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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第三章 夢の軍備
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悪夢の軍備

 今日は土曜日なんだけど利佳子博士にメッセージを送ると研究室にいるから遊びにおいでと言われたので博士の好きなパウンドケーキを用意して訪ねた。

 美鈴先生でも判るかもなんだけど化学反応だから利佳子博士に詳しく聞いた方がいいよね。


『おやつの時間にしよう』と利佳子博士が来てくれた。


 電池を作りたい。歴史的には電池というと単位にも使われているボルタ電池かと思っていたけど問題が多いからダニエル電池の方がいいとダメ出しされた。ボルタ電池は使うと直ぐに電圧が落ちて殆ど使えないのだそうだ。

 亜鉛は不純物は多いけどどこでも見つかる閃亜鉛鉱を使い、もう片方の電極は銅で、ポイントは2つの異なる溶液を混ぜずに電荷のバランスを保つ素焼きの板で区切る所にある。


 私は聞いた話から簡単な絵を描いて利佳子博士に見てもらいイオンの流れの理解が間違っていない事を確認して貰う。負極・正極の反応は反応式を博士が書いてくれてた。

 成程、ボルタ電池とはイオンの受け取りが違うんだね。これを分極と言って、ダニエル電池では生成するCuが電極と一緒だから分極が発生しないんだね。うん、判りやすいよ。

 

 もうすぐゴムが手に入るはずだから今の所作りたいゴムの種類を表にしたものを博士に見せて、硫黄を少し加えて加熱する『加硫』を行う加硫ゴムや硫黄を増やして加硫したエボナイトの作り方を詳細に教えてくれた。タイヤにするには加硫とカーボンシリカ(カーボンブラックと呼ばれるカーボンの粉)、オイルを加えて出来るけど性能は用途やメーカーによって配合などが異なるという事だ。

 標準的なものやチューブレスタイヤの中身と外側のおおよその量を教えて貰った。

 原材料として簡単に扱うなら酸を添加して燻したスモークシートゴムにして出荷して貰うと便利だよと言ってたけどシルバタリアにはあの執事さんがいるから樹液の有用性がバレそうで怖いから樹液のままにした方がいいと思う。

 うん、これで作れそうだよ。結合式を教わりさっとノートにメモする。


 利佳子博士は『これ高校の化学だよ』というけど何かと思ったら私が小学生なのが不思議なのだそうだ。いや、これには色々と訳がありましてですね、、、。私は今知りたいんですよ。

 でも逆に私は『この程度なら高校生だと知っている事なんだね』と日本の教育の凄さを改めて感心した。やっぱり教育って大切なんだなぁと改めて思った。


 利佳子博士も忙しそうなので今日はこれくらいにしてお礼を言ってお家に帰った。



 時折、頼まれてビッシェルドルフ様やカイゼルさん、ヤスミーン様、ザルツ、カーマインとも手合わせをしている。みんな結局私を立ててくれて負けてくれるんだけど、ビッシェルドルフ様やザルツは相当剣術が強いと思う。ほぼ隙がないし驚くほど戦い慣れていたよ。



 蒸気エンジンの開発はいくつかにゴムのパッキンの利用なども検討されとても順調でこのままいけばあらゆる工業に用いられるようになると思う。カセット式にしたのは正解だったよ。

 旋盤やグラインダー、ドリルなど手動では厳しい作業も水車から蒸気エンジン動力を分配して工業の効率は見違えるほどにあがった。ゴムが出来たらベルトコンベアを作って流れ作業をそろそろ検討してもいいかもしれない。


 蒸気エンジンの多用で発生するのは石炭の採掘量の問題で銅や鉄のように頑張って採掘して貰ってはいるけど重機のないこの時代に限界はある。銅などと違って必ず継続的に利用するのだ。岩盤などにあたってしまうと手堀りではどうにもならない事もある。

 

 そこで地球で発展したのがダイナマイトだ。


 古文書を読むとこっちの世界でも蒸留そのものは一般的ではないにしても存在していた。錬金術として地球でも数千年も前からあるものなのでこれはおかしくはない。


 地球では8世紀頃だけどこっちでは数百年前にミョウバンと硝石を混合して蒸留した硝酸が作られている。でもその古い方法ではなくて硫黄、酸素、水素の元素からなる鉱酸がビトリオール油と呼ばれる濃硫酸で硝石との混合物を蒸留する事によって純粋な硝酸が作れる。


 アルコールなどの水酸基をもつ化合物と硝酸の化合物を脱水する事によって硝酸エステルが出来るけどこれがニトログリセリンだ。ちょっとの振動でも爆発する恐れがありとても危険なもので、地球では19世紀にイタリアの化学者が作っている。私は勉強する前はノーベルかと思ってたよ。

 これに木炭粉末や硫黄と混合して高性能な黒色火薬も作れるしマッチも作れる。


 ダイナマイトで有名なノーベルはこの危険な物質を珪藻土に染み込ませて雷管を使って爆発させる事で安全性を高めた人でその後、爆発力を上げるために珪藻土ではなくニトロセルロースを使う改良もノーベルが行っている。セルロースはそのまま頑張ればセロファンやプラスチックまで作れるから別に進めるけど今は珪藻土だよ。


 私が旅行中不在の状態で実験が進むとは全く想像もしていなかったからだけど、フェイルセーフを約束してもダメだったのも正直私の責任だ。

 今では専門家も何人も育ち私と同程度のダイナマイトの知識はここの何人も持っている。

 

 いつまでも引きずってもしょうがないので慎重にも慎重を重ねてダイナマイトと長い導火線による発火装置を作成して岩盤を爆破させる実験をこれから行う所だ。

 以前の失敗を払拭したい。


 充分以上に距離を取り岩陰や土嚢の影に隠れサイレンを使用して参加している全員に退避確認を行って貰う。


 身体強化を掛けかなり長い導火線に火を素早く着け岩陰に隠れる。

 みんな見てちゃダメだよ。遠くから観察して貰ってる人は別にいるからね。


 シューーー。


 ズッ、ガーン!!!


 想像を絶する爆発音だった。


「こ、これがダイナマイトかっ!」


 大叔父様が険しい顔で叫んだ。


 バラバラバラ。

 辺りに砕けた岩が飛び散った。


 岩盤が崩れ真っ黒な地層が現れた。良かったこれ爆発だけじゃなくて採掘の方も成功だね。

 爆発を上手く使うのはとても難しくて後は慎重に経験を重ねないとダイナマイトを仕掛ける位置や爆発規模の見積もりは難しいから頑張ってもらわなければならない。これも専門家を育てないとダメだね。


 危険なので業務に従事する人はそれなりの知識の勉強と試験を行って危険手当も付けなければ難しいよね。


 側仕えや側仕え見習い、護衛騎士達もみんな見ていて驚いていたけどマルテとリナは泣きそうな顔をしていた。


 遠くから見ていたのは騎士団副団長のヤスミーンとビアンカだった。


「見たかビアンカ」

「はい、ヤスミーン様。これがダイナマイトなのですね。ソフィア様は敢えてわたくしにもこの試験をお見せになったという事ですね」

「そうだな。ソフィア様なりのケジメのつけ方なのだろう。わたしは感謝している」

「こんな兵器を授けていただけるとはソフィア様はやはり神様なのでしょうか?」

「神だとしたら荒ぶる軍神だな」

「・・・」



「ヴァルター。ダイナマイトの実験を見て来たぞ」

「どうだった叔父上」

「あれはいかん。周りも巻き込み下手をすればあれ1つで数百人が死ぬ」

「数百人が!? そんな規模の爆発なのか」

「そうだ。まさに岩をも砕くとはこのことだった。あれを戦で使えばそれはもう戦ではない」

「叔父上は以前『夢のような軍備』が揃ったと言っていたが『悪夢のような軍備』だったのですね」


「マドグラブルの兵士の多くは身体強化が使えない。その点では我々はかなり有利だがあの地竜が厄介で今回ソフィア様が授けてくれた炸裂弾や手榴弾で対処は楽に可能だろう。」

「それにあの剣を強くする技術は凄い。シルバタリアへ結構な数送ったが相当戦果があったようだ。今は人手が足りないが早急に国王様にご相談するつもりだ」

「バーミリオン部隊は全員が長剣に変えたぞ」

「それであれだけ剣の数が揃ったのですね。で幾人かはソフィアと同じ刀を使っているそうですね」

「それはソフィア様の許可を頂いた者だけだ」

「成る程、、、」


「全てを見渡せばこれまでに比べ『夢のような軍備』である事には間違えない」

「ではダイナマイトはやはりオーバースペックな訳ですね」

「そうだ。まさにソフィア様の言う『完全な優位性』ではあるが恐ろし過ぎる。あれをむやみに使ってはならんぞ」

「作成許可も利用許可も私を通す事になっているからそう心配なさらないでください」

「そうだな。ソフィア様にはこのまま軍備としてではなく採掘の為に役立ててもらうという方向で頼む」

「わかりました叔父上」


 ソフィアの言うように圧倒的な力を見せつけて敵が諦めてくれるのか?

 いや、死兵となっても襲い掛かって来るとしか考えられん。

 その殲滅はソフィアにはやらせてはならないし叔父上にも、、、。


『悪夢の軍備』か。


 私はまだソフィアの言う『完全な優位性』を小さく想像していたのだな。

 叔父上の心配通りであったとは、、、。

 もっとソフィアと良く話し合い理解を進める必要があるだろう。


 とにかく軍備は叔父上が言うのだからソフィアは別のものに興味を向けた方が良いな。




 うーん、なんか側仕え達の口が重いよ。私もびっくりだったけど午前中からあんなもの見せちゃったから流石に話しづらいか。まあみんなでお昼に美味しいものでも食べて元気になろうね。


 食後はアメリアと遊び、時間が取れたから寝具の開発を進める事にした。


 取り敢えず、ケイトとハイデマリーにシルバタリアで買って来た絹で枕カバーや布団カバーを作って貰う。人に優しい素材としてもう最高だからね。


 枕は日本で使っているような低反発ウレタンの素材がまだ作れてないからこちらで使われている綿にタオルで首の高さを整えて使っている。抗菌的にはヒノキ材を使っている人もいるらしいけどルントシュテットでは綿が多い。

 気持ちのいい睡眠には範囲はあるんだけど、概ね上体の角度と首の所の支え、仰向けになった時と横向きになった時の首の状態、仰向けの際の気道と鼻の角度なんかの気持ちいい角度が人それぞれにある。

 仰向けの場合上体の角度は10度~15度程度で首を支えた顔の上面は約5度位だ。

 気道や背骨が整わないと正しい睡眠が取れないからね。


 このタオルを入れた状態の形で枕カバーを作って貰えば、取り敢えず私の欲しい枕に近しいものになるよ。取り敢えず簡易低反発マクラだよ。


 このタオルを調整してノーラやマルテ達にも試してもらう。

 やっぱりこっちでは首の所まで保持する形状は使われていなくて、寝て起きると首を寝違えていたり、肩がこっている状態になるような事も多いそうだ。寝返りが上手く出来ないと寝違えることもあるからね。


 エミリーもそんな経験があるという事だけどリナはまだそんな経験はないそうだ。まあまだ子供だからね。いや、私もだったよ。



 ケイトに採寸してもらい絹のパジャマを作ってもらおう。


「姫様は服もお作りになるのですか?」


 うーん、日本の母が少し裁縫やってるけど私はそこまで詳しい訳じゃない。でもこっちの服にはちょっと面倒なものも多くてそのうち改良出来ればいいかなとは思っている。


 そうこうしているとお父さまに呼ばれた。


 

「ビッシェルドルフ叔父上からダイナマイトの実験が成功したと聞いている。成功おめでとう。これで石炭の採掘が進むな」

「はい、ありがとうございます。かなり先までの燃料が確保できると思います」

「ソフィアのバーミリオン部隊は毎日練度が上がり相当しごいているようだな」

「わたしがしごいている訳ではありませんよ。みんなが凄いんですよ」

「新たに開発する軍備はほぼ整ってきたと思うがどうだ?」

「はい、最初に考えたものは殆ど揃いました」


「では、貴族学院へ行くまでアメリアと遊んでいるおもちゃを売り出すかレオノーレのやっているファッション店などを手伝ってはどうだろうか?」

「おもちゃはわたしが貴族学院へ行った後でアメリアに任せようと思っているのですよ。職人の手が空いてからです。現物があって遊び方が判ればいつでも可能でしょ? ファッションなんかは今の服もかなり面倒だと思っているのですが貴族のルール的なものは変えても大丈夫なのですか?」

「ファッションの流行はより良いものが選ばれているだけで誰が手を付けても構わないだろう」

「そうなのですね。わたしが納得できないものもあるのですよ」

「生まれてからずっと使っているものが納得出来ないのかい?」

「そうですよ。貴族の服は窮屈じゃないですか」

「まあ、レオノーレに相談して好きなようにやってよろしい」

「はい、ありがとうございます。お父さま」


 他の繁栄を考えてもバーミリオン部隊は私の部隊だから勿論顔を出して一緒に練習するし練度もあげてくよ。


 あれ? しまった。また睡眠グッズから遠ざかったような気が、、、。


 取り敢えず日本の母に色々と聞いてみよう。



 でもその前に、機動力を手に入れ炸裂弾なんかも出来たから陣形や戦術を最適化する為に美鈴先生と話をつめた。

 勿論いつも先生のオタクジャンルで遊んでいる訳じゃなくてお茶休憩中だよ休憩中。


 美鈴先生から借りてた日本の戦の際の陣形を詳しく書かれている書籍をお返しした。私がこれらのいくつかを実際に模擬戦で試してみたけどいまいちしっくりと来なかったものも多いけど書かれていないような優位な点も多く発見した。


「美鈴先生、この本に書かれているのって実際にこの著者の人が大規模な模擬戦をやったりして試しているんですかね?」

「うーん、小さな模擬戦やコンピュータ上のシミュレーションなんかはやってるだろうけど本当に人でやってるのはないんじゃないかな。なんか気が付いたことある?」


 私はこれまでの歴史書では詳しく判明出来ていなかったいくつかの記載だけの陣形は絶対にこうだとかこの利点は実際には使えずこっちの良い点もあるというように大規模模擬戦闘で人で試した結果を美鈴先生と話し合った。車懸りの陣なんかだと解釈もいくつもあってそのいくつかを試したけど使えないものもあったよ。


 身体強化をしている分、陣形は日本のものと少し違うけど模擬戦の敵役も身体強化しているから対戦としては同じだと思う。美鈴先生はいくつかの細かい疑問を質問してきたけど私は経験からそれに全て答えた。


「夢美ちゃん、本出そうよ。本。売れるって」

「いや、美鈴先生みたいなオタクはそんなにいませんから売れる訳ないじゃないですか」

「あちゃー」


「でも、これにこの前やってた蒸気自動車や炸裂弾、手榴弾を使えるとしたら、もっとこういう風に変えられるんじゃないかと思うのですけど」

「うーん、鶴翼の備えの変形だね。兵士を沢山移動させる機動力と突破力があるなら敢えてそこまで広げなくても衡軛のようにして遊撃を揃えた方が敵の左右の攻勢にも対応できるんじゃない?」

「おお、確かにそうかもしれません。これは価値がありそうですよ(やってみるよw)」


「はい、お茶はおしまいで残りの工作機械と重機を終わらせちゃおうか」

「はーい」


 いや、お茶の後も機械工学をやってたのは内緒だよ。

 そう言えば美鈴先生と相変わらず小学生のお勉強をしていない事に今更ながら気が付いた。



次回:第四章 夢のファッション

 みんなの下着を確かめてみるよ。

 お楽しみに。

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