒸気機関車の試運転が明日あるよ。
乗り換えを含めた行き帰りの予定OK、お昼OK、見る順番OK!
PCで予定表とガイドを作ってみんなに配るよ。
よし、蒸気機関車の試運転があるっていうのも連絡しておこう。
いや、これマジ楽しみ過ぎて今日は眠つけないかもだよw。
スマホ、ポチポチ。
プチッ。
「夢美~。 西村さんがいらっしゃったわよ」
「はーい」
あれ? 師範代? 今日は私明日の準備でお休みなんだけど、、、。
玄関に出ると師範代が剣道着で胴を付けたままいた。
「夢美さん。師範がお呼びです。道場までいらしゃって頂けませんか?」
「おじいちゃんが? どうしたんですか?」
「それが、、、」
道場へ向かいながら話を聞くと剣道の全日本女子選手権大会を二連覇した『山本さん』という方が来て、私に会わせて欲しいとおじいちゃんに頼んでいるのだという。
誰それ。
師範代に知らない人だと言うと『引き下がってくれないので、、、』とおじいちゃんに呼んでくるように頼まれたそうだ。
なんか、おかしな人じゃないよね。まあ、防犯的に言ったらおじいちゃんも師範代もいるから大丈夫かな。
入口から稽古場を見ると正面のおじいちゃんに向かって2人土下座していた。
土下座っ!
私は静かに師範の所へ歩いて行く。あれ? 左の人うちの学校の制服だね。確か男子剣道部員の山崎さんも心配そうに見ているよ。
「顔をあげてくれんか? 山本さん」
「お許し頂けるまでは、、、」
「許しとは言うてもわしではなく夢美の事じゃろ」
「おじいちゃん。こちらの方々はどうしたんですか?」
「九条さん!」
二人が顔を上げ私を見た。
制服の方は剣道部の佐伯部長だけど、こっちの人は確か『本山さん?』
あれ? さっき山本さんとか言ってなかったっけ?
「どうしたんですか? お二人共。えーと本山先輩?」
「いや、名を偽って申し訳ない。わたしは山本と言う。高等部と中等部の剣道のコーチをやっている」
「えー!! 騙したんですか?」
「いや、ああしなければ手合わせをして貰えなかったではないですか?」
「手合わせって、わたしを入部させたいのが目的ではないのですか? 一応今は名前だけは所属していますけど」
「目的はそれもあった。偽名を騙った事は素直に謝る。すまない」
「いえ、別にいいですけど、、、」
偽名って言うか先輩じゃなくてコーチじゃんか。もう。
私は佐伯部長と山本コーチ、ついでに山崎さんもジト目で見た。みんな目を逸らしたよ。これ知ってたね。
佐伯部長が少し顔を赤らめてから話す。
「九条さん。明日、中学最後の大会があります。私達最後の大会です。その団体戦メンバーの鏑木が高熱を出し寝込んでしまったのです。そこでなんとか九条さんに出て貰えないかとお願いに来たのです」
「頼みます。九条さん。中学の剣道など興味はないのかもしれないが何とか助太刀を頼めないですか?」
「無理です!!」
「そ、即答!」
「何故ですか? わたし九条さんが出てくれたらなんでもします。お願いします!」
「いや、そういうのじゃなくて、明日は歴史研究会のレクリエーション活動で埼玉の博物館へ行くんですよ。ずっと楽しみにしていて、年に何回かしか動かさない蒸気機関車の試運転も行われて、、、」
「九条さん、それはまだチャンスがあるでしょう。佐伯達は明日が最後なんだ」
佐伯先輩が涙を流し、そのまま私に土下座した。
えー、こっちだって年に何回しかないのずっと予定が合わないかもしれないんだよ。
ここまで準備して、もう泣きたいのこっちだって。
あれ? そう思っていたら自然と涙があふれて来た。
「そ、そこまで行きたかったのか?」
「は、はい」
グスッ。涙で上手く答えられないよ。
「夢美。ここまで真摯に助太刀を頼みに来ているのだ。それにどう答えるかはお前次第じゃな」
・・・。
そ、そうだね。おじいちゃんの言う通りかもしれない。ここまで真摯にお願いされるとかは同じ剣武を志す者としても光栄な事なのかもしれない。
そして確かに佐伯先輩はこれが中学最後の大会だ。私の方には今回だけじゃなくてまだチャンスがあるかもしれない。
そう考えると少しだけ気持ちが楽になった。でもちょっと久しぶりに泣いちゃったよ。これちょっと恥ずいな。
「それはどこで何時に始まって、どんなルールの大会なのでしょうか? 詳しく教えてください」
佐伯先輩に詳しく聞くと、朝から始まる5人制の61組のトーナメントの抜き戦で三本勝負。準決勝から午後の予定だそうだ。
だとすると、めっちゃ早く終われば埼玉なら間に合うかも。
「判りました。では鏑木先輩の代わりにわたしが出ます。その代わり抜き戦なら私を先鋒にしてください」
「そ、それは、、、」
「直ぐに終わらせてわたしは埼玉の博物館へ行きます」
「く、九条さん」
「判った。九条さん。明日朝迎えに来るから頼む」
「判りました。お待ちしてます。山本コーチ」
いやコーチに八つ当たりしてもしょうがないけど正直私を騙すのは辞めて欲しかったよ。
私は目の前が真っ暗になりそうな失意の中、梨乃ちゃんと花音ちゃんに遅れて午後になるから先に行っててと連絡した。その後同じような内容でみんなに連絡した。
全員から本当に遅れるのかの確認の連絡が来たよ。さっき案内を送ったばっかりだから、あれ程楽しみにしていた本人が遅れるとか何かあったのか心配になっても仕方ないかもだね。いや、その通りで何かあったんだけどね。
でも、こうなったら意地だ! なんとしても早く終わらせて遅れても絶対に行くよ。
勝ち抜きなら61組だから60試合の内、優勝するまでの6勝を私が早く終わらせればきっとスムースに大会を進められるよね。
おじいちゃんが電車代だとおこずかいをくれた。快速とかなら少しだけでも早いはず。
ちょっと目が腫れぼったかったよ。いや、今になって少し恥ずかしいw。
服は制服だけど私は剣道の準備と博物館へ行く両方の準備をして早めに寝た。
次回:ソフィアの仕事ぶりをあの人が見学?
ソフィア側の1日の長い会話回で、何かを画策するあの人が、、、。
お楽しみに♪