閑話 ルントシュテットへの旅 その1 夢の乗り物
最初のサービスエリアのお話は長くなってしまったのでちょっとおかしいですけど全部カットしました。五千文字以上を『聞かせられない』と一行にw。いや、少しは計画的に書きたいものですねw。
随分と早めにルントシュテットに入れたな。このままのペースで行ければシュタインドルフまでは後3日位だろう。
私の名はビルム・フォン・ハッセル。シルバタリアのドミノスであるフリッツ様に仕える執事をやっているが実は子爵家の長男だ。今回はシルバタリアのフェルティリトの賞についての報告をするためマクシミリアン・フォン・シュタインドルフに招かれ報告に向かう。思えばマクシミリアンとも貴族学院の頃からのくされ縁だな。護衛で男爵家のヴェルナー・フォン・ファルケンホルストとの馬での二人旅だがまあ気ままな旅もたまにはいいだろう。
ルントシュテットへ嫁いだレオノーレ様がシルバタリアへ戻られた際のルントシュテット側の特異さは今も忘れない。マクシミリアンが優秀な事は貴族学院の頃から身に染みて判っているがレオノーレ様のご息女ソフィア様はわたしから見ても異常な程優秀過ぎた。
見た事もない道具を即興で作り、料理を振舞いあっという間にシルバタリアで大人気となった。
設置された冷風機や空飛ぶ模型、コサージュと呼ぶ造花のコルサージュは今でもフリッツ様と語り草になっている。
あれからマドグラブルとの小競り合いの野戦があったが他領には応援を請う程でもなく、ルントシュテットからは剣が100本程届いた。驚く事にこのヴェルナーも使い相対したがルントシュテットの剣は敵の剣を砕き各地の野戦は圧勝したのだ。あの地竜の硬い外皮も切れたと言う。
恐らくこれもソフィア様の仕業なのだろうか? 剣の作り方など一切不明なままだ。
一体ルントシュテットで何が起きているのだ。
フェルティリトの報告だけでなく将来を見据えたソフィア様の囲い込み、並びにルントシュテットの秘密を少しでも探る事が今回の主目的だ。これには私とヴェルナーの命と引き換えであっても構わない覚悟で来ている。
パカパカパカ。
ヴィーン。ガガガガガ。ズズーン。
「な、なんの音だ」
「こんな音は聞いた事がありません。注意して行ってみましょう」
「よし」
馬を走らせ先を急ぐ。
「な、なんだ、あれは!」
「うっ!!」
見た事もない大きなものが数多く大きな音をたてて動いていた。巨大な地竜のような物に人が乗り工事をしている。外側の鉄のベルトが進行方向に動いているようだ。あれは一体どうやって動いているのだ! 森も切り開かれ既にいくつもの建物が建設されていた。巨大な根が引き抜かれ、巨木が運ばれ、地面の土を膨大に均している。その異様な光景に思わず二人共固まってしまった。
ゴクリとツバを飲み込み我に戻る。
道からそれた部分には恐らく入るなという意味だろう。ロープが張られ何かを手に持つ係の者がいるようだ。聞いてみよう。
「これは一体なんだ?」
「はい? ああ、シルバタリアからいらしゃったのですね。只今工事中ですから気をつけてください。サービスエリアでしたらこの先にありますのでそちらをご利用ください」
「いや、あの大きな人が乗っているものは何なのか?」
「えっ? あれは重機という工事用の車両ですよ。はい、お気をつけて」
重機・・・。
「ヴェルナー、私は何を見ているんだ」
「ビルム様。お気を確かに。ここは厄介な森であったはずです」
「ああ、私も知っている。あれは一体どうやって動いているのか?」
「わかりません。ビルム様でもお判りにならないものがわたしに判るはずもありません」
「いや、すまない。私にも判らぬ」
もしもこんなものが戦争に使われれば陣地の構築も地竜の相手も思いのままではないか!!
「どうやらルントシュテットの民には既に当然の事なのだな。さ、先を急ごう」
「はい」
少し馬を進めると休憩する場所があった。恐らくこの辺りから大きな街が作られるようだ。先の戦争からの復興どころか新たな街を作る程余力があるのか。
驚くほどに整備された休憩所だった。飼い葉も水も用意されトイレもレストランのようなものまで作られていた。
この後の失態はとても聞かせられるようなものではない。あまりに美味い料理と気持ちいい湯あみの後あろうことかワインまで飲みここの宿泊施設に一泊してまってしまったのだ。
全部で8日の工程であるが既に半日以上ロスしてしまった。取り戻さねばならない。
「ヴェルナー。その朝食を食べたら急ぐぞ」
「はい、でもこれも美味いですね」
「ああそうだな。い、いやいかん、惑わされず食べたら直ぐに出発だ」
美味い朝食に後ろ髪を引かれつつ私達は出発した。今日はリバーサイズを越え出来ればシュトライヒまで行きたい。
数時間馬を『速歩』で進めリバーサイズに入った。
「ビルム様。こ、これは、、、」
「なんという発展ぶりだ」
「未来の異国の街のようですね」
「と、取り敢えず馬を預けて食事にしよう」
我々は馬を預けて食事処を探す。
いや、これは、、、栄えた道に人は溢れかえりいくつもの店が展開されている。
「これは、シルバタリアのワイソトールとは比べ物にならない程栄えてますね」
「ここは本当にリバーサイズなのか? ここはルントシュテットでもブランジェルに程遠い田舎の街だろう」
「確かに山の景色の良さは見覚えがあります。リバーサイズで間違えありませんがこの街はすごいです。ビルム様、あの店はどうですか? ステイラを取得しているようですよ」
「いや、また美味さの魅力に負けて滞在が長くなると不味いからあちらの見た事のない絵の描かれた店にしよう」
「そ、そうですね」
カレーライス店だ。ビルムはチキン、ヴェルナーがビーフを頼み共に中辛にした。
「こ、これは何だ」
「ライスのようですね。驚いてばかりでは田舎者に見られますから食べてみましょう」
「ああ、そうだな」
パクッ。パクッ。
うっ、おわっ。
「か、辛い! しかし美味いぞ」
「本当ですね。何だ、この癖になる辛さは。食欲が出てたまりません」
「確かに。幾らでも食べられそうだ」
「み、水が無料であって助かりましたね。でもバクバク食えますね」
「平民の店だがこれでは貴族らしく食べる事も難しいな」
「気にしない方が美味いですよ」
「そ、そうだな」
バクバクバク。
「いやー、あのカレーライスは本当に美味かったですね。是非帰りも喰いたいです」
「ああ、そうしよう。 うん? あの大きな建物は何だ?」
「服飾のお店が入っているようですね。随分と綺麗で大きな建物です。入ってみますか?」
「そうだな。情報を得る事も必要だからな」
「随分と珍しい服が飾ってありますね」
「そうだな。あっ、これはソフィア様が作っていたコルサージュだ」
「いくつも綺麗なものが売られてますよ」
「まさかあれからこんなに沢山の種類を販売までこぎつけたのか。マクシミリアンは服飾にまで手を伸ばすとは本当に侮れない」
「ちょっと母上に一つ買って行きますね。ホールにはシピオーネまで置いてありますよ」
「ここで演奏でもするのだろう。なんという高貴な店だ。こんなものは中央にもないぞ」
「凄い物を見ましたね」
ふぅ。驚いたな。
「ビルム様。あの店は何でしょうか」
「もうあまり時間がないぞ」
「少し覗くだけです」
「しょうがないな」
カタン。ガラガラガラ。
「ヴェルナー。これは面白いな。やめられなくなってしまいそうだ」
「明日から馬を走らせれば、き、きっと大丈夫ですよ」
「そ、そうだな」
この日、二人はスマートボールに興じて遅くなりリバーサイズに宿泊した。
あのスマートボールには中毒性があったが是非シルバタリアにも欲しい遊戯だった。
しかし不味いな。こんな所で一日もロスしてしまった。本来なら既にシュトライヒまで着いているはずだ。今回は中央からは文官のルディ・フォン・アルニムがシュタインドルフに同時に到着する予定だが、私はシルバタリア代表として遅れる訳にはいかない。
「主、世話になったな。ところでシュタインドルフまで急ぎたいのだが早く行けそうな道はないか?」
「お客さん、シュタインドルフまで急ぎなら馬を預けて巡回車に乗れば半日もあれば行けますよ」
「何? 半日だと! 巡回車とは何だ。巡回馬車の事か?」
「いえ、蒸気自動車の巡回車ですよ。ステーションへ行って切符を買えば乗れますよ。まだ席が空いていればいいですが、、、」
「判った。直ぐに行ってみよう」
我々は馬を預けてステーションという場所へ向かった。
昨日泊まった辺りより更に栄えていた。
蒸気自動車とは一体なんだ。
当たり前のように領民にまで知られている事を我々が知らないとは、、、。
「このステーションという付近が最も栄えているようですよ」
「そ、そうだな。もはやこれは中央の繁華街など霞んで見える」
「あそこですね。行ってみましょう」
「どちらまでですか?」
「シュタインドルフまでだ」
「二名様ですね。ブランジェルで環状線に乗り換えになります。少々お待ちください」
切符を2枚渡された。一度ブランジェルで乗り換えが必要なのだな。巡回車は半時程後らしい。
「半時あるならまた昨日のスマートボールへ行きますか?」
「いいな。い、いやダメだ。あれは面白くて時間を忘れる。我々は仕事に来ているのだぞ。ここは我慢しろヴェルナー」
「そ、そうですね」
プシュー。ブルブルブル。
巨大な馬車を何倍にもしたものを昨日見た重機よりスマートな機械が引きステーションに到着した。
こ、これが蒸気自動車か!!
『リバーサイズ、リバーサイズ。お降りの方は忘れ物にご注意ください』
幾人もの人が車両から降りて来る。驚く事に女性も多く、魅力的で活動的な服装を着ていた。
「何故こんなものが動くのだ」
「お、驚きですね。全く判りませんよ。しかしルントシュテットではあんなにも女性が外出するのですね」
「そ、そうだな。しかもみんなカッコいいバッグを持って服装も魅力的だ」
「ビルム様、鼻の下が伸びてますよ」
「お、お前もだ」
巡回車が回ってきてステーションに着いた。ここで折り返しのようだ。
「この切符であれに乗れるのだろう?」
「はい」
カチッ。
「それは何だ」
「入札です。この番号の席にどうぞ」
「判った」
「では私も」
カチッ。
車両という巨大な乗り物に乗ると柔らかな座席の脇に番号がふられていた。ヴェルナーと共に座り発車を待った。
「ビルム様。わたしの見間違えかもしれませんが昨晩あの大きな店の方が光っていたのですよ」
「部屋のランプが窓に映っていたのではないか?」
「いえ、わたしは窓を開けて見ました。神の降臨かと怖くなって布団をかぶって寝ました」
「しかしあの布団も柔らかく信じられない程に軽かったな」
「全くです。売って欲しかったですよ」
「うむ。マクシミリアンにでも聞いてみよう」
時間ピッタリに発車し、驚くほどのスピードを出しているが振動も少ない。これは馬を全力で走らせるよりも速いのではないか? ものの数十分でカッテ、ビッセルドルフ、シュトライヒの各ステーションに到着し、多くの人が乗り降りした。 後20分程でブランジェルに着くらしい。
二人は驚きで声を失った。
飛んでもない移動手段があるものだ。昼にはまだ早いがヴェルナーは車内販売でホットドッグという柔らかなパンと紅茶を買いとても楽しそうだ。
このまるで未来の『夢の乗り物』は2時間とかからずブランジェルに着く。シルバタリアの現状と比較すれば頭が痛い。
しかし美味そうだったので私も購入して食べた。くそっ、これも美味過ぎる。
ブランジェルで乗り換えシュタインドルフのステーションに到着した。
途中の景色も見事な街ばかりで目が回りそうだったがシュタインドルフは街並の美しさだけでなくステーションから伸びる道にまで美しさがあった。大きな店、あらゆる商品が販売されているように見える。
看板を見ると昨日興じてしまったスマートボールや的当てのバーまであるようだ。
「ビルム様。予定よりもずっと早く着いてしまったようですよ」
「そ、そうだな。仕方ない一日時間を潰すか」
「いいですね。やったー」
「失礼。シルバタリアのビルム様ではございませんか?」
身なりの良い老紳士だ。
「いかにも。其方は?」
「わたくしはシュタインドルフ家の迎えのマルクでございます。予定よりも早くお着きになるかとお待ちしておりました」
マクシミリアンに巡回車を使う事が読まれていたのか。
「ご苦労」
「只今、車を廻しますのでしばらくお待ちください」
車? あの巡回車や重機のようなものか? まさかマクシミリアンが個人で所有しているのか?
「ビルム様、スマートボール、、、」
「ヴェルナー。今日は諦めろ。終わったら好きなだけ遊ばせてやる」
シュー、グィーン。
カチャッ。
「ビルム様、お連れの方。こちらへどうぞ」
「うむ」
「な、なんですかこれ?」
「判らんが馬のいない高級な馬車だとでも思って乗るしかあるまい」
グィーン。キュキュキュ。
あっという間にマクシミリアン邸に到着した。仕えの者がずらりと並び執事が蒸気自動車のドアを開ける。
安全運転ではあるがビルムもヴェルナーもあまりのスピードに血の気を失っていた。気を取り直し襟を正す。
「いらっしゃいませ。ビルム様。お待ちしておりました。ささっ、こちらへ」
執事の案内でマクシミリアンの執務室へ案内された。
「旦那様、ビルム様がいらっしゃいました」
「判った。通してくれ」
「ビルム。久しぶりだな」
「そちらこそ変わりないようだ」
「そちらは?」
「護衛だ。ヴェルナー」
「シルバタリアの男爵家ヴェルナー・フォン・ファルケンホルストでございます」
「マクシミリアン・フォン・シュタインドルフだ。よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願い致します」
「マクシミリアン。其方に色々と聞きたい事がある」
「ルントシュテットの事なら隠している事は話せないぞ。それよりも今回の目的を先に済まそう。評価書は持ってきたか?」
「こちらに用意した」
「ヒルデガルト。受け取ってくれ」
「はい」
「評価としては、、、おい、なんだよこれ。割合から行けば3店舗までだぞ」
「いや、どれも美味く誰も判断出来なかったのだ」
「それでは意味がないではないか? 貴族経営はこの2店舗か?」
「そうだが、、、」
「仕方ない。この2店舗をウノステイラ。この清潔で接客の良い所をドゥオステイラとしよう。次からはきちんと味の判断も頼むぞ。でなければ判定員を交代させるからな」
「わ、判った。そう言えば中央からの文官ルディ・フォン・アルニムはどうした?」
「ルディなら昨日来たぞ。元気そうだったよ。中央にはヘルガというルントシュテットの技官が行っており話を聞いていたようでルントシュテットに来てそのまま仕事を終えて中央へ戻ったぞ」
「たった一日でか?」
「そうだが?」
「マクシミリアン。これはどういう事態だ。ルントシュテットで一体何が起こっている」
「見ての通りだ。ルントシュテットは女神様のおかげで栄え、食、農業、服飾、交通網、観光とあらゆる文化的な部分が発展しているだけだ」
「ソフィア様の女神様伝説か。これが発展しているだけだと! どういう事か説明してくれ」
「いや、だから発展しているだけだと言っただろう。それ以上の説明はわたしにも難しいぞ」
「むぐっ」
「別に全てを隠している訳ではないぞ。その目で見て行けばいいだろう。いずれ兄上の方から国王様へ報告しなければならないから黙っててもやがて国全体にも広まるだろう」
「判った。そうさせてもらおう」
「今晩は私の店で食事をごちそうしよう。その後の予定はどうだ?」
「いや、全工程で8日を予定したがまだ3日目だ」
「なら明日から観光地にでも行って3,4日ゆっくりとしてくるといい。色々と見れると思うぞ」
「ヴェルナー。そうさせてもらおうか?」
「はい。ビルム様」
ス、スマートボール、、、。
「では、時間になったら玄関ホールまで頼む。それまで部屋へ案内させよう。マルク。頼む」
「畏まりました。マクシミリアン様」
「こちらへどうぞ」
執事に綺麗に整えられている部屋へ通された。湯も水洗というトイレも使えるし電気というものがあるらしい。
パチッ。パッ!
「な、なんだこの光は?」
「電気でございます。暗くなりましたらご利用ください」
「電気?」
「ドアの外にメイドを付けますので何かあればお声がけください」
「すまぬがヴェルナーを呼んで欲しい」
「畏まりました。お呼びして参ります」
「ビルム様。驚きました。トイレに水が流れるのですよ」
「なんだと!?」
「とても清潔で臭いもありませんでした」
「し、信じられない。しかしこの電気とは何なのだ」
「恐らくこれが昨晩見た神の降臨と勘違いした光だと思います」
「光の女神様か」
「蝋燭でもなくオイルランプでもないのにこのスイッチで光が点くとは、もう頭が混乱してきたな」
「何がなんだかもう判りませんね。わたしたちはルントシュテットではなく神の世界にでも迷い込んでしまったのではないですか?」
「そこにマクシミリアンがいるとでも言うのか。いや神の世界でも構わない。我々は見れるだけ見て、ありのままをドミノスに報告するしかあるまい。マクシミリアンは違うにしても幸いソフィア様はシルバタリアの血縁でもある事に望みを掛ける」
「そ、そうですね。シルバタリアがこんな風に発展したら夢のようですね」
「その為にもマドグラブルは完全に押さえねばならない」
「その通りです」
夕方になるまでルントシュテットで二人が見たもの、実際に体験した事を整理するように話し合った。
次回:貴族学院の先輩ラスティーネ様の地元へ観光に行くシルバタリアの執事ビルム。
閑話 ルントシュテットの旅 その2 夢のような観光地
お楽しみに。