女性の社会進出にはコルセットを外して下着が必要です
小学校の運動会に母が見学に来てくれたけどあんまり活躍出来なかったよ。
剣道で少しは動けるようになってるけど元々運動神経はいい方じゃないし身体強化を使う訳にもいかないからね。
お弁当を持って来てくれていて沢さんが特別に作ったおにぎりとだし巻き卵を食べた。沢さんのだし巻き卵は凄く美味しくてこれだけで午後頑張ろうっていう気になっちゃうよ。
たっくん家のお母さんの雅子さんがうちのだし巻き卵を食べて感激してた。
美麗お嬢様は駆けっこでも活躍してたよ。
美人だし男子からの人気も高い。なんかあんな風になんでもできちゃう人もいるんだね。
美麗お嬢様と蔵戸さんっていう取り巻きの一人が私の所へ来たよ。
「夢美、成績はどうだったのよ」
「うん? 全然ダメだって」
「あら? 貴方は剣道の大会で優勝するくせに?」
「うん、でもそれとこれとは別だって」
「そうなの。残念ね。午後は頑張って頂戴」
「判った。美麗も頑張ってね」
もちろん目立ちたくないしそれなりでいいよね。
午後の団体競技もそれなりで運動会が終わって私は母と家に帰った。今日は美鈴先生の勉強も沢さんももうお休みなので知佳ちゃん達と公園に自転車で遊びに行く。
知佳ちゃんの住んでる団地があって土手の先には川があって綺麗な花も咲いている。舞ちゃんに教わりながらお花の冠を作って遊んでいた。
夕方、自転車に戻ろうとしたら団地の4階から小さな子がベランダの柵によじ登り足が外側に出ている。
あれ、やばいよ。
『『~プテス ターテム コリポリ~』』
私は咄嗟に身体強化をかけて走り出した。
「夢ちゃん!」
完全に知佳ちゃんと舞ちゃんに見られてるけどそんなの気にしている場合じゃないよ。
落ちる。ん~間に合わないかもしれない。
もう少し。
『『~ダ ミー ビーラ~』』
力をさらに強くする魔法も使って私はぎりぎりで落ちて来た子をキャッチした。本当になんかで聞いた通り頭から落ちて来たよ。加速がついてたのでかなり重いよね。
ズザザザザー。
私は出来るだけ衝撃を殺すように受け取ると子供はきょとんとした目を大きく見開いて私を見てから思い切り泣き出した。
うわーん!
あちゃー。でも大丈夫そうだね。良かった。こんな近くでしかも目の前で事故になったら大変だよ。
上のベランダからお母さんらしき人が下を見て叫んだ。
「聡ちゃん!」
君、聡ちゃんて言うんだね。もうわたしの服は聡ちゃんの鼻水で大変な事になっちゃってるよ。
「大丈夫ですよ。私が受け止めました」
「い、今行きます」
バタン。
知佳ちゃんと舞ちゃんが追い付いた。
「夢ちゃん」
「どうしたの? あんなに速く走って」
「上からこの子が落ちて来たんだよ」
「受け止めたの?」
「うん、丁度間に合ったよ」
「ふぇー。夢ちゃん凄いね」
「いや、たまたまだってば。あっ、お母さん来た」
私は泣きじゃくる聡ちゃんを渡した。
「聡ちゃん。あ、ありがとうございます!!」
慌てて降りて来たお母さんはかなり動揺していたようでおどおどしていた隙に私達はその場を後にした。
いたっ。あー、左足かなりこすってるしスカートもこれ擦れちゃっててもうダメかな。
『『~エルクルフルト クルリトン クレステペタル~』』
私は心の中で呪文を唱え左足に不自然にならない程度に手のひらをあてて治した。
丁度、車で美麗が友達の1人蔵戸佳純を団地まで送って来た所で一部始終を驚きの表情で見ていた。
「櫻井。今のを見たかしら?」
「はい、お嬢様。あれは人間業ではございませんですね。足も相当速かったです」
「やっぱり夢美はまだ実力を隠しているのね。もっと彼女の事を調べて頂戴」
「はい、畏まりました。お嬢様」
私は自転車で家に帰り、転んでスカートがダメになったと母に言って怒られたよ。このスカート気に入ってたんだけど、、、。
はぅぅ。
夕飯はお寿司をとってくれると言う。
母が受験校のパンフレットを貰って来てくれた。
これだよこれ。
私が受験する私立清廉学院の制服はかなり可愛い。ほんの少しゴスっぽい雰囲気があるけどそこまで大胆じゃない。色も中等部はエンジでかなり落ち着いていてブラウスのフリルも結構ポイントが高い。競争率が高いけど小学生女子にはかなり人気の制服だ。
もちろん制服が着たくて受験する訳じゃないけど可愛い方が嬉しいよね。
でも色々と今日は疲れたよ。早く寝よ。
私はお母さまにこっちの貴族学院にも制服があるのか聞いてみた。
制服はないけど色は黒で白のブラウスが決まりだそうで皆同じものを数着つくって着ているそうだ。デザインは座れる物でないとダメらしい。また出身の領地によってスカーフの色が決まっていてルントシュテットは濃い緑でそれを必ず着用する決まりなのだそうだ。
緑かぁ。赤っぽい朱色だったら良かったのに。少し黄色っぽいオレンジや明るい黄色、グレーなど他の領にも色があるそうだ。バーミリオンがかぶってなくて良かったよ。
『座れる物』とかおかしな事がルールだと思うかもしれないけど貴族の間で流行っているドレスって実は殆どが座れないんだよ。動きやすい訪問着で訪ねて正装に着替えるんだよね。馬車で移動するなんて大変で側使え達が支えたり斜めに腰かけるのが精一杯。ドアから出るのも押さえて大変なんだってもう私からしたら頭おかしいとしか思えないけど本人達は至って真面目にやってるから笑えない。他にも特殊な腰掛けをスカートの中に入れて座る事もあるらしいけど普通は座らないよ。
お母さまに聞くと少し前までもっとずっと重いドレスで、お母さまのおばあさまの頃は体力的に大変だったそうだ。
ひいおばあさまが重いドレスで頑張ってる妄想(w)
その後、軽い生地を使ってフリルやレースをあしらいコルセットでウエストは締めるけどスカートはワイヤーやクジラの髭で膨らますシルエット重視のドレスになったそうだ。お母さまはこの世代だね。
袖もこれでもかっていう位拡がっていてとてもじゃないけど何かの作業は出来ないし飲食も危ない。
他にも問題が多くて、普通に座れなかったり、拡がりすぎたドレスに暖炉の火が引火したり、転倒するなどの事故も多いそうだ。
お母さまのフォーマルブランドでは半分位このタイプのドレス、地球で言うと『クリノリン・スタイル』のドレスで後はお尻だけ飛び出たようなシルエットの『バッスル・スタイル』だ。
女性の社会進出が難しいのは正式な商談などでは正装する必要があって貴族の女性はお話にならない状況だからだ。裏でお母さまのように指示だけ出すのが精一杯と言うところだ。
世の女性をコールセットから解放して何よりこれからは蒸気自動車で気軽に移動する事などを考えても表の世界に社会進出するためには身軽な洋服で社会に出て活躍を始めて貰いたいものだと思う。
「と、その第一歩がこの下着なのですよ」
「面白いわねソフィア。まだ少しスースーするけどよりフィットして守られている感じがしますもの」
あれ? お母さま、まさかもうパンツ履いてるの?
「お母さま、、、」
「もう試させて貰っています。私はドレス用のコールセットを着けると苦しくて長く座れないのよ」
マジか。ノーラから? とノーラを見る。うーん目を逸らされたよ。
じゃあブラも、、、。
「ブラジャーというのも作らせたわよ。このサイズのEと言うのは何かしら?」
「それは単なる胸の大きさの区分です」
「胸の形も整えられてコールセット無しでも良さそうだわ」
「まだわたしにはそれは判りませんけど良かったです」
我輩の胸であるが私にはまだない。
「で、ソフィアはどのようなドレスを考えてくれるのかしら?」
「一応ノートに描いて来ました」
私はデザインを描き貯めたノートを渡す。
「まあ、綺麗なデザインの物や斬新な物もあるわね。これなんかかなり脚を出すのね」
「これはタイトスカートですね。脚の魅力を引き出す為に出しますけど素足ではなくてこのような絹のストッキングかレースのショーツとセットの模様の入ったレースのストッキングをガーターベルトで下がらないように止めるのです」
「まあ、ぞくぞくするわね。でもわたくしの脚が魅力的に見えなかったらどうしましょう」
「お母さま。そのゾクゾクが萌えです。お母さまでしたら絶対に大丈夫です。靴もこのような厚底ではなくパンプスと言うヒールを履くととても脚が長く見えるのですよ」
「是非試してみたいわ」
うー、お母さまがタイトスカートとか想像するだけで萌えるよ。
「でも今日はそれだけではなくて、、、」
「可愛いアクセサリーの事なら伺ってるわよ」
「それもありますけと販売店舗の事です」
「店舗?」
「はい、総合ファッションデパートを作ってお洋服を売れば良いのではないかと考えています」
「デパートと言うのは何かしら?」
私はフルオーダーのみの販売もいいけどウインドウショッピングが出来るように展示して買い物やお茶も出来るファッションデパートを説明した。
フォーマル、カジュアル、子供服、アクセサリー、靴、アロマ、パジャマなどの寝具、傘、扇、可愛い小物、下着などをマネキンのような木製の人形に服を着せて目で見ながらショッピングを楽しめる場所を提供する。オーダーメイドはそこでやればいいし既製品を買う事も出来る。そして買い物に来た人同士でおしゃべりの出来る喫茶も作る。領民の方々にも少しでも利用して貰えるように古着を厳選したセレクトショップも入れてお買い物を楽しんで貰いましょうと説明した。
「直ぐにやりましょうソフィア。手軽にお茶会まで出来るなんて素晴らしいわ」
いや、私のイメージではお茶会の延長ではなくて井戸端会議の場所提供のつもりなんだけど、、、。
「え、ええとですね。わたくしまだ場所の確保も終えていないので流石に直ぐには、、、」
「全てわたくしがどうにかします。貴方はこのデザインの服をわたくしの針子達に説明して早急に作りあげて下さいませ」
「あの、わたくしの制服を先に作ろうかと思っていたのですけど、、、」
「そんなの物は一緒に作ればよろしくてよ」
「はあ」
いやぁ、お母さまはお店を展開してるからお針子さんを沢山抱えているからね。お母さまがこうなるともう止まらない。
「喫茶にはチョコレートとケーキ、そしてソフトクリームとパフェも忘れないように致しましょうね」
「それわたくしも行きたいです」
「まあ、貴方は特別ですからいつでも自由に使えるようにするわよ」
「わーい。ありがとうございます。お母さま」
「俄然、楽しくなって来たわね」
いや、本当にもうお母さまが止まらないよ。
「オットー、このソフィアの絵を元に、、、」
こうしてお母さまのデパート『ルノール』一号店が産まれる事になった。お父さまと相談して中央とシルバタリアにも作りたいらしい。
どひゃー、大事になって来たよ。
私はお母さまのカジュアルとフォーマルのお針子さんの班長二人に制服や洋服のデザインの色や特徴などを詳しく説明して対応した。
まあ、制服はほぼ日本の清廉中学の制服まんまなんだけどね。でもパジャマやネグリジェは好きだから任せて。
ふう。アロマを作りたいよ。
その後、オットーさんに頼まれてデパートのドアを回転式にしたり、ホールをイベントも出来るようにデザインしたりしてたら時間切れだったよ。
木工職人を呼んでマネキンのサンプル作らないとだね。忙しい。
夕食の後、もっとこっちの領民の生活の事を知りたくてマルテ、ケイト、ハイデマリーに聞き取りをする事にした。平民の人の人生や失敗、成功、頑張りなどを知っておく必要もあると思う。変に聞くと余計に貴族として嫌われる事もあるだろうからサイコロを使ってそれぞれの人生ゲームのシートを作って遊びながらでも知るようなものがいいかなと思う。
貴族の人生ゲームも作るけど、領民の商人や農民、職人バージョンだ。
コマに馬車を作って子供が出来ても乗せられるようにするよ。おもちゃのお金やマス目に「頼った貴族がお取り潰しで破産」なんていうのもあるw。
マルテに商人の話を聞くと色々と商売で当てるのは難しくて本当に大変なようだ。正直ゴールはマルテのマンスフェルト商会のような大店だと思うけどマルテは『まだまだ先はあってもっと手広く商売しますよ。王族の御用商人や船でまだ見ぬ他国と取り引きですよ』って強気に言ってるから本当にマルテは前向きだよ。いいね。私と一緒に他国まで行こう。
農業も作物の出来でかなり違い、開墾や水害などこれも大変だね。ゴールは安泰な大地主だけど本当に一握りの人達しか安泰などとは言えないらしい。うー厳しいなぁ~。
ノーラにも貴族の人生ゲームを考えて貰う。なんかこれが一番大変そうだったよ。簡単には昇爵なんてしないし逆に領地を守る為に身を削り命を掛けて戦うのも貴族の務めだ。
職や婚姻も難しくて、これノーラに作って貰うと難易度が高くて誰も上がれない激ムズのシートになりそうだよ。
「こんな人生ゲームだとイヤだね」
「ソフィア様。それでもソフィア様のように公爵家に産まれればこちらのゴール寸前のマス目からスタート出来ますよ」
いや、ノーラ。それは逆につまらないよ。
次回:お城にも楽器があったよ。
日本で子供がドレスを着る機会なんてピアノの発表会くらいかな。
お楽しみに。