クラトハーンのお肌すべすべ
ビアンカの事故のお話とスパイのクリスティーナの最後の話を書いたのですがあまりに悲惨な事になってしまい急遽カットしましたw。スパイの方は簡単に概略だけ書きます。お許しを。
マクシミリアン叔父様に多くの密偵がルントシュテットの調査に来ていて注意するように言われた。
密偵っていうことはスパイだよね。
料理人のカリーナやメイドのハイデマリーも接触した事がありシルバタリアへ行った際に花を枯らせたのはハイデマリーだと実行犯が明かされ、二人をどう処分するかを判断して欲しいと言われた。
私に近い人達だから特別なのだそうだ。こっちの法は判らないけどいきなり処刑でもされていたらマジで泣いてたよ。
ハイデマリーは毒を水袋で持たされ『栄養豊富な水だから暑くなったら使うといい』と騙されて花に与えたそうだ。人が飲まなくて良かったよ。
カリーナもハイデマリーも騙されただけである意味被害者だ。こちらの基準では処分するそうだけど日本の倫理観から行けば犯罪に加担したものの騙されただけで軽い執行猶予などにあたると思う。
もっと早く私が知っていてカリーナとハイデマリーの家族の病気を治せれば良かったのかもしれない。
これだけ長く一緒にいても私は立場上、みんなの家族の話なんかを相談して貰えないのはなんだか少し寂しかったよ。
今ではハイデマリーはコサージュや髪飾りの責任者をやって貰ってるしカリーナはお菓子の先生をしているとても大切な仲間だ。
叔父様に私の保護観察として毎週生活態度を報告する事を1年間続けるという処分にして貰う事にした。
このお城で下働きをしていたというラグレシア領のメレンドルフ伯爵からの密偵クリスティーナはルントシュテットの新種の葡萄の苗を沢山持ち、石灰や肥料の作り方を記したものを持ってラグレシアに戻ったそうだけど、葡萄は育て方を知らずに直ぐにダメになり、石灰や肥料も施肥の知識がなく失敗したそうで今は投獄されているらしい。
ルントシュテットの苗を渡した者や肥料の作り方を教えた者は既に叔父様の方で即刻処刑されたそうだ。聞きかじりの知識で農業のような難しい事が失敗しないのなら私はこんなに苦労はしてないよ。
碌な知識もなく石灰や肥料は上手くは使えないからね。失敗して当然だよ。家庭菜園でさえ簡単じゃなくてうちの母も失敗ばっかだからね。『買った方が安くて早い』っていつもぼやいているよ。農業従事者が理解して試して初めて出来る事だからね。
でも逆にそのせいでラグレシア領では大規模な不作が発生して餓死者まで出ているらしい。
なんて事をしてるんだろう。
ああ、でもここはそういう世界だったよね。
私は餓死者を思ってちょっと落ち込んで自室に戻るとリナがラベンダーのお香を焚きましょうと気を使ってくれたけど、本当にお香の匂いで少し落ち着いた。ありがとうリナ。
まだ小さな発電だけど電気が使えるようになったのは大きい。化学の発展には電気分解が重要だからね。電気分解が出来るようになって小さな電力だけどようやく時間は掛かるけど重曹が作れるようになったよ。これはかなり嬉しい。
これまでの草木を焼いた灰の上澄み水で作ったラーメンよりもずっとモチモチの麺になるよ。他にも重曹は使い道が多いしカリーナにもあげてもっとお菓子も美味しくしようと思う。重曹まで本当に長かったけど重曹万歳!
ラスティーネ様が何度もクラトハーンに一緒に行こうと言ってくる。温泉旅行だけなら行きたいよ旅行なら。でもラスティーネ叔母様は蒸気自動車を運転したいのもあるだろうけど、クラトハーンに収益をもたらすアイデアを求められても私別に観光大使でも何でもないただの子供だからね。頼みの日本の家庭教師達は研究者やピアノの先生、栄養学の先生で流石に大人でもそんなのは難しいよ。
恐らくこれから他の街でも同じ事が始まるよね。私は寝ていたいのにそんなの考えるだけで頭が痛くなりそうだよ。
日本では早々と私立中学の入試があった。
車で試験会場まで送ってもらうと、後からとても長い車から降りて来たのは美麗だった。この学校美麗も受けるんだね。私は特に問題なく試験を終え電車で帰ろうとすると、美麗が話しかけて来た。
「夢美も清廉を受験したのね。はぁ、これで私の主席合格はなくなったわね」
「美麗、気を落とさないでよ。まだ判らないよ」
「なんで夢美に慰められなきゃいけないのかしら。私はあれから一度も成績で勝ててないのよ」
「頑張れ」
「はぁ、貴方とお話すると調子狂うわ。そう言えばあれから何か困った事はあるかしら」
「困った事だらけだよ」
「ではちょっとお茶してから帰りませんこと?」
まあ帰りは電車の予定だったので時間もあるからいいかな。
私は長い車に乗る。中は凄く広くて応接間のようだった。私が作ったキャンピングカーはコンパクトに機能を詰め込んでいたからこの豪華な車とは全然違うけどなんか参考になるよ。
有名なホテルの前につけて中に入るとエレベータが開けた状態で待たれていた。お嬢様完全にVIPだね。
広い個室に入ると直ぐに紅茶とケーキスタンドが運ばれた。
わぉ。このケーキスタンドいいよ。参考にしよ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「夢美はこの前本を出したでしょ」
あれ、このお嬢様何で知ってるの? 美鈴先生と共著で出したけど良く知ってるね。
「うん、あの論文はわたしと討論した家庭教師の先生が書いたんだよ」
「まるで本当に全部を試したような詳しい論文だったわ」
中身読んだんだ。
「ところで夢美が今困ってる事は何なの?」
いや、美麗に観光大使の話をしても、、、。
「何でもいいわよ」
うーん、まあいいか。
「色々な地方の街に何か観光出来そうな準備を考えたいのだけど何から手を付けていいのか名物を頑張る位しか思い浮かばなくて困ってるんだよ」
「夢美はリゾート開発でもしたいのかしら?」
「うん、そんな感じかな」
「ふふふ。貴方本当に面白い事で困ってるのね。今度はそんな論文も書きそうだわね」
「いや、判らないから無理だって」
「一応観光学っていう学問もあるのだけれど実践でないと難しいわよ。
そうね、ポイントはいくつかあるけど、、、
安全と安心、
交通網、
見るに値する出来れば歴史的な場所、
美味しい特産品、
遊ぶ場所の提供、
くらいかしらね」
おお、なんかお嬢様は商売の事を聞くと本当に何でも知ってるね。メモメモ。
「見るに値する場所が無ければどうするの?」
「そんなのは見るに値する場所を作るのよ。歴史背景を調べてちょっと大袈裟にアピール。夜間ライトアップでもして価値を高めるのよ」
作るのか。成程。もう私達と考え方が違うね。お嬢様なら凄い商売をしそうだよ。
遊ぶ場所かぁ。
「例えばどんな風に?」
「このうちのホテルでも景色がすごいでしょ。夜景はもっと凄いのよ。ここには浴場もマッサージもあるし、美味しいレストランも入っている。夜にはバーでダーツやビリヤードで遊べる場所もあるのよ。夕食を食べて行くかしら?」
ここ美麗の家のホテルだったんだ。VIPな訳だね。
「いや、大丈夫。でも凄く勉強になったよ。本当にありがとう。美麗は何でも知ってるね」
「貴方の奥深さ程じゃないわよ。貴方の頭の良さは本当に偏っているわね。現代日本のトップで生き残るのは大変なのよ」
いや、そういうのはあまり興味はないし、このお嬢様なら中一でこれなんだから生き残れそうだね。
この後、服装やお化粧のお話をして、中学でも薄っすらとお化粧位はするし校則も問題ないそうだ。
そんなの初めて知ったよ。よく見るとお嬢様は少しお化粧をしていたよ。
向こうでは女性はあまりお化粧をしないで軽く白粉をはたく位だ。
私の中世のイメージでは白塗りとかそんなのも有り得るかと思うと、助かったと思ったくらいだからね。まあ女性が出歩かないからなんだけどね。
でも薄っすらとした化粧や基礎化粧品とかなら需要もありそうだね。そっちを作ろう。
でも美麗にはいつも助けられているばっかで私はあまり役に立たないから機会があればお礼をしよう。
結構楽しくお話して美麗はお家まで送ってくれた。
この日、私は沢さんに重曹を使ったお饅頭や焼きまんじゅうの作り方を教わった。味噌なしでって沢さんに言ったら甘辛のみりん醤油に砂糖を加えたタレでもすごく美味しかったよ。この焼きまんじゅうは重曹がないと不可能だね。電気ってやっぱ偉大だったよ。
いつも通り調子に乗って作り過ぎたので夕飯に余ったのを出したら母も『懐かしいわ』と言って食べていた。
いや、お饅頭くらい今も売ってるでしょ。
ラスティーネ様の運転でキャンピングカーを使って叔母様の嫁ぎ先クラトハーンへ行く。
ドライバー用のジャケットもゴーグルも本来は男性用に作ったのにラスティーネ様は似合い過ぎていた。ショートヘアに良く似合う。
側使えや護衛騎士も一緒で叔母様の嫁ぎ先まで2時間程度で着いたよ。運転は速くてちょっと怖かったけど意外と近いね。
ラスティーネ様の夫はヴィクトール様でお子様はまだいないらしい。まあラスティーネ様は普段は中央へ行ってるから別居っていうやつだけどヴィクトール様もラスティーネ様も仲が悪いとかではなく仕事を優先しているっていう感じだ。大人は大変だね。
普段はブランジェルの館に住んでいる騎士団長のビッシェルドルフ様のご実家もここで結構古いけど大きな館だった。
ラスティーネ様が自慢していた温泉もこの館に引いているそうでいつでも入れるらしい。
それいいなぁ。
好きな時に温泉に入ってボーっとしてお昼寝なんて最高だよね。
私はヴィクトール様にお茶に招待された。ついでに持ってきたサンドイッチの弁当も広げて食べるよ。
「ラスティーネから聞いたけど、ソフィア様があの蒸気自動車を作ったんだって? 本当に凄いね」
「蒸気自動車はラスティーネ様の担当だし鍛冶職人が凄いのですよ」
「クラトハーンでも早速色々な工作機械を導入させてもらう事にしたよ。本当にありがとう」
「いえ、でも蒸気自動車の巡回運転に賛成して頂いてありがとうございます」
「そんなの反対する街はないだろう。逆にステーションから離れた街は苦情を言ってたからね。お義兄さんも調整が大変そうだったよ」
「そうなのですね。交通網は環状線の後でもっと充実するように伸ばして行けばそう時間を掛けずに便利になると思います」
「そうね。今日も運転していて本当に便利なものだと改めて思ったわ」
「ラスティーネ様は速度が速過ぎます。レーサーみたいでしたから危ないですよ」
「レーサーって何?」
「ああいう車で速さを競う競技者ですよ。危ないから絶対にダメです!」
「えー、面白そうなのに、、、」
まだマルテやノーラ、リナの顔が少し青い。
「おいおい、危険な事は勘弁してくれよ。ソフィア様。この街の良さを引き出す為に何がいいのか? ラスティーネから温泉だと聞いたが今から見に行こう」
「ありがとうございます。ラスティーネ様には観光に力を入れて頂きたいと思っていますので色々と考えて欲しいのです」
「えー、ソフィア様が考えてくれるんじゃないの?」
「最初だけですから後はラスティーネ様担当です」
「うぅっ」
私は温泉の状態を見せて貰った。館のものは館の中までお湯が引かれていたけど宿を作りたい場所から源泉の位置は少し離れている。道を少し昇って歩き、橋を越えて温泉の源泉まで案内して貰った。
川も綺麗で橋からもいい景色だし温泉も流れ込んでいるようで湯気も見えた。
途中、汚れてたけど古い神さまを祀った祠が脇にあり、源泉の場所に宿まで建てる広さはなかった。これだと山を切り崩さないと宿が建てられそうもない。
「源泉はここの他にも館に引いているものなどもいくつかあるんだけど、こっちの源泉は泥が一緒に湧き出ていて濁って使えないんだよ」
「泥? 見せて貰ってもいいですか?」
「こっちだよ」
少し歩くと、湯気の脇に熱そうな泥がデロデロと流れている。
白っぽいネズミ色の泥だ。これめっちゃミネラル豊富な泥じゃん。パックに使えるやつだ。
私は概ね構想を考えてクラトハーンの屋敷へ戻り厨房でお饅頭を作り始めた。
いや、ここでも私は料理をさせて貰えないからレシピは作ったけど指示だけだよ。小豆や砂糖、みりん、醤油粉も用意したけど普通にここにも置いてあったようだ。
うん、もう夕方で食べ過ぎると夕飯が食べられなくなりそうだけど、お饅頭と焼きまんじゅうをおやつにヴィクトール様とラスティーネ様とお茶をした。
ヴィクトール様もラスティーネ様も美味しそうに食べて気に入って貰えたようだ。
「あの立地だと源泉の場所には大きな宿は難しいですよね。なのでアソコから引かずに温泉に入るだけの施設をあの場所に作ってもいいのかと思います。宿に引くのもありです。その道すがらお店を並べてお饅頭やお土産を売ります。祠周りを綺麗にして由緒を立札で判りやすく書いて歴史的名所にしましょう。夜間にはあの橋から見た川をカラー電球でライトアップして綺麗な景色を作ります。温泉の際にあの泥を使って泥パックをして美容に良い温泉として広めるのでいかがしょうか?」
「ちょ、ちょっと待って。興味の沸く話が多過ぎてついていけなかったよ」
「ソ、ソフィア様。その泥が美容に良いとはどういう事?」
「あの泥にはミネラルが豊富で粒子が細かいのですよ。顔や肌に塗ってお湯で洗い流せば毛穴の中まで汚れがスッキリです」
「ホ、本当に!」
「はい、本当です」
「直ぐに取ってこさせるわ。あの泥と一緒の源泉は邪魔なだけだったのに」
「いえ、ここの宝ですよ」
こってりしたお化粧よりもこういうお肌を綺麗にするのから広めてもいいよね。
工夫して濁り湯に入るのもいいよ。
「そうだったのねー。えーと、誰か今のソフィア様のお話は全部記録出来たかしら」
「も、申し訳ありません。途中までで、川のお話辺りからもう一度お願いします」
「ラスティーネ、ソフィア様はいつもこんな調子なのか?」
「ええ、蒸気自動車の時も大変だったわ。わたしが対処しても頭が痛いのよ」
「ラスティーネ様。それではわたくしが頭痛のタネみたいじゃないですか」
「うん、いや、えーと、そういう意味じゃないんだけどね。もう一度側仕えが記録できるくらいにゆっくりと教えて貰える?」
「いいですよ」
私はゆっくりとポイントについて詳しくメモしやすい速さで説明した。最近舞ちゃんからも少し早口になってるよって言われているからね。
「ラスティーネ様。ラスティーネ様には観光の取り纏めをお願いしたいと思っているのですよ」
「それはマクシミリアンの仕事じゃないの?」
「叔父様は交通網です。観光とは今のようなアイデアを考える事ですけど、交通網の他に歴史的な見る場所、美味しい食。安心と安全、遊ぶ場所の提供です」
美麗お嬢様、いや美麗先生の教えだw。
「まだここには遊ぶ場所がないわ」
「はい、そこで的当てや景品くじなどのゲームを提供して観光客に楽しんでもらいましょう」
「凄いわね。面白そうだわ。もうわたしが行って遊びたい位だわね」
ラスティーネ様は私がアメリアと的当てなんかで遊んでいるのを知っている。
「いや、ここラスティーネ様の街ですからね」
「そ、そうね。そういう魅力を出して行くのね」
「その通りです。キチンと整えて魅力が足りなければライトアップでもして魅力を作って景色を良くするのもありです」
「あの光ね。凄いわね。本当にソフィア様は」
「いえ、ラスティーネ様にこれから頑張ってもらうだけですよ」
「トンデモなく大変そうね。ならここはヴィクトールに任せるわ」
「ラスティーネ!」
「私は他の街の話を聞いてこれらを確立して行けばいいのね。判らない事はソフィア様に相談してもいいかしら?」
「わたくしが貴族学院へ行くまででしたらいいですよ」
「その時はわたしも中央へ行くわよ」
あちゃー、でもやる気になってくれたならいいね。早速戻ったらお父さまに相談して進めよう。
その後、クラトハーンに出店したレストラン『デレクタム』で食事をしてラスティーネ様と一緒に館の温泉に入って泥パックで楽しんだ。
「わぁ、本当にこれお肌がすべすべだわ」
「ラスティーネ様、まだお顔にパックの泥が残ってますよ」
「あらそう?」
バシャバシャ。
おう、ラスティーネ様豪快!
ノーラ達が大丈夫か?と言う顔で見ていた。
「うん、顔もすべすべでいいわね」
「ノーラ達も後でやってみてね」
「はい、ソフィア様」
「これは成功間違えなしよ」
「はい、魅力的な街だと思います」
「ありがとう。ソフィア様」
「いえ、ラスティーネ様にはこれからもっと頑張ってもらいますから」
「ううぅ。私の方が楽しく遊びたいのに」
「今も楽しいでしょ?」
「ふふふ、そうね。とっても楽しいわ。マクシミリアンに可愛い姪っ子の囲い込みはダメだ~って反対されたけど押し切ってソフィア様を連れて来て正解だったわね」
「温泉も最高なので今夜はゆっくりと眠れそうです」
「ふふふ。またいつでも来て頂戴ね」
「はい」
むむむ、寝る時気付いたけど浴衣とかを忘れてたよw。
次回:閑話 ルントシュテットの旅 その1 夢の乗り物
暫く後、あのシルバタリアの執事ビルムがルントシュテットにやって来る。
お楽しみに。