紙ひこうき
叔父様とお母さまが側仕え達とブランデーとクラッカーセットを持って辺境伯の所へ向かった。
さすがに寝るにはまだ早いかな。
「ソフィア、これからアリッサ達とお茶会をするのだがここでやろう」
えっ! 何で私の部屋。
涼しいからか、、、。これ私も参加っぽいよね。
ってか大人達がいない間に子供達でお茶会?
側仕えはいるけど子供相手なんて何を話せばいいの。って私も子供だったよ。お兄さまも日本の私より年下だからなぁ。
取り急ぎノーラとマルテに簡単なお菓子を準備してもらう。取り置きがきくパウンドケーキに生クリームが一番だし、チョコは万能。
そうこうしていると5人全員来ましたよ。
長男のマンフレート様が日本の私と同じ年だからね。
アリッサ様とアンネマリー様が頭に薔薇の髪飾りを付けて来てくれた。
うーん可愛いね。髪の色に良く似合ってる。二人からとても丁寧なお礼を言われた。
どういたしまして。
冷風機の涼しさに驚いているようで『これですか?』と涼しい風に驚いていた。
次男のルーカス様はお兄さまと長男のマンフレート様の会話に混ざっているけど時々こっちを見て赤い顔をしていた。お兄さまは明日どこかに遊びに行かないかと誘われているようだ。
うん、行っておいでよ。明日が今回の遠征の最終日で午後には出発して領堺を越える予定だからね。遊べるのは明日の午前中までだもんね。
こっちはお兄さまの婚約者のアリッサ様と次女のアンネマリー様、一番下のオスカー様が女の子グループを形成している。女の子組と一番小さい弟も入っているけど可愛いからマスコット枠だね。
「実はハンカチ折り紙が得意なんですよ。ノーラ、ハンカチを一枚貸してください」
「はい、ソフィア様」
よっと。私はハンカチでバナナを作り皮を剥いて食べる真似をした。パクッ。
意外と受けたよ。この領地にはバナナの小さなのが売ってるんだよね。ムーザって言うんだけど、、、。
私は調子に乗ってメモに使っている安い方の紙を使って折り紙で鶴を折って見せた。
鶴/グルイ
「『グルイ』ですね。凄いです。折り方を教えてくださいませ」
「いいですよ。ではみんなで折りましょう」
私達は4人でゆっくりと折り鶴を折った。
なんか私が一番年上っぽいけど下から2番目ですよ。
うん、みんなうまいうまい。
私のは今度は足の付いた鶴だ。
「足をつければ、ジャン!」
あれ、みんなの視線がちょっと痛い。おかしいな。前に作った時はもっと可愛かった気がするけどこれちょっと怖いね。
名誉回復で次は紙ヒコーキだ。
得意な結構綺麗に飛ぶのを作った。
ひゅーん。コテッ。
「わぁ。これ空を飛ぶのですか?」
ノーラが何故か慌てて話しかける。
『ソフィア様、これは一体、、、』
『これはおもちゃですよ。人が乗って飛べるのとは違います』
『と、飛べるんですか?』
『そのお話は後でお願いします』
オスカー様が拾って来て私に渡す。
「もう一度飛ばしてください」
「ここの部屋の中だとちょっと狭いですね。ちょっと待ってください」
私は羽根が大きくてくるりと廻って飛ぶ紙ヒコーキを折った。
ひゅい、ひゅーん。
「わぁ、凄い。凄いです!」
おお、おねえちゃん達にも大人気だよ。
「ソフィア、それ明日外に飛ばしに行かないか?」
マンフレート様達もコクコクと頷いている。
もう、ここで欲しいものは殆ど揃ったから少しくらいならいいか。
「判りました。では明日飛ばしに行きましょう。どこか高い丘のような所はありませんか?」
「そんなところから飛ばしたらなくなっちゃうぞ」
「遠くまで自分の代わりに空を飛んでもらうのですよ」
「ならいい所がありますから明日案内して差し上げます」
「ありがとうございます。マンフレート様。では安定して飛ぶ紙ひこうきをみんなで折りましょう」
いくら安い紙だと言ってメモに使っている紙でもタダではない。ノーラがちょっと青い顔をしていたけどそんなに高いかな? でも私達全員に紙をくれた。
全員に安定して飛ぶ紙ひこうきの折り方を教えてみんなで折った。
お兄さま達はもう試しに飛ばしている。明日までに壊れそうだね。
明日の朝食の後呼びに来るからと約束して子供達のお茶会が終わった。
「ソフィア様、人が飛べるものもあるのですか?」
「はい、ありますよ」
「と、飛べるのですね」
コクリ。
しまった、ノーラに細かく話すと叔父様達にバレるんだった。まあいいか。
メモに簡単にシルバタリアで必要な事を書き出す。後は帰りに漆を持って帰るくらいだよ。
この夜、私は飛行機に乗って飛ぶ夢を見るかと思ったけど日本だったよ。
永久磁石とコイルで電磁誘導が発生する。今ルントシュテットの鉄鉱石が取れる西の山、雷が多いと言うモンス・トゥニトルムで永久磁石を探して貰っている。日本語にすれば雷山だね。鉄鉱石の取れる雷山に磁石がなければこの世界では見つからないと思う。でも小さなのは沢山見つかっていてもっと大きいのが見つかったら発電機が作れるかもだけどまだ手元にないのだから先になると思う。
小さな磁石と電磁誘導で何をやろうとしているのかと言うと小さな弱いバネを使って電流計を作って土地の酸性度を測ろうと思っているところだ。
フェリックスはとても細い針金の扱いが上手く細かい細工ならクラウよりも手先が器用だと思う。それでももっと細く、弱くと私が何度もやり直しをさせてたので胸やけがしそうな顔をしていたけど、意地で頑張っていたからもうそろそろ出来ると思っている。
美鈴先生と話し合い、やっぱり基準液に純水を使ったものを作る事にする。
電極を純水と土の双方につけてこの水素イオンの差で土壌の酸性度が判るんだね。この測定器だと磁石とコイルと小さなバネで作ったメーターさえあれば簡単に作れそうだ。勿論電池はいらない。
私は農業の経験なんてないから土を手に取って「うん、これはアルカリ性土壌だね」とかの判断は出来ない。基準の温度はあるけど、酸性っぽいかアルカリ性っぽいかはなんとなく判るものは作れそうだよ。
どの程度の酸性、アルカリ性の度合いがいいかも作物によって違うから全部調べて、作物毎に土地を確認して石灰や肥料を撒いて丁度いい土壌にすればまだ作物は沢山取れるはずだからね。
簡略化した図を描くのは簡単だけど正確に作るものを描くのは結構大変だったよ。
日本で試作して測定値をΣ式でメーターの目盛りの為に最適化する。これは抵抗によってかなり変わる。
私がΣ式を筆算で解いていたら美鈴先生が覗き込んで来た。
「Σを筆算で解くのを見たの久しぶりだよ」
「えっ、どうやって最適化するんですか?」
「夢美ちゃん、今の時代、原理を知っておく必要はあるけどそんなの手で求める人いないよ。パソコンや電卓で簡単に求めるんだよ」
「おお、それは便利ですね」
「まあ、プログラマーは式をプログラム化しなくちゃならなくてわたしも少しならやるけどね」
「後で教えてください」
「まさか、コンピュータを作りたいって言うんじゃないよね」
「作れるんですか?」
「出来ない事はないけど、最初に作ったコンピュータって真空管を沢山使って30トンもあったんだよ」
「うぇ」
死んだふり。
「まず、自分のパソコンで自分で出来たらいいです」
「まず、、、。諦めてないんだね」
「諦めたらそこで終わりです」
「なんか夢美ちゃんスポ根みたいになって来たね。もっと勉強が進んだら情報処理の専門家を紹介してあげるよ。でも勉強の進みは微積分や最小二乗法を実践で使いこなしてる小学6年生なんてあまりいないかな」
「実践だからやってるんじゃないですか」
「そりゃそうだね。あははは」
そうだ。諦めたら終わりだよ。今は全く判らないけど将来作れたら作りたいね。
シルバタリアでの朝食はクルトとカリーナに普通に作ってもらった。これ作って貰わないとまた揚げパンとお粥だっていうからしょうがないんだよ。
お母さまとお叔父様に進捗を確認すると殆どの取り引きの話は終わり後は細かい事をつめれば終わりだそうだ。私達は午前中外に遊びに行きお弁当を食べたら戻って来るとお母さまに話した。
辺境伯のところの子供達5人と私達2人だけなんだけど、側仕えや護衛騎士が多かったよ。
年上のマンフレート様が執事のビルムさんに何処へ行くのかを説明して護衛騎士が先行した。
ちょっと歩くとシルバタリアのここの街ワイソトールを一望できる綺麗な丘に着いた。
わぁ。凄い綺麗なところだね。
朝から活気のあるワイソトールの街並や遠くに港が見えた。小さいけど帆船もあるっぽい。
今の蒸気機関が出来たら蒸気船を作るのも難しくないと思う。ってなんか仕事っぽい事を考えちゃったよ。でもここ数日過ごしてシルバタリアはお母さまのご実家だから一緒に発展してもいいんじゃないかと思う。いやお米があったからもあるんだけどね。
風もそよ風が気持ち良く気温もまだそこまで高くないので清々しいね。
お兄さまは結構部屋の中で飛ばして遊んでたみたいで紙ひこうきの先が少し潰れてたけど大丈夫だよね。
「じゃあ、みんなで一緒に丘の向こうへ飛ばしますよ」
「よし、判った。わたしが一番遠くへ飛ばすぞ」
「負けませんよ」
「いや、ウルリヒ様には負けません」
お兄さま達結構仲良くなってるね。さすが従妹達。
「ウーノス、ドゥエ、トレッ!」
ひゅん。ひゅんひゅん。
フワー。
飛んだ! みんな良く飛ぶ。ここ高いから飛びやすいのかもだけど良かった。
ルーカス様のとお兄さまのが風に乗ってどんどん高く飛んで行った。
私達のもずっと遠くまで飛んだ。
結構長い間空を飛んでいるのを見ていた。青い空と海に白い紙ひこうきがとても綺麗だった。
執事のビルムさんが下働きの人達に合図して下働きの人達が走って行った。
まさかあの紙ひこうきを拾ってくるのだろうか?
お弁当のサンドイッチを広げてみんなで食べた。
「このサンイドイッチはソフィアが考えたのだ」
「ソフィア様が?」
「凄く美味しいです」
口にめいいっぱい頬張りながら憧れの瞳を向けて来る。小っちゃい子可愛いね。
「オスカー様、ありがとうございます。まだ沢山ありますから一杯食べてくださいね」
「はい」
「ウルリヒ、ソフィア、とても楽しかったよ」
「わたしもです」
「マンフレート、ルーカス。また遊びに来るからな」
「ああ、楽しみに待ってるよ」
「うん」
「アリッサ様、アンネマリー様、オスカー様、皆さま。わたくしもまた遊びに来ますね」
「はい、お待ちしております」
「直ぐにまた来てくださいね」
オスカー様は顔を真っ赤にしてなんか恥ずかしそうにしていた。恥ずかしいのかな? 可愛いね。
「オスカー様、どうしました?」
「な、なんでもありません、ビルム」
???
「では、まいりましょう」
私達は迎賓館へ戻り帰り支度をした。冷風機も取り外し風がなくなると結構暑く感じて来た。
シルバタリア辺境伯はこれでもかと沢山の食材を持たせてくれた。私の買い込んだのと合わせると荷馬車が一杯で下働きの人達が荷物の上に乗ったり立ったりして大変そうだった。
落ちないでね。
ビルムさんが私達の乗る馬車が人が乗る度に緩やかに揺れる事に気が付いたようで叔父様に中に一度乗せて欲しいと言って乗り込み、ゆらゆらと馬車をひとしきり揺らして驚いた顔をしてから降りた。
やっぱりあの人気が抜けないね。
私達は挨拶を終えて辺境伯のお城を後にした。領堺を越えると直ぐに夕方になりそうな時間で、来るときにキャンプした場所に一泊するのだそうだ。
クルトとカリーナがシルバタリアの大量の食材の前で困っていた。それはそうだよね。でもこんな時の為に沢さんに東南アジアの料理を習っていて良かったよ。
フォーと醤油バターライス、豚の生姜焼き、少し辛めのサラダの準備を始めた。シルバタリアの料理のフォーの作り方もクルト達にも覚えて貰わないといけないからね。豚肉が沢山あって美味しそうだよ。
クルトもカリーナも『もう大丈夫です』と言うので任せることにした。
叔父様が戻ってからの優先順位を検討したいと呼び出された。
叔父様に土壌酸度計の目盛りの振り方と水素イオンの意味などを説明していて改めて思ったけど、私の頭の中にごちゃごちゃとある美鈴先生から教えて貰った知識を改めて他の人に説明すると自分の中でもスッキリと判りやすくまとまるという事が判った。人に教えるって自分の為にもなるんだね。
シルバタリア辺境伯からマドグラブル国の動きが怪しいと情報が入ったそうで、戻ったら騎士団と打ち合わせして欲しいとお願いされた。私の伯父様の領地が侵略されるのは困るから戻ったら軍備も色々と進めるようにしよう。
ノーラにこれまでの話をまとめたメモを見せて貰う。
しかし私と叔父様の優先順位にはかなりの乖離があった。
私としては
1.絹を利用した枕と掛け布団の開発
2.『カレーライス』の開発
3.ゴムの開発
4.『テンプラ』『タイ料理』『ソフトクリーム』等のレシピ書き出し
5.『うどん』店舗
6.水車を利用した、旋盤等の開発
7.コサージュの制作販売
8.冷風機の開発
9.土壌酸度計
という感じなんだけど、叔父様は
1.軍備
2.土壌酸度計
3.重機の開発
4.サービスエリア
だと言う。
サービスエリアって、、、おお、そうか前に話した馬車の休憩地のことだったよ。
でも枕が先だよ。いつまでも私が譲らないので叔父様は卑怯な事にお母さまを呼んできた。
お母さまは
1.コルサージュ
2.冷風機
3.『マンゴープリン』と『マンゴー・ロー』のレシピ
だと言う。
叔父様がズッコケた。やるねお母さま。
いやこれ決まらないよ。帰ってお父さまにどれだけ枕が大切なのかを説明しよう。
マルテが夕食が出来たと呼びに来た。よし夕食を始めよう。
『今回の遠征は大成功だった。城に戻るまでよろしく頼む』と叔父様が挨拶してみんなにシルバタリアのお酒が振舞われ私達にもマンゴージュースが配られた。
『~プロースト~』
ごくり。うん冷えてて美味しいね。氷も残り少なくなって来たから消費は少し抑えないとと考えながらフォーを食べたらシルバタリアのよりも美味しかったよ。
お母さまも叔父様もこれには驚いていた。
キャンプ最高!
フォーうまし。
次回、閑話 ああっ女神さまっ
ドミノス付きの文官ヒルデガルト。マクシミリアンの報告を心待ちにしていたが、、、。
お楽しみに。