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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第一部 第一章 美味しい夢
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君と一生一緒だよ

 蒸気機関や調理、ベッドの設計で忙しかったけど子供の剣道の大会でまた優勝した後、おじいちゃんに相手をさせられ、何故か今度は私が簡単に勝てた。どうも身体強化が一度では解除できないようで向こうの私の声と重なるからこれ二重にかかっているんじゃないかなぁと思う。とても速く見えた最初の頃のおじいちゃんの動きとは違って見えて私はおじいちゃんに圧勝した。


 その後、久しぶりに時間が取れて道場へ向かうと小さな練習場の方へおじいちゃんに連れて行かれた。二人きりだ。


「夢美、もうわしが教えられることはあまりないのじゃが、ここに伝わる秘伝を教えよう」


 おじいちゃんはそういうと、竹刀をわたしに置くように言って『無手』という戦い方を教えてくれた。

 そもそもおじいちゃんの流派はドラマなんかでよく見る柳生十兵衛なんかの『新陰流』の元、『陰流』と言う流派の系統なのだそうだけど、わたしは詳しくはないから良くわからない。


『無手』って簡単に言うと、刀を持った相手に対してこちらの手に何も武器がない時の戦い方だという。マンガなんかで見た事がある真剣白刃取りのようなものもその一つなのだそうだ。


 刀の剣筋を躱して徒手で相手を制する様々な方法を練習する。必要であれば本当に白刃を取る事も行う。剣筋が正確に見えてタイミングも自分のものにして初めて出来る事だ。色々な型には護身術のような動きも多い。

 身体強化を二重にかけた私はおじいちゃんの面が取れた。かなり速く繰り出されたものだったと思う。そこから捻り刀を制して相手を倒し一撃を入れ倒すまでの練習だ。勿論おじいちゃんを本当に殴ったりはしないですん止めだよ。


 おじいちゃんは私が剣道を始めた頃にとても喜んでくれたけど、何故か今はとても寂しそうな顔で


「夢美、免許皆伝じゃ」

 と言って木刀を降ろして作り笑いをしていた。


「わしの名を継ぐのではなく新たに名を授けよう。夢のように刀を使う『夢刀斎』じゃ」


 おじいちゃん、、、。


「ありがとうございます。これもご指導のおかげです」

 と本当におじいちゃんに感謝した。やばい、涙が出そうだ。始めた頃の不安さや少しでも生き残る足しになればという気持ちの頃とは雲泥の差だけど、どれもこれもおじいちゃんのおかげだ。


 中学生になれば取れるらしい日本の剣道における段位など全く取る気はないしそんなのどうでもいい。初歩の礼から学びそして剣道であのおじいちゃんに少しは認められたという事実の方が私にとっては重要だ。


「夢美は勉強で忙しそうじゃが、たまにはじじいの楽しみにも付き合って欲しい」

「はい、そうさせてください」


 折角おじいちゃんに習った剣道だ。時間があればまた練習に来るし大会も出ようと思う。

 やっと嬉しそうな顔になったおじいちゃんに頭をぐりぐりとされた。

 この夜はとてもぐっすりと眠れた。



 領の中央に流れている大きな川にはいくつかの水鳥が生息している。その水鳥もおいしい卵を産むことがあり結構な数を酪農家が飼っている。特にガチョウ(グース/アンセレム)やアヒル(ダック/アナティス)だ。

 現代の羽毛は機械で採ったり屠殺した鳥から手でむしったりしたものが多い。特に良い羽毛が取れるのは大き目のガチョウだ。それまではあまり衛生的でなく自然に生え変わった羽根もゴミとして捨てられていた。


 わたしは出来るだけ環境を清潔にして生え変わった羽根、特に胸の所のタンポポのような綿毛を集めて欲しいとお願いしていたけどやっと結構な量が集まったそうで買い取って欲しいと農業ギルドからお願いが来たようだ。近年の豊作で飼っている鳥も多いのだそうだ。


 うんうん、これやっと溜まったよ。もちろん買い取りますよ。やっぱり羽毛はハーベスティング(自然と生え変わった羽根を集める)が一番いいからね。


 農業ギルドは私から思ってた以上の高値で買い取ってもらった事に気をよくしてこれからも集める事を約束してくれた。むやみに屠殺して手でむしったものは買い取らないから気を付けてねと釘を刺しておく事も忘れない。手でむしったものよりハーベスティングの方が質がいいのだ。

 でも絶対売れるから頑張って。誰も買わなくても全部私が絶対に買うよ。



 クラウとフェリックスにお願いして手回し式の扇風機のようなものを作って貰った。温めた鉄板の上に風を通して巨大なドライヤーのような乾燥機を簡単に実現する。


 羽毛を洗って良く乾かす。乾燥が足りないと後で臭ったりするそうだ。乾燥が終わったら大きな箱を使って乾燥機で熱風を使ってさらに柔らかく乾燥させる。箱の中を羽根がふわふわと飛び回り本当に軽そうだよ。


 幾つか青い羽根が見つかった。混じってたんだね。綺麗な羽根。宝箱に入れておこう。

 私は宝石箱の様な私の宝箱を持ってるけど別に宝石が入っている訳じゃなくて大切な思い出的なのを入れている。これまでお父さまとお母さまにもらった綺麗な石、お兄さま達のお土産だと言う小さなピンクの貝殻と尖った大きな貝殻、小さ過ぎて処理出来なかったサーヤの実が連なってるものが入っている。

 ここにこの青い羽根も追加しようっと。青い鳥とか何となく幸せを呼びそうだよね。


 出来るだけ肌ざわりの良い軽い生地を使って立体キルトに縫い上げてもらい、いくつもの区切られたスペースに乾燥させた羽毛を少し膨らむまで入れていく。全部の区画に羽毛を入れ終わったら口を閉じて羽毛布団の完成だ。


 やったー。寒くても温かくて暑い時にも爽やかに涼しい。軽くて身体に掛けてる事を忘れちゃいそうだよ。超うれしい。

 やばい、身体が溶けそう。


 本気でぐっすりと眠れた翌日、お母さまが私の部屋へやって来て羽毛布団を確かめた後、

「ソフィア、作り方を書き出してくださいね」

 と自分の分を作る気まんまんの顔でお願いされた。えー私の趣味までそれやるの?


 どうやらノーラの報告でバレたらしい。


 私個人の趣味と領のお話は別だと思ってたけど、どうもこれも領の特産物にしたいそうだ。

 それなら大歓迎だよ。みんな一緒に気持ち良く眠ろうよ。睡眠は健康にとても大切だよ。むふふふ。平和や平穏の象徴の睡眠が一番だよ。



 ギルド長がスプリングが出来たと持って来た。私は叔父様と大叔父様、叔母様、お母さま、ユリアーナ先生と一緒に見せて貰った。


 ビヨン!


 いいよこれ。丁度いい強さの感じだ。皆んなにどう使うのかを説明した。細かく区切った枠に袋に入れたスプリングを並べて上下を毛布で押さえてシーツで包む。簡単にマットレスの作り方を説明した。今は木工職人の枠の完成待ちだ。


 このまま応用すればソファやスプリングを強くして馬車のガタガタを減らす事も出来る。ユリアーナ先生にこれが出来たら自動車も揺れが軽減出来る事を説明した。


 ユリアーナ先生は更に複雑になる構造に頭を抱えていた。

 頑張ってユリアーナ先生。


「ソフィア様はここまででいいですね。パウルは残ってくれ」

「はい」

「では皆さま私はこれで失礼します」


 ユリアーナ先生もまだお話があるみたいだから少し時間が取れそうだ。



「ビッシェルドルフ様、こちらでございます」


 キラン!


「見事な剣だがかなり細く片歯か。流石にこれでは打ち合えば折れそうだが」

「これで姫さまのご要望通りの寸法です」

「そうか。普通の剣の方はどうなった」

「はっ。こちらです」

「うむ、何か輝きが違うな」

「このソフィアの作り方で強くしたと言う剣とどれくらい違うのですか?」

「はい、ソフィア様にご教授頂き測定器を作りかなり強い事が確認出来ました。作る際の基準に大変有効でした」

「強い事は判ったがどれ程なのか? 判りやすく説明せよ」

「それではこちらが古い作り方の剣で作ったばかりのものです」

「どうしろと言うのか」

「マクシミリアン様、新しい剣でこの剣を切ってみて下さい」

「何だと! 其方、何を言っている」

「いえ、そのままの事でございます」

「ならばわたしがやろう。貸してくれ。マクシミリアン、これをしっかりと持っておれ」

「はい」


「行くぞ。ふんっ!」


 ガギン!


「き、切れた!」

「うむ、こちらにも少し傷は付くが切れるな」

「な、なんて事なの。剣で剣が切れるなんて、、、」

「お、同じ鉄なのですよね。とんでもない剣ですね」

「パウル。更にソフィア様に言われた事を研究し騎士団の剣を早期にこれに切り替えてくれ」

「畏まりました。ありがとうございます」


 


 私は空いた時間を利用してクラッカーを作った。少し塩味だけど何か他の物を乗せて一緒に食べても味を邪魔しない程度の薄味だ。


 お部屋に持って帰りマルテとノーラと話し合う。


「マルテ、ノーラ。ここに色々な物を乗せて愉しみながらおやつを食べたいのだけど二人なら何を乗せて食べてみたいですか」

「姫様、先にこれを食べてみてもいいですか?」

「もちろんですよ」


 マルテとノーラが食べる。薄味だと判って貰えたと思う。


「うーん、これなら私はベリーのジャムですね」

「うんうん、マルテ。それ美味しそう。お菓子みたいにきっと美味しいですよ」

「私はチーズを乗せて粗挽きの胡椒をかけたいです」

「うん、それお父さまも好きそうです」


 ノーラのは何となくお酒のおつまみっぽいね。


「姫様はどんなものがいいですか?」

「お菓子的に食べるならピーナッツクリームを塗ってイグランディウム(クルミ)を乗せたものなんかいいですね」

「あー、それ美味しそうです。私は姫様の作ったアイスクリームを乗せたいです」

「そ、それ絶対美味しいですよ。ちょこっと色んなジャムをつけて」

「はい!」

「私はコッドロエやサッラを刻んだものなども美味しいと思います」


 何だろと思ったらタラコのような少し塩味の魚の卵や漬け物の事だった。あの西園寺さんの家で食べたキャビアみたいのもあるかな。


 うん、お菓子みたいに食べるのもいいし、お酒のおつまみにもいいね。


 全部メモしておいて今度お茶会する時これにしよう。実際には食べてないけど想像だけでも楽しかったよ。日本の美麗のおかげだね。




「叔父上、どうしました?」

「ヴァルター、ソフィア様の言う剣が出来たぞ」

「ほう、それで如何でしたか?」

「その剣でわたしでも他の剣が切れた」

「剣が切れた!?」

「うむ、それ程に強さが違う」

「青銅の剣ではなく同じ鉄の剣なのにですか? まさか」

「その、まさかだ」

「ま、まあ叔父上だからですね。至急騎士団の剣を、、、」

「もうギルド長に頼んだぞ」

「判りました。では何故そのような不安そうな顔をなさってるんですか」

「ソフィア様が言っておった『完全な優位性を持って降伏して貰う』と言う兵器が怖くなったのじゃよ。ダイナマイトなるものが如何なるものなのか」

「叔父上らしくもない。弱気はわたしの前だけにして頂きたい。わたしはソフィアに思うままにやって良ろしいと言いました。それがもたらす影響は全てわたしの責任です」

「そうだな。ヴァルター、済まなかった。わたしもそれを担わなければソフィア様を騙した事になるところだった。気付かせてくれて感謝する」

「いえ、叔父上の事もわたしの責任ですからソフィアの事も出来るだけ正面から受け止めて頂きたい」

「判った」



 木工職人のベッドとそこに乗せる枠が出来たとギルド長から連絡があった。枠のサイズもスプリングに合ってるし完璧だね。

 私は喜んでマットレスを完成させてついに柔らかいマットレスと凄い装飾の天蓋付きベッド、羽毛布団を手に入れた。


 何か聖剣を手に入れた勇者になった気分だ。


 やったよ。これ今までで一番嬉しいかも。

 もう君の事は離さない。

 君と一生一緒だよ。


「姫様、男性を口説いてるみたいですよ」


 マ、マルテに聞かれてたって言うか嬉しくて声に出てたよ。


 えへへ。



 次回、閑話 ホメオパシー

 忙しく働くマクシミリアン叔父様のお話。


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