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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第二章 夢の旅人
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変な叔父様

 私は日本の母にお願いして沢さんも決まった時間で料理を教えてくれる家庭教師としても雇って貰うようにした。ここまで色々教えて貰ってるのに遅かった位だね。沢さんも正式に色々と教える事を喜んでいた。

 美鈴先生の様に千景先生と呼んでもいいんだけど私の中で『沢さん』呼びで決まってるからこれからも『沢さん』でいいね。


 でもそのおかげで沢さんからの料理のハードルは凄く高くなった。

 単純に沢山の料理の作り方を覚えて作れる様になるだけでなく、コースとしてのまとめ方や主に味を感じる食べ合わせ、栄養価などの計算、つまりカロリー、塩分、糖質など細かく配慮して作る事を求められた。

 まだ資料の表を見て調味料を正確に秤りながら計算しないとダメだけどこれまで作った料理はほぼ覚えたよ。これめっちゃ大変だね。


 成る程こう言うのをもっと専門的に勉強するのが栄養学なんだね。味噌汁一杯飲むだけで塩分は一食分の許容を簡単にオーバーしちゃうなんて知らなかったよ。こんなの色々と食べられなくなっちゃうじゃん。和食怖いね。和食は一汁三菜が元だかららしい。でもあっちには味噌がないから大丈夫なんだけどね。それでもこれまでは領民はみんなパンばかり食べてたからビタミン不足とか他の問題が一杯発生してたけど近年豊作になって色々と食事状態も良くなったという事だそうだ。


 でも沢さんてこんな難しい事をやってたって知って改めて尊敬しちゃうよ。私も沢さんのように出来るように頑張ろうっと。

 夕食後、私は学校の宿題を終えた後、結構遅くまで机に向かってコース料理とか色々と考えた。

 疲れて布団の中がとても気持ち良かったよ。



 結構早くマルテに起こされた。ちょい眠いけど今日から旅行だよ! よし、目を覚まそう。

 移動用の動きやすい服に着替えた。


 馬車3台だけが新しく開発したスプリングが付いている装飾の施された貴族の馬車だ。お兄さまはお母さまの大きな馬車に一緒に乗って私と叔父様が同じ馬車に乗る。荷物や下働きの人達は数両の荷馬車に荷物と一緒に乗る。

 兵士は歩きなんだけど馬車はおそらく時速8kmくらいのスピードだから早歩きが結構小走りでマラソンみたいだよね。私は小学校の遠距離走は苦手なので剣も携えているから重いはずなのに尊敬しちゃうよ。


 ルントシュテット領は結構広くて今の私の知識だと日本の感覚でいけば関東地方くらいあるのかと思う。暗くなる前にはシュトライヒに着く予定だから途中休憩をするにしても数十キロは移動する予定だ。


 料理人のクルトもカリーナも旅は初めてだそうで乗り切れない側仕え達と一緒にスプリングの付いた馬車に乗ってもらう事にした。

 叔父様達はここでの料理人は平民なので地位がとても低い為に反対したけど、私からしたら美味しい料理が作れる料理人なんて表彰したいくらいステータスが高くてもいいんじゃないかと思っている。

 料理長だけアルキマギルというちょっと偉い地位にいるんだけど、私にとっては美味しい料理を作れるクルトとカリーナの方が優先だ。


 他にも食材などの結構沢山の荷物も持って行くし、おがくずが一杯の氷が沢山入った荷馬車もある。


 護衛騎士はそれぞれの馬車に一緒に乗るけど騎士団は騎馬だ。今回は大叔父で騎士団長のビッシェルドルフ様と副団長のヤスミーン様は軍備の関係で忙しく隊長のカイゼルさんがこの一行を率いてくれるようだ。

 カイゼルさんはこの前、私には手を抜いくれてた優しい人だけど、騎士団長の大叔父様がとても強いから安心せよって言ってたから結構安心だね。



 かなり高い壁に囲まれていた私の家の敷地から出た。とても大きな門だった。

 門番さんが私達の馬車一行に向かって槍を立てたまま深々と頭を下げた。


 わあ、初めての外だよ。


 前にレストランのフェルティリトの称号の時は護衛騎士のミスリアとヘルムート、メイドのケイトに採点表を渡してお店を廻って貰ったから話には色々と聞いていたけど私が実際に出るのは初めてだ。マルテとノーラが涙を流してやらせて欲しいと言ってたのが昨日の事のようだ。二人とも関係者だから無理ですからね。ミスリアもヘルムートも貴族なので舌が肥えているしケイトのような平民にもサービスが違えばダメだし、美味しいと感じて貰えないとダメだからね。


 綺麗な石畳が続く道が緩やかに曲線を描いて伸びている。スプリングは調子良さそうでちょっと柔らか過ぎる位だ。大きく綺麗な家が並んでいた。庭師のようなおじいさんがこちらを見て頭を下げた。私は嬉しくなって手を振った。


「ソフィア様!!」


 ひいぃ。またノーラのお説教だ。叔父様は変な顔で苦笑している。ちょっと助けてよ。

「笑顔を返す程度にしてくださいませ」

「はい」


 ひゃお。相変わらずお貴族様難しいね。


 その後も幾人かの外で作業をする人達に頭を下げられ、私は笑顔だけで頑張った。それにしてもこの通りに面して両側に結構沢山の大きなお家があるね。


「ソフィア様、この辺りは貴族街になります」

「ルントシュテット領にはこんなに沢山の貴族がいるのですか?」

「はい、領地を与えられている子飼いの貴族は領地に戻っている事もありますが、皆ブランジェルに屋敷を持っています」

「そうなのですね。あそこに見える川の所にある白い門はなんですか?」

「あの門の向こうからが領民の街になります」

「わぁ、では商工ギルド長のパウルや鍛冶職人のクラウとフェリックス、木工職人のマーティンはあちらに住んでいるのですね」


 私は綺麗な貴族街よりもパウル達がどんなところで過ごしているのかの方が興味が沸いた。

 ノーラが少し溜息をつく。


 騎士団の先導で川の所の門は先に開けられた。


 おぉー!


 凄い街並みだった。さっきの貴族街は裕福な住宅地のような感じだったけど、こっちはまるで古いヨーロッパの街並みを見ているようだ。

 あちこちの煙突から煙が昇り行き交う人々やざわめきが人々の生活を感じさせてくれた。色んな店があるよ。そうだよ。私達は貴族達だけじゃなくてこの人達の為に頑張ってるんだよ。


 道行く人達は私達の馬車を見ると足を止めて頭を下げる。『ソフィア様だ!』『ありがたや』。なんか私の名前を呟く人もいるよ。私は貴族街より楽しく笑顔を振りまいた。

 ミスリアが興味深そうな顔で私を見た。マルテは苦笑いをしていた。

 

 そう言えばマンガなんかだとこんな風に馬車で移動する時に野盗に襲われたりするんだよね。


「叔父様、この馬車の旅に危険な事はないのですか?」

「ソフィア様、騎士団が護衛している馬車を襲うような間抜けな野盗など何処にもいませんよ」

「そうなのですね」

「明後日の野営の際には人の気配を感じて獣が少し来るかもしれないがルントシュテットにはそんなに危険な獣はいないよ。チェルブスやアプルム位だよ」


 鹿や猪に近い動物の事だけどどっちも私に突っ込んで来たらかなり怖いよ。


「それ危険ですよね」

「護衛や騎士団が夜番で守ってくれるから大丈夫だよ」

 護衛騎士のミスリアが

「姫様、お任せ下さい」

 と自分の胸に手を当てた。

 そうだね。カイゼルさん達もいるし、毎日厳しい練習しているミスリアやヘルムートなら安心して任せられるか。


 詳しく聞くと山の方へ行くと熊の様なものもいるらしいけど里の方はそこまで危険ではないようだ。街の外へ出ると畑や草原が広がった。


 ルントシュテットでは麦、綿花、家畜が地領に売り出す主な産業で山の方で採掘される銅と鉄鉱石も他の領よりもかなり多いそうだ。

 麦畑が広がりまるで絨毯のようだ。スマホがあれば撮影したい位だよ。

 道は思ってたより綺麗だね。前の戦争の際に飛び出た石などを取り除き輸送しやすいように整備してその後管理が続いているのだそうだ。つまりまた戦争があるってみんな判ってるんだね。


 この道ならアスファルトっていう訳には行かないけどある程度蒸気自動車でも走れそうだ。


 更に進むと少し広い馬車が何台か停まっている場所に出た。

 ここで最初の休憩を取るらしい。お昼にはまだ少し早いけど馬にも水や飼い葉を与え休ませる必要があるし兵士の人達はずっとかなりの早歩きをしていたからそろそろ休まないとね。

 他の馬車は商人の馬車だとマルテが教えてくれた。

 

 クルトとカリーナが昼食の準備を始める。下働きの人達がかまどを組み上げ火をおこす。

 今日のお昼は私が考えたもので用意したスープを温めて食パンに色々と挟んだサンドイッチだ。力仕事の人も多いからハムや卵だけじゃなくてチキンカツも沢山用意してもらっている。


 二人の手際はとても良くて簡単な調理だったから30分位で出来た。うんうん、私の料理人はとても優秀だよ。


 私達は手を洗い簡易テーブルの席について食事にした。

 お母さま、お兄さま、叔父様と私はテーブルだけど他の人達は置いてある丸太などに座って食事をするようだ。私はそういう方が外で食べている感がするからいいかなと思ったけどそんな事を言えばノーラに怒られそうだ。


 お母さまが神に食前の祈りを捧げて私達も祈って食事を始めた。


 パクっ。


 この沢さんお薦めのタマゴサンド本当に美味しい。マヨネーズと潰した卵の味が柔らかなパンにとても良く合う。


 モグモグ。


「ソフィア、この食事もソフィアが考えた物なのか。これ美味いな」

「そうですよ、お兄さま」

「ウルリヒはソフィアの食事が大好きですね」

「ソフィア様、これはヴァルター様に簡易に食べられるとお薦めした物だね」

「はい、簡単に食べられて便利でしょ?」

「確かにそうだね。普通はこういった際には干し肉や固いパンとチーズ位でこんな物を外で食べるなんて思わなかったよ」


 私の常識はこういうサンドイッチみたいのを外で食べるっていう常識だけどね。


 お母さまの側仕えのオットーさんが美味しいお茶を入れてくれた。私には水筒やペットボトルじゃなくてこんな茶器に入れてくれるこっちの方がよっぽど不思議だよ。


 騎士団の人達が何杯もおかわりしたそうだけどそれでも大きな鍋で作っておいたスープがかなり余ったらしい。


「それでしたらあちらの商人の方達に販売すればいいのではないですか?」

「ソフィア様、売るのですか?」

「はい、欲しければですから聞いてみて下さい」


 お母さまの側仕えが聞きに行くとあっという間に全て売れたようだ。


「叔父様、ここは丁度休憩するのに適した場所みたいですからサービスエリアとして食事処やトイレを作って提供すれば良いのではないですか?」

「サービスエリア?? 確かに途中にそんな場所かあれば皆助かるだろうね。この付近に住む領民の仕事にも良いだろうしレシピも少なくて済みそうだ」

「サニタース(スーパー銭湯)のようで大丈夫だと思いますよ」

「ああ、あの簡易に食べられる物だな。判った。戻ったら詳しく相談しよう」


 叔父様の側仕えが叔父様に聞きながら懸命にメモを取っていた。

 叔父様が少し考えてから困った顔をした。


「叔父様、どうしたのですか?」

「いや、まだ旅を始めて半日も経たないのに私の仕事がまた増えて、この旅が少し心配になって来ただけだよ」

「叔父様、頑張って下さいね」


 私と叔父様の会話を聞いてお母さまがにこやかに笑った。


 また馬車でしばらく進み、私が馬車の揺れでうとうととしていると日があるうちに街に入った。ノーラの地元のシュトライヒという街だ。

 建物はほぼ同じようだけどブランジェルと少し雰囲気が違っていて何となく整然としている感じがした。お店も商品が綺麗に並べられ人々もキチンとしている雰囲気だね。

 ノーラも綺麗好きだしこの街もそんな感じだ。私はちょっと苦手かもしれないけどゴミも落ちてなくて綺麗ないい街だよ。


 シュトライヒ子爵の敷地に馬車が入るとノーラの顔が引き締まった。

 ノーラから聞いた子爵様はアーディ・シュトライヒ子爵で奥様がエーベル様、お兄さまがエルマー様だったよね。


 馬車を停めて叔父様に手を預けて降りるとシュトライヒ子爵の家の人達がズラリと並び私が降りるのを待ってビシッと頭を下げた。

 角度が揃ってるよ。


「シュトライヒ子爵。本日はお世話になります」

「レオノーレ様、ウルリヒ様、ソフィア様、マクシミリアン様。本日ははるばるとようこそおいで下さいました」

「シュトライヒ子爵、兄上からの言伝てもある。後程シュトライヒの街の事を聞かせて貰いたい」

「勿論でございます。お部屋の用意が出来ておりますのでご案内させて頂いた後にお話出来る部屋を用意させ御迎えにあがります」

「判った。頼んだぞ」


「ソフィア様。ノーラはしっかりと仕えさせて頂いておりますでしょうか?」

「アーディ様、エーベル様、エルマー様、ノーラはとても優秀でわたくしのわからない事を何でも教えてくれてとても頼りになるのですよ」

「おお、わたくし共の名まで御存じなのですね。さすがルントシュテットの女神様です。ノーラの事をお褒め頂き恐悦至極でございます」


 何か今おかしな言葉が聞こえた様な気が、、、。


「わたくしの側仕えは本当に優秀なのですから当然です。ではお部屋へ案内して頂けますか?」

「はっ。只今。アルベルト、皆様のご案内を」

「はい」


 執事さんのアルベルトさんが手際よく指示すると皆左足から揃って動き始めたのを見て私は思わずニコニコしてしまった。

 私達4人と騎士団の人達の分は個室が用意され他の人達は離れの二階建てのアパートの様な所へ泊まるのだそうだ。そこの調理室でクルトとカリーナが明日のお昼の準備をする。夕食はシュトライヒに出店したステイラを取得したレストランで食べる予定だ。


 何か凄く綺麗なお部屋だったよ。シーツにシワ一つなかったけどマットがきちきちでめっちゃ固かったよ。ううっ、本当にこんなとこまできっちりしてるね。


 私はノーラに案内して貰う為に側仕えの仕事をお休みして貰い家族と過ごして貰う事にした。

 たまの実家なのだから一晩だけど少しはゆっくりとして貰いたい。


 私はマルテに貴族の服に着替えさせて貰い迎えが来てお母さま達とシュトライヒ子爵達が待つ部屋へ向かった。

 ノーラがメイド服ではなく貴族のドレスを着ていた。胸元には黄色い小さな花が飾られていた。おお、きっちりとした美人さんだよ。

 シュトライヒ子爵家の人達がびっちりと揃って待っていた。


 お母さまと叔父様にシュトライヒの現状を報告して成功した店舗も増やしかなり上手くいってるらしい。戦後の復興どころか領民がかなり裕福になるまで栄えているようだ。是非ともまた店を増やしたいし、他も色々とお願いしたいと何故かお母さまや叔父様でなく私の方を見て言われた。


 そうか、一般的には叔父様が頑張ってると認識されているように装っているけどノーラがいるから私の仕業だってバレてるからか。


 この日の夕食はシュトライヒのお店で美味しいグラタンを食べた。お兄さまは『これも本当にソフィアの作った物なのか?』と驚いていたけどお兄さまは貴族学院へ行ってたから良くわからないよね。

 ノーラが貴族のドレスのまま一緒に食事をして質問して来た。

「ソフィア様、ここのお店のパンよりもマルテの商うパン屋さんのパンの方がしっとりとして滑らかな気がするのです。何かこの領地で購入したレシピに抜けがあるのではないでしょうか?」

「そんな事はないかと思いますけど、まだデンプンを発酵させた増粘剤は試してませんが、ここでは湯種は前の日にキチンと用意していますか?」

「湯種とは何ですか?」

「ソフィア様っ!!」


 叔父様が話に割り込んで来る。変な叔父様。


「叔父様、何でしょう?」

「レシピは何種類かあります。湯種を使ったものは普通のものより高価なのです。簡単にお教えするのはお止め下さい」


 うわっ、そんな違いが価格に結びついてるなんて知らなかったよ。菓子パンや調理パンのバリエーションは配ってるはずなのに。


「やはりあの価格の違いはそういうものなのですね。判りました。シュトライヒでも高いものも購入させて頂きます。ここの領地でもより美味しいパンを食べさせてあげたいですから」


 おお、ノーラが凄く貴族っぽい。領地の民の事を考えてるんだね。


「叔父様、後で手配をお願いします」

「判った。しかしソフィア様、まだパンを旨くする方法があるのかい?」

「うーん、美味しくって言うか10日くらい経っても凄くしっとりとしたパンになりますよ。主に菓子パンに使いますけど」

「そ、その話は帰ってからゆっくりとしよう」

「判りました。ここのイタリアンももっとメニューを増やしたいですね」

「ソ、ソフィア様、ちょっ、、、」


 叔父様何か変だね。


 

次回、ミスリアの領地リバーサイズではミスリアがソフィアに破れた事に懐疑的な男爵と次男が騒動を起こす。怒るミスリア。

 お楽しみに。

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