閑話 リズ
ソフィアの監視係を送り込むエリザベス女王陛下に慌てるグレースフェール国内。
私が国政に口を出すのはちょっとなんだけど、、、。
※この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、国、地方、大学、マスコミ、博物館の名称等は全て架空のものです。
「絶対にダメだと思います」
「何故だ。あのターオンだぞ」
「だからこそダメなのです!」
ターオンから戻り、間髪を入れずにエリザベス女王陛下は動いてきた。
女王陛下の思惑なのか廻りの貴族達の暗躍なのかは判らないけど、あれから直ぐターオン国内で動きがあり、密書が見つかってあのブラッディメリーが斬首刑として裁かれた。「騙された!」と処刑の間際まで大声で訴えていたそうだ。
これも宗教の対立が絡んでいて、この密書は宗教を共にするヒーシュナッセ宛のもので、表向きはその密書をインターセプトして罪を暴いたのだそうだ。
そのヒーシュナッセは密書の連絡を待ったが、メリーが処刑された事に怒り、宗教を理由に『聖戦だ!』とターオンにヒーシュナッセの誇る『無敵艦隊』を差し向けターオンとの海戦が始まったそうだ。
正直、逆にターオンがかなり不味い状況に追いやられたんだよ。果たして「騙された」のはどっちなんだろうね。
ヒーシュナッセの海軍が『無敵艦隊』と呼ばれている理由はターオンの戦艦も確かに強いのだけど、砲台の数が違うんだよ。
ターオンの戦艦の3倍くらい砲台をつけてる。それだけ撃たれれば木製の船なので沈没させる能力は単純に3倍強い。だから少なくとも海戦はヒーシュナッセが優勢なんじゃないかと思う。
でもターオンは島国で四つの国の集まった帝国だから国の全ての地域が征服されてしまう事はないと思う。仮に侵略されてもエルグランド以外のどこかの地域だと思う。
当然、エリザベス女王陛下は多忙で、グレースフェールの事なんか忘れてくれるとありがたいなぁという希望的観測だったんだけど、だめだったよ。そんな易々とは見逃してくれない。
このグレースフェールでは実質、他国との国境を守る辺境伯や侯爵様のような高位の貴族達に各国との交易は任されている。
正直、このグレースフェールはそういう事があまりしっかりとはしていない。
島国であるターオンはこの国への入国位置が港で、普通はオレアンジェスか中央でそれぞれの港の管理をする貴族が対応している。
今国交がまともで、交易がおこなわれているのは船で港に来る各国と、パープラングに隣接するポロクム公国、そしてターオンだけだと言ってもいいと思う。他は個人の外国商人達もいるけどね。
因みにポロクム公国は現在東の大国と交戦中だ。
エリザベス女王陛下は、私達が戻って直ぐに、グレースフェールとの通商代表として『リズ』を用意した。『グレースフェールに対外通商の長という役職で送るからグレースフェールに滞在させよ』と言って来て、その『リズ』がグレースフェールの国王様との面談を求めて来週来る事になったそうだ。
そこで『国王様が直接お会いになる』と聞いて私はお父さまに反対した所だ。
グレースフェールの対外通商の長では国外全体の国交に係わるターオンに於ける国の重鎮でも何でもない。
お父さまはターオンの国力を恐れ「植民地」にされてしまう事を恐れているからだと言う。
全くダメだと思う。国と国との話だよ。
正直私は子供だし貴族学院もあるからグレースフェールの国政になど関わりたくないんだけど、宰相様や他の幾つかの領地の領主様達から何故か私の意見を聞けとお父さまに託されたらしい。
そこで私の意見を言ったらお父さまと意見がぶつかってしまったという訳なんだよ。
勿論、お父さまの心配も判る。
エリザベス女王陛下は手を出さないと私と口約束だけどしている。
だけど、もしもグレースフェールとターオンが事を構えたらターオンもただでは済まないと思う。
この状況で、ここまで地位が違う、たかが「対外通商の長」程度の人と国王様が面談するなんて事を簡単にしてしまったら完全に国として舐められてしまう。
グレースフェールはターオンに犬のように従順で思いのままだと思われてしまう。
絶対に国王様がそんなに簡単にこの程度の地位の人と会談をしてはいけない。
そんな事がいくつも重なれば、それこそが植民地になってしまうという事がたやすくなるだろうからね。
こんな子供の私にも判る当たり前にやってはいけない外交をこの国ではやろうとしていたんだよ。
いじめに毅然として立ち向かわずにいれば、相手は調子に乗りどこまでもエスカレートするのと同じだよ。この行為は誰の差し金なのか単に『リズ』の思惑なのかは判らないけど絶対に許してはダメだ。
これまでも外国商人達には私がやった色々な事を見られていると思う。
恐らくこの『リズ』さんはこの国の商品などのスパイに該当する人で、ターオンが有利になるように動くとしか考えられない。商品だけではないかもしれない。
でも実際には、例えば『石油化学製品』を見られたとしてもターオンの現在の文明ではそんなに簡単には再現出来ないとは思う。
勿論、エリザベス女王陛下にも『ルントシュテットが隠そうとしている兵器』と言われ、色々とバレてはいるけど、輸出してはいけないものと輸出して良いものをきっちりと取り決めておく必要があると思う。
日本で言う経済産業省や通産省のような役割はこれまでは宰相様が担っている。
私は逆に丁度いいタイミングだと思ってお父さまに、輸出入に関する取り決めを行うルールを決めて外国商人の取引は経済産業の部署を作り、そこで許可を確認する事。
また、対外国の長を決め国務省を作り対外交渉は国務省の長官が責任を持って行う事。
そして、国王様とか領主達には様々な忍者みたいな人達がいたと思うけど、国の機関として公共の安全を守る公共安全調査の部署を作り、国の機関として機能させて『リズ』さん達外国商人を監視しましょうという案を出したら、お父さまには理解してもらったのだけど、私まで国王様に呼ばれたんだよ。
『リズ』さんが来るまではもうあまり日がないので結構緊急の集まりだ。
各領地の領主、宰相様などの経済系の役割を担っていた方々が集まっている。
まだ子供ではあるけど、オレアンジェスはアデルさん、イエルフェスタはまだ領主のゲオルク様が病床でアウグスト様が出席している。他にもご高齢で出席が間に合わなかった方もいらっしゃるようだ。
宰相様がこの打ち合わせを仕切るようだ。
「取り急ぎ集まって貰ったが、あまり時間もない。経済産業はこれまで通りわたしの方で任命し業務は進める。ルントシュテットからメインとして話のあった『武器及び武器にすることが可能なものの輸出は禁止』という事を骨格に、今後、外国商人との取引は全て承認制となる。取り引き可能なものは各国境や各港を管理する貴族達にもあらかじめ書面で渡すので、それらであれば取引は問題ない。取り急ぎ一般的な商売には影響はないだろう。何か反対意見のある方はいらっしゃるか?」
・・・。
みんな頷いた。
武器輸出が禁止されて反対するのはおかしいからね。
これらは戦時には国王様の判断で一時的に変更が可能な戦時法が適用される。
「では、そのように進める。また公共安全調査庁は、現在の王室の影達があたる。表に姿を見せる事はないが規模を大きくした公的機関となり逮捕権などの権利が増える。これは極秘に進め何かあれば其方らに伝える。次に国務省であるが、現在他国とのやり取りのあるパープラングのカーディナル公爵から推薦のあったトリステアのムーチェン・フォン・トリステア子爵、もしくはシルバタリア辺境伯から推薦のあった、クローヴィス・フォン・ヴォイルシュ子爵の両名があがっているががどうするのかを話合いたい」
グレグリストのグレグリスト伯が発言する。
「トリステアのムーチェンとやらはその名からチョイナーにゆかりがあるのではないか? 過日のサスカッチの件は皆ご存知だろう。わたしはその者は反対だ!」
「グレグリスト伯。確かにトリステア子爵はチョイナーとグレースフェールの両親を持つハーフだ。しかし先方の『リズ』殿もグレースフェールとターオンの両親を持つハーフなのだ。このようなハーフの者こそが適任ではないか?」
幾人かが頷く。
「チョイナーは訳が違うでしょう」
「お待ちください」
「何かね、ソフィア嬢」
「はい。単に出自がどこであっても悪事を働くとは限りません。同じ国にゆかりのある者だと言ってあたかも犯罪者であると決めつけるのは間違っていると思います。出自は本人が努力でもどうにも出来ない事です。それを貶めるのはおかしいです」
「うむ。そうだな。ソフィア嬢の言う通りだと思う」
「ご賛同頂きありがとうございます宰相様。グレグリスト伯、サスカッチの件で警戒されるのはわかりますが、その事はご理解ください」
「確かにソフィア嬢の言う通りだ。失礼した」
「その上で『ハーフ』だから適しているという理由は何ですか?」
「いや、それは自国だけでなく別の国の事を良く判っているであろう」
パープラングのカーディナル公爵の息子、デレックス様だ。
「それは、チョイナーの事に限るのではございませんか? その方にはどのような実績があるのでしょうか?」
「カーディナル公爵は高齢の為、本日参加されているデレックス殿、いかがかな?」
「いえ、まだそのような実績はございません」
「シルバタリア辺境伯。ヴォイルシュ子爵様はいかがでしょうか?」
「いや、戦時にシルバタリアを守っているのだが国交の実績はない」
「それは素晴らしい働きだと思いますが、状況は理解しました。何かシルバタリアの法に対してご発案されたり、対処をされたりした事はないという事ですね」
「その通りだ」
「先程の出自のお話は、直接言葉を濁さずに言えば『差別』です。そして『ハーフ』の方が適しているというのは逆に『ハーフでない人』への『差別』だと思います」
ここで殆どの参加者が驚いた顔をしてこちらを見た。
「このような事はそんなお話ではなく、実力と実績で決めるのが正しいのではありませんか? わたくしはピシュナイゼルのクルツバッハ伯爵を推薦致します」
!!
何っ!
ピシュナイゼルの領主のオズワルド様まで驚いてこちらを見た。
「皆さんの仰る『ハーフ』が適任という意味であれば、あそこの地域は併合されたピシュナイゼルの伯爵として『差別』を受けながらも見事に先の戦争で活躍し昇爵した実績をお持ちの国を守る国士です。そしてその実力と実績は、スボーレスのサイレントインベージョンの対処や放浪民のツィゴイネル達の対処で最近も証明されています。この国にクルツバッハ伯爵以上の実績がある方がいらっしゃいますか?」
「いや、ソフィア嬢の言う通りだと思う。誰か反論のある者はいるか?」
・・・。
「国王様。いかがでございますか?」
「反論などあろうはずもない。オズワルド。良いな?」
「はっ」
「では、直ぐに王城まで呼んでくれ。世が任命しよう。今の仕事も兼任であってもクルツバッハなら問題なかろう」
「はっ。仰せのままに」
こんな感じに概ね私の意見で決まったよ。
◇◇◇◇◇
本当は公共安全調査庁はマクシミリアン叔父様にやって欲しかったのだけど、伯父様にはこれからも表の世界で活躍してもらうつもりだからねw。
そしてグレースフェールが国の方針を定めた後、グレースフェールにやって来た『リズ』は国王様でなく、国務長官との会談に変更された。
いや、以前は差別されていたピシュナイゼルのクルツバッハ伯爵は、今や貴族の間ではこの国の石油王と言われて羨ましがられているくらいだからねw。
このまま行けばオズワルド様と共に侯爵への昇爵も囁かれてる。
伯爵様の部下達も凄い人材で、特にあの二人の娘さん達はこっちまで噂が来る程凄いらしい。
お父さまの次くらいにはこの国で凄い対処が出来る方だと思ってるよ。
クルツバッハ伯爵程の愛国心と信念をお持ちであればそうは心配はいらないと思う。
◇◇◇◇◇
その『リズ』さんとの会談は
『お互いの利益となるよう、これからも仲良く力を合わせて行きたい』
という、なんか地球で良く聞くようなあくまで表面的な話だったようだ。
クルツバッハ伯爵は私に
『ソフィア様。あの娘にはご注意ください』
と言われたよ。
はい、最初からそのつもりですw。
私個人としては、貴族学院もあるし、まだ子供だから国政にはあまり関わりたくはなかったけど、正直私のような子供にでも判るような事が出来ていないのはちょっとショックだったよ。
あんな判断ではいずれ国は滅びちゃうよ。
当然、パープラングのカーディナル公爵辺りの方々や、他の領地のいくつかの有力貴族達には、私が国政に口を出すのを強く反対されたそうだ。
逆に押された方々もいるんだけどね。
でも、どう考えてもこの『リズ』さんは気の抜けないエリザベス女王陛下からの私の監視係だよね。
あー、お父さま、クルツバッハ伯爵様、どうにかして。
夢美の世界では国民からすごく不人気の岸口総理大臣なので勿論、実在の人物とは別の人ですが、今年の5月29日にその総理大臣がまったく偉くない某国の中央対外連絡部のトップごときと会談したという話に怒って勢いで書いたものです。一国の総理がですよw。あり得ない話ですがマスコミは大喜びで報道していますw。
普通にこれが公開できますか?w
仕方ないので怒りで書いた部分を大幅にカットして設定も変えましたw。随分と短くなってしまいましたがお許しを。
時事的なお話は何年か後なら判る人もほぼいなくて、まともな普通の判断してるなと思われるだけなのでこれも大丈夫だと思っています。w