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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第二部 第一章 夢の海外旅行
112/129

舞踏会とお餅ともやし

失敗w。

結構困りますがニコニコは結構大変ですよね。

実は月曜の夜になろうさんも更新が上手く出来なくなってかなり焦りましたが復帰したようです。

一時間くらいダメだったのです。怖いですね。

ローカルのノートが一番ですw。


スカートをたくしあげ全力疾走する女王陛下w。

怖すぎます。

※後の回でほんの少し話が出ますが、このお話の少し前にターオンでは飢饉とインフルエンザで20万の人が亡くなっています。

※この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、国、地方、大学、マスコミ、博物館の名称等は全て架空のものです。


【舞踏会】


 貴族学院の約半数の生徒達はそこの貴族達の騎士爵の子供達だけど、この騎士爵は一代限りなので舞踏会には騎士爵の本人だけが参加する。つまりヘルムートはモルトケ家の一員でもあるけど騎士爵として一人で出るけどミスリアは男爵家なので家族で参加する。

 これは将来誰が家督を継ぐのかわからないからだね。他は商爵の方達も本人だけが出るよ。顔繋ぎとして彼らの挨拶回りは凄いらしい。

 つまりマルテは男爵家になったので私と同じく初参加だよw。


 貴族学院の方は騎士爵の方々の子供達も通い、本人が騎士になる道が開かれていて本人の努力次第と言う感じだよ。結構優遇されてますよねw。

 ウルリヒお兄さまのような血気盛んな貴族も結構いるけど騎士コースはこう言う騎士爵の子供達が選ぶ事が多くて何か紛争があれば騎士コースの人達も参加する。

 そこで名を上げれば有力貴族からのお抱えもあるからみんな必死に頑張ってるよ。


 だから貴族学院の方は各地からの生徒の数は限られた年代だと言っても結構多んだよね。

 お金も掛かるから貧乏な家では貴族学院は厳しかったりもするけどお抱えする側の貴族が出す事もあるよ。


 後はこの舞踏会には貴族学院へ行く年齢以上の貴族家の者達がほぼ全員参加だね。

 結構な人数だよ。多分、約束なく一度見失えば会えない位に人が多い。


 新年会として国王様から挨拶があり幾つかの各地の貴族の変更などはここで全員に知らされる。

 サクレール辺境伯やスボーレス、サスカッチの事なんかが話された。


 続いてターオンのエリザベス女王陛下が紹介されて挨拶をした。

 エリザベス女王陛下はグレースフェールの文化や産業の発展を凄く誉めていたよ。


 これを聞くとターオンでは余りこれらは発展してないのかもしれないね。

 でも戦争の話や自国の貴族の勇猛さ、どこどこを支配下に納めたなんていう自慢もしてたよ。

 あははは、やっぱり負けず嫌いだよねw。



 国の楽団のダンス演奏が始まりフロア一杯に女性達のドレスが華のように広がった。

 ここから見ても物凄く壮観だよ。スペースが厳しい位沢山踊り始めた。


 あちこちで男性が女性達を誘い、女性がその手をとってお辞儀をして踊り始める。


 こう見るとクリノリンスタイルのドレスはもう誰もいなくて、いても小さめのバッスルスタイルのドレスで、後はお母さまの所の最新のドレスだけど、カッコイイデザインのが本当に多いよw。

 私の感覚ではバッスルスタイルで変にお尻だけ膨らんでいるよりお母さまのドレスの方が女性達のお尻が魅力的に見えるしセクシーだと思う。(えっ? セクハラ?w、ここだと何それだからw)


 因みにエリザベス女王陛下は小さめのバッスルスタイルだよ。あれだと形は崩れちゃうんだけど無理すれば何とか座れるw。座る時には側使えがササッって近づいて、形がおかしくならないようにスカートのすそを拡げてから座るんだけど、座っちゃうと結局形が崩れて、その後はもうほぼ小さな座布団がお尻に付いてるように見えるよw。


 もう一つ因みに私の廻りにはお母さまを始め胸の大きな人が多いんだけど、小さな胸の方が本人達には好まれるんだよ。肖像画を描く時はみんな絶対に二周り位小さく描いている。繰り返すけど『絶対に』だよw。少なくとも私がこれまで見た沢山の美人画には大きなのは一つもないよ。

 つまり本物は絵と違って大きくてタレ、、、ううん、ちょっと違う事があるんだよ。コルセットやブラは大切だよね。日本のプリクラも真っ青なレベルだ。

 本物の胸もギリギリまでコルセットで締めるw。なんか見ると胸が潰れちゃって可哀想な感じなんだけどねw。

 もっとブラの方が楽だと思うけど、、、。


 これはみんな『永遠の若さ』に憧れていて胸が小さい事が若いとされ、大きな胸はおばちゃんの象徴って言う風潮なんだよ。皆さん今ちょっとガッカリしたでしょw。


 でも実際にお父さまがどっちが好みなのかは知らないよw。

 私の作った服は胸を見せるのがあるんだけどめっちゃ見せるのは寄せても小さい胸を見せるんだよ。

(誰? そこで残念とか言ってるの)


 日本で中二の私が小さいのは私的にはちょっとだけど、こっちはまだ小さいしリナと言う仲間がいるからねw。


 大人達は一緒に踊って様々な子供ではわからないような暗号のような会話もするそうだけと子供達も将来の婚約相手なんかとここで出会う事も珍しくない。

 私も大人になって恋愛の駆け引きなんかやってたらきっとここは晴れ舞台なんだと思う。

 お母さまの興奮は半端じゃなかったからねw。なんか愛人とか大丈夫だよね。お父さまがお母さま一筋だからちょっと心配になって来たよ。


 まあこっちは婚約も早いからここに出てる貴族達は成人する前でももう子供とは言わないんだけどね。

 めっちゃ年の差婚なんていうのも普通だ。

 上位の貴族達だとご本人だけでなく、ご夫人の愛人なんかも良くあるからね。

(ロ○○○とかもないから)


 勿論、黒人の方もいない。地球のドラマでもマンガでもあまりにも間違えたりおかしなのはちょっとどうかと思うよ。(あっ、ごめん。なんかそっくりだけどこっちだったよw)


 私は出来るだけ目立たないように後ろの方の柱の影の辺りにいて壁の華ならぬ椅子に座って立食の食べ物を貰って食べていたよ。


 当然、武器の持ち込みは禁止だし、入る時にも同性の人のボディチェックまである。

 護衛もいないんだけど一応ミスリアが近くにいて、あとはピシュナイゼルのクラウディア様とそのお姉さんだと言うラヴェンナ様がずっと私の両脇に立ってたよ。

 クラウディア様達のドレスは日本の巫女(みこ)さんような服でちょっと興味がそそられたよ。近くにクルツバッハ伯爵もいる。

 今のところ私が挨拶をしたのはこの人達だけだ。


 ちなみにヘルムートはと言うとミスリアによれば音楽好きな女性達大勢に囲まれて連れて行かれちゃったのだそうだ。ミスリアはそれからずっとお酒を飲んでいるw。でも学院でしか演奏してないのに噂って凄いよね。ネットとかまだないのにどうやって伝わるんだろうね。


 グレグリスト伯爵が新しくサスカッチの管理をするミレネー男爵を連れて挨拶に来たよ。次にオレアンジェスのサクレール辺境伯が挨拶に来た。アデルさんは『わたくしと踊って頂けませんか?』と誘ってくれたけど今回は遠慮させて貰った。目立ちたくないからね。アデルさんは爽やかに立ち去ってくれた。なんか男前に見えたよ。


 でもシルバタリアのオスカー様の誘いを断った時は泣きそうな顔をしててちょっと可哀想だった。

 オスカー様にはお父さまからそう言われていると耳打ちしてようやく機嫌を直して立ち去ってくれたよ。


 ルーカス様も来たけどクラウディア様達が睨みを効かせていて近づけなかったようだ。

 マンスフェルト男爵とマルテも近くに来て逃げて行ったよ。ノーラは近づかなかったねw。


 時折、チラチラと色んな人の顔が見えるんだけど、このラヴェンナ様、クラウディア様のガードはピシュナイゼルの人である事もあってとても強力だったよw。


 ホッ。なんか問題なく済みそうかと思ってたけど、、、ダメでした。org.


 ずっと席から周りを見渡していたエリザベス女王陛下がいきなり席を立ち猛スピードでこっちに走って来た。スカートをたくしあげて全力疾走だよ。何なのこの女王陛下。あり得ないよ、貴族としておかしいでしょ。

 他の人達にぶつかっても私の方だけを見て走っている。これはかなり怖い。


 クラウディア様達がドレス姿のまま私の両脇で身構えた。


「ラヴェンナさん、クラウディアさん、女王陛下です。おやめ下さい」

「「はっ」」

 

 私はここで私が走って逃げれば国際問題になりかねないと思って諦めて椅子から立ち上がった。

 お母さま。すみません。作戦は失敗でした。


 私の前で息をついている。こんなの貴族ではあり得ないよ。本当にハチャメチャな人だ。


 ふぅふぅふぅ。


 いや、この人もうかなり怖いよ。

 息が整うと顔を上げて開口一番、


「ようやく見つけたぞ。ルントシュテットの女神っ!」


 ああ、なんか終わったよ。どうしよう。もう絶対色々と知ってるよ。


 お父さまとマクシミリアン叔父様が人を掻き分けて慌ててこっちに来ようとしてる。

 早く助けに来て欲しい。


「このグレースフェールの発展は全てお前の仕業じゃろ。解っておるぞ」


 仕業って、犯罪とかじゃないんだから、、、。

 言葉が慣れていないだけかな?


「いや、えーとですね。これはそう噂にしているだけで、、、」


 お父さまが来た。

 

「女王陛下、お待ち下さい。ソフィアは、、、」

「ルントシュテット公爵であったな。其方に聞いているのではないぞ。女神に聞いておるのじゃ」


 マクシミリアン叔父様も来たけど、手も足もじゃなくて、手も口も出せそうにないね。


 ここで女王陛下は英語で話始めた。あーこれもうダメだ。


「其方だけが話せるのは何故じゃ?」

「お勉強したからです。女王陛下もグレースフェールの言葉をお話になりますがお勉強したのですよね」

「ぐっ、そ、その通りじゃが、、、」


「ルントシュテットが隠そうとしている兵器も其方が作ったのか?」

「はい」

「本当にその歳で其方が作ったと申すのか?」

「わたくしが指示致しましたが正確には職人達や錬金術師です。女王陛下はルントシュテットから兵器をご所望なのでしょうか?」

「そんな訳あるはずないであろう。ターオンの騎士はそんなもの無くともグレースフェールとは比べ物にならぬ程屈強じゃ」

「ではご所望ではないと」

「当たり前であろう。誓ってそれはない。しかしヒーシュナッセの者達が神罰と言っておったのじゃが、それを我が国の騎士達にも見せてはくれぬか?」

「ご所望でないなら可能かもしれませんがわたくしの一存ではお答え致しかねます」


「誰の裁可(さいか)が必要なのか? ダルーンか? ルントシュテットか?」

「そのお二人と国の武官の方々です」

「わかった。こちらで話そう。其方をターオンに国賓として招こう」

「いえ、まだわたくしは未成年ですので親の付き添いがないと外国へは行けません」

「面倒じゃの。ではルントシュテット公も一緒に来れば良い」

「わたくしからはそのような事はお願い出来ません」

「それもこちらから話す」


「女王陛下。ご無礼を承知で申し上げたき事がございます」

「なんじゃ?」


「誰もが判る常識なのですが国が栄えなければ国力はつきません」

「当たり前ではないか。ターオンは富も武力もこの国とは比べ物にならぬぞ」

「そうではございまいせん。衛生面を整え、農業や産業がもっと栄えれば民の誰もが健康で豊かになり貴族達も責務が果たせます故、兵器よりも産業や農業を発展させる機械の方がターオンの為になるのではとわたくしは愚考致します」

「貴族の責務とはノブレスオブリージュを高らかに唱え例え残り一人となっても勇猛果敢に命をかけ多数の敵を倒す事であろう」

「わたくしにはそうは思えません。生きて民を豊かにしなければ貴族とは言えないと思います。死んでしまえば何も出来ません。一人で多数の敵に突っ込むなど蛮勇でしかありません」


「其方は子供の癖に理屈の多い口答えをするのぅ。ターオンではずっとそうやって来たのじゃ。強い者達が、血生臭い謀略で生き残った者達が、歴史を作るのじゃ。これからもそうあるだろうし、そうするであろう」


 くっ。


 ここは封建社会であって民主主義じゃないんだ。


 とことん意見をぶつけ合って議論するなんていうのも出来ないし、このまま私が女王陛下に意見を続ければ私の家が取り潰しになる事だってある。まあ、現代の日本でも民主主義と言いながら意見をぶつけ合うんじゃなくて、直ぐに非難ばかりするおかしな人も多いけどね。


 家の取り潰しとか名誉とかは正直私にはどうでもいいけど、私個人の考えを人に押し付ける事は出来ない。

 多分、私はお父さまとも価値観は違うのだから、女王陛下とかは無理だ。


 目を閉じれば『たった一人で多勢に馬で駆けて行き討ち死にする騎士の姿』が目に浮かんだ。

 こんなのがノブレスオブリージュであるというなら、そんなの〇〇くらえだ。

 でもここは折れるしかない。


「さ、左様ですか、、、」

「良いな。我が騎士達にその神罰の兵器を見せてみよ。我が騎士達であれば立ち向かえるであろう。見せてくれるならば其方が生きている間はグレースフェールに手を出さん事を誓おう」

「か、畏まりました」


 ダメだ。本当にそういう国なんだ。


 女王陛下の言う『歴史』は歴史家達の言う歴史であって、現実に生きてる人達はそんな一言で言い表せない生活がもっと沢山あるんだよ。


 女王陛下もターオンの貴族達も価値観が私と違い過ぎるよ。本当にそんな貴族達ばかりなの?

 最悪だ。


 どうしよう、、、。


◇◇◇◇◇


【国王執務室】


「~と、言う女王陛下のご要望でした」

「断る事など(はな)から出来ぬ」

「その通りですね。しかしソフィア。女王陛下に意見するとは肝が冷えることは控えてくれ」

「はい」

「良いな。約束だぞ」

「判りました」


 そりゃ民主主義社会じゃないんだからね。


「しかし、国王様(レクス)、お父さま。わたくしが生きている間はグレースフェールに決して手を出さないと言う女王陛下のお言葉は何か契約に出来ませんか?」

「それはこちらからでは無理だな」


「そうですか、、、では女王陛下からこのように申しつかってわたくしを送りますと公文書にして頂いてそこに書けませんか?」

「それならば問題ないだろう」

「公文書であれば少しは効果があるかもしれん」

「良かった」


「で、どうする。船に砲車を積んで行くか」

「はい」

「それならば問題にならぬように最も小型の砲車が良いのではないか? ヴァルターに武器庫塔を破壊された時は腰が抜けそうだったぞ」


 国王様はもうこんな話も出来るようになったんだね。大丈夫そうだね。


「いえ、一番大きなもので砲弾も強い物を持って行きます」

「わかった。くれぐれも注意してくれ」

「畏まりました」


◇◇◇◇◇


【王城廊下】


「ソフィア。お前を守ってやれなくてすまぬ」

「大丈夫です。女王陛下ですので仕方ありません。お父さまもご一緒に行かれるのですからターオンでもお願いします」

「判っている。命をかけて守ると誓おう」

「いえ、それはダメです。どう足掻いてもお父さまだけでも生き延びて下さい」

「そ、そうだったなソフィアは。判った任せろ」

「はい」


「お父さま。側仕えはマルテを連れて行きたいのですが大丈夫でしょうか?」

「生きて帰れぬかも知れんから独り者の男子ばかりを選ぼうかと思っていたが、、、」

「男女は平等ですよ。マルテが昔わたくしに見知らぬ外国まで行って商売をするのが夢だと言ってたのですよ」

「そうか。平等か。しかしマルテはそんな事を言っていたのか。それは凄いな。ならば私から話してみよう」

「お願いします」


◇◇◇◇◇


【お餅つき】


 田舎の伯父さんからメールで写真が届いた。

 いつも年末にやってた親戚が集まった餅つきは今年はホテルでやったそうで、その時の写真だよ。


 なんか何人も顔を覚えてるよ。

 伯父さんの家族も年末も年始も関係なく働いて貰ってるからね。

 お客さん達もお餅をついたりあんころ餅やきなこ餅、辛み餅なんかを作るのを手伝ってくれたりしてみんな笑顔の写真だったよ。


 師走と言う位だからか、母は年末も忙しくて行けなかったけど連絡が来て、お餅つきには最近親戚の集まりも悪くなってたけどホテルに大勢が集まって喜んでいたって言ってた。


 ホテルの方は外国人向けのツアー会社から幾つもお問い合わせを貰ってるそうだけど全部お断りしている。

 私のホテルなんだから私がお客さんを選ぶよ。

 余り忙しくちゃお兄ちゃん達も田舎のスローライフなんて出来ないからね。

 なんか忘れそうだったけど目的は維持管理費の捻出なんだからこれでは商売の人達のそういうのはいいや。


 お家では買ってきたお餅でお雑煮を食べて父も家にいて久しぶりにゆっくりしたよ。

 年末は私もイギリスへ行って慌ただしかったけど、母は『次は一緒に参加しよう』って言ってた。


 午後、兄も帰ってきて家族で初詣に出かけてお参りしてきたよ。もっと早く帰って来なよ。

 正直、日本の神様は良く知らないんだけど去年も色んな事があったから早めに感謝の気持ちで行って来た、、、んだけど、凄い混んでたよw。


 余りの人混みに色々と頭の中で何を感謝するのか数え上げて考えてたんだけど自分達の順番が来たら焦って忘れちゃってお賽銭を入れてあっという間に順番が終わったよ。

 私は生まれて初めてお札を入れたよw。


◇◇◇◇◇


【クレーンクレーン】


 ターオンへ行く人員としてお父さまの側使えと護衛は若い男の人達が選ばれていて彼らは次男なのだそうだ。私の方はマルテとヘルムートが選ばれていた。ヘルムートは騎士だけどモルトケ家の次男だからね。

 ヘルムートはザルツに変えて貰った。この際に初めて私はザルツにバーミリオンに0と刺繍されたスカーフを渡した。


 ヘルムートとミスリアに「姫様! 何故ですか」と結構真剣な顔で言われたけど、「砲車もあるのでその操作もやって貰うからです」とあきらめて貰った。砲車を操作するバーミリオンの隊員だからだよ。さっき指揮官兼隊員になったばっかだけど。

 カーマイン達は連れて行かないからね。


 正直な話ターオンへ行ったら生きて帰れない事も充分にあり得る。

 今の外国商人なんて船旅を含めて命がけは当たり前だからね。

 もしもの事があれば、ヘルムート達には幸せに暮らして欲しい。


 でもマルテの喜びと勢いはそんなものは全部吹っ飛ばしちゃう感じだったよ。


 昔一緒に海外まで行こうって思ってて、本当はもっと安全な友好国へ行きたかったけど、私もマルテも初めての海外旅行だと思えば、暗い気持ちも少しだけマルテにつられて前向きになりそうだよ。

 いつもこのマルテの前向きさには助けられている。

 いきなり商売なんか出来ないだろうけど、他国を見るのは勉強になるよね。

 マルテはもう男爵令嬢だけどねw。

 どんな事があってもマルテは私が守るよ。


 クルトはなんて説得しても全く引き下がってくれなかったよ。年配の料理長を連れて行こうかと思ってたけど説得は無理だった。まあ騎士でも兵士でもないし仮に向こうから帰れなくてもクルトならあっちでも料理人としてやっていけるかもしれないと私は私自身に納得させた。

 

 お父さま基準では若く子供の方が死んでもいいと思ってるようだけど、おそらく家督とか家単位で考えればこの世の中ではそうかもしれない。でも私の考えと逆だからね。

 ラーラは残念だけど、土や水が合わないと可哀想だから置いてくよ。

 多分、人にとっての『水が合わない』とは訳が違うからねw。

 ターオンの水はグレースフェールと違って飲めないのだそうだ。


 中央の北側の船着き場へ来て、大き目の蒸気船を用意した。マクシミリアン叔父様達も見送りや手伝いに来ている。


「ソフィア様。こんなに大きく重い砲車をどうやって船に乗せるんだ。乗せたとしても先方で降ろせないだろう」

「そうですよねw。このクレーン車でギリギリ持ち上げられるのですけど、こっちの大きなクレーン車でまずクレーン車を乗せてから砲車を乗せます」

「クレーンクレーンか」


 ぷっ。何面白い事を言ってるの。叔父様は笑わせに来たの?w


 女王陛下はやはり同じお昼にもう一つターオン寄りのグレグリスト付近の港から出港する予定なので、蒸気船でも同じくらいには着けると思う。

 最も近いオレアンジェスの港なら1日あれば行けるらしい。

 普通の船だとグレグリストを迂回してここからは2日~3日で着くそうだ。


 女王陛下の用意してくれた海軍の将軍、キリル子爵が案内をしてくれるそうだ。

 勿論操船はこっちの慣れている人達がやるよ。


 キリル子爵は口を捻じ曲げたままおかしな話し方でお父さまと私に挨拶してきた。

 ちょっとお体が弱いのかもしれない。

 よく見ると歯茎が紫で何本か歯がなかった。身体も弱ってるみたいだし、これってもしかして壊血症じゃないかな。


「キリル子爵様。普段は船旅が長いのではございませんか?」

「はい。遠征の時はずっと船の上です」

「お体を壊す事はないのですか?」

「船旅が長いと幾人も亡くなりますが、これも貴族の栄誉です。女王陛下へ戦果を持ち帰れば、それくらい何でもございません」


「野菜などは船に積んで食べていますか?」

「船旅が長ければ直ぐに野菜はダメになってしまいますよ」


 まあ、そりゃあそうだけど、ビタミンCが取れないんだね。

 グレースフェールでは船を使って遠征して侵略みたいなのやってなくて船乗りは普通一日、長い漁でも二日で帰って来るから対策は何もやってなくて診断のマーカーなんかはまだ作ってない。


 ちょっと後で専門家の新倉先生にも相談したいけど、簡単な対策でも壊血症なら防げる。

 ビタミンCのレモン飴とか持って来てないけど、もやしでも大丈夫だからね。


 私みたいな子供からでなく、マクシミリアン叔父様にご忠告と対処の方法を説明してもらった。


 これも後で確認するけど、確かもやしの中でも大豆もやしや緑豆もやしならビタミンCがそこそこ含まれているはずだ。豆のままだと単なるタンパク質だけど、伸びてもやしになった時点でビタミンが作られる。日光に当てずに作れるし2週間あれば収穫できるから水さえ用意すれば簡単に次々に作れるよ。

 この育て方を完全にマスターしてから航海に出れば壊血症を防ぐ事は可能だ。


 ルントシュテットならレモン飴だけでも充分に対応が出来るけど、ターオンでは作ってないだろうし、もやしはこっちにも古くからある。恐らくターオンの将軍にはこういった対処の方が理想的だと思う。

 たとえ海戦で戦いが長期化したとしてもビタミンを補給できる方が優位になるかもしれないくらい大切な事だと思う。


 マクシミリアン叔父様は頭がいいから直ぐに理解して説明してくれた。

 キリル子爵はこの国では伯爵であるマクシミリアン叔父様の話を真摯に聞いてくれてお礼を言ってから試してみようと約束してくれた。私は公爵家と言っても娘だからね。


【ターオンへ】

 

 時刻になり出航した。

 蒸気船は外輪式のシルバタリアで大量生産したものと同じ仕組みだよ。

 効率も良く、形状も最適化された地球の現代知識をとことんまで使っている。


 今日はあまり風は強くないけど、いい風の時のどんな帆船よりも速いと思う。

 乗船して案内をしてくれるキリル子爵はこのスピードに相当驚いていて、なんかあたふたとしてたよw。

 

 マルテと一緒に危なくないように甲板に出て何処までも広い海の方を見る。


「マルテ。ずっと前に話していた外国に行けますよ」

「姫様。わたし達本当にこんなところまで来れたんですね」


 なんかマルテが涙を流していたけど、わたしもかなりしみじみとした。


 なんか話と全然違って、夕方にはターオンの島が見えて来た。

 日没が早いんだね。もう暗くなる。

 船長さんが甲板に出て来て私とお父さまに「あれがターオンのグレートブルーテン島です」と教えてくれた。

 キリル子爵は信じられないという顔で呆然としたまま、夜になりそうな夕日に染まるご自分の国を見ていた。


 なんか予定よりずっと早く着いてしまったようで、女王陛下の船はまだ到着していないそうだ。


【入国不可】


 入国に際してキリル子爵が一生懸命説明してくれたけど、どうやら女王陛下からの話が行ってないようで、私達は近くの館へ軟禁状態になったよ。

 どういう事なの。国賓じゃないの?


 まだその国賓という話が来てないのか。

 あー、しまった。もっと遅く出航すれば良かったよ。


 荷物や砲車、食材も船から降ろせなくて正直手に持った荷物くらいで何も出来なかったよ。

 水くらいは飲めそうだ。いや、飲めないんだった。


 子爵様が頑張ってくれたけど、ここの港の管理をしている伯爵様がダメだと言っているそうだ。

 子爵様は申し訳ないと平謝りだったよ。


 まあ、別にいいけどね。なんか食べ物くらい貰えるんですよね。

 クルトは手荷物で調味料は持って来てるんだけど、そのケースから包丁は預かられたようだ。


 マジでこれ食材もないし、勝手に料理も出来ないの?

 飲めない水だけ? どうすんのこれ。


 軟禁といっても王城で公爵家として軟禁されている訳ではなく、これだとほぼ囚人のような感じだよ。

 ほぼ牢獄だね。

 みんな嫌な顔をしてたんだけど、私はこの初めての経験に少し面白くなって来たよ。

 だって女王陛下が到着すれば、開放されることはもう判っているし、私達を軟禁した伯爵様も絶対に怒られる。仮に私だったら仕事に忠実だった結果だと咎める気はないけど、ここだときっと難しいよね。価値観も違うし。


 こんな表情をしていた私を見てお父さまは溜息をついた。


 ・・・。


 トイレは汚いけど使えるし、一応釜土と汚いけどパン(フライパンって言うか蓋付きの浅い鍋だよ)もある。まあ鍋だね。

 食事は出ないのかな。例え囚人だとしても食事を与えないと死んじゃうよね。


【フラグ】


 少しすると兵士の人がやって来て、食材をくれた。

 めっちゃ薄いベーコンみたいな干し肉ともやし、めっちゃ硬いパンだったよ


 あははは、さっきキリル子爵にもやしの話を叔父様にしてもらったばっかなのに、ここの食材がもやしだったよ。

 これ調理が面倒なら生で食べろっていう事だよね。生の方がビタミンは豊富だけどね。


 いや、あれがフラグだったのかw。当事者の私にもそんなの判らなかったよw。


 それでも量は一応あるからこれで食事を作りましょう。

 クルトはこの食材を見てもう泣きそうだねw。


 もやしは古くからある。スプラウトなんかは日光に当てるけどもやしは日光に当てないでいいからね。

 こっちでも比較的に安い食材だと知ってるけと公爵家ではお目にかかった事がなかったよ。


 私もなんかきらびやかっぽいものばかり作ってる。砂糖とか油も結構使ってるから贅沢なものだよね。

 日本のお家でも沢さんに習ってるのは○○料理みたいなのだからよくわからなかったかもだけど、別にこう言う食材がこれまで出て来なかっただけでもやしと薄切り肉だけでも料理は作れる自信はある。


 クルトにも覚えて貰えば何かの役にたつ、、、かな?w


 水は石臼みたいなのがあってチョロチョロと水が来てたまってる。これは一応上水道だね。さっき兵士に教わったのは内側が飲み水、外側は手洗いみたいな使い方だそうだ。

 この国のお水は飲めないって聞いてたから浄水器を持って来てたけど船に積んだままだよ。そのまま飲まない方がいいよね。

 成る程、こんな所にこんな設備と鍋があるのはこれで煮沸して飲めと言う事か。

 出来れば浄水器を通してから煮沸した方がいいから飲まないのが正解だと思う。


 クルトに鍋を綺麗に洗って貰うよ。

 中性洗剤だw。


 クルトが持ってきたマッチで火を着けた。これマッチ持って来てなかったらと思うと想像もしたくないよw。疲れそうだよね。


 パンがめっちゃ固いからスープは必須でクルトが調味料と一緒に持ってきたのはカップが三つだけ。

 後はガラス容器の香辛料とかで、この蓋の幾つかはお皿の代わりになりそうだ。

 最初にもやしスープを作ってカップが足りない分はかわりばんこで私の水筒(魔法瓶)に入れておけばいいよね。こっちはそう難しくないからクルトにお任せ。


 後はもやし炒めかなw。


 もやし炒めは調味料さえあれば美味しく作れるよ。

 よくシナってなっちゃうけどこれをシャキシャキで作れば美味しく食べられる。


 まずもやしにほんの少し片栗粉を振る。これ少しじゃないとフライパンで焦げちゃうから少しです。

 良く混ぜてまんべんなく行き渡らせる。でも少しだけどね。


 そして先に合わせ調味料を作るね。

 お酒に少しの油を入れる。まずこれが①w。

 醤油、鶏ガラ出汁、味醂を少しで本当はオイスターソースが欲しいけどないからソースを一滴wで②

 

 鍋に油を少しひいて、熱して薄い肉を小さく分けて(包丁がないから手で切り取りました)、炒める。

 キチンと火が通ると少し柔らかくなる。油も少し吸い込んだかな。

 ここに片栗粉を振ったもやしを入れる。

 ①を投入。


 鍋に蓋をして30秒位待つ。

 ②を投入して少しかき混ぜてまた蓋をして30秒位待つ。

 少し炒めるように混ぜて仕上げにゴマ油を少しとお好みで胡椒を少々。

 炒めものだけどお酒と調味料で蒸す感じで殆ど炒めませんw。混ぜる位です。


 はい、美味しいシャキシャキもやし炒めの完成です。


 パチパチパチw。


 クルトは真剣に覚えていて、私があまりにも楽しそうに料理をするのをおそらくお父さまは初めて見たかもだね。


 もう完全にきょとんとして完成したら私を見て微笑んでくれたよ。

 先に皆に食べて貰いたいけど、爵位があるからお父さま、私、マルテが先に頂きます。

 フォークもないからパンで摘まんで食べて下さいw。

 なんかめったに出来ない経験かもw。

 うーん、味も丁度良くてシャキシャキしててお肉も相性がぴったりだよ。


「驚いたな。これ結構いけるな」


 と、お父さまにも好評でした。

 マルテも美味しいって喜んでくれたよ。


 美味しかったよ。


 カップを洗い、クルトが他の人達の分を作り始める。

 恐らく公爵家の家で働いてる限り二度とこんな食材を使う事はないだろうけど何事も経験だよクルト。


 めっちゃ上手く作って、ザルツやお父様の護衛達にも好評だったよ。


 勢い余って、入り口の兵士が食べたそうに見てたからクルトが自分の分を作った時のを少し分けてあげると「うめー!」と言ってあっという間に食べてたよ。


 あははは、本当に皆が美味しいって言ってくれると作りがいあるね。

 私もこのお話で、もやしは二度とないと思うw。


 

ギリギリの戦いに挑む美麗。ソフィアの行動はギリギリセーフかアウトか?w

次回:ギリギリ

 お楽しみに♪


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