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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第五章 夢の貴族学院
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序:【サイドストーリー】イエルフェスタの聖女

【導きの農奴との出会い】


 グレースフェールの農業は鋳鉄製の農具が広まったおかげで土地の開墾が進み農地の面積はかなり広がったが収穫はそこそこである。

 ルントシュテット以外の領地では、収穫も少なく農民が飼う家畜の数もかなり少ない。


 しかしここイエルフェスタでは僅かな豚=ポルクスを飼う者もいる。


 この時代、家畜を養うのはかなり厳しい。家畜を養うには多くの餌が必要だからだ。


 春には休耕地や牧草地で放し飼いをし、夏の時期は牧人(ぼくじん)と呼ばれる家畜を養う者を雇い放牧の旅へ連れ出す。この際の狼による被害は牧人の責任ではない為、狼などの多いイエルフェスタでは他領と比べて被害がやや大きい。


 ちなみにイエルフェスタを示す色は黄色だが、紋章は『狼』=ウォルフである。

(ルントシュテットの紋章は白頭鷲)


 秋になると森林所有者に賃貸料を支払いオークの実「ドングリ」を豚に沢山食べさせる。その為豚の事を『オークが養う獣』と呼ぶ地域もある。

 教会の教えにより農民の生活は清貧で絶食する事も稀ではない。これは冬の間に収穫が少ない際に備えた言わば練習のようなものだ。その為、冬の時期には家畜の餌が足りるかどうかにより家畜を選別して養えない家畜は諦め僅かな食肉となっていた。この肉を保存用にベーコンや腸詰にして食べるのである。


 イエルフェスタの土地の多くは貴族の所有物であるが、農民は僅かな自分の土地で僅かな作物を育てて納税するか、農奴になって貴族の広大な土地屋敷で作物を育てて納税するかのいずれかなので、(はか)らずとも進んで農奴になる者も多い。


 秋の森林は色づき、秋の花も咲き、様々な実がなるが、森林法というものが定められ、領民がこれらを勝手に取る事や狩猟をする事は貴族以外には許されていない。そこで所有者の許可を得て、賃貸料として購入した札があれば家畜の豚にドングリを食べさせる事が出来るのである。



 農奴の息子ラルフは、自分で作った牧杖(ボクジョウ)(バクルス)を持ち農民に伝わる歌を鼻歌で唄いながら数頭の豚を従えてオークの木の群生している辺りを目指した。


 フゥフフフフーン。


「この森林は狼も出ないから本当に助かるな」


 ザクザク。バサッ。


「いやー! ダメー!」

「うん? だ、誰だよ」

 ラルフが辺りを見る。道の脇で小さな女の子が叫んでいた。


「そのお花を踏んんじゃダメなの!」


 な、なんだ?

 ラルフが足元を見ると野花(マリーゴールド)を踏んずけてしまったようだ。でもこの花はこの辺りのメドウ(野の花)であり大した価値はないだろう。

 しかし泣きそうな顔をしている女の子を放っておく事も出来ず、ラルフは豚達を止め女の子を見た。

 ブヒヒ。


 なんとも上品な服装の子供である。

 下手をするとお貴族様かもしれないがまだ幼い子供だ。機嫌を直して貰って親に言われないようにしないとだな。


「それはすまなかった。しかしこれはメドウ(野の花)だと思うけど、君の花だったの?」

「わたしがずっと育つのを見て来た花なの!」


 オイラが踏んづけて折れたマリーゴールドの脇にしゃがみ込んで涙を流していた。

 不味いな。


 落ちた花びらはもう元には戻らないけど、、、。そうだ!

 ラルフは近くの時期を過ぎた(つる)を取ってきて折れた茎を伸ばし蔓で囲んで縛った。この後回復するかどうかはこの花の生命力の問題だろう。


「ほら、涙を拭いてこっちを見てごらん。この花が元気になれば元のようにまだ(つぼみ)から花が咲くかもしれないよ」

「どうすれば元気になるの?」

「うーん、オイラなら美味しいものをたらふく食べれば元気になるけど食いもんは持って来てないし花は食べないしな。お嬢ちゃんはどうすれば元気になるんだい?」

「わたしは、、、お父さまやお母さま、兄さまは私のお歌を聞くと元気になるって言ってた」

「じゃあお花に歌ってあげなよ」

「判った」


 ~ラララ、ラー、春の光がー、、、 ~


 な、なんだ。上手いな。ちっちゃい子供の歌声だけど透き通って本当にこっちが元気になりそうだ。

 

 ~、、、清く届け~


「お嬢ちゃん、歌が上手いな。本当にオイラも元気が出たよ。これできっとこの花も元気になるさ」

「お嬢ちゃんじゃないよ。エミリアだよ」

「エミリアか。オイラはラルフ。オイラ明日もまたこの小道を通るからまた花を見といてあげるよ」

「わたしも見にくる」

「ああ、じゃあな」

「うん」


 翌日、、、。


 フゥフフフフーンフフーン。

 えーと確かこの辺りだったよな。


 あっエミリアがいた。


「エミリア」

「ラルフ」

「よーし、お前らちょっと待ってろよ。花の様子はどうだいエミリア」

「うん、元気になったよ」

「どれ、、、」


 えっ!!


 な、なんだこれ。これは本当に昨日(つる)で支えて縛った花なのか?

 茎が凄く太くなって幾重にも伸びて花束のようになってる。た、確かに下の方に蔓が僅かに残ってるからこれだな。しかしなんでこんなに元気に成長しているんだ。

 まさか、本当にエミリアの歌で?


「エミリア。凄いな。エミリアの歌で本当に凄く元気になったね」

「うん、ラルフの言った通りだった」

「うーんとそうだな。エミリア。こっちの小さなお花とこの小さな木にも元気になるお歌を聞かせてみないか? これ小さいけど元気になるかもしれないよ」

「うん、そうだね」


 ~ラララ、ラー、、、 ~


 本当に歌が上手いな。聞いてて気持ちいい。

 

「これでこっちのお花さんも元気になる?」

「ああ、きっとなるよエミリア。じゃあまた明日な」

「うん!」


 翌日、、、。


 オイラは気になって豚達を引き連れて急いであの場所へ向かった。

 ブヒー。


 あ、や、やっぱりだ。

 凄い成長している。こっちは苗木のようなラークス(リンゴ)の木だったのに実がついてるぞ。

 ラークスは成長して実が取れるまで10年は掛かるっていうのに、、、。

 

 エミリアが来た。


「ラルフー!」

「エミリア」

「あー元気になってるー」

「そうだね。ほらこっちのラークスには実がなってるよ」

「ほんとだ!」

「エミリアは神様の祝福か何かを受けてるかい?」

「うーんとね。前に教会に行ってとゲーとプランタールムがお話してくれた事があるの」


 原初の神、地母神ゲーと植物神プランタールムの声が聞こえたのか?

 間違えない! エミリアは聖女だ。

 領主様のこの森林に狼が出ないのも聖女様のお力なのかもしれない。エミリアは服装も綺麗だしきっとこの森林の持ち主、領主様の身内に違いない!


「エミリア。良く聞いてくれ。エミリアの歌声はこの領地を、オイラ達を救ってくれるかもしれないんだ」

「ラルフ達を?」

「ああ、オイラは農奴で領主様の土地を耕しているが土地は厳しくて家畜の糞を蒔いても、土を柔らかくしてもなかなか収穫量が上がらない。でも、もしもエミリアが畑で昨日のように歌を唄ってくれたら沢山美味しい食べ物が取れるかもしれないんだ」

「エミリアが歌うと美味しい食べ物が沢山取れるの?」

「ああ、間違えない。今のお話をお家の人、お父さまやお母さま、お兄さまにお話してこの領地を救って欲しいんだよ。出来るかい? エミリア」

「それでラルフは嬉しい?」

「ああ、収穫が増えたら嬉しいさ。飢えなくなるからね」

「うん、わかった。お家に帰ったら言ってみる」

「頼んだよ。聖女様」

「聖女様?」

「いや、なんでもない。よーし、オイラもなんか凄くやる気が出て来たよ」

「ラルフが元気になって良かった」

「エミリアの歌のお陰さ。ありがとうエミリア」

「うん」


 後で知ったが、ドングリを食べに連れて行った豚達は異様に元気になり沢山の元気な子をこれでもかと多く産んだ。そして予想通りこの聖女様はイエルフェスタの領主の娘だった。



◇◇◇◇◇


【イエルフェスタの領主館】


「エミリア。農奴と話たのか!」

「うん、ラルフとお話ししました」


「スカーシア! 側使えのお前が付いていながら何をやっておる」

「も、申し訳ございません旦那様。エミリア様があの森林に入ると何故かスゥと見失ってしまうのです」

「まあ、まあ、父上。その辺にしておきましょう。なあスカーシア」

「ア、アルノー様。ありがとうございます」


 スカーシアが消え入るような声でつぶやいた。


「しかしエミリアの話はとんでもない話ですよ。今はまだルントシュテットの豊作の秘訣情報も得られておりません。そこで、エミリアの植物が育つという話が幼子の妄想でなく本当の話なら役に立ってルントシュテットよりも豊作になる事も出来るのではありませんか?」

「役に立つどころか本当であればまさにエミリアは聖女であろうな、ははは」

「ならば、わたしとアウグストで明日から確認致しますよ。父上はエミリアの聖女伝説をどう広めるのかをお考えください」

「随分と気が早いな。アルノーが真面目に扱うのなら良いだろう、が隠し事は無しだぞ」

「あまり森などの危険な所へ行ってはいけませんよ」

「勿論です母上。屋敷の敷地内で作っている栽培だけで充分に確認できるでしょう」

「兄上、わたくしもお手伝いします」

「ああ、頼む。可愛い妹エミリア。明日からがんばろうな」

「はい、アルノーお兄さま」


 この時点では両親は信じていなかった。


・・・。


 領主館の庭。日当たりにより秋の花がまだ咲いていない部分もある。


「エミリア。このコスモスやチナエデ(パンジー)は日当たりがそこまで良くないからあまり元気がない。これを元気にしてみて欲しいのだがエミリアは一体どうやって植物を元気にしているんだい?」

「アルノーお兄さま。エミリアがお歌を唄って聞かせます」

「歌を?」

「兄上、少しお待ちください。試しにここにニクソクンボ(スノードロップ)の球根を植えてみます」

「判った」


 次男のアウグストが手際よく球根を植え水を与えた。スノードロップは秋に植え2月頃から咲き始めるヒガンバナ科の花だ。


「アウグストは土いじりが上手いな。エミリア。いいよ」

「わかりました。アルノーお兄さま」


 ~ラララ、ラー、、、 ~


「エミリアは本当に歌が上手い。いつ聞いても心が安らぐよ」

「ありがとうございます。アウグストお兄さま」

「本当にわたしも元気になる。夕方になると少し寒くなって来たから早めに館へ戻ろう」

「「はい」」


 翌日、、、。


 コスモスやパンジーの見事な花が咲き乱れ色鮮やかに光り輝いていた。

 昨日植えたばかりのスノードロップも既に花を付けそうな程成長している。


「ほ、本当だった、、、」

「兄上、こ、これは凄い事ですよ」

「ああ、イエルフェスタはこれで豊かになれるかもしれない」

「実際に畑で、イエルフェスタの名産品エッグプラントやリコペルシ、アヌームで試してみましょう」

「ああ、そうしよう」


 側使えや護衛を引き連れ、領主館の敷地から外へ出て、農奴の耕す畑にやって来た。

 この時期、リコペルシ(トマト)は既に盛りを過ぎてはいるがまだ収穫は可能だ。しかし既に実は小さく数も減っている。エッグプラント(なす)やアヌーム(芋)も同様だがこちらは秋用に取っておいたものは大きなものもある。


「しかし臭いなここは」


「あっ、ラルフだ。ラルフー!」

「エミリア!」

「お前が農奴のラルフか。おい、気安く妹に話しかけるな」

「す、すみません」

「農奴のベリルはいるか?」

「とうちゃんは水を汲みに行ってます」

「ならお前が案内しろ。まだ少しリコペルシやエッグプラントが残っているだろ。そこまで案内しろ」

「エミリア様のお力ですね」

「おい! お前! 森の中で見た事は忘れろ」

「は、はい」


 ラルフは『エミリア、やったね』と内心嬉しくなった。


「こちらです」

「お前はもういい。下がっていろ」

「は、はい」


 側使えや護衛も多く狭い一角にかなりの人数だ。


「ここは見晴らしもいい。お前達もあの畦道まで離れていてくれ」

「「はっ」」


「兄上。そこまで警戒しなくても良いのではありませんか?」

「念の為だ。どんな影響があるか判らない。アウグストも離れていてもいいぞ」

「い、いえ。わたくしはエミリアと兄上の側にいます」

「良し。ではエミリア。このエッグプラントとこっちのリコペルシに唄ってみてくれないか?」

「はい。お兄さま」


 ~ラララ、ラー、、、 ~


 リコペルシに場所を移動してもう一度唄う。


 ~ラララ、ラー、、、 ~


「良し。エミリアいいぞ。もしもこれでまた成長しているようなら凄い事だ」

「本当にイエルフェスタも豊作になりそうですね」

「ああ、そうなったらエミリアは本当に聖女だな」

「聖女? 元気になるだけですよ」

「それで豊作に繋がって作物が沢山取れる」

「そうしたら美味しいものが沢山食べられるよ」

「わーい」


 翌日、、、。


「いらっしゃいませアルノー様」

「ラルフか。収穫せずに待っていたのだな。もうよい。下がれ」

「はい」


「おお、見事だ。たった一晩でこんなに大きなエッグプラントが沢山実をつけている」

「兄上。こっちのリコペルシも凄いですよ」

「アヌームを確認しリコペルシを幾つか取ってくれ」

「はっ」

 

 側使えがリコペルシをもぎ取り、布で綺麗に拭いた。


「どうぞ。アルノー様」


「良し。二人も食べてみるか」

「はい」

「頂きまーす」


 パクッ。パク。パクッ。


「うーん。上手い」

「えっ! 甘いですよ兄上。これは凄い」

「美味しい~」


「ここのリコペルシはここまで美味くはなかったと思う。これもエミリアが唄ったからだろう」

「エミリア。凄いな」

「美味しいから嬉しい」


「ここのリコペルシとエッグプラント、アヌームを収穫していってくれ」

「農奴はよろしいのですか?」

「うちの農地だ。構わん」

「はっ」


 見事な大きさに実ったものを側使え達が全部収穫して行った。


 夕食時、、、。


「父上。今晩のエッグプラントとアヌーム、リコペルシはエミリアが唄って育てたものです」

「な、なんと一晩でか? 見事な野菜だと思ったがこれがエミリアが唄って育ったものなのか?」

「はい。これが現物です」

「かなり大きいな」

「味もリコペルシは甘く、エッグプラント、アヌームもみずみずしくこのようにかなり美味しいです」

「本当にエミリアは唄っただけなのか?」

「はい」

「ならば農奴に任せている領主館の隣の農園から始めてみよう。全領地が豊作になればイエルフェスタはルントシュテットに負けない豊作の地となるであろう」


「お待ちください父上!」

「なんだアウグスト」

「エミリアの歌で確かに作物が成長する事はこの目で見たので間違えありません。しかし歌ですのでそこまで広い場所まではエミリアの歌声は届きません。ましてエミリアはまだ子供で大きな声を出せる訳ではありませんよ」

「うーむ。確かにそうだな」

「エミリアに無理はさせられませんが、確か木を打ち合わせた音を遠くへ伝える筒、メガホンがありますが、あれを口に当てて遠くまで歌が届くのではありませんか?」

「おお、アウグスト。それはいい考えだ。それでやってみてくれ」

「わかりました父上」

「うむ」


「しかし、父上。エミリアは間違えなく聖女ですよ」

「そうだな。司教に相談し考えてみよう」


【イエルフェスタの聖女】


 その後、エミリアは頑張って領主館近くの領主の農地の全てで唄い、かなりの成果を上げたが、唄い過ぎて声が枯れかなり疲弊していた。


「エミリア。大丈夫か?」

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「声がすっかり枯れてしまったな」

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「いや、無理は良くない。父上。このままではエミリアの身体が持ちません」

「案ずるなアウグスト。春までは休める。春から聖女としての名を高め、各地の子飼いの貴族の領地で唄う際には料金を取る事とする」

「それならば依頼は減りますね」

「そうだな。しかしエミリアのお陰で我がイエルフェスタ家も領地も安泰だな。はははは」



 翌春。幼いエミリアの多忙の日々が始まった。


 エミリアのこの力には問題がある。植物に直接歌声を聞かせる為に範囲が狭い事と一緒に雑草まで厄介な程に成長してしまう事だ。


 しかし範囲は限られているもののエミリアの歌声の効果は高く、エミリアが唄った農地では驚く程の成果が出た。

 

 この時期、教会では腐敗が進み領民には忌避される事も多いが、教義に対しては敬虔な信者であり、神や聖女への人気は高い。エミリアの聖女伝説の噂は拡がり子飼いの貴族達や農民だけでなく幅広く領民達からも絶大な人気を得た。


 何処へ行っても大歓迎の状況だった。


 エミリアはまだ貴族学院へ行っていない為、通常はパーティーなどには出席しないが、数多くの貴族達から招かれ毎日のようにパーティーが続く。民意が離れて行きそうな教会関係者もここぞとばかりに利用しパレードを行う。

 エミリアの声は枯れ更に有効な範囲は狭くなるがそれでも喜んでくれる人々がいるとエミリアは頑張った。


 エミリアは多忙であったとしても神への祈りは欠かさない。


 イエルフェスタでは二年程の豊作が続きその名声は国へと拡がったがエミリアも成長したが常に疲れていた。

 そんな日々が続き、教会で神様にお祈りした際にエミリアはまた神の声を聴いた。


『エミリア。プランタールムです。これ以上その歌声を広くに使ってはなりません』

『植物神プランタールム様。この歌声で作物が沢山取れて領民のみんなも喜んでいるのです』

『エミリア。今貴方の心の声も枯れてしまっていますよ』

『心の声、、、そ、そうかもしれません。ですが、、、』

『良いですね。皆の為にもなりません』

『わかりました。プランタールム様』


 エミリアは領主ゲオルク・フォン・イエルフェスタにその話を伝えたが父ゲオルクはそれを許さず、情に訴えエミリアに歌わせ続けた。


 ここで事態は急変する。領主館の隣の農園自慢のエッグプラントとリコペルシはエミリアが唄ったにもかかわらず、逆に不作に見舞われてしまったのだ。


「こ、これはどういう事でしょう? 兄上」

「うーん、エミリアの歌声でまだ育つ草木もあるのだから何か理由があるのだろうが、、、」

「うむ。なかなか思う様には行かぬものだな。この事は皆には隠し、暫くエミリアは歌わせないようにしよう」

「父上、ルントシュテットの豊作は続いているようですが、彼らなら何か判るのではありませんか?」

「以前マクシミリアンを攫おうとしたが失敗した事もあるから警戒されているだろう。密偵を幾人も送ってはいるが中々に厳重で理由はつかめないらしい」

「ルントシュテットの女神様ですか」

「あれは明らかにルントシュテットのマクシミリアンの力であろう」


「父上。この夏休みが終われば秋にはエミリアも貴族学院へ通います。そのルントシュテットの女神様と言われているソフィア嬢も同学年で、エミリアと仲良くなればルントシュテットがずっと豊作続きな秘密が判るかもしれません」

「そうだな。エミリア。頑張れるか?」

「は、はい。やってみます」

「アルノーもアウグストも補佐して上手くやってくれ。領地の行く末が掛かっているのだ」

「「畏まりました。父上」」



 しかし、状況は更に悪化しエミリアが唄って豊作になった農地ではその殆どがこの夏から逆に不作になってしまったのである。


 エミリアは責任を感じ困っていた。


 あー、もうどうすればいいの。

 ルントシュテットの女神様か。私と仲良くしてくれるかなぁ。

 前に襲っちゃったとか言ってるからきっと嫌われているんだろうなぁ。 


 そして貴族学院入学の日に備え中央へと向かった。


 

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