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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第二部 第一章 夢の海外旅行
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やり場のない怒り

 やり場のない怒り。そういった事に人は上手く自分自身に折り合いをつけて大人になっていく。

それはずるい方法かも知れないし自分に嘘をつく事かも知れないが、それが大人になると言うことの一つだ。

 子供はなかなかそれが難しい。爆発する怒りは保護者にでもあたってくれればまだいいが時にそうは出来ない事もある。夢美やソフィアはどう対処するだろうか?

【美味しい苺泥棒】


 伯父さんの作っていた苺がごっそりと盗まれたそうだ。

 とても大きくて美味しい苺だけど、あの近辺では最近そういった窃盗事件が多いらしい。

 ニュースでは近隣で強盗事件まで発生しているそうで、これらはその殆どが外国人の不法滞在者による犯罪なのだそうだ。


 美味しいから私のホテルにも卸して貰って季節のメニューにしようかと思ってたけど、ちょっと無理だと連絡が来た。

「日本のルールを守れる人だけね」と明記しているホテルに来てくれる外国人観光客の方々はいい人ばかりなのに、そういう犯罪者のお陰で彼らも白い目で見られかねないと思うと本当に頭にくるよ。


 警察に届けたけど、現行犯でなければこの手の犯罪の逮捕は難しいそうだ。

 逮捕してもらいたいのはそうだけど、苺が帰って来なければこれは全部泣き寝入りだからね。

 不法滞在者による強盗事件まで近くで発生しているのかと思うと、ここの県知事、山田 一太さんは何をやってるんだろう。

 仕事をして欲しい。県民を危険に晒したままにするつもりだろうか?


 正直、こういう怒りはやり場がないよね。警察にいくらお願いしても県知事にあたっても恐らく何一つ、一切の改善なんか見込めない事は判っている。

 でも私のような子供に『政治家なんてそんなもの』と思われるような状況に彼らは悔しくないのだろうか? 何の為に議員や知事をやっているのだろう?


 まあ、もう、ほんとに頭にくるよ。


 ぷんぷん。


 としてたら、新倉先生にどうしたんだい?

 と見つかっちゃったよ。いや、新倉先生のような人に話すのは恥ずかしいけど、伯父の家で窃盗事件に合った事を説明した。


「そうだね。日本人は元々性善説だから、盗まれたハウスには鍵もないし誰でも行けるようになっていた訳でしょ?」

「それはそうですけど、人のものを盗むのは犯罪です」

「いや、その通りだけどさ、つまりはそれは日本人の感覚であって、全ての国の人がそう思っている訳じゃないでしょ」

「そうかもしれませんね」

「例えば、獣の内蔵を処理するのは違法だと日本人は知ってるけど、勝手に豚を盗んだり猪をとって裁いて料理する。これを自慢だとSNSにアップする位なんだよ」

「法を知らないのになんでそんな人達を入れているんですか?」

「夢美さんだって海外へ行ってもその国の法は全てを知っている訳ではないよね。つまり日本人の常識として過ごす訳だよね。その常識がここまで違うのだっていう事がこの国の偉い人達には思い至らないのか、もしくは別の思惑が動いているのか、、、」


 ダメだ。もうそんなダメで危険な事はこれ以上は聞きたくないよ。


 私が目を逸らすと新倉先生は前向きな話をして、


「まあそういう事をきちんと全部理解して対策をすればいいんだよ。防犯なら今の技術があれば色々と出来るだろう」

「成程、そうですね。嘆いてばかりじゃなくて、対策をした方がずっといいです」

「でも、ゴメン。今日はもう時間がなくてさ、でも三矢さんがそういう機器を詳しいから彼に教えて貰いなよ」


 と三矢さんに振って来た。

 私と新倉先生が三矢さんを見ると、何故か三矢さんは笑顔だw。


「判りました。ありがとうございました」

「うん、じゃあね」

「はい」


 なんか三矢さんと目を合わせて私は笑っちゃったよ。あははは、これゲームなら私の負けだねw。


 防犯器具はいろんなものがあるらしい。

 でも、防犯カメラは某国製のものが多くて、データは全て某国に送られてから見る事になるそうだ。

 そんなの『セキュリティー』じゃなくて、『セキュリティーホール』じゃんか。

 頭おかしいよ。


 なので、カメラも日本製でアップする情報も自分の管理下のサーバが一番いいそうだ。

 センサーなんかも有効で普段人が入らない場所でも直ぐに検知出来る。


 また特殊な品種ならば遺伝子を確認しておいて、窃盗の証拠として確認できればそれも有効だろうという話だった。

 もう三矢さんの言ってるの全部やろう。


 色々と教えて貰って三矢さんにも色々とお願いして準備して貰った。

 三矢さんは安価でも使えるセンサーなんかを色々と揃えてめっちゃ小さいコンピュータだという箱やLEDなんかを自分で組み立てて試作品を作って、システムまで直ぐに作り上げてくれたよ。何これ、ちょっと凄いんですけど。

 場所を見なければ数量が判らないと言って一緒に見に行く事になったよ。

 それでも何か所にも対応出来る準備はして貰ったようだ。



 実は三矢さんにはあそこの小さな橋を設計して貰ったんだけど前島さん関連で作って貰ってたからまだ行った事がなかったんだよ。橋も見たいって言ってる。

 

 週末に私達は伯父さんの所へ行く。

 勿論、三矢さんのアルバイト代は色をつけて払いますよw。当然、かかった費用は教えて貰えば全部こっち持ちだよ。

 新倉先生は専門家だけど、三矢さんもこういうのは得意で、多分、新倉先生とそういうお話をしていて先生も三矢さんの事が良く判ってたんだね。

 なんか三矢さんを見てたらなんでも作っちゃうんじゃないかと思えたよ。

 新倉先生は凄いコンピュータを作っちゃいそうだけどね。


 ホテルによってお兄ちゃんの恵一さんに事情を話すと『父さんじゃ判らない事もあるだろうから俺も行くよ』と一緒に伯父さんの所へ行ってくれる事になったよ。


 三矢さんは自分が設計した橋と建物の位置関係を見るなり、理解したと言う顔で言った。

「これ前島は古い有名な建築家のような事をやりたかったんだね」


 うん、なんか前島さんの趣味っぽかったからね。

 まあお任せしてます。


 その後、お兄ちゃんに伯父さんのところへ連れてって貰う。タクシーで来たから車があると近所だけど助かりますw。


◇◇◇◇◇


【怪盗ユメミと怪盗ユウジ】


『夢美ちゃん、知ってるかい? ソーラーパネルの事をあまり好きじゃないみたいだけど、うちの教授なんか40年前に買ったソーラーの関数電卓を今まで電池とか気にせずにずっと使ってるんだよ』

『マジですか?』


 いや、40年前って、、、。今まで使ってるって事はきっとまだこの先も使えるよね。

 私の生きてる人生の三倍近くなんてどんだけだってw。


 確かに電卓なんかの液晶は消費電力がとっても少ない。

 

 本当に使い方次第なんだなぁと思ったよ。


 前に前島さんにソーラーパネルの事を黒歴史になるとか美鈴先生と一緒にイジメちゃったんだけど、その時の前島さんの唯一の反論がこれだったんだよw。


 今回、三矢さんが作ってくれたいくつかのセンサーはとても小さなソーラーパネルで動くものが沢山ある。これは消費電力を考慮したものだけど、通信はLPWAというものを使うそうだ。

 ローパワーワイドエリアの略なのだそうだ。

 これらは通信プロトコルも小さくて速度もとても遅いけど、センサーなんかの場合はその程度でも充分に使える。

 今回設置するWi-Fiはahという規格だそうで、これはまるで基地局のようだけど免許不要で自営設置が可能な優れたものだ。Wi-Fiだけでも1kmの距離が出る。


 各ポイントにセンサーを取り付けて、反応があればカメラが動体を捉えて映像をWi-Fiで送信。顔まではっきりと写る高性能なものだ。同時に道路付近の自動車を複数個所から撮影して、自動的にナンバープレートも読み取る。

 映像はアラート処理で、LEDの点灯と共にモニターに送られ同時にメールを発信する。


 伯父さんの所と恵一さんの所の両方へアラート処理が行われるよ。


 カメラもソーラーパネルで動作する。

 センサーやカメラが人為的に動かされてもそこが撮影されアラート処理になる。


 電源は家の中のWi-Fiとちっちゃいコンピュータだけで済むっていう色々と配線とかが面倒じゃない設計になっている。

 電源を入れてインターフェースの開始を押せばセンサー監視が開始されて、伯父さんがそこで作業する時は通知状態で録画だけが行われ作業が終わればまた監視に戻せばいいだけっていう簡単なシステムだ。 これをOFFにするには、監視側のこのめっちゃ小さなコンピュータの電源を落とさないと無理で、これを伯父さんの所と恵一さんのフロントに置くという全体構成だ。


「恵一さん判りました?⤴」

「な、なんとなく。こういうのってIoTって言うんだっけ?」

「そんな感じですよね三矢さん」

「あははは、感じはないでしょ。でもそうですね。重要な監視する場所は充分範囲に入るようなので早速つけてみてもいいですか?」

「お願いします。それを見れば判りやすいですよね」

「なんか三矢さん、これかなり便利ですね」

「即興だよ。これくらい」


 本当にこんなのをプログラムを含めて一週間かからずに作って持って来ちゃうんだから橋の設計がない時はこういうのやればいいのに、、、。

 えっ? 忙しいの? そっかぁ、なんかこういう才能は勿体ないと思うけど、、、。


 という事で設置が終わり、早速試して使ってみることになったよ。



 何回かテストで私が『怪盗ユメミ』になって忍び込んでみようとしたけど、完全にバレてたw。

 カメラのスピーカーから『バレてるよ』って警告されたよ。

 夜間も暗視カメラだっていうから夜には雄二さんが『怪盗ユウジ』で試してみるよって言ってたw。

 

 電源入れてワンボタンで監視が出来るし、ワンボタンで自分の作業が出来るから叔父さんも出来そうだって喜んでたよ。

 自分の作業時間があまりに長いとメールで注意してくれるから再開を忘れることもないんだっていうからもうこれでいいと思う。



 伯父さんと恵一さんには、

「もしも、本当に泥棒とかをこれで見つけても絶対に独りで捕まえに行こうとかは止めてくださいね。犯罪が確定したら警察に直ぐに連絡してこの記録カードを提出すれば対処してくれますから自分で対処してはダメですよ」


 と、念を押していおいた。スピーカーで警告位は出来るんだけど行ったら危ないからね。

 先日、この辺で捕まったのは強盗だっていうから命の方が大切だからね。



 という、ちょっとIT的な専門的な事を三矢さんにお願いしてやって貰って来たよ。

 私のやり場のない私の怒り的なのは、あまりに三矢さんの手際や才能が凄かったのでどっかいっちゃったよ。


 でも、帰りの新幹線で三矢さん曰く


 「レイさんは僕なんかよりトンデモなく凄いよ」


 って言ってるんだけど、きっと新倉先生は私では何言ってるか判らないレベルなのかと思うw。

 正直なんとか私の家庭教師に引き込めればと思ってるけど千里さんの家庭教師だって言ってたからね。


 三矢さんに費用を確認したんだけど、信じられないくらい安かったよ。

 何これレベルの価格だった。


 でも三矢さん、本当にありがとうございました。



◇◇◇◇◇


【恥をかかせたい思惑】


 アーガイル公の結構大きい音楽ホールに騎士達と女王陛下が集まってお父さまが砲弾について説明した。

 音楽ホールの前のステージには見事なシピオーネが置いてあったよ。こんな所に無骨な騎士達が集まるのはかなり違和感がある。

 

『投石器やマスケット銃のようにただ単に塊が飛んで行って当たるのとは違い、強烈な爆発によって一度に数百人レベルで死ぬことがある』


 と、お父さまは確認するように何度も説明して通訳さんが焦りながらも正確に翻訳していたよ。


 でも、女王陛下も騎士達もちょっと薄ら笑いを浮かべていた。


 先方の騎士達の願いで、実演が終わったらここに戻ってもう一度打ち合わせをしたいそうだ。


 ダメだこれ。

 完全に大したことないと思っているし、下手をすれば騎士の人達で防げて、終わってからお父さまと私に恥をかかせたいとでも思っているのかと思う。


 薄ら笑いを浮かべる騎士達が『さっそく見せて見よ』と言う。


「判りました」


 本気で危険な事にならなければいいと思う。


◇◇◇◇◇


【爆風の演習場】

 

 ここはアーガイル公の騎士達の演習場だ。

 始まる前に、アーガイル公は女王陛下に、蒸気船の性能やライフルの威力を話して危険だと幾度も申し上げたそうだ。

 恐らくアーガイル公は戦でも活躍する眼力を持っていると思う。

 でもダメだったようだ。


 ザルツが砲車を移動して来た。

 女王陛下がこちらに座り私達の横にいる。


 あまり距離のない位置にレンガの家があり、そこにさっき笑ってたガードナー子爵とその自慢の重歩兵の方々がとても大きな盾をもっている。


 近くの騎士達が

 『ガードナー子爵の重歩兵はチョイナーの城壁をも砕く砲弾をやすやす止めた』などと大きな声で話していた。

 あの砲弾は爆発はしない。主に艦隊戦で喫水付近に穴を開け沈没させるか、攻城戦で城壁を破壊する事が目的だ。それでも人がそれを止めるのは無理があるというものだけど、弱く威力のないものであればそれも可能なのかもしれない。

 そんなのであれば船の首水線下前方に大きく突き出た(ツノ)みたいなラムで船毎体当たりして敵船を壊す方が威力がある。


 でも、、、そんなのじゃないんだよ。


「では、見せてみよ!」


 あのレンガの小屋の前にいるファランクスでがっちりと固めている重歩兵を狙えと言っているようだ。


 頭悪いのか何かおかしな意地なのかは知らないけど、あれでは全員死んでしまうし、この距離ではここまで破片が来る可能性が充分にある。


 お父さまも私もそれが判るからザルツを含めてかなりの脂汗をかいて動けないでいた。


『女王陛下に意見をするな』とお父さまと約束してしまっている。


 戦時ではなく、通常のこんな時に騎士を殺せば、それは事故でもなんでもなくただの殺人だと思う。

 防げるならこんな愚かな事は防ぎたい。


 お父さまには通じないけどわざとエリザベス女王陛下とその周りにいる血気盛んな騎士達に聞こえるように、私はお父さまに向かって大声で英語で忠告した。


「お父さま! 先程お父さまがおっしゃっていたようにこれでは危険過ぎます! このままでは絶対に撃ちません! ご理解頂いてますよね」


 と大声で言った。


「ははははは、ソフィアは面白い事をするな。絶対に撃たぬというか。しかもルントシュテットには何を言ってるのかわからぬのじゃろ。つまりはこちらに言いたい訳じゃな。いいだろうそこまでいうならばもっと下げる。ガードナー子爵に距離を取るように言え。これでよかろう」


 ガードナー子爵はレンガの家から30m位しか離れていない。

 あれではまだ殆どが死んでしまう。

 距離が近すぎるし、ここにも破片が間違えなく来ると思う。


「お父さま! まだ全然近すぎるのが判りませんか! 私達のいる場所からも近すぎるからここでも危険なのですよ。絶対に撃ってはダメです!」


「むっ、いつまで口答えをするか! 通訳、ルントシュテットに撃つように言え!」


「ソ、ソフィア、、、」

「お父さまダメです」

「くっ、グレースフェールが滅ぼされるやもしれんのだ。頼む、堪えてくれ」


 ザルツは涙を流しながら私を見た。


「姫様、、、」


 くっ! こ、これ以上はもう無理だ。あそこから少し離れたから幾人かは助かるかもしれない。

 でも本当にここでも危ない。


「全員、物陰に隠れて伏せてください!」


 英語でも大声で言った。


「全員、物陰に隠れて伏せてください!」


 女王陛下の周りの騎士達は私達の護衛まで地面に伏せているの見てを笑っている。


「ソフィア。許せ! 全て私が責任を負う、、、。ザルツ、頼む。これは命令だ!」

「はっ!」


 ザルツが大声で


『イーニス!』


 と叫び、砲弾が発射された。


 ズガッ!

 ドカーン!


 近距離なので直ぐにレンガの家の標的に当たり爆発した。


 ブワッ!


 直ぐに爆風がお父さまと私の髪を盛大になびかせて揺らす。


 レンガなどの破片が飛び散り、女王陛下の周りの騎士の一人に当たり倒れた。

 さっき私達が地面に伏せているのを笑っていた人だ。


 女王陛下にも破片が当たり頬の辺りを切ったようだ。

 私は瞬きせずに爆心を見ていた。

 目の端にもう一人女王陛下の脇の騎士が屈み込んだのが見えた。


 爆煙が少し収まるとそこが見えて来たけど、ガードナー子爵の重歩兵は誰一人立っていない。

 当たり前だ! もう私は何に怒っていいのかも判らなくなっているけど、怒りが収まらない。

 

 ほんの少し周りの方にいた人がもぞもぞと動いている。生きている人もいるみたいだ。


 私は爆風を受けたまま、涙が止まらなかった。


 口を開けたまま動かない女王陛下を見て私は言った。


「エリザベス女王陛下。これがルントシュテットの砲弾の威力です。まだ動けるものもいるようですので、次弾では直接あの騎士を狙いましょうか?」


「あ、あ、あ、、、。い、いや、そ、それはいらぬ。良く判った。もう良いから撤収してくれ」

「畏まりました。無駄に命を落とされた方々のご冥福をお祈りします」


「う、うむ」


 涙が止まらない私をお父さまが抱きしめた。

 悔し過ぎる。


 ルントシュテットのみんなに終わったと告げて撤収を始めた。

 ザルツも涙を流して『姫様。申し訳ございません』と言ってた。


 いや、お父さまの立場も判っているしザルツの立場も判る。


 勿論ザルツの責任じゃないしお父さまのせいでもない。

 敢えて言えば、私が女王陛下を止められなかったからだろう。


 女王陛下の周りの騎士達も2名負傷し、女王陛下も軽い傷をおわれた。

 お父さまと私はかなりの爆風を受けたけど大丈夫だった。



【二人きりのホール】


 当初の約束通り、私達はホールへ戻ると騎士達からはまるで忌避されるように距離を取られた。

 女王陛下や国の重鎮の勇猛な騎士達がいらっしゃれば下手をすればこのまま砲車を奪われ、私達は全員処刑されてしまうかもしれない。当然、お父さまもそれはわかっている。顔がもう真っ青だ。

 

 もしもそうなったら、、、みんなごめんね。


 ・・・、


 これはこの国の騎士達の士気にまで関わる問題だ。女王陛下はどう折り合いをつける気なんだろう。


 ここに来るのだろうか?

 

 女王陛下とここのアーガイル公、重鎮と思われる貴族の騎士が最後にホールに入って来た。


 重鎮の騎士が説明した。


「ルントシュテットの砲撃は見事なものであった。しかし、ガードナー子爵の勇猛さはあれこそ貴族の鏡と語り継がれるであろう」


「「おおー!!」」


 !! バカなの!? 何を言ってるの。頭おかしいの!? !!

 あれが無駄死以外の何だって言うの!!


 あんなのが貴族の責務ノブレスオブリージュだというのならそれは間違っている!


 生きて国を守ろうとしない愚かな人達が国の何の役に立つって言うの!!


 女王陛下がこっちを見る。

(貴方のせいで、思い上がりと社会圧力のせいでガードナー子爵達は亡くなったのですよ! 勿論そんなことは言えない)


「ソフィア。色々と言いたい事は判る。愚かと笑うやもしれぬが今はもう止まれぬのだ。これからもターオンの騎士達はノブレスオブリージュを唱え勇猛に戦うであろう」


 私は怒りで身体が震えた。

 お父さまが隣で震える私の腕を掴んだ。


 判っている。ここでどんな意見も言えない事は判っている。

 でも私はお話した。


「女王陛下。今回は国賓としてお招き頂き大変ありがとうございました。わたくし共は大変勉強になりました。そのお礼といってはなんですが、一曲そこのシピオーネで弾かせて頂ければと思います、わたくしの心からの気持ちがお届けできればと思います」


「そうか」

「女王陛下、よろしいのですか?」

「よい、弾かせてやれ」

「はっ」


 シピオーネの蓋が開けられ、恐らく何かをするのではと警戒した騎士がシピオーネの近くに立っている。


 私はショパンの革命のエチュードを弾き始めた。


 正直、私の怒りは頂点に達している。

 この怒りの全てをこの演奏に込めて弾いた。


 あまりの激しさに、近くの騎士二人は曲を聞いて尻もちをつき、ホールで聞いていた騎士達もおののいているようだった。


 曲が終わっても女王陛下はこちらを見ないで俯いていた。


 たった1人だけ、アーガイル公から拍手を頂いた。


「ソフィアと二人にしてくれ」

「女王陛下っ!」

「いけません女王陛下」

「大丈夫じゃ、何かするつもりであればあの砲撃を向けて撃っているであろう」

 ・・・。


 お父さま達を含めて女王陛下と私以外の全員がホールから退出した。


「・・・。ソフィア。其方の言う事ややっている事の方が正しいと思うし其方の言う蛮勇もおかしな事じゃと思っておる。さき程の曲で其方がどれ程怒っているのか心に染みた。あんな怒りの演奏はこの国のどんなに優れた演奏家でも誰にも出来ぬだろう。もしもターオンに其方がいればもっと上手くやれたのやもしれぬがもうこの国は止まれぬのだ」


「ターオンとグレースフェールで力を合わせて一緒に民の生活を良くして産業を発展させる事はできませんか?」


「フッ。そんな事が出来れば正に夢のようじゃな。其方がいればそんな事も簡単になせるやもしれん。しかし其方のような尊き者を今のターオンの血生臭い騙し合いに巻き込みたくはない。許せ」


「そう、、、ですか」


「今後、グレースフェールには手を出さないと誓おう。あれでは恐ろしくてとてもではないが手は出せんからな。これは其方が死んだ後もそうするように申し伝える。謝りはせんが、これで許して欲しい」


「様々な争いがあり、現在(いま)の女王陛下のお立場ではもう仕方ない事なのかもしません。先程の曲は大変失礼致しました。もしも何か心に感じる方が少しでもいらっしゃったのであれば、それを皆で話してせめて社会圧とはなりませんようにお考え頂くだけでも@%*&#-」


 涙が溢れてこれ以上話す事が出来なかった。


「判ったソフィア。皆と話してみよう」


 涙を流す私を女王陛下が抱き締めた。

 その感触は冷徹な王としてのそれでなく、母親のような暖かい抱擁だった。


『ガードナー子爵と神に感謝せねばならんな。ガードナー子爵は無駄死にではない。子爵は紛れもなくこの国の多くの騎士達の命を救ったのだ。神罰を与えるこの勝利の女神と戦わんで済んだのだからな。まさに神罰であった』


 女王陛下が私を離し直ぐに女王陛下の顔に戻り私は陛下の前を辞した。


 これは口約束だ。守られるかどうかは判らない。

 公的な記録にも恐らくガードナー子爵は演習中の事故死としか残らないだろうと思う。


 でも、私達は処刑されずグレースフェールに戻る事が出来そうだよ。


 帰りのお父さまの表情があまりに暗かったので、女王陛下達が蛮勇に関する考えを改めてくれるかもしれない事をお話して、今後、私が死んだ後もグレースフェールに手を出さないと誓うと言った事を話すとようやく落ち着いてくれたようだ。


 お父さまも私が弾いた曲にはショックを受けたようで、国に帰っても国王様の前ではあれは弾かないでくれとお願いされたよ。


 タイトルすら教えてないのにやっぱ雰囲気でそういう曲だって判るのかな。『革命』だものねw。

 でも怒りに任せすぎて自分ではもうどう弾いたのかなんて覚えてないよ。


 私達はアーガイル公に見送られ港からグレースフェールへ半日で戻った。


 最初から最悪だと思っていたけど、こっちで初めての海外旅行は全員生きて帰れたし、ターオンの事も少しは判った、本当に色んな事が知れた為になる海外旅行だったと思う。


 もう二度と会う事はないと思うけどエリザベス女王陛下が今後どんな人生を歩むのかも判らないし大変な国の情勢みたいだけど、出来れば子供達の為にも長生きして欲しいと思う。


ソフィア「Fare thee well, Her Majesty the Princess!」

(さようなら、女王陛下)

 


エリザベス「Non Non Anon」

(いやいやいや、また会おうな)


 

 なろうさんの更新が面倒でなく、作者が面倒で書くのをやめなければ、恐らく、何話か閑話になる予定です。

 来週ダメだったような気もしますが、後で確認します。

 これまで、夢美もソフィアも冒険者の事をまるでバカにしたような失礼な事を言い続けて来たので、次の章では冒険者のお話についてにしようかと思っています。

 と、言いつつ、恐らく閑話でも結構正直に言っちゃうと思いますw。

 そこで、そんなソフィアを、


 情けない驕り高ぶった冒険者=ソフィア。

 と出来ればしたいと思っていますw。


 第二部 第二章 夢の冒険者 お楽しみに♪

 いや、これが成り立つのか少しだけ不安ですが、非難の嵐にならない限りw頑張ってみますw。

 

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