思い上がり/ズンダの涙
作者の罠にはまってやってしまうソフィア。そこから回復できるのか!
※この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、国、地方、大学、マスコミ、博物館の名称等は全て架空のものです。
【誰でもライダー】
天気は快晴。
朝、まだ早いのでそこまで気温は上がっていないけど、絶対に今日も凄い日差しになるよね。
ずっと日焼け止め効果のあるクリームを塗ってるけど、私もマルテもノーラも随分と日に焼けてしまっている。ラヴェンナ様はもっと焼けてて、リズさんはなかなか船の外には出ないんだけど、今日は昨日の長老さんの集落へ行くので、私の監視だったら行くしかないと思うけど、、、。
荷物は昨日、長老の娘さんのナパルラさんからお願いされた、ナパルラさんのお母さま用のドレスとコサージュを持って行く。
両方共綺麗に箱に入れて全部プレゼントするつもりだ。
そしておそらく、機能性ガラスはきちんと理解して貰っていないのかと思う。
これも長老さん達にどうかと用意する。これもプレゼントでもいいけどね。
後は、懐中時計は向こうの宝石を見てからだね。
クルトからクーラーボックスを借りて、食料を持っていく。
ここに水筒と氷とお昼のお弁当(サンドイッチ)も入っている。
後は飲み水はみんなポットを持ってるよ。
氷を入れておけば結構冷たいのが持つ。
集落に行くのは、
私、マルテ、ノーラ、ミスリア、ヘルムート、ザルツ、カーマイン、宝石職人のカスパーさん、通訳のナプルーラの9人は決定で、後1名をどうするかだね。
「なんでだい?」
とアン船長が言う。
いや、ここから5kmもあるんだよ。
歩いたら一時間かかっちゃうじゃんか。時速20kmで行けば15分で着くから三輪バイクだよ。
こうなるかと思って10台も持って来たからね。
「はい! 乗ります。乗ります!」
リズさんがどうしても乗りたいという。
メアリーさんも乗りたいようだ。
「お前ら何言ってんだよ。すぐそこだろう。歩けば直ぐだ」
リズさんとメアリーさんがじゃんけんのようなものをやってリズさんが勝ったようだ。
指の数を隠して見せ合っていた。
海賊の人達も集落へ行き、集落の人達へ買って来た物を売って一儲けしたいようだ。
まあ、そのために来たかったのだから今日頑張って貰えばいいと思う。
マルテもノーラも商売をする気満々なので三輪バイクに荷物を積み今から嬉しそうにしてるよ。
バイクに乗って行く人員の内、私、ミスリア、ヘルムート、ザルツ、カーマインは乗った事がある。
でも残りの5名は勿論こんなの乗った事もないしカスパーさんやナプルーラさん、リズさんも今日初めて見たという感じだ。
実はそれでも乗れるのですよ。
この三輪バイクは、言うなればおじいちゃん、おばあちゃんが乗る電動カートのような感じの安定性があり、とても軽く、速度も頑張ってスロットルを開ければ25km/hまでスピードが出るという優れものだよ。燃費もとても良くて5kmなんて殆ど燃料を使わないレベルだよw。
アン船長は荷物持って走れば私達よりも速いとか言ってるけど、5kmはきついよね。
日本の体育の授業での1500m走ですら、もうひいひい言ってたから私なら無理だw。
このキーを廻して、セルのスイッチを入れれば、ほら簡単でしょ?
スロットルを開ければ走り出す。
止まりたい時はスロットルを離してブレーキをかければ止まれます。
キーでエンジンを切れば完全に停止するよ。
はい、全員一回で出来ましたw。
なんか、私達が三輪バイクの練習をしていたら、その間に『先に行くぞ』とメアリーさんの先導でアン船長達は既に出発したようだ。
いや、暑くなって来たよ。
じゃあ、私達も行きましょう。
ブィーン。
スィー。
楽ちん~♪
直ぐにアン船長達に追いついて、追い越した。
わっ、走って追いかけて来るよ。
1kmくらい走って諦めたみたいだw。
そりゃそうでしょ(^^;
私達10名が先に集落へ着いた。
ナプルーラさんにお願いして長老さんに取り次いでもらう。
息子さんのンジャカーラさんがやって来て出迎えてくれた。
ンジャカーラさんにここで集落の方に商売をしてもいいか? と確認すると、歓迎しますと許可を貰えたよ。
マルテもノーラもやる気満々だよw。
護衛達と宝石職人のカスパーさんと通訳のナプルーラさんを連れて私はンジャカーラさんと長老の家に向かう。
長老と言ってもまだかなり若くて息子さんも娘さんも実はまだ小さいんだよ。
(お酒飲んでたけどw)
長老のンジャカリーさんと娘のナパルラさんがいて、木製の凄く豪華な椅子に黄色い鮮やかな服を着た凄い美人がいた。
一瞬、私の息が止まったかと思う程の美しさだった。
頭には鮮やかな花が飾られているけど、美しい顔立ちはそれ以上だ。
ンジャカーラさんが通訳のナプルーラさんに話す。
「『母のナパルシアさん』だそうです」
「初めまして、ソフィア・ルントシュテット・ナパンガティと申します。よろしくお願いします」
と一人ずつ挨拶した。
ナパルシアさんは一人ずつ名前を確認するように頷いて、その度に微笑んでいた。
まるで女神様のようだ。
ナパルシアさんの胸元には鮮やかな青い宝石が輝いている。
私は、持って来たドレスとコサージュを全部ナパルシアさんへ渡した。
長老さんへ懐中時計を差し出し、宝石を見せて欲しいとお願いした。
ナパルシアさんが胸元から外し手を伸ばしてくれた。
私が受け取り、宝石職人のカスパーさんへ渡すと、
「ブルーサファイヤですね。これだけ大きなものは見た事も聞いた事もありません」
少しだけいびつなんだけど、信じられない位大きなブルーサファイヤだ。
これなら公爵家である私のお父さまでも納得して貰えると思う。
通訳のナプルーラさんに
「是非、交換してください」
とお願いするとコクコクと頷き取り引きが成立した。
やったー。
この大きな宝石は『ズンダの微笑み』と呼ばれている物なのだそうだ。
まるでナパルシアさんの微笑みを象徴しているかのようだ。
ここで私は浅はかな観察力から、ナパルシアさんに着替えてお渡ししたドレスとコサージュを付けて欲しいとお願いしてしまった。
ナパルシアさんは少し困った顔をしてから、私達に退出するように促した。
ナパルシアさんが奥へ行って着替えてくるのかと思ったけど、私達は一旦家から出て少しすると呼ばれてまた中へ入る。
赤い肌に真っ白なドレスが映え、胸元のパステルカラーのラインの上には、今度は信じられない程の大きさのダイヤモンドが光っていた。
宝石職人のカスパーさんは
「ひっ!」
と言っておののいている。
長老さんはニコニコしながら話す。
通訳のナプルーラさんにによれば、
「『この宝石は、この集落でも最高のものなのでお譲りは出来ない』」
と言っているようだ。
私は凄い物を見せていただいたお礼に機能性ガラスを利用したコップを4つ用意して持って来たクーラーボックスから水筒を取り出して注ぐ。
ゆっくりと長老さん達の目の前で注いでいく。
コップには白い木が描かれているのだけれど、水が満たされると白い木がピンクに変わり、まるで桜の花が咲いたように見える。
こっちは黄色の花。全部を見せてから四人に配ろうとお盆を持つ。
【情けのない言葉】
長老さんに渡すと息子さんが2つコップを取り、ナパルシアさんの分を渡した。
ちょっと不思議だと思ったら、通訳のナプルーラさんに
「『足がご不自由』なのだそうです」
と言われた。
私は何か思い上がっていたのだと思う。
ザルツの腕を直した事もあるし、色々な人の怪我も治している。
もしかしたら私でも治せるかもと、
「私なら治せるかもしれません」
と言ってしまった。
この能力は私が努力して掴んだ力でもないし、神様の神的魔法なのであって、私の力でもなんでもない。
それなのに私は何を勘違いしているんだと後でとても反省した。
通訳のナプルーラさんがナパルシアさんにお話すると、ナパルシアさんは困ったような顔をして微笑んで答えた。
「『子供の頃にサメに齧られて両足がない』のだそうです」
あっ、、、。
私は本当に思い上がった失礼な事を言ってしまったようだ。
そういう怪我である事に思い至らず、自分の力でもない事を自慢しようという気持ちまであったのかもしれない。
ザルツは私を見て小さくコクリと頷き、私は悪くないですと言ってくれているようだったけど、私は涙があふれて『ごめんなさい』としか言えなかった。
娘のナパルラさんが私に抱き着いて私と同じくらいなのになんて言ってるかは判らないけど慰めてくれているようだった。
昨日、招待に来なかったのもそうだ。
さっき奥で着替えてくると思って何気なく言った『着替えてみて欲しい』も私達に両足が不自由な事を見せたくないからだろう。とても困ったに違いない。
この後、私は長老さんへ『出しゃばった事を言って申し訳ありませんでした』と謝罪してマルテ達の様子を見に行く為に長老さんの家を逃げるように出た。
私は本当に自分がどれだけダメな人間なのかを思い知らされた。
隠れたかった。このまま消えてしまいたい。
◇◇◇◇◇
【前向きなマルテ】
「姫様。姫様のお優しい心の一面なだけです。何も気に病むことはございません」
ミスリアが慰めてくれてヘルムートも心配そうにこっちを見た。
「ありがとう。ミスリア」
いや、恐らく自分の力でもないのにというのは私しか判らない事だから傍から見たのと自分の感覚は違うのだと思うけど、本当に私ってダメだと思ったよ。
私は早くマルテの前向きな明るさを見たくて外でマルテを探した。
ノーラもマルテもバイクに目一杯自分達が持って来た商品を積んで持って来ていて、ここの集落の人達は物凄い人数が集まって宝石と交換していたよ。
最大積載量は90kgですw。
ノーラのワインはもう品切れになりそうだ。
マルテもてんてこ舞いで笑顔がはじけている。
向こうでは海賊の人達が買い込んで来た商品を拡げ、大声で集落の人達と交換している。
勿論、通訳のナプルーラさんは私が連れていってたからみんな身振り手振りで交換しているんだよ。
なんか凄いね。
マルテの所へ見に行く。
「あっ、姫様。これ見て下さいよ。もう大盛況ですよ。あははは」
と、入れ物を見せて貰うと小さな宝石が一杯入っていた。
原石からそこだけ叩いて割り出したようなものだけど、結構綺麗で大きなものもある。
後で鑑定しなければ判らないけどかなりの額になってると思う。
マルテの笑顔に釣られて私まで笑顔が出来たよ。
「さっきなんか、私達が乗って来たバイクまで交換してくれってこんなに大きな宝石を持って来たんですよw」
「あははは、あれは非売品だからね」
「そうですね。ここで交換したら歩いて帰らなければいけなくなっちゃいますw」
非売品。いや、そんなの誰が決めたの。
それは私の勝手なルールだ。
【ズンダの涙】
私は通訳のナプルーラさんの手を引っ張って長老さんの家に走った。
「長老さん、見て頂きたいものがあります」
通訳のナプルーラさんは戸惑いながら通訳してくれた。
「『何ですか?』と言ってます」
「わたくしからナパルシアさんへプレゼントしたいと思いますので、長老さんと息子さん、娘さんに先に見て貰えませんか?」
「『判った、外なのか?』と言ってます」
「はい。こちらです」
と三人を外へ連れ出した。
私は三輪バイクを持って来て、乗り方を教える。
まず、娘さんのナパルラさんが座り、私の説明する手順を翻訳して貰うと、三輪バイクを走らせ始めてブレーキで止まる。もう一度走らせ少し遠くまで行って戻って来た。
キキー。
「これにナパルシアさんが乗れませんか?」
通訳のナプルーラさんが話す。
いきなり長老のンジャカリーさんが大声で雄たけびを上げた。
長老のンジャカリーさんは家まで走って行くと、ナパルシアさんを抱きかかえて連れて来た。
通訳のナプルーラさんがさっきの簡単な手順を教えると、ナパルシアさんの乗った三輪バイクが走りだした。
長老のンジャカリーさんは両膝をつき天を見上げて涙を流した。
ナパルシアさんは直ぐにコツを掴んだのか、自由に三輪バイクで集落の中を走らせる。
息子のンジャカーラさんと娘のナパルラさんは全力で走ってそれを追いかけた。
子供の時に両足を失ったのなら、外を動き回れる方が楽しいと思う。
「ナパンガティ。ナパンガティ!」
あっ、私の名前だったね。
「長老は『私の命と交換であれが欲しい。足りなければさっきのズンダの涙を付ける』と言ってます」
いや、命はいらないよ。私の方が失礼な事を言ってしまっているし。
ズンダの涙?
「命は不要です。ズンダの涙とは何ですか?」
「『今ナパルシアがつけている宝石だ』だそうです」
えっ!! あれダイヤモンドだよね。
「み、見せて頂いても、、、」
「ナパルシア! ナパルーシア!」
ナパルシアさんが器用に三輪バイクを操作してやって来た。
長老が早口で何かを話している。
ナパルシアさんが胸元から大きな宝石を外して私に差し出した。
ずっしりと重い。
宝石職人のカスパーさんへ渡すと震える声で言った。
「本物のダイヤモンドです。えーと、、、200g程度ですね」
200g!! 1000カラット。
私の知っている地球の最大のダイヤモンドは本当に最近見つかったもので古い時代にはそんなに大きなものはない。
第三位のものは2020年にボツワナで見つかった1,098カラットのものだ。
いや、これガソリンも必要だけど、このバイクはまだ量産は開始していないけど日本円に例えれば20万円くらいでこっちのダイヤモンドは最低でも数十億円だろうと思う。
「値段が違い過ぎますよ」
と話して貰うと。
「『ナパンガティ以外の誰かが今これを持ってるのか?』だそうです」
いや、それは無理だね。持ってはいない。
「持っていません」
「『ならばズンダの涙と交換してくれ』だそうです」
これは逆に仕方ないか。
一応予備のガソリンも積んできている。10ガロンのが2つで1つ45リッターだね。
カーマインとザルツに三輪バイクで取りに行って貰う。
長老の家に行き、ガソリンの扱いや燃費、更にはバッテリーがなくならないようにオルタネーターを動かす為に何日も乗らない時でもエンジンをかけて欲しいとお願いする。
息子のンジャカーラさんが『大丈夫だ』と言っているそうだ。
使っていれば燃費は良くともガソリンはその内なくなるし、バッテリーも使えなくなる。
とも説明したけど、
「『その頃にはナパンガティの配下の誰かが売りに来てくれるだろう』だそうです」
「はい! そう出来るように頑張ります」
「『取り引き成立だ』だそうです」
「ありがとうございます」
と、私はおおよそ1000カラットものダイヤモンドも手に入れたよ。
ナパルシアさんは私達が帰る際には、宝石の『ズンダの涙』のような美しい嬉し涙を流して手を振ってくれた。
私は帰りはミスリアの後ろに乗せてもらったよ。完全にお荷物w。
◇◇◇◇◇
【大儲け】
船の中。宝石職人のカスパーさんが大人気で、マルテや海賊達の交換して貰った宝石は全部本物で額にすると日本円で例えればみんなおおよそ1200万円位なのだそうだ。
みんな元手は数万円くらいだからズンダランドではとんでもない稼ぎだったね。
取り引きしなかった商品や宝石の一部を通訳のナプルーラさんへ渡してサフランドへ送り、私達は帰路についた。
いやそれだけじゃないんだよ。
このキャッツアイ。私はバケツ一杯分ある。
マルテもノーラもかなり拾って来たよ。
多分、これ以降は長老さんの集落でキャッツアイも拾われるのだと思う。
手に出来る最後のお宝だったかもしれないね。
私が最後にしたっぽいけど。
恐らくこっちの人の常識やら何やらとは色々と違うと自分でも思ってるけど、あの私の監視役のリズさんにも呆れられているのかとも思う。でもこれが私なんだから仕方ないよねw。
帰りも問題なく帰れるといいよね。
(いや、フラグになりませんようにフラグになりませんように)
◇◇◇◇◇
【マダガスカルへ】
実は、インドの方まで行かないで、このまま西に進路を取れば亜熱帯還流でマダガスカルの方まで出られる。そしてその途中に細長いレムリアがあるはずだ。レムリア見てみたいよねw。
私はそうアン船長に言ったけど、船長は来たインド側から戻ろうと安全策にしてくれたようだ。
確かに私は海の事をそこまで詳しい訳ではないからこういうのはアン船長に従った方がいいね。
ああ、こんな話もリズさんに監視されてるよ。
私の行いのせいでグレースフェールが滅ぼされちゃったりしないよね。
結構心配だよ。
帰りは行きよりも一日早く紅海付近まで来た。
ここから紅海に入らないでアフリカの東側を南に行けばマダガスカルへ行ける。
この船の速度では1日半程度だ。
私は聞いてもいいのか判らなかったけどアン船長に『何でマダガスカルへ行きたいのですか?』と聞いてみた。
「以前、一緒に旅に出た仲間がマダガスカルで行方不明になったのさ」
「えっ、何日か探そうという事ですか?」
「いや、そうじゃねー。メアリーの奴に諦めさせたいんだよ。あいつの恋人だったからな。女だがな」
バイキングだっけ。
「まあ、一日もありゃあ、壊れた船でも見つかって諦めるさ」
「そうなのですね。判りました」
私はちょっと気が重かったけど、メアリーさんの心の問題が解決できるのなら数日ならば構わないかな。
◇◇◇◇◇
【西園寺 vs.片神無】
美麗と千里さんが一緒の日が来てしまったよ。
あれから美麗に聞いたら、美麗の所でも同じ位置情報を取得するシステムはあるのだそうだ。
でも、美麗はわざと千里さんを立てて、リンクさせて欲しいとお願いしたのだそうだ。
美麗は千里さんを立てるみたいなのが出来るなんて知らなかったよw。
そして、色々と双方共準備して今日になった。
ここは地下の現場の前だ。
そんな二人を無視するかのように神功先輩が片手で持てる長細いプラスチックと金属の鞄のようなものを持って来た。
千里さんと美麗に見せるように持っていた取っ手から地面に置く。
取っ手の下のスイッチを押すと、ウィーンと音がしてクルッと幾つかの箇所が回転して、液晶の顔と足が4本出て来た。
何これ、カッコイイ。変身したよ。
長細い四角いのが犬みたいになったよ。
自分の端末で操作できるみたいで犬になったその箱は屈伸してから待機した。
千里さんが持って来たのは、大型のオオカミみたいなロボットだ。
なんかめっちゃ強そうで、さっきから千里さんの脇で立ち止まり、センサー音がしている。
「犬型なのね。まあ、正々堂々とやりましょう」
「珍しい事言うやないか」
確かに、千里さんでなくても美麗は確実に成長していると思う。以前の美麗なら『犬ばかりなのね。片神無にはお似合いだわ』とかくらいマジで言いそうだと思ったよw。 いやさすがにそれは考えすぎかもw。
でも私達は確実に大人になっているし、みんな成長しているんだなって思ったよ。
「そうねw。いつまでも子供じゃないのよ。櫻井、センサーを」
「はい。お嬢様」
櫻井さんがアタッシュケースのようなものを開ける。
小さな竹とんぼのようなものが飛んいった。
「まず、各最適ポイントにセンサーを設置するわ。10分程度で終わる。水無瀬」
「は、はい」
水無瀬さんが取り出したのは、、、
とても小さな人型ロボットだった。
「やけに小さいな。これは西園寺のパラクールタイプやな」
「その最新型、パラクールWE-HX1よ」
「対人兵器用かいな。その型番やと対人ウエポンやろ」
「フフフどうかしらね」
「まあ、こっちも兵器代わりのんを持って来たで」
「では、モニタールームに行ってセンサーの設置が確認出来たら始めましょう」
「よっしゃ」
「らじゃ」
いや、一体何が始まるんだよ。
成瀬博士も私も遺跡の調査をしたいんだってばさ。
モニタールームに移動した。
「順に端から遺跡の調査を行うわ。センサーの反応があれば、そこへ急行して野生動物を捕獲する。夢美の指定したルールの通り、先に捕獲した方の勝ちね。勝った方は四半期の間『イデア プロキシマ』の利用優先権を獲得してその間は負けた方は契約が出来ない。これでいいわね千里」
「ええで、こっちはみまっちもいるからお得やけどな」
「なんで私の会社が賞品になってるの?」
「あら、あなたがルールを決めたのだからそれくらいいいでしょ」
「ま、まあ、そっちの勝手な取り決めならあまり口は出せないけど」
「その通りやで」
「らじゃ」
プピッ。
「お嬢様。センサーの設置が完了しました」
「では開始ね。夢美、合図をして頂戴」
「わかったよ。じゃあ、スタート!」
プチ。
「よっしゃ、行ったるわ」
「GO!」
美麗のはフルオートの自立型のようで命令だけしているそうだ。二足歩行ロボットは人間のような動きで飛び跳ねて行った。映像は目まぐるしくて目が回りそうだ。
千里さんはあくまで手動で操作するようで、神功先輩のは半自動でAIで補正してくれるらしい。
美麗の二足歩行ロボットが先に調査地域に入り、エリアの中の撮影、遺物の確認、位置の記録をスムースにこなしシェアしている地図に調査済マークがついた。
何これ。これを放っておけば調査は簡単に終わりそうだね。
千里さんのは大型犬か狼のように動物っぽく走り、美麗とは反対側の調査対象のエリアに入る。こちらもスムースにセンサーで全部を調べ調査済マークがついた。
そのまま、直ぐに方向を変え次へと向かう。その間に美麗の方はもう一つエリアの調査が終わっていた。
神功先輩のはまだ移動中で半分くらいの距離だよ。
「フフフ、操作なのね。私は紅茶でも飲みに行こうかしら」
「この面白さが判らんとは感性を磨かなあんよ」
「美麗、暇だから紅茶くらいなら入れるよ。成瀬博士がw」
「えっ、私? いいわよ。この別荘を借りてるからもう慣れたわ」
成瀬博士には鍵を渡して使って貰っている。
勿論、この秘密ルームの鍵は渡していないけど、倉庫にだけは行けるから集めた遺物の確認は出来るよ。成瀬博士の部屋を貸して数日前から来ていたそうだ。
「でも、このペースなら今日中にU1まで行けそうな感じだね」
「そうね。でもそのU1は調べられるのかしらね。この前のドローンが入れなかったエリアですからね」
「うーん、なんか判らない壁っぽいのがあったんじゃないの?」
「あのセンサーで確認出来ない訳ないのよ」
「じゃあ、まあそこまで行ってからだね」
神功先輩もエリアの調査を始めた。
全体からセンサーのような光が出て一瞬で調査済マークがついたよ。
「任那の調査能力は少し凄いわね」
「これに注力してきた。最後に笑うのはわたし」
「そんな訳ないでしょ」
「けど、片神無チームの方が西園寺より上回りそうやで」
「負ける訳ないわよ」
なんなんだよぉこの人達w。
時々、おかしな部屋のようなものもあって、モニター見てるだけでも結構面白い。
完全に古代の遺跡のはずなのに、綺麗過ぎるエリアもあったよ。
「成瀬博士、ああいうのは一体何なのですか?」
「ちょっと組成を調べないと判らないわね。この辺りの技術が現代でも応用できれば物凄く現代科学が進歩する事もあり得るわね」
「美麗、聞いた?」
「知ってるわよ。あなたの所も魔法が判っているって事も聞いたわ」
「うちの彼氏は凄いやろ」
「夢美の所の執行役員ね」
「いや、カテキョの彼氏やて」
「中学生が何をませた事を言ってるのよ。ほら、ロボットが止まってるわよ」
「くうっ、話込み過ぎたわ。いくで!」
結構調査が進み、もうお昼なので一旦休憩してご飯を食べに行く事にしたよ。
櫻井さんと水無瀬さんも一緒だ。
でも、このペースなら本当に今日中にU1まで行けそうだよ。
◇◇◇◇◇
「ユメミン、ここのランチ美味いなぁ。コスパも最高やし」
「高級レストランでないとしてもそれなりには美味しいわね」
「いや、普通のホテルのレストランだからね。私の従兄のお兄ちゃんが作っているんだからね」
「うどん、美味しい」
「成瀬博士、これまでの調査で何か判りましたか?」
「部屋のパターンがありそうね。それに未解読の言葉、これは恐らく呪文っぽいし、未解読の魔法陣もいくつかあったようよ」
「やった、それ魔法使いの迷宮」
「いや、確かに迷宮っぽい感じはしますけど、迷宮って何かを閉じ込める為、例えばミノタウロスなんかを閉じ込めたっていう神話の話ですよね。一体何を閉じ込めたんですか?」
「きっと魔王」
「えー、、、」
しまった、神功先輩と普通に会話しちゃたよw。
ビー!
「櫻井!」
「Bー3エリアに動体反応です」
「直ぐに対人捕獲モードで急行させて!」
「あっ、ずるっ!」
千里さんはお昼を口に全部頬張った。
「うえいん、うえおいえあ!」
ダッ!
???
「神功先輩、千里さんなんて言ったんですか?」
「多分『ユメミン、ツケといて』って」
「はぁ」
よく判ったねw。
「人が操作してるからあんなに慌ててるのよ。AIに任せなさい」
「まだ昼休み」
「焦らなくていいわ、任那が行く頃にはもう網で捕まってるわよ」
もぐもぐ。
それでも何かいるのならと私達は早めに別荘へ戻った。
千里さんの分は私にツケて貰ったよw。
シュィーン。
「お嬢様、映像も通信も途絶えました!」
「えっ、嘘でしょ」
制御室にしている部屋へ行くと、千里さんが狼ロボットを操って現場へ急いでいた。
ザザッ!
美麗のロボットの腕が千切れて頭の部分が凹んでいた。
射出された網にも何も入っていない。
「くっ、あれがやられるなんて、、、。櫻井、映像は残ってるかしら」
「判りません。通信が完全に途絶えています」
「千里、回収して頂戴」
「回収して下さいやろ。 しかしあのロボットでこんなんなるんか? クマかいな」
「わたくしも少し思い上がっていたようだわ。 千里。か、回収して下さい」
「わかった」
ぴょこぴょこ。
神功先輩のロボットも到着した。
「じゃあ私が腕回収する」
「しゃあないな。フックかけるとこ、、、。ここでええか」
首の所にロープを引っ掛けて美麗の持って来たロボットを回収した。
◇◇◇◇◇
次回:マダガスカル
お楽しみに♪