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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第一部 第一章 美味しい夢
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閑話 スパイ大作戦

 わたしはの名はクリスティーナ。ラグレシア領のメレンドルフ伯爵様からここルントシュテットに派遣されたラグレシア領きっての有能な密偵だ。


 ここ数年、ルントシュテット領のみに豊作が続き先のマドグラブルとの戦による被害があっという間にうまるという我がラグレシア領にとって目を瞑る事の出来ない現状に対して伯爵様からその秘密を探るように密命を受けている。機会があれば嫌がらせに邪魔をするようにという命令もある。


 ここは今のドミノスの代になってから取り締まりが厳しくなり、料理人やメイドとしての潜入はかなり厳しく、最も入りやすい城の下働きで潜入した。小汚く見せているのに寄って来る男共が結構うざい。


 買収、脅しなんでもござれだが、見習い料理人のカリーナと掃除や部屋を整えるメイドのハイデマリーからは自由に情報が得られるまでになった。しかし細心の注意は必要だ。


 極秘の会議は領主一族で行われているようで、中央からドミノスの弟マクシミリアンが呼び出されイエラルからの密偵マレーネがマクシミリアンに色仕掛けで挑んだが容赦なく直ぐに処刑されたばかりだ。本当はわたしが試みる直前だったので実はかなりやばかった訳だ。どう考えてもこの貴族学院で優秀だったマクシミリアンの仕業だろうが証拠が必要だ。


 幼い姫様が生まれてから豊作だなどと言う馬鹿らしい噂話はあるが、本当の理由がまったく判らない中、さらに厄介な事にマクシミリアンは新しい食の事業を始め、ルントシュテットは勢いよく発展を始めた。何て事だ。作物の豊作に留まらず食の流行まで生み出している。貴族だけではなく領民にも大人気の店ではないか。これは潜入してみるしかないだろう。わたしは下働きといえど伯爵様から資金を豊富に頂いている。

 目ざわりであれば毒を混入して店を潰すのがいいだろう。まずは中を確認してから今夜決行だ。


 わたしは休日に身なりを身ぎれいに整え変装をして店に潜入した。

 なかなか小綺麗な店だがこれは本当に平民の為の店なのか? 『ポピーナ』という店だが看板に小さくマンスフェルト商会のマークが入っているので商会の系列店だろう。

 うーん、マンスフェルト商会はラグレシア領とも取引のある大店(おおだな)だが食事処にまで手を出していたのか。これは潰すのは少し気が引けるが止むを得んな。


 この店は美味いのか?

 なんだあれは、『フェルティリト』と金文字で書かれた表彰楯が飾られている。豊穣の女神から取った何かの賞なのか? くそ妬ましいな。金の一つ星が輝いて眩しい。

『ウナステイラ』? ほう、ここはドミノスから表彰された店なのか。凄いな、それなら間違いなく美味い店なのだろう。しかし高そうだな。

 


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「そうだ。食事をしたい」

「こちらの席へどうぞ♪」

「うむ」


 随分と愛想の良い女給だな。はじけるような笑顔にこっちまで釣られて笑顔になりそうだ。


「こちらのメニューをどうぞ」


 うん? 綺麗なコップで水が目の前に出されたぞ。


「おい、わたしは水など頼んでないぞ」

「無料のサービスです。お決まりになりましたらこちらのベルでお呼びください」

「わかった」


 無料なのか。ゴクゴク。ん! 冷たい。こんな店でまさか氷を使って冷やしているとでもいうのか?

 全体的に驚く程安そうではあるがメニューに書かれている料理がよくわからんな。

 わたしはベルを鳴らした。


「はい、お決まりですか?」

「ここに書かれているパスタとは何だ?」

「小麦で作った麺をソースに絡めて食べる料理です。本日のおすすめはキノコのクリームパスタセットです」

「キノコとはなんだ」

「フンゴスの事です」

「ではそれにしてくれ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 何が出て来るのかわからんがフンゴスは好物だから食えるだろう。ここではキノコと呼ぶのか。しかし思ったよりも安いのは少し驚きだ。おお、他のテーブルの客がクルクルとフォークに巻いて食ってるのが麺か? 少し面白そうだな。


「お待たせいたしました。キノコクリームパスタのセットです。ごゆっくりどうぞ」

「うむ」


 その辺の店と違いなかなか女給の教育は行き届いているようだな。

 どれ、スープと小さなパンが2つ。サラダも小さいな。この大きな皿がキノコクリームパスタか。初めて見たぞ。いい匂いだ。


 パンを手に取って千切る。おっと力を入れ過ぎて腕がくわっと開いてしまった。危ない危ない。なんだこれは何故こんなに柔らかい。スープにつけるつもりだったがこれは、、、。

 口に放り込む。


 はむはむはむ。


 うっ、まろやかな甘味がしっとりと口に広がる。美味すぎるぞ。このパンはどうやったら手に入る。見習い料理人のカリーナが作れるならば良いが、、、。これは後で確認が必要だな。

 しまった。バターを使うのを忘れたがなくてもここまで美味いとは。もう一つあった。良かった。うん? バターとこれは何かのジャムか? 両方塗ってみた。


 くぅ~。これはたまらん。ほのかな甘さ、酸っぱさ、バターの脂がハーモニーを奏でている。ルントシュテット領の平民がこんな美味いものを食ってたとは非常に悔しいが美味いから今だけは許してやる。


 この小さなサラダのブラシカは何でここまで細かく切っているのだ。どれだけ一流の料理人を雇えばこんな事が出来る。パクッ。もしゃもしゃもしゃ。私はブラシカが嫌いだったがこのソースはさっぱりしてていくらでもサラダが食えそうだ。やるなルントシュテット。さすが一流の料理人だ。


 ぷっ、くっくっくっ。なんだこのスープは。情けない、野菜も入っていないではないか。やはり豊作などと言っても貴族の話だけなのではないのか? ここに浮いているのは細かい固いパンと草か?

 ざまあないなルントシュテット。所詮こんなものだろうと思ってたぞ。

 なんとなく匂いだけは良さそうだが、、、。


 スプーンですくい口に入れる。


 くぅ~~~~~。 なんだこの奥深い味わいは。頭の端から端まで旨さが拡がりわたしの脳天が壊れそうだ。これはわたしにも少しなら判るぞ。肉の風味もシェーパもキャロータもこの琥珀色に溶け込んでいるのか? いや恐らくそれだけではないだろう。どうやって作るのかまったく想像が出来ん。


 しかしなんという贅沢なスープだ。我がラグレシア領にとって悪い冗談のようなスープだ。神のスープだな。

 野菜が入っていないなどと完全に騙されるところだった。全部の旨さだけ入っていた。


 はぁ~。あり得ないものを飲んだな。


 これがパスタというものか。フォークでこの麺というものを絡めとって口に入れてたな。小麦粉だな。こんな白いソースを見たのは初めてだ。


 クルクルクル。

 パクッ。


 ん!


 もぐもぐもぐ。

 タッハー! 美味い!


 柔らかな麺に絡むこのソース。少し甘い中にこれも色々な旨さが隠れている。キノコに染み込むこの味と軽い最後の粗びきのコショウがたまらん。国中で流行って直ぐに広まったコショウなど百姓の調味料とバカにされていたがこんなに良い使い方もあったのか。キノコも柔らかくて美味いぞ。


 うう、手が止まらん。


 くっ、残念だがあっという間に完食してしまった。


 生まれてこのかた食べた事のない美味い食事だった。今晩カリーナの所へ行って、病気の母親の薬を餌に全てレシピを聞き出すしかないな。

 この旨さでこの値段だとは、確かにルントシュテットの食が評判なのは良く判った。はっきりと認めよう、これは我がラグレシア領の完敗だ。


「おまたせ致しました。本日のデザートはプリンです」


 なんだと。デザートまでつくのか? これではまるで貴族の食事のようで、わたしまで偉くなったようでなんとも気持ちがいいぞ。


「こちらのスプーンで中のカラメルと一緒に味わってください」

「うむ」


 カラメル? なんだそれは。スプーンで探してみるか。ずぷっ。おっ、かなり柔らかいな。おお、なんか黒い液体が出て来たぞ。随分と甘い香りだ 一緒に味わうのか。


 パクッ。


 のわっ、こ、この口の中で溶ける旨さはなんだ。たまごの香りが少しする。

 パクパクパクパク。


 ふぃ~~。


 あっという間に食べきってしまった。全然足りん。このプリンと言うものを桶で喰いたい。


 絶対にこの作り方をはいてもらうぞ。見習い料理人のカリーナ、首を洗って待ってろよ。

 もしもの事があるといけないからとりあえず今晩この店を潰すはやめておいてやろう。

 フッ。この店も今だけは命拾いをしたな。

 いや、その前にパン屋だ。あの美味いパンを買い占めてやる! 早く行かねば。




 その後、パン屋は売り切れ、更に作り方をカリーナに確認したが、ここでは貴族が使い、ラグレシア領にはない『氷室』や『魔法の薬』『魔法の元』が必要だという情報を得たが謎は解けずどの料理も作り方がわからなかった。


「仕方ない。これは情報を得る為に仕方ないんだからな」


 と、言い訳をしながらクリスティーナはマンスフェルト商会の『ポピーナ』に通い続けお店の常連さんの一人となった。


「うん、仕方がない。仕方ないのだが美味い」


 


 予告詐欺でした。なんかテレビでアニメ見たらスパイの話を書きたくなりましたw。

 次回、日本で成績が良くなりそれまで成績が良かったお嬢様に絡まれる夢美。


 お楽しみに。

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