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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第四章 夢のファッション
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閑話 ルントシュテットへの旅 その2 夢のような観光地

 マクシミリアンの経営する店『ギャリカ ベストルム』でフレンチのフルコース料理を食べその美味さに我々は撃沈した。世の中にこんな料理があるものなのか。

 昨年の出来の良いワインだという高級ワインを振舞われヴェルナーも私も正直メロメロだった。


 店内には電気が点き綺麗な色ガラスで雰囲気が出ている。

 恐らく原理など聞いても私では理解出来ないのだろう。マクシミリアンという一人の天才とソフィア様という女神様にも等しい力を擁した事がルントシュテットの勝利をもたらせたのか?


「ビルム。どうした? 美味くはなかったか?」

「いや、美味すぎて言葉がない」

「生まれて初めてこんなに美味しいものを食べました」

「ヴェルナー殿にも気に入って貰えたようで嬉しいね。ここもようやく今年ステイラが二つ貰えたのだよ」

「こんなに美味い店がようやく貰えたのか?」

「そうだ。他はもっと美味い店がある。三ツ星のな」

「・・・」


「しかし今日はとっておきの酒を出そう。ブランデーというものだ。チョコレートなどの甘いものともよく合うぞ」


 グビリ。


「ほう、これはいけるな。直ぐに酔いそうだ」

「少しづつ香りも楽しむといい」

「はぁ。これは幸せです」


「ところで明日からの観光地の話だがこんな観光案内を作っている」


 小冊子を渡された。

 中を見ると見事な絵で各地の魅力が魅惑的な文章で伝えられている。


「まさかルントシュテットの各地がこんな事になっているのか?」

「観光地だからな。各地の貴族が集客を競い合っているよ」

「凄すぎて言葉がない」

「ビルムはそんなに言葉少なだったか?」

「いや、すまない。驚いているだけだ」

「どうだろう。私の姉上は知っているだろう」

「ラスティーネ様だな。貴族学院でも活発で魅力的な女性だった」

「わたしの前ならお転婆と言っても構わないぞ」

「勘弁してくれ」


「そのラスティーネは北のクラトハーンに嫁入りし夫のヴィクトール様がクラトハーンの観光開発に力を入れている。温泉だがどうだ? 行ってみないか?」

「温泉?」

「随分と魅力的ですね」

「美容に良い温泉だとかで女性に人気だそうだ」

「判った。ではそこで頼む。しかしルントシュテットでは女性がそんなに外出するものなのか?」

「ああ、やっと社会進出が始まって領民層も外出が増えている所だ」

「ルントシュテットは時代すら変えてしまっているのか?」

「ルントシュテットではなくソフィア様がだがな。わたしも女性の社会進出は考えた事があるがわたしでは実現できなかった」


 やはりソフィア様の仕業なのだな。


「そのソフィア様だが、フリッツ様の三男オスカー様がソフィア様の事を気に入ってしまい婚約を申し出たいとの事だ」

「オスカー様? 一番下の方だな。確かソフィア様よりも年下ではないか?」

「そうだが貴族学院へ行く前に婚約しておいた方が良いのではないか?」

「ビルムらしい考え方だな。確かにそうかもしれない。成人までに婚約を破棄すれば傷もつかないからな」

「でもオスカー様は昨年ソフィア様が来訪された時から夢うつつで心を奪われているようだぞ」

「それはビルムの方でどうにかして欲しい。卒業時にソフィア様の意向を聞きそれまでに決断できなければ婚約を破棄するという条件なら兄上に話してみても良いが」

「判った。それで頼む。ウルリヒ様への嫁入りもあるのだ。シルバタリアもよろしく頼むぞ」

「ああ、ソフィア様も海の事をかなり気に入っていたようだから近々そうなるかもしれん」


 夢のような美味しい料理と酒を振舞われ蒸気自動車であっという間にマクシミリアン邸に着き柔らかなベッドでぐっすりと眠った。

 ベッドが柔らかすぎるくらいだった。


 翌日、朝見送られステーションからブランジェルで乗り換えクラトハーン行きの巡回車に乗る。馬では直ぐに疲弊しそうな山間(やまあい)も力強く進みわずか2時間でクラトハーンのステーションに着いた。


 

「貴方、確かマクシミリアンの同級生ね。こっちよ」


 うん!? このスポーティな美女は誰だ? まさかラスティーネ先輩か?


 大胆に脚を出した半ズボンに革のジャケット。スカーフと頭には見慣れないガラスの目当てのようなものを身に着けている。目のやり処に困る。

 ついて行くとマクシミリアンの蒸気自動車よりも形がカッコイイものだった。


「二人なら後ろに乗って頂戴」

「は、はい。ラスティーネ様ですよね」

「いやねぇ。覚えてないの? よく中央でおごったじゃないの」

「いえ、覚えています。あまりにもお美しくなられたので直ぐには判りませんでした」

「きゃははは、嫌だわ。もう。そんなにサービスして欲しいのかしら。では後ろへどうぞ♪」


 いや、マジでこんなに魅力的な人だったか? 服装がラスティーネ様の活動的な美しさを際立たせているのかもしれない。


「ビルム様。本当に随分と魅力的な方ですね」

「ああ、わたしも驚いた」


「行くわよ。しっかりと捕まってて頂戴!」


 キュキュキュグィーン。


「「わ、わー!!」」


「は~い。着いたわよ」


「し、死ぬかと思いました」

「死んでないじゃないの。二人共情けないわね。ここが私の旅館よ。ゆっくりと楽しんで行って頂戴ね」

「あ、ありがとうございます。ヴィクトール様はいらっしゃらないのでしょうか?」

「後で挨拶に来たいと言っていたわ。ここの温泉は美肌にも良くて女性にも人気だけど男性も魅力的になるわよ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ、ではまたね」

「は、はい」


 ラスティーネ様が旅館と呼ぶ宿の主は女将と呼ばれる珍しい服を着た女性だった。

 何人もが見た事のない挨拶をする。地面に座り頭を付けるように身体を折りたたんだ挨拶だ。


 これは『土下座』でみつゆびをつくという最上級の「真」の神を称えるレベルの挨拶なのだそうだ。


 客も皆珍しい服を着て出歩いているようで仲居と呼ばれている給仕に部屋へ案内してもらう。部屋に同じような服が用意されているから着替えて過ごすのだそうだ。

 二人が泊まれるツインの部屋でおせんべいと呼ぶ茶菓子と茶が用意されていた。


「これは珍しい茶ですね。緑ですよ」

「本当だな。自然な感じがする」


 パリッ。


「美味い。これはドミノスがお好みのおせんべいではないですか? ゴマがまぶしてあって凄く美味いですよ」

「確かにシルバタリアのものよりも美味いな」

「しかし、仲居さんも客の女性達もみんな色っぽいですね。ちょっと驚きました」

「なんか温泉の湯上りでそんな感じがするのかもしれない」

「着替えるって、この布ですかね」

「うん、着替えてみよう」


 浴衣に袖を通し帯をそれっぽく結ぶ。


「こんなものだろう。夕食の時間まであるから湯の場所を確認して行ってみよう」

「はい」


 フロントに向かうと女将と仲居さんが二人の前にしゃがんで帯を直してくれる。結い上げられた髪のうなじが美しくとても良い匂いがした。


 旅館の中と少し歩いた場所にも温泉があるそうだ。ヴェルナーと一旦部屋へ戻り小銭を持って外へ出る。


 下駄と呼ぶ外履きに履き替えカラコロと音のする道をゆっくりと歩く。すれ違う人から石鹸の香りが漂い道の両脇には小さな店が沢山並んでいた。


「ビルム様。スマートボールもありますよ。あっちは的当てみたいです」

「これは楽しそうだな。温泉に入ってから夕食後に遊びに出よう」

「そうですね。これは何日でも楽しめそうです」

「全くだ。ん? あの立札は何だ?」


「えーと、ここの土地神様を祀った祠のようですね。御利益がありそうですから拝んでいきましょう」

「そうだな。折角来たのだから拝んで行こう」


 二人共お賽銭を入れ周りの人と同じように手を合わせて拝んだ。


「なんとも由緒正しい土地だったのだな。得した気分だ」

「ええ、橋から見た景色もとても綺麗ですしとてもいい所ですね」

「ああ、観光地とはこんなによい所だったのか。湯も楽しみだ」


 二人はゆっくりと温泉につかり、マッサージを受けて宿に戻る。


 辺りは夕暮れで少し暗くなるが街灯が灯っていた。

 各小さな店も電灯がついている。


「や、やはり、あの光は蝋燭でもランプでもない光だぞ」

「こんな観光地にまであるのですね。ビ、ビルム様。あ、あれを!!」


 夜の川が青い電球でライトアップされ幻想的な灯篭流しが繰り返し行われている。


「な、なんという幻想的な風景なんだ。本当に神の世界のようだ」

「ずっと見ていても見飽きませんね」

「これは、、、こんな所に家族も連れて来たいな」

「本当ですよ。あーなんで仕事なんだぁ」


 しばらくライトアップを眺めてから旅館に戻った。

 

「ここ、本当にルントシュテットですか? 神々しさが感じられましたよ」

「ラスティーネ様に案内されたのだ。間違えないはずだが、、、」


「お食事の時間です。お部屋に運びますか?」

「部屋以外でも食べる事が出来るのか?」

「はい。宴会場では芸を見ながらお召し上がりになれますよ」

「では、それに行ってみよう」

「畏まりました。こちらへどうぞ♪」


 ヴェルナーと共に宴会場へ向かう。各テーブルに食事が用意され、ライスを珍しいカトラリーで食べるようだ。舞台の上ではこれも珍しい楽器に合わせより綺麗な着物で舞を踊っていた。


「独特な雰囲気がありますね」

「ああ、とても印象的な観光地だな。これまで見たグレースフェールのどの土地よりも印象深く素晴らしいものだ」

「国で一番ですか?」

「そうだ」

「でも確かマクシミリアン様の小冊子にはルントシュテットの各街に観光地があるようでしたよ」

「うーん。まさかこれ程のものが他にもあると言うのだろうか?」

「そうなったらもうどの領地も手も足も出ませんね。みんなルントシュテットに来たがりますしお金も集まるでしょう」

「その通りだ。これはかなり由々しき問題だぞ」

「問題というよりもわたしは楽しくなってきました」

「いや、享受する方はそれで良いのだがシルバタリアの事を、、、まあ、今は楽しもう」

「はい」


 小さな鍋の下に火が入れられる。


「これは何が燃えているのか?」

「お一人様用の炭という固形燃料ですよ。火傷しないようにお気をつけください。本日は山菜とヤマメの天ぷら、獅子鍋でございます。お飲み物はこちらのメニューでご注文ください」

「判った」


 これも見た事のない楽しい食事だった。

 目の前で今調理が行われ温かいまま食べる事が出来る。  

 

 ルントシュテット独特の味が染み込みとても美味い料理だった。地酒も美味い。


 この後、我々は夜店に出掛け遊び、食べ、飲んだ。

 翌日も旅館の温泉でドロパックを楽しみ、この地でフェルティリトを取得したワショクの店に驚愕した。旅館のダーツという的当ては飲みながらも楽しめたがビリヤードという競技は酔った状態では難しかった。

 あっという間に3日が過ぎた。


「失礼致します。ビルム様宛にこの街のヴィクトール様がいらっしゃってますが、いかがいたしましょう」

「面会できる会議室はあるか?」

「フロント前のロビーがございます」

「では、そこへ向かうとお伝えしてくれ」

「畏まりました」


「ヴェルナー。直ぐに着替えて行くぞ」

「この浴衣のままじゃダメですかね」

「何を言っている。このクラトハーンの貴族だぞ」

「そ、そうでした。直ぐに着替えます」


 バサバサ。



「やあ、確かビルム・フォン・ハッセル子爵だったね。ラスティーネから聞いてるよ。ヴィクトール・フォン・クラトハーンだ」

「貴族学院ではお見掛け致しましたがこうご挨拶させて頂くのは初めてかと思います。ヴィクトール伯爵、シルバタリアのビルム・フォン・ハッセルでございます」

「同じくシルバタリアから参りました男爵家のヴェルナー・フォン・ファルケンホルストです」


「二人共そう硬くならないでいいよ。浴衣で良かったのにもうお帰りかな?」

「はい、そろそろ戻らねばなりません」

「ワショクは堪能して貰えたかな? 確かハッセル子爵はシルバタリアのフェルティリト判定員だったよね。味はどうだった?」

「わたくしはまだ未熟ですがワショクの美味さには驚愕致しました。接客、清潔さ共に満点でございます」

「それは持ち上げ過ぎだな。ラスティーネも喜ぶと思うよ。是非また来たら寄って欲しい。お土産にここの名産品「温泉まんじゅう」があるからご家族にどうぞ」

「これはご丁寧にありがとうございます。まさに『夢のような観光地』でした。是非また楽しみにまいります」

「二人共また来てね。それでは」

「はい、失礼致します」

「失礼します」


 ふぅ~。


「随分と気さくで柔らかい物腰の方ですね」

「ま、まあ、あのラスティーネ様のご主人だからな。あれくらいでないと難しいかもしれん」

「では、そろそろ本当に帰りませんといつまでもここに居続ける事になりそうです」

「そうだな。予算もオーバーする訳にはいかんがどこも驚くほどに安かったな」

「はい、領民でも皆楽しめそうです」


 この後、リバーサイズまで直行する巡回車で数時間程でリバーサイズへ戻り、カレーライスを食べ、リバーサイズの名産品フウリンと蚊取り線香を買い込んでから馬で帰路に着いた。



 今回の旅の目的である、フェルティリトの報告、ソフィア様の囲い込みの為の婚約の申し込み、ならびにルントシュテットの繁栄の秘密は概ね状況は見せて貰ったが恐らくまだ知らない事の方が多いだろう。そして他の観光地も良い場所なのだろうと思う。

 シルバタリアで遅れている物は数多くあり取り引きに入れて貰うものが多すぎるが負けてばかりはいられない。

 

 しかし本当に『夢のような旅』だった。


 今回はお会いする事が出来なかったがソフィア様。早くシルバタリアでお会いしましょう。


 わたくしが必ず『土下座』でみつゆびをついてお迎えいたします!!

 

 次回:幾度となくマドグラブルの船がシルバタリアの島へやって来る。

    その対処にソフィアは、、、。

 お楽しみに。

 という次話ですが、ちょっと公開が危ぶまれますw。

 まあ、考えるのは来年ですね。

 では、良いお年を♪


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