豊穣の女神様伝説
学校のテストが終わりおかしな問題を除いてはほぼ満点だったんだけど今度有名な塾のやっている模試を受ける事になったよ。一応中学受験の目安なんだけど美鈴先生は全く心配はいらないと言ってた。
あれ? そう言えばもう一年半も家庭教師をやって貰ってるけどもしかして私が中学受験受かっちゃったら美鈴先生の家庭教師って終わっちゃうのかな?
それはまずい。って言うかそれ私の危機じゃんか!
美鈴先生に就職の事を聞くとまだ考えてないそうで研究室に残るかもって言ってた。私にとってはそれの方が嬉しいんだけど私の先生を辞めて貰っては困るよ。こんなに機械に詳しくて歴史や工学史に詳しい人なんてどう考えても簡単に知り合えるはずないよ。
私は夕食の際に父と母に勉強を頑張るから美鈴先生や沢さんの家庭教師を続けさせて欲しいとお願いした。頑張るって言ってもこの前も先生曰く学校でも一番だったみたいだし全国の模試でも前回は全国3位だったんだけどね。
『誇らしい事にうちの塾から全国5位以内のものが出たぞ。みんなも負けないように勉強に励んでほしい』
と発表の際に塾の先生が言ってたけど私は塾には通っていないんだけど、、、。
「夢美が真剣に勉強したいのなら川端さんじゃなくてもっと優秀な先生の家庭教師をつけてもいいんだぞ」
うん、お父さんには反対はされていなかったけど、それだと全然ダメだよ。違うんだよ。普通の小学生の勉強なんかじゃなくて美鈴先生みたいな機械工学や歴史オタクじゃなきゃダメなんだよ。これはかなり不味いね。
私は美鈴先生が素晴らしくとても良いのだと言う事を説明する。美鈴先生なら絶対に次の成績もいいからと次回の模試の結果を見て貰う事にした。
私は試験範囲を確認して小学生の勉強をした。ちょっとだけねw。
演習場でも黙想は正座して行う。
バーミリオン部隊と騎士団で剣道の稽古をして午後はアメリアがお昼寝するまでアメリアと遊んでその後でギルド長や料理を頑張る。
何日かこれを繰り返していたらお父さまから呼び出された。
お父さまの執務室へ行くと子供が5人いた。ってか私も子供だけどこっちはまだ7歳だからね。
「ソフィア、先日話したと思うが来年の貴族学院へ一緒に通う側仕えと護衛騎士だ。エミリーとルイーサは一つ年上だが他は一緒に入学する。本来は側仕え一人護衛一人なのだがソフィアは特別だ。自己紹介してくれ」
えー、私はそんなに手がかかるの?
「ソフィア様。エミリー・フォン・ブロンベルグでございます。よろしくお願いします」
「エミリーさん。こちらこそよろしくお願いします」
「ソフィア様、エミリーとお呼びくださいませ。それとわたくしがお願いしたいだけですのでソフィア様は必要ございませんよ」
あちゃー、エミリーは小さなノーラだったよ。
「エミリー、よろしく」
「はい。ソフィア様」
「リナ・フォン・ボートカンプです。一緒に学院に通えて光栄です」
「わたしもですよ。仲良くしてくださいね」
「マティーカ・フォン・クラトハーンです。ソフィア様が計算がお得意だとユリアーナ先生にお伺いして是非にとお願いしました。よろしくお願いします」
一人だけ男の子だけど算数が得意なの? わーい、この子便利そうだよ。大切にしよう。
「一緒に沢山お勉強しましょうね」
「はい」
「護衛見習いを拝命致しましたルイーサ・フォン・クラトハーンでございます。姫様よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
あれ? マティーカもルイーサも同じクラトハーン? って叔母様と同じ家名?
「クラーラ・フォン・アーデルハイドです。よろしくお願いします姫様」
「はい。よろしく」
アーデルハイドってこの前叔父様付の文官になった優秀な女の人と同じだね。
でもみんな貴族なんだ。ってか貴族学院へ一緒に通うんだからそりゃみんな貴族だね。
貴族学院から挨拶に来たからもうお休みに入ったんだね。ってことは食いしん坊のお兄さま達も帰って来るね。
「側仕え見習いはノーラとマルテに、護衛騎士見習いはミスリアとヘルムートについて業務を習得して欲しい」
「「はっ」」
「頼んだぞノーラ、マルテ、ミスリア、ヘルムート」
「「はっ」」
「では、ルイーサとクラーラは午前中は一緒に剣道の練習をしましょう。一緒にやれば早く仲良くなれますよ」
「「はい」」
これ以降、私が何かをやろうとして移動するとこの9人でぞろぞろと移動する事になったよ。なんかグループ行動してるみたいだね。
私は晴れて塾の模試で全国一位になって美鈴先生を確保した。
やったー。これで生き残れる確率は絶対に上がったと思う。
先生に報告すると、今度中学になれば英語も教わると、英語について少しだけ聞くとなんとなく夢の中の言葉と似ているからそんなに心配はしていない。
でも美鈴先生。これからもよろしくお願いしますね。
美鈴先生もニコニコだったよ。
私は両親からご褒美は何がいいかと聞かれたけど美鈴先生がご褒美だと思ってたので考えていなくてもう少しで発売される今年の理科年表を買って貰う事にした。いやお小遣いで毎年買ってるんだけど別に買って貰えるなら助かるよ。わーい。
日本のおじいちゃんに教わった明鏡止水は曇りのない澄んだ鏡で止まった水のような邪念のない心境を得る事を言う。こっちの身体強化はある意味、身体の興奮状態を作り出すもので止まった水のような心境とある種逆の事だけど精神力でこれは両立させる事も出来る。実際に日本でも私は最初苦労したけど身体強化に慣れている人ならもっと簡単に出来るかもしれない。
黙想を続けて幾人かは直ぐにこの明鏡止水の境地に達して身体強化を行う事によって周りの状態が判るようになった。実際に正座して黙想している周りで人が動いても判るという練習もやってみたよ。なんかもう中二病的になってきたよね。感覚が強化されない状態で日本でこの境地になるのはかなり難しくて私じゃ出来そうもないよ。
ビッシェルドルフ様は戦場で元々近しい感覚を使っていたようだけど『判りやすくはっきりと認識した』と喜んでいた。カイゼルさん、カーマインさん、ビアンカ、ルッツ、ケリー、そして護衛騎士見習いのルイーサが早くもこの境地に達してくれた。
女性騎士のビアンカは驚く事にあれからバーミリオンに志願して投擲と剛弓の試験に合格しカーマインさんが認めた女性ながら不屈の闘志を持った優秀な騎士だ。私ならあんな事故があったらもう火薬になんて近づきたくなくなっちゃいそうだけどね。その場にいなかった私ですら相当落ち込んでいたのに本当にすごい精神力だよ。
剣道で練習する単純な一対一だけでなくスカーフの色を分けて混戦の戦いも実戦のように練習する。みんな竹刀を使ってくれてるけどこれも当たればそれなりに怪我もするし痛いからね。
怪我をしないように布を矢じりに巻いた弓矢も使っているけど殆どを叩き落しているからなかなか当たる事もないようだ。私も混ざって対戦するんだけど周りを陣形で固めていてなかなか私まで来る敵役の人はいない。時々劣勢な状況から始めるとカーマインさんや大叔父様が私の所まで来るけど今の所私が撃退出来ている。
お父さまによればシルバタリアの野戦がその後も幾つか発生していて近々全面的な戦争が起こる可能性が上がっているそうだ。段々と戦争の現実味が帯びて来たよ。
バーミリオン部隊の方は手榴弾も正確に扱えるようになりビッシェルドルフ様曰く『夢のような軍備』が整ったと言っていたけど、いくら軍備が整っても人の生死なんて判らなくて、いくら強くても死ぬ時は死ぬからね。最善を尽くして生き残る為に頑張るのは今後も変わらないよ。
炸裂弾だけではなく色付の煙幕を利用した信号を意味する信号弾を用意して戦術をカーマインさん達と確認する。色によって信号の位置からの退避や集中して攻撃、全員退避、その場所を爆発させるなど混戦でも目に入り対応可能な戦術を練習する。
優秀な部隊の人達は直ぐに対応が出来た。戦術行動の練度が随分上がって行くのが目に見えて来た。
午後、アメリアと遊ぶ為にシュトライヒ子爵のエーベル様から頂いた厚紙を使ってトランプやリバーシを作って遊ぶ。これ少し厚いけど普通の紙なんだけどね。ケイトとハイデマリーに手伝って貰ったぬいぐるみをお土産に持って来たらとても喜んでくれた。今度は是非抱き枕とか作ってあげるからね。待っててアメリア。
リバーシは側仕えとも一緒に遊ぶ。私はノーラとエミリー、マティーカに直ぐに負けるようになって、辛うじてリナとマルテ、アメリアに勝てている。
おかしい。エミリーやマティーカは日本の私よりもずっと年下なのに解せぬ。
日本でも兄には勝てないからあんまりやってなかったけど今度日本で勝ち方を教わってこよう。
トランプもアメリアも直ぐに慣れて来て簡単に数字を覚えてくれた。なんかこういうので遊びながら身近に勉強があると覚えやすいのかもしれないね。後でユリアーナ先生とお話してみよう。
マクシミリアン叔父様の側近になった文官のヒルデガルト・フォン・アーデルハイドさんは会うといつも顔色が悪い。でも一生懸命で仕事が出来るいつも走っている人で頼りになる人だ。今も農業の対処をお願いするところで、文書室からルントシュテット史を持って来て貰って一緒に調べた。走って持ってきたよw。
ルントシュテットでは近年豊作が続いていると良く聞くけど過去の事例を読んでみるとやっぱり豊作続きの後に必ずと言っていい程不作が数年続いてる。天候や水害などいくつかの条件がある事もあるようだけど、ほぼその傾向にある事が判った。作物によって顕著なのでやっぱりこれは連作によって土地が瘦せてしまっているのだと思う。
近年の豊作で人手も確保して結構裕福になっているけど農家の人達は一生懸命に土地を耕して土を柔らかく育ちやすくしている。でも土地の作物に対する栄養素が少なくなる連作障害が発生するんだね。
ヒルデガルトさんと確認しルントシュテットの農業が既に危ない領域に入っているという認識で一致した。 ナス科やウリ科などの連作障害は顕著に表れていて、今年は既にいくつかの農村では育ちが悪くなっている農地もあるらしい。これは待ったなしの状況だ。
これは土壌中の成分バランスの崩壊や病害虫の発生が主な理由だと説明する。
対策としては、作物によって1年や2年休ませる事や作物の生育に応じて必要な施肥や緑肥作物や堆肥などの有機物を土壌に投入し土壌中の微生物を多くさせる、2種類以上の植物を近距離に植える『コンパニオンプランツ』、効果のある野菜を輪作する『ブロックローテーション』などを説明した。
病害虫はしばらく水を張っておけば死滅するものも多いから対処も可能だ。これはルントシュテットが水が豊なので出来る対策だけどね。
今回作って貰った土壌酸度計は土壌中の酸性度を測り作物によって異なる土壌の酸性度を適切なものにして育ちやすくすることが目的だ。
概ね酸性に偏っていることが多くて石灰を砕いたものを蒔いて2週間くらいすればアルカリ性に傾き上手く蒔く量を調整して適した状態にするというものだ。
私は苦労して日本で調べた各作物毎の表をヒルデガルトさんに渡して家の庭師が作業している農園に向かった。
今日呼び出しているのは以前羽毛を買い取った農業ギルドのギルド長のホルツさんと土壌酸度計を作ってくれたフェリックスだ。フェリックスは立ち合いだけなんだけどね。
蒸留した真水を基準にする。簡単に土に差し込んで酸性度を確認する。
針が少し動いた。やっぱり少し酸性度が高いようだ。ここに砕いた石灰を蒔く。水でなじませて2週間程度休めれば対応できるようになるはずだ。他の畑を見ると酸性度が違うね。うん、判りやすいよ。
「こんなに簡単に土の状態が判る魔道具があるのですね」
「わたくしが作りましたけどこれは魔道具ではなくて実際にこのフェリックスが作ってますよ」
「こちらの方が魔術師の方ですか?」
「い、いえ、わたしは鍛冶職人です」
「えっ、そうなんですか」
うーん、ホルツさん信じてくれないよ。
ヒルデガルトさんがこの値で例えばエッグプラントを育てるには、、、と詳しく表を確認しながら説明してくれる。他にも『コンパニオンプランツ』など方法がある事などを説明し、史実を調べたところ、過去には豊作の後は必ず不作になると詳しく説明してくれた。
ホルツさんは多くの地域を測定してから問題のありそうな所から対処していくつかの適した方法を場所によって試すと約束してくれた。
「ではヒルデガルト。有機肥料の作成と石灰の手配を実施して農業ギルドへの供給を至急お願いしますね」
「はっ!」
「ホルツさん。巷では『豊穣の女神様』などというおかしな噂が出回っていますのでそうではない事をくれぐれも農業従事者の皆さまにお話して対処してくださいね」
「はい! 畏まりました」
その後、農地の施策は成功したが豊穣の女神様伝説は加速した。 解せぬ。
次回:軍備の事故から立ち直る為にソフィアなりにケジメをつける。しかしそれはビッシェルドルフにとって想像を絶する威力だった。
お楽しみに。