閑話 ツィゴイネルワイゼン
最近は日本も結構大変なようです。
「うぇーい!」
美鈴先生の研究室で、美鈴先生がまるで陽キャのようにはしゃぎながらひらひらと私に見せているのは原付免許だ。
美鈴先生が先日取ったと言ってたものだね。写真を見せて貰うとちょっと変な顔に写ってるけど先生によると『免許あるある』なのだそうだw。
うん、前に言ってたHANDAのウルトラカブの中古を買ったよ。
この研究室には私も何度も来ています。
勿論お休みの時だけだし、教授にもお願いして許可を貰っている。
以前、美鈴先生と私がらみで美麗から莫大な援助を貰っているのでホクホクの笑顔での許可だったよ。
流石にいろんなものを作ってみるのに私の家に大型の工作機械を持ち込む訳にはいかないからねw。
まあ、お休みと言っても研究室には他の人も来ているけどね。
(ブ、ブラック? いやみんな好きなだけな感じだよ)
美鈴先生達は結構忙しくて私の家庭教師も良くお休みになったりしている。研究発表や学会で発表したりそれを聞きにいったりしているからだ。日本での大学の研究発表を含めるととても研究室の人達だけで関連の発表を全部聞きに行くのは難しくて、実は私も連れて行ってもらったことがあるけど、数千の関連の発表があるそうで、有用なものだけ選りすぐって行って有用なものと思われる発表は資料をシェアしたりもしている。
こうやってここでも常に最先端で鎬を削っていると思うと日本の未来にとってとても力強い感じがするよ。まあ私みたいな子供に思われても仕方ないかもしれないけど。
でもそんな忙しい中で私の家庭教師を続けて貰っているのは本当にありがたい事だと感謝しているよ。
どこの大学も日本以外の普通の国では移民に数えられる海外からの留学生が多いね。
私的にはどこの大学も学食が安くて美味しいなぁっていつも思っているよw。ちょっと量が多いけど。
私達は今ここで何をやっているかと言うとガソリンの方は実験で出来てるし、量産のメドが立って来たので今はエンジンを作っている。
勿論、エンジンを作るのはとても難しい。
恐らく現代の地球でも日本を含めて自国で普通に開発出来ている国はそう多くはないと思う。いくつかの国はそれらの国に技術協力をして貰ったり、違法に完全コピーをしたりして作っている。
あるお話では旧ソ連の崩壊もエンジン技術を持っていた東ドイツを手放したからだなどという説すらある。
(いや、コピーとか見逃されているだけで違法なんだろうけど、夢の中で私がやっている事を考えれば勿論大きな声では言えないw)
先日、向こうでお披露目した模型のガソリンエンジンは量産ではないので完全コピーしたけど実用には色んな問題がある。
一番大きな問題は、その素材かな。
一般的に水冷エンジンが有名だけど、様々な簡易に使うものは空冷エンジンが多く、これは地球ではアルミ合金で作られている。
利佳子博士によればアルミニウムの精錬は高校生で習うものなのだそうで、つまり日本の大人ならだれでも知っている事らしい。
アルミニウムは赤褐色のボーキサイトが原石で、ボーキサイトから不純物を取り出すと、アルミナAl2O3 が得られる。アルミナは融点が高いので、氷晶石を混ぜあわせて融点を下げてから融解塩電解するとアルミニウムが出来るんだけど、これには大量の電気が必要になる。
今の私では『融解塩電解』←これが出来ない。
アルミニウムの精錬には安定的な電力源の確保が絶対不可欠だからね。
以前、利佳子博士が『優秀な学生が入って来ても実験一つ出来ない』と文句を私にボヤいてた事があるけど、例えば高校生が『ボーキサイトから不純物を取り出す』とか『融解塩電解』を知っていたとしてもその装置を作って実際にそれをやれる人は少ないんじゃないかと思う。
まあ色んな事も知識があってもその経験者でなければ出来ない事は私も良く判っている。
利佳子博士が私の事を結構気に入ってくれているのは、私が自分で出来ると理解するまでこれらを詳しくやってるからだ。まあ他の家庭教師の先生達もそんな感じだけどね。前島さんには呆れられてるけどw。
ああ、私も本当にマンガみたいにもっと簡単に無双したいよ。えっそれは夢想だって? いやいやいやきっと皆さん頑張ってるんですよ。
でも今の日本の学校の試験では、ボーキサイト→アルミナ→アルミニウムと知っていれば正解を貰えるのだからそこまでやる人はかなり少ないかと思う。それを利佳子博士が『実験一つ出来ない』と言うのは、ちょっと、、、w。それは教育の問題であって、化学ばかり専門にやる訳には、、、w。それにこの装置だと化学だけでは作れませんよw。試験管一本作るのも実験道具作るのも大変なんですよw。私の場合は異常ではなく必要に迫られてなのでちょっと違うんだけどね。
つまり、アルミニウムは今は無理なのでクラトハーンのヴィクトール叔父様のやってるダムが出来るまでこれは我慢だし飛行機もそれからだね。
私達はこの購入した中古のHANDAのウルトラカブを改造している所だ。
HANDAのウルトラカブは本当に高性能だと思う。
空冷4ストロークOHV単気筒49cc、4.5馬力のエンジンを搭載。
燃費はリッター180kmと言われている。
スピードや加速性能だけを求めればそれは2サイクルの方が有利だ。
構造も単純で作りやすいと思う。昔の日本のバイクも2サイクルが主体だったそうだ。
でも、別にオイルも必要だし燃費、安定性、排ガスなど環境を含めて考えれば4サイクルしかない事は誰にでも判る。
私は加速性能なんかを求めている訳じゃないからね。
このHANDAのウルトラカブはあらゆる箇所を改造してしまっていて既に外形も原型を留めていないw。
一番大きな改造箇所は、最も問題が多くメンテナンスが面倒なチェーンと本当に4.5馬力も必要なのか? という事だ。他のもう少し燃費の悪い同じ排気量のバイクでは7.2馬力も出ている。
私はチェーンはシャフトにして、このエンジンは『銅』で作り直している。
勿論エンジンは一から作れないので、銅にするとしても馬力に関しては縮小コピーをしている。
おおよそ30ccだよ。
『銅』に関してはルントシュテットで沢山採掘出来ていてこれまでも色々と使われていたしこれからも多用出来るかなり有望な金属だと考えている。
『銅』による空冷エンジンは1921年にアメリカのゼネラルモーターズが従来の水冷式に代わる空冷式(銅冷式)エンジンの開発を試みたそうだ。この際には組織の足並みの乱れからその開発はうまくいかず失敗している。
『銅』は熱伝導率(W/m K)が高い。
銅 398
アルミニウム 236
鉄 90.9
と実はアルミニウムよりも断然高いんだよね。
一般的には銅の鍋やフライパンがある事でも判りやすいですね。
ご存知の方も多いと思いますけど、ダイヤモンドが最も高く、一般的な金属ならば銀も銅よりも高い。銀のスプーンはあっても銀の鍋やフライパンはないですけどねw。
ゼネラルモータースの失敗は詳しく書くとまたカットされそうなので書きませんけど、私はあの失敗は技術者と経営陣の意思疎通がとても大切だという良い教訓だと思っている。
でも私達はその失敗した『銅冷エンジン』を作ろうとしているw。
強度の問題なんかもあるから色々と工夫してるよ。
でも美鈴先生程の知識と技術をもってしても、この縮小コピーした銅冷エンジンは簡単には上手くいかない。こんな変更しかしていないのにダメだっていうのは本当にエンジンを作るのがどれ程大変なのかが良く判るね。
美鈴先生と作ったものは今はノッキングが酷い。
単気筒の場合には低速ではノッキングが起きやすいけど、ノッキングにはカーボンによる不完全燃焼、ガソリンの問題(不適切なオクタン価のガソリンの使用)、プラグの劣化、点火プラグのタイミングの問題など色々とある。まあこれらは普通は上手く動くものの話だけどねw。私達は今作ってるんだからね。
恐らく点火タイミングが鬼ムズなのだと思うけど、このままじゃ無理なので美鈴先生とこれから頑張って色々と考えて調整してみます。
◇◇◇◇◇
ここで、これまでの事も含めて『こんなに複雑な物が夢の中で再現できるのか?』と疑問に思う方も多いと思います。
これは私は全部記憶して再現していますw。まあそれ以外出来ないからだけどね。
夢美の体に針の様なもので傷つけて書けばソフィアのそこが赤くでもなって判るんじゃないかっていうジョークは勘弁して下さいw。
他の人はわからないけど短期記憶は結構自信があります。ノートに纏めてそれをきっちりと覚える事もずっとやって来たからね。絵的に覚えてる事もあるよ。
忘れないように向こうでは日記やメモ(白本)にも残している。
勿論一回では終わらない事も沢山あるから判らなかった部分を逆に覚えて繰り返す。
これだとまるでテストをやって間違えた所を復習しているみたいだねw。
私は小学生低学年の頃からずっとこうやってきたから結構鍛えられているのかもしないねw。
日本の学校の成績が他の人より少しいいのもそういった事が関係しているのかもしれない。
さっきの話の日本の教育云々もあるけど勉強が嫌いで暗記が得意な私の成績がいいって言うのは本当におかしな話だよねw。まあ私にとっては成績は困る事でもないから別にいいけど、この記憶に頼るのでこれまで最も苦労したのが、細かくお話していなかったけど、実はヘルムートに対しての黒魔術の際のお礼だ。
ヘルムートは『何かビオリーニナの曲が欲しい』と私に言って来たんだよ。
貴族学院で以前、お茶会の際に『ムジカ エクセレンティア』として演奏して以降、楽譜の書き方は習ったし装飾音や前打音なんかの複雑な書き方も地球の方法を参考にして先生と整理した。
私はピアノしか弾けないのでピアノで覚えるんだけど、結構な曲になるとかなり長いし、超絶技巧な曲だとその速さではピアノで弾くのも結構難しい。
まあ私が弾けなくても楽譜にしてヘルムートが演奏出来ればいいんだけどね。
オーケストラだとヘルムートも困っちゃうだろうから独奏曲がいいと思うけど、シピオーネの伴奏であればミスリアも少し弾けるw。
難しいのもOKと言っても流石にパガニーニの超絶技巧程になると流石のヘルムートも難しいと思うけどヘルムートはめっちゃ上手くて結構超絶技巧でも行けそうなんだよ。
ヴィヴァルディの四季「春」第一楽章、バッハのアヴェ・マリア、G線上のアリア、ハイドンのセレナーデ、ラフマニノフのヴォカリーズ、パガニーニのカンタービレ、リストの愛の夢 第3番、オッフェンバックの天国と地獄など数えきれない程の私の好きな凄いヴァイオリン独奏の曲があるけど、これはサラサーテの代表作『ツィゴイネルワイゼン』にした。
1878年に完成した管弦楽伴奏付きのヴァイオリン曲で三部作だね。
最初がハ短調の4/4拍子で、ハ短調の2/4、イ短調の2/4で急テンポになる。
アニメにも使われてるしご存知の方も多いと思う。私もとてもいい曲だと思うし大好きだよ。
正直、ゆっくりな部分はまだいいけどそこら中に超絶技巧が盛り込まれ、私がピアノで弾くのも結構困難だったし全部覚えて楽譜にするのが一番苦労したよ。 これが記憶に頼るコピーで一番大変だった事だw。
もう私とヘルムートの想像も越えた難しさで、だってこれ左手のピチカートまであるんだよw。
それでもヘルムートは既に間違えずに感情を込めてこの難しい曲を弾けるようになりミスリアの伴奏で私も聞かせて貰ったけどこんなの聞いたらミスリアじゃなくてもヘルムートに憧れちゃうよ。
実際はミスリアの伴奏も難しくてかなり頑張って練習したそうだ。ごめんミスリアw。
でもマジかっこいい! っていうか凄過ぎ。マジで演奏家になって欲しいよ。
(実はこれ以降、ヘルムートは『いくらでもお金を出すからもっと他の曲も欲しい』と言って私は面倒なので結構困る事になるけど、私は別にお金は欲しくないけどヘルムートは次男なのでそう大金持ちな貴族と言う訳ではないw。私も時間を掛ければ出来なくはないとは思うんだけどもう少し手が空いたらねw)
『ツィゴイネルワイゼン』は『ジプシーの旋律』という意味だけど、この『ジプシー』というのは色々とあって現在は差別用語、放送禁止用語と見做されて「ロマ」と言い換えられる傾向にある。
ツィゴイネルは確かドイツの方の言い方だったと思う。
勿論、世界史で大人の人ならその歴史は知っていると思うけど、これだけでなく実際に差別という話には当然何故そうなっているのか? という原因が必ずある。
簡単に言うと、流浪の民の彼らは国境をものともせずにその土地や出世や財産にも興味はなく、その国の法にも縛られないというその国の人達から見るとおかしな外国人だ。
普通に農作物や家畜を持ち去る。
彼らを捉えると『落ちているから拾った』というのが彼らの言い分だ。めっちゃシニカルだね。
残念ながら地球の中世ヨーロッパの歴史では重犯罪は死刑にされたり奴隷にされたりもする。そういう法だったから当たり前だね。
世界史のお話で犯罪を犯した罰をその罰だけを抜き出して差別などというのは私は賛成は出来ないけど個人的には偏向的ではなく双方の状況はきちんと均等に教えるべきだと思う。
現代の地球でもヨーロッパ各地や様々な所で移民は治安上問題になっているけど今の日本も政府が進んで移民を増やそうとしている。当然、価値観の違う方々を入れれば問題になることはこんな千年も前の昔から判っている訳だけど日本の偉い人達は本当に判っているのだろうか? 歴史から学んでいるのだろうか?
詳しく書いちゃうとまたカットされそうだから地球の事を書くのは止めて夢の世界の事の方がいいかなw。
◇◇◇◇◇
【ピシュナイゼル邸執務室】
「オズワルド兄上、お待ちください!」
「何を言っているルート。犯罪者達をそのまま放置する気かっ!」
「彼らはここの法を理解していません」
「捕まえて教えてやれば良かろう。そもそも他人の物を勝手に持って行って良いなどという理屈などあろうはずもないであろう!」
「いや、、、確かにその通りかもしれませんが、兄上が手を下すのはお待ちいただけませんか?」
「其方がどうにか出来るとでもいうのか?」
「わたくしにお任せください」
「いいだろう。其方が出来ぬのならわたしが直ぐに対処するという事で良いな?」
「構いません」
「判った。下がれ」
「はい」
ふぅ。
放浪民のツィゴイネルは本当に厄介な者達だ。
おおよそ500年程前からのアエジープトス国からの放浪民だと言われている。
パープラングに隣接するポロクム公国とは仲も良く国交も盛んだ。今ポロクム公国はポロクム公が東の大国のルース公に攻められ交戦中の為、ポロクム公国からパープラング辺りにいたのだが、パープラングでの規制が厳しくなり最近ピシュナイゼルに緑も増え、栄えて来たことからツィゴイネル達がやって来た。
ツィゴイネル達は追放令や国によっては死刑の対象とされたほか、囚人としてガレー船の漕ぎ手に送り込まれることもあった。これは罪によるその国の法に従っているだけの事だ。
彼らは肌や髪が黒く、髭を伸ばし、服装を含めて我々と大きく異なる見かけで誰にでもまず驚かれる。ビオリーニナの楽師やダンサー、動物使いなどの職業が多い。馬を仲介する事もあり喜ばれる事もある。言葉も違うが話せる者もいる。
ここピシュナイゼルに来た当初は『鋳掛け屋』を手伝いもしていたがあまりに法を守らず問題を起こす為に問題になって来た。
ソフィア様のお陰でようやく復興してきた農業で出来た作物や牧場で育てた家畜を何の躊躇もなく持ち去る。
彼らを捉えると『落ちているから拾った』とあまりに勝手なシニカルな事を言うだけだ。
そればかりかこの地を追われた犯罪者や逃亡者まで彼らと一緒に放浪し仲間になり様々な犯罪も多くなっている。それでも彼らは大きな争いになる事を防ぐ為にこの地で嫌われているカルブス(カラス)やエリーチョス(ハリネズミ)などを食べる独特の生活習慣で、彼らなりに争いを減らそうとはしているようだ。
他民族を入れれば価値観が違う。しかしこの国の価値観と異なり法的に問題のあるあの者達をオズワルド兄上は躊躇なく全て処分するというのだ。
兄上の言う事はこの国の法に照らし合わせれば正しい。
しかしソフィア様のあの価値観はどんな人の命ももっと大切にすべきだという恐ろしいまでの異なる価値観を目の当たりにし、どんな人でも価値があるとそれは様々な事業を進め身に染みて私も判って来た所だ。
かつて捉えた犯罪者達ですらこのピシュナイゼルが復興していく様を見て労役を誇りを持って取り組んでいる者達もいる。
この国ではあまり大切にされてこなかった乳幼児でさえ大切に育て、このまま人口が増えればその価値は計り知れないだろう。我々には今を生きる事しか見えていなかったがソフィア様は今ではなく未来を考えていらっしゃるのだ。
そのせいか今では私と兄上の価値観は少し違う。
私はソフィア様に影響されているのやもしれんが今の私としては彼らを殲滅せずに済むのであればそうしたい。
いや、領主であるオズワルド兄上にやって頂く訳にはいかん。殲滅するのであれば冷血伯と言われている私がやった方がいいだろう。
◇◇◇◇◇
「父上、オズワルド様は?」
「ああ、わたしが止めて来た。その代わりにこちらにお鉢が回って来た。どうにかせねばわたしが彼らを殲滅する事になるだろう。しかしこれはもうやむを得んと思う。兄上ではなく私がやる」
「父上、彼らは法を犯している犯罪者なのですよ。大規模な石油プラントや河川工事に道路工事まで行われているのです。奴隷にして使うべきでしょう」
「父上、姉上。お、お待ちください。彼らはグレースフェールやピシュナイゼルの法を知りません」
「だから奴隷にして教えてあげれば捕まらなかった他の者達も判るでしょ」
「いや、そうではなくてですね、、、」
「・・・」
「二人共、ルントシュテットの女神様ならどうすると思う」
「そんな事が簡単に判ればわたくしが女神様か大賢者ですよ」
「恐らく、問題のないようにこの地からの追放が正しいのではありませんか?」
「パープラングに押し返してもまた自由に戻る者も多いだろう。彼らは『法に従わぬ自由な放浪民』なのだ。その点を理解せねば何も解決などしない。それにパープラングに押し戻してもこの国グレースフェールの問題が解決する訳ではない」
「女神様に、、、ルントシュテットのソフィア様に相談されてはいかがでしょうか?」
「他領の厄介事をソフィア様に頼るというのか?」
「わたくしはソフィア様の使徒の巫女にして頂いています」
「それはソフィア様が成人されるまで待つよう言ったはずであろう」
「ではそれまで犯罪者達をこの地で放っておくおつもりですか! わたくしがソフィア様にお話してみます」
「わ、判った。くれぐれもソフィア様のご迷惑にならぬようにしてくれ。しかし殲滅の準備は進める」
「はい」
「ラヴェンナ。クルツバッハの騎士と兵士をここに招集だ」
「はっ!」
◇◇◇◇◇
『ソフィア様、グレグリストでお忙しい中、また遠距離でそちらからの通話にてこのようなお話を申し訳ありません』
『大丈夫ですよ。事情は判りました。で、クラウディア様はどうしたいのですか?』
『わたくしとしましては出来るだけ穏便に解決したいのですが、領主オズワルド様や父上は殲滅するしかないと申しております。どうにか出来ないものかとソフィア様にご相談させて頂きました』
『成程、クラウディア様も大変ですね。今実際に工事に使っている人達には犯罪者の労役の方もいますよね』
『はい、罪の免除の為に彼らも頑張って働いています。やさぐれていた彼らもソフィア様のおかげで今ではピシュナイゼルが復興していく事に誇りを持って取り組んでいます』
『では、こうしましょう・・・』
◇◇◇◇◇
「クラウディア。本当にそんな少しの兵で大丈夫なのか? 他は全部犯罪者ではないか?」
「はい、父上。ソフィア様の案ですがわたくしにお任せください」
「この沢山の輸送馬車も必要なの? 全員捕まえて来るの?」
「姉上、そんな事はしませんよ。女神様を信じてお待ちください」
「判ったわ。じゃあのんびりと待ってるわね」
「はい」
(勿論、ラヴェンナはのんびりと待つことはなく、この際もクラウディアの様子を隠れて見に行っている。そしていつもクラウディアが戻る前に涼しい顔をして待っていたふりをするのが常だ)
クラウディアは放浪民ツィゴイネル達がいるいくつもの場所をつきとめ夜陰に乗じて彼らの家畜や食料をほぼ全て奪って行った。
元盗賊達を使い戦闘になれば兵士達で制圧はしたが誰一人として殺しはしなかった。
たった3日間でこの大規模な窃盗を全て終え領主オズワルドの館に戻ると、案の定放浪民ツィゴイネル達の代表者達が門の前に集まり大声で文句を言い出した。
ルートヴィヒは彼らの前に姿を現し大きな声で言った。
「皆の者、静まれ!」
貴族が出て来た事にさすがの放浪民ツィゴイネル達も静かになるがヤジは止まない。
「この盗人っ!」
「カプラーエ(馬)を返せ!」
「ビオリーニナは命よりも大切なんだ。返してくれ!」
「食いもんが少ししかねんだぞ、この泥棒!」
「オラのエクース(山羊)を返してくれ!」
ルートヴィヒは暫くの間これらのヤジを聞いたが冷たく口元で笑うだけでであった。
ソフィア様のおっしゃる通り文句の言える者達が来たな。ならば話は聴けるだろう。
そしてまたいきなり大きな声で全員に聞こえるように言った。
「良く聞け! この地では他人の物を盗めば犯罪となる。これは当たり前の事だ。これまでは見逃されていたかもしれんがこれ以降は容赦はせん。ここにいない者達皆に伝えよ!」
「わたし共は自分の家畜や食料を盗まれたのですよ。それも僅かな食料を残し全部です。しかもその馬車や護衛達は伯爵様の家の者達だったというではありませんか?」
「ああ、あれか。我が領地に『落ちていたから拾った』のだそうだ。其方らに何か文句があるなら聴こう」
!!
ツィゴイネル達は戦慄した。
「・・・」
「・・・」
これ以降、ピシュナイゼルに来ていた放浪民ツィゴイネル達は他に移動し二度とピシュナイゼルに来る事はなかったと言う。
「クーちゃんやるわね」
「ソフィア様は結構シニカルでした」
「あははは、うぇーい!」
幾つかお問い合わせを頂いてますが、ありがとうございます。
まあ適当に暇な時に書いてはいますが、、、。
恐らく区切りのいい所まで追記予定です。
第二部ですが、気が向いたら書くつもりではおりますので余り期待せずにお待ち下さい。




