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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第四章 夢のファッション
42/129

閑話 単身赴任

 少し冗長になり過ぎ、散文的でソフィアの思惑も入っているので後で書き直そうとカットしていたものですが書き直していませんが公開しますw。

 このお話は閑話でフェリックス達のお話のはずなんだけど何故私が話しているのかというと、めちゃくちゃ私の思惑が絡んでいるからだよw。


 えへへへ、悪だくみじゃないんだけど、職人さん達は忙しくて中々思うように開発出来なくなって来てるんだよね。勿論無理して頼めば私の立場上彼らは言葉通り無理をしてくれる。でも、働いている姿を見ると、こう無言の『忙しいから話しかけるなよ』的な圧を感じるんだよね。ここで私が立場を使ってどうのっていうのは私もそういうの嫌いだから彼らから頼まれるくらいじゃないとこんな状況ではちょっと難しいよ。でも忙しそうなのって私が見てる時だけじゃないよねw。


 そんな時にパウルさんから聞いたのが私が貴族学院に行くにあたって、一緒に中央へついて行きたいという職人さん達がいるっていう事だ。職人さん達が中央へ行っても中央で仕事が受けられる訳ではないよ。

 ルントシュテットのギルドはパウルさんがやってるけど中央は別で、中央の仕事をする際には中央のギルドへ移籍しなければならない。それでも中央へ行きたいというのは明らかに私の仕事だけをやりたいという事なのでこれは本当に私にとって貴重な人達だね。


 私はこのチャンスを利用してこれまで溜まっていた難しい事を課題としてお願いする事にしたよw。


 チャーンス! キラン!!w



 ここまでお話したのは小学校から中学校へ入学した頃までだけど、恐らく聞いていただいている方々には幾つか誤解されている事があるんじゃないかと思う。

 私の説明が拙いという事もあるんだけど例えば私が寝るのが好きで朝が弱いというお話だ。寝るのが大好きという話は全く否定する気もないしそれは正しいんだけど、、、。


 良く『マルテに早めに起こされて~』って話してるけど、この早めって大体朝の2時くらいの話なんだよ。私は新聞配達員か漁師かよっていう位早いよねw。料理人達はその朝2時位に起きて、マルテ達は普通は毎日朝3時に起きて準備を始める。お母さま達準備に時間の掛かる人達wは大抵同じく3時頃起きて色々やってるけど、私は寝ぼすけと言われてもギリギリまで眠らせて貰っても起きるのは朝5時位なんだよね。6時には支度を全部終えて朝ご飯だからね。

 これが寝ぼすけの私が起きる時間だよ。私の日本人の感覚だけど、これ早起きのおじいちゃんレベルでしょ? まだ暗い時もあるんだよw。

 早く寝る夜より朝の方が灯りが必要だし寒い事もある。布団から出れないのって少しは判ってくれるでしょ?



 夢の中の世界にはまだ機械仕掛けの時計がないんだよね。


 この世界の時間は教会の鐘の鳴り方で時間を知るんだけど、教会には日時計の他に水時計がある。日時計って磁気偏角もあるし時期によって均時差が最大15分にもなる。あんまり正確じゃないけど基準はこれ。晴れた日にしか使えないから全く使えないんだけどね。


 水時計は決まった位置まで減ると決まった位置まで水を足すから日が出ていなくてもおおよそ正確に時間が判って教会が鐘を鳴らさない事はない。まあその一の鐘が2時で2の鐘が3時という具合だよ。教会には貴族が多額の寄付をしてるし、上層部は別だとしても勤勉な人達だからね。でも乾燥したり暑すぎたりするとおのずと時間がズレて行き、後の晴れた日に時間を合わせるという苦労を重ねているんだよね。

 この辺りでは部屋の中なら大丈夫だけど、凍ってしまうような寒い地域では使えない。


 鐘の音には高い音と低い音があって鳴り方で時間を教えてくれるよ。

 以前、教会の人が鳴らす数を間違えた事があって、私達が聞いてて皆、違う事が判って笑ってたけど人がやってるからそんな事もあるよねw。

 でもその間の時間は感覚でしか判らない。細かく鐘を鳴らす訳じゃないからね。


 この世界と言うかこの国で驚くのは12進法と10進法の使い方が地球と同じだっていう事で、時計発祥の文明が12進法を使っていたからという理由だからだ。今でもお金の単位を12進法を使っている他の国もあるそうだけど、この国グレースフェールではお金や数を数えるのは10進法が使われている。


 ユリアーナ先生によると単純に指の数が10本だからだそうだけど、12進法を使っていた人達は右手の指で指差(ゆびさ)しながら、左手の親指以外の4本の指の関節を指差して人差し指の付け根が1、関節が2、3と指の4本×3関節で12と数えていたそうだ。薬指の第二関節なら8っていう感じ。


 12という数字は数学的に美しく、計算するにも2、3、4、6、で割れる約数の多い便利な数字だからそれは判るんだけどね。

 時間がその5倍の60進法で角度の360度はおおよその一年の周期だからだけど地球のこれらの単位の成り立ちとほぼ同じだったよ。一時期角度は365度にされた事もあるそうだけど割りきれないので直ぐに360度に戻されたそうだ。


 でも一時間の途中の時間の分や秒は概念に近いもので砂時計や数える程度しかない。

 以前、炸裂弾を剛弓で放って練習地点に刺さるまでの時間は口で数えて貰ったからね。



 でもいまどき、振り子時計の作り方を苦労して考えるなんて日本じゃ私と美鈴先生くらいなのかと思う。実際にママゾンやネットで美鈴先生と調べてみたけど現在販売されている振り子時計って電池で振り子だけ動かしていて、実際に振り子の振幅でギアを少しずつ進めるのは一つも見つからなかったよ。見た目だけ振り子の偽物の意味って何?

 もしも未来の人がこの変な振り子を電池で動かす時計を見たら『昔の名残り』とでも言うのかな?


 結局、色々と調べた資料と、おじいちゃんの所に今は使ってない本物があって借りて参考にしたよ。ひいおじいちゃんの頃には本当に使っていておじいちゃんもこの時計が好きだったそうで物置に残しておいたのだそうだ。おじいちゃんナイス!


 振り子はガリレオの理論なんだけど地球の振り子時計はガリレオの死後にクリスチャン・ホイヘンスが作ったものだ。勿論美鈴先生と設計した機械はこれでもかっていう位かなり複雑なものでギア比も計算で求める。


 いや、またお話が長くなっちゃったからカットされちゃうかもだから早めにフェリックスのお話の本題をはじめようねw。


◇◇◇◇◇


 俺の名はフェリックス、鍛冶職人だ。もう懐かしくもあるが商工ギルド長のパウルさんが領主(ドミノス)の城に呼ばれた後、木工職人のマーティンを連れてシュミット親方の元で働く俺とクラウを訪ねて来た時の事だ。

 

 依頼は出来るだけ薄く軽い四角い鉄の箱と硬針金(かたはりがね)を使った攪拌器具(かくはんきぐ)、スライサーという器具を木工職人と作って欲しいという。確かに俺は細工仕事が好きだが、この程度ならわざわざ俺の所に来なくてもいくらでも作れる職人はいると思う。しかしパウルさんの頼みだ。勿論断る事など考えられない。


 念のため親方に確認して「今持ってる仕事が遅れなければいい」とのことなので、パウルさんから詳しく聞くと、やはり領主(ドミノス)の所の仕事らしい。俺達が手を抜くはずもない事はパウルさんも判っているだろう。しかもこの後、硬針金を使った攪拌器具を手動の取っ手で廻し歯車で加速して攪拌出来るものを作って欲しいのだという。

 見事な図面を持っていた。手の絵と比較すると作るものはかなり小さい。

 

 クラウも俺も目を見張って図面に見入った。何という発想だ。こんなものを考えてくれるとは鍛冶職人として嬉しい。クラウも興奮して笑顔がはじけている。

 領主(ドミノス)の一族の方々は皆優秀だという。おそらくそのどなたかが考えて頂いたのだろう。


 今持っている仕事の合間を見つけ俺はクラウと手分けして部品の寸法を決め制作に取り掛かった。

 先に出来る簡単なものを作る。マーティンがスライサーを防水処理し、更に滑らせる際に楽なように縦に筋を付ける。さすがブランジェル一の木工職人だ。顧客の欲しいものを本当に理解出来る優秀な人だ。

 

「この刃を取り付ける高さはどうする?」

「そうですね。何か実際に切ってみましょうか?」

「そもそもこれは何をスライスするんだい」

「野菜だと言ってましたよ」

「フェリックス。お嬢さんから野菜を貰って来てくれ」

「判った」


 ドキドキ。マルグリッドお嬢さんと会える。ドキドキ。いた。


「マ、マルグリッドお嬢さん。何かこう薄く切る野菜を一つ頂けませんか?」

「あらフェリックス。お昼はもう食べたでしょ?」

「違うんです。仕事で依頼されたものがその野菜を切るものらしくて」

「そうなの。じゃあククミス(きゅうり)でいいかしら?」

「はい。大丈夫です。俺の給料から引いておいてください」


 マルグリッドお嬢さんが食材入れを覗きククミスを取り出す。

 ヤバイなこの後ろ姿も魅力的だ。


「もうフェリックスは真面目なんだから。仕事でしょ? そんなのいいわよ。はい」

「ありがとうございます」

「でもなんか興味あるわね。わたしにも見せて」

「えっ、は、はい。こちらです」


「ひゅう! フェリックス。やるな憧れのお嬢さんを連れて来ちまったのか?」

「まあ。クラウ。随分と恥ずかしい事を言うのね」

「ク、クラウ。か、からかうなよ。マーティン。ククミスを持って来た」

「ああ。すまねーな」

「ちょっと、このお皿の上でやって頂戴」

「はいよ」


「どう使うんだ?」

「多分こうだろうよ」


 シュッ、シュッ、シュッ。


「まあ!」

「す、凄いぞ。まるで一流の料理人が切ったようだ」

「そうだな。でもこれもっと薄くも出来るだろ」

「ちょっと待ってろ今位置を変えて止め直す。これもう一つ作らなきゃだな」

「いや、その厚みは顧客にとってきっと重要な事だ。手を抜く訳にはいかない。最低限切れる薄さまで調整してみよう」

「そうだな。領主(ドミノス)の所の仕事だ。じゃあ仮止めで高さを測ろう」


 カンカンカン。


「これでやってみてくれ」

「それ、わたしにやらせて」

「マルグリッドお嬢さん、刃が付いてますから気を付けてください」

「大丈夫よ。もう。わたしは鍛冶屋の娘なのよ」


 シュッ、シュッ、シュッ。

 

「す、凄い。これ向こう側が透けて見えるわ。こんなの一流料理人でも無理でしょ」

「そ、そうですね。じゃあこれが最も薄いとして、、、」


 こうして俺達は数種類の刃の高さのもの作成してパウルさんへ渡した。

 

 後はこの歯車付の凄い攪拌器具だな。

 一応出来たが悔しい事に思ったよりも大きなものになってしまった。重さも重い。


「フェリックス。よくこの絵を見ろ。このギアの所は空洞になっているんじゃないか?」

「ほ、本当だ。ここを空洞にしてさらに薄く軸を立てて強くしているのか? 凄いな」

「今から型をやり直すぞ」

「何を言ってる。パウルさんは明日持って行くと言ってるんだぞ」

「なーに、まだ一晩あるじゃないか?」

「ぷっ。そうだな」


 俺はクラウと作り直し他にも軽く出来る部分を軽くした。

 朝までかかり出来る限りの事はした。

 もしかするとこれでも大きく重いのかもしれないが俺とクラウに今出来るのはここまでだ。


 ・・・。


 という仕事が最初の依頼だった。



 俺達が領主(ドミノス)の一族と話す機会など一生ないと思ったが、パウルさんがどうしても会ってくれというので会ってみると俺達に依頼したのは確かに優秀な領主(ドミノス)の一族だったが5歳の幼女ソフィア様だった。こんな事を話して一体誰がそんな話を信じられるのか?


 今思えば最初からとんでもないものを依頼していたが、その後はクラウと俺の人生をも変える蒸気機関だった。

 寝る時間を惜しんで取り組み模型の試作品から実物と順調に作って行く。


 もしもこれを顧客に相談され俺やクラウが考えて設計したとしたらこんな全自動で石炭粉末を投入できるものでなく固形の石炭を手で放り込む造りにしただろう。いやそもそも石炭など知らなかったか。俺達なら蒸気の力に興奮してそれ以外を動けばいいと二の次の考えてしまうだろうからだ。

 それなのにソフィア様はメンテナンスや作りやすさも考えて設計して頂いている。そればかりか『環境にいい』とおっしゃっているが今の俺達にはソフィア様のお話される事は半分くらいしか理解できない。


 勿論、仕事で作る為の事は理解し納得するまで何度でも聞く。例え領主(ドミノス)の一族だとしてもそこだけは譲れない。


 その後、通常の鉄は錆びやすいが、錆びにくい炭素を入れた鋼鉄の作り方、焼き入れと焼きなまし、焼きならしなど俺達鍛冶職人が知らない鍛冶技術について教えてくれた。シュミット親方でさえ知らない事だ。これは本当に鍛冶の神様の知識だろう。それからというものスプリングに始まりあらゆるものが鋼鉄に置き換えられ騎士団の剣まで新しく造り出した。この剣も驚くべき強さだ。


 パウルさんによればソフィア様の活躍は鍛冶だけでなく、木工、ガラス、食、農業、建築、鉱業、服飾にまで及んでいるのだそうだ。本当にソフィア様は女神様だ。


 人だとしてもルントシュテットにソフィア様をもたらせてくれた神に俺は感謝したい。


 お金も儲かり、シュミット親方の娘マルグリッドお嬢さんと結婚し、シュミット親方は俺とクラウを独り立ちさせてくれた。

 そのお金を出してくれたのはソフィア様で、儲かったらその儲かった分から僅かに配当すればいいそうだが、膨大な資金で数十人も雇い蒸気自動車や重機などの量産を始め俺達は大成功した。まあ俺達は技術者で社長はマルグリッドだけどね。


 すべてが順調だったがクラウとマルグリッドと話している時に俺は恐ろしい事に気が付いてしまった。

 ソフィア様が貴族学院へ入学する為に8年間も中央へ行ってしまう!!


 中央では貴族学院の寮に入ってしまう為にお会いできたとしても週末だけだ。今では中央へなど蒸気自動車で半日あれば行けるだろうがこれまでのようにお時間を取って頂くのは難しいだろう。

 この電流計や土壌酸度計などのように夢のような器具を俺はもう作れないのか!!


 お金じゃないんだよ。クラウなら判るだろ!


 クラウは蒸気自動車や重機の改良と制作だけでもトンデモなく忙しいのに何を言ってると言うが、俺達が引き受けた驚くべき面白いものがもう作れなくなってしまうかもしれないのだぞ!


 どうしても中央へ行きたいとマルグリッドとクラウと喧嘩してようやく俺のソフィア様への情熱で二人が呆れながらも許してくれた。

 但し、毎週戻って来る事とソフィア様の了解が得られたらという条件付きだ。



 そんなある日、パウルさんに領主(ドミノス)の城に一緒に来いと呼ばれた。


 勿論ソフィア様だけでなく、いつも通り側使え達やユリアーナ様がご一緒だ。


「フェリックス。パウルからお話は伺っています。あなたも中央に行きたいのですね」

「はい。ソフィア様。是非お願い致します」

「はぁ。マーティンとヴェルナーだけでなく貴方もなのですね」


 ソフィア様の頬に手を当て少し斜めを向く憂いを帯びたしぐさだ。こんな姿でさえさまになっている。


「木工職人のマーティンとガラス職人のヴェルナーも中央へお連れになるのですか?」


「フェリックス。ソフィア様は彼らに難しい課題を出された。彼らはそれが出来てからだ」

「では、是非わたくしにも中央へ行ける課題をお願いします」

「そう言うと思ってましたw」

「お、おいフェリックス。そんなに簡単にソフィア様に課題をお願いするな。マーティンもヴェルナーもとんでもない課題だったぞ」

「えっ! ど、どんなものだったのですか?」


「木工職人のマーティンには廻すと動くギミックの小さな容器やゴムを使った複雑な空飛ぶ模型、芸術的な彫刻の遊戯道具で、ガラス職人のヴェルナーには、ワイヤーを中に入れた強化ガラス、錫の溶融炉に浮かべるフロート法という板ガラスの製法と魔法瓶の制作だ。炉はかなり高温の溶融炉から作るのだぞ。高度な技術だけでなくとんでもなく設備も時間も費用も掛かるがソフィア様は直ぐに元が取れるとおっしゃっておいでだ」

「はい。ガラスは精度も大きさもこれまでのように吹きガラスを開いて平らにしていたものとは段違いですから絶対に大丈夫です」

「そ、空飛ぶ模型に溶融炉っ!! な、なんかとんでもないお話ですね。しかしわたしは魔法は使えないですよ」

「魔法瓶と言っても魔法のような機能のあるお湯を冷まさないガラス製品だ。全くこちらの身にもなってくれ。わたしは全部を理解して付き合っているのだぞ」

「そりゃギルド長ですからね」

「むうぅ」


「フェリックス。クラウに強化ガラスが出来るから蒸気自動車にゴム枠を取り付けて組み込むように言ってください」

「今は無理と以前おっしゃっていたものが出来たのですね。さすがソフィア様です」

「まだ完璧ではありませんが、中にワイヤーを入れて割れづらくして割れた際も危険じゃないものをお願いしてあります」

「『まだ完璧ではない』ですか。素晴らしいお言葉です」

「はい。本来は透明な樹脂を重ねるのですよ」

「そ、それは想像しただけで難しそうですね。判りました。確かにクラウに伝えます」



「はいは~い、じゃあパウル、フェリックス。次行きますよ」

「「はい!」」


「では、まず振り子の等時性から理解してください。ここに天井からつるした凄く長い紐と重石があります」

「長いですね」

「二人共数を数える時間は正確に数えられますか?」

「ではわたしが数えましょう」

「では、わたくしが手を離したら戻って来るまでの時間を測ってください」

「はい」

「行きますよ」


 ソフィア様が長い紐の重石をかなり遠くまで持って行き手を離す。

 紐が長くかなり速度が速く一往復した。


「4とちょっとです」

「では、今度はどうでしょう?」


 ソフィア様が長い紐の重石を今度は少しだけつるした芯からずらして手を離す。

 紐が長くかなり速度がゆっくりと一往復した。


「えっ! これも4とちょっとです。なんで同じなのです?」

「これは振り子の等時性といい、ガリレオという人が発見しました」


 ガ、ガリレオ? 聞いた事がないな。古代の錬金術師か?


「これは紐の長さが同じなら振り幅に関係なく同じ時間で一往復するというもので、紐でなくとも同じ事が言えます」

「誤差はないのですか?」

「少しあります。この重石の空気抵抗と軌道がサイクロイド曲線からどれだけずれるかが誤差を生み出します。その為出来るだけ長い事、振幅を小さくする事、空気抵抗を減らす事によって等時性がかなり保たれます」

「成程。ソフィア様。サイクロイド曲線とはなんでしょうか?」

「これが振り子の振幅だとするとこんなのです」


 ソフィア様は振り子の振幅と円を描き、まるで円をクルクルとまわすように軸から回転した際の一点の動きを曲線で表した。聞いた事がないが、ものは理解出来た。

 しかしこんなに難しい事をご存知なのだな。一緒に出席されているユリアーナ様や貴族の側使えはご存知なのだろうか?


「フェリックスにはこの振り子の等時性を使って機械式の振り子時計を作って貰おうと考えています」

「時計? 時計とは時間を計測する、つまり水時計や砂時計、日時計の事ですか? それを機械で?」

「はい、えーと幸いな事にここの時間の元は12進法ですから、機械式時計でしたら1分単位で時間が判ります」


 !!!


「ソフィア様。横からすみません。日時計でしたら大きく作れば細かく測れるのではありませんか?」

「ダメですよユリアーナ先生。日時計は晴れの日にしか使えませんし、磁気偏角もあるし時期によって均時差が最大15分にもなるのですよ。勿論基準が日時計なので水時計を合わせるのも日時計ですし、機械時計の誤差を合わせるのも日時計になるとは思いますけど、、、」

「すみません。後で磁気偏角と均時差というものも教えてください」

「わかりましたけど、先生の地理のお話が変わってしまいますよ」

「覚悟の上です」

「はーい」


「ではお話を続けますね。リン青銅版は銅とスズの合金である青銅にリンを加えることで、青銅内部に含まれる酸化銅を脱酸した金属ですけど、ワインダーに薄いリン青銅板をある程度の太さで巻いて焼き入れすると簡単にゼンマイが出来ます」

「ゼンマイとはなんでしょうか?」

「そうですね。この前お願いしたスプリングのようなもので縮める事によって戻る力を動力として使える便利なものです。絵で描くとこんな感じで、これがワインダーでここにこう巻いて焼き入れします」


 パウルさんも俺も必死にメモした。


「振り子の誤差を減らすためには、振り子をこんな形にして薄い鉄製の重石で空気抵抗を少なくします。大振幅時の誤差を両脇の補正板(サイクロイダブルチップ)で補正する振動装置を使って、その状態でこのような機構でゼンマイの力で何度も振り子を動かす脱進機で動かします。ゼンマイはこのような装置でねじを巻いて離すとゼンマイが徐々に戻って脱進機で何度も往復します」

「正確な振幅ですね」

「はい。そしてこのようなラッチ機能で歯車を1つずつ動かしますが、その歯車の回転を計算して一時間に一回転するように作って欲しいのです。長針が一時間に一回転。短針は一時間に30度動き12時間で一回転です。一時間毎に音を鳴らすギミックもこんな感じで作りましょう」


「おお。これは凄い。教会がいらなくなりそうですね」

「教会の仕事は時間の鐘だけではありませんよ」

「しかし振り子の長さがとてつもなく難しいですね」

「はい。鉄製ですから温かさによってもずれる事がありますので、このようにねじで振り子の位置を微調整出来るようにすれば少しは調整しやすくなります」

「凄い。この理屈なら本当に正確な時間が測れそうです」

「そうですね。そこで先程の誤差を少なくする方法を用いて長さから歯車の大きさや角度などを計算して時計を作成してください。文字盤はこのような図になります」

「この歯車の比率はわたしが決めるのですか?」

「恐らく大丈夫だろうという歯車の比率や構造は一応求めてあります。完成品として一日の時間誤差を10分以内にしてください。これがフェリックスへの課題です」

「判りました」


「フェリックス。ヴェルナー達のも難しいが、これもかなり難解だぞ」

「承知の上です。ソフィア様! ソフィア様が中央へ移動されるのはいつ頃でしょうか?」

「秋口には入学の為に中央へ移動しますよ」

「あ、秋口! な、なんとか頑張って間に合わせてみせます」

「出来たら中央へいらしゃってもいいですよ。他にもフェリックスにはお願いしたい事もありますから」

「は、はい。是非に。その間に中央の鍛冶職人や細工職人に浮気しないでください」

「浮気、、、w」

「す、すみませんソフィア様」

「いえ、大丈夫ですよ。ではフェリックス。機械式振り子時計をお願いね」

「はっ!!」


「それではソフィア様、ユリアーナ様。我々はこれにて失礼致します」

「はい」

「ご苦労様」


『では、ユリアーナ先生。まず。天体が私達の星の周りを廻っているというお話から覆さなければならないのですけど、、、』

『えー!!』


 ソ、ソフィア様は相変わらずトンデモないお話が続いているようだが俺達は席を立った。


 帰り道、、、。


「フェリックス。お前の方は大丈夫そうか?」

「はい。機構は理解できました。計算が難しければあとでパウルさんにお伺いに行きます」

「うん。判った。これまでも全てそうだが、この機械も時代を変えてしまいそうだな」

「ソフィア様のお陰で俺は人生が変わりましたからね」

「今も更に変えようとしているのだろう?」

「はい。おっかないカミさんから単身赴任に向けて人生を変えようとしてますよ」

「あはははは、お前カミさんに言いつけるぞ」

「勘弁してくださいよ」

「しかし、わたしもフェリックス達も皆、いい時代に生まれたものだな」

「はい。きっとソフィア様が生まれてくれた事がいい時代なのですよ」

「まあ、私達は成功させて頂いているのだ。このかけがえのない方に感謝を忘れないようにしよう」

「はい」


 フェリックスは複雑な理論を聞いて少し興奮していたが、本当にかけがえのないものだと夕日を見ながらしみじみと思い、単身赴任に向けて頑張ろうと決意した。


 

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