閑話 刀鍛冶フェラーリエス・シュミット
連休で暇ですが、大きな声では言えませんがなろうさんはシステムが変りちょっと面倒になっています。恐らく設計した方の想定とは違う使い方で回避していますwが、一応こちらも更新させて頂きます。
ソフィアがスプリングを作った際に最初に日本刀をシュミット親方に頼んだ場面。
日本刀を知らない人にはその凄さは信じては貰えません。切れ味などそうは違わないし細ければ割れてしまうと思われています。詳しく日本刀の作り方を説明しご理解頂いくとその凄さの一端が分かります。
気に入って頂いた方もいたようですので日本刀を最初に作って貰った際のシュミット親方の閑話です。
おっしゃる通りでどんなに頑張って叩いてもどんな合金で刀の形にしてもこの方法でないと日本刀を作る事は出来ませんよw。打ち合わせて刃こぼれしてしまう物は出来が悪く失敗作ですし曲がってしまう事もありません。仮に必要以上の力が掛かれば簡単ではありませんが割れてしまいますw。
幼い姫様は炉の知識をお持ちで、普通の錬炉ではなくたたら炉で砂鉄から混じりけの少ない鉄を作られた。
今後鉄鉱石を大量に採掘してコークスと言う燃料も作るからその際に高炉と言う連続して火を消さずに作れるコストが安い鉄を大量に作りたいとおっしゃっている。
飛んでもない知識をお持ちだ。
しかし製鉄の技術だけでなく鍛冶の技術にまで口を出されては困る。
「姫様。おかしな事を言っちゃあいけませんぜ。そんな訳ありません」
姫様が細い剣を作って欲しいと言う。出来た物は他の剣に勝てるとおっしゃっているがそれはあり得ない。
「ではシュミット親方は固い剣と柔らかい剣ではどちらの方が斬れやすいか判りますか?」
「そりゃ固い剣ですよ。混じり物のある鉄で時折出来ますがありゃあいけません。直ぐにサビちまいます」
「それは不純物が多いからですね。おそらくマグネシウムが多い鉄の場合にそうなります。では料金はお支払しますから藁の灰をまぶしてその量を変えた鋼鉄を10種類作って下さい。炭素が抜けない様に熱して良く叩いて下さいね」
俺は危険だと止めたが鍛冶場で灰をまぶし、どうするのかを丁寧に教えて頂いた。
貴族の場合、普通は側仕えが止めてくれるはずだがこの姫様は違った。
姫様が城へ帰り、俺は半信半疑だが姫様の言う通り小刀程度の短冊を20作った。
鍛冶の加工技術は鉄を曲げ思い通りの形にする事が基本だが鉄は叩けば叩く程固くなる。俺達鍛冶屋しか知らないはずの事を姫様は知っていた。これは加工硬化と言うそうで姫様はその仕組みすら知っていた。
でも加工硬化ではなく姫様の言う炭素を混ぜる量で固さを調整出来るという。
俺達鍛冶屋が偶然出会うそのマグネシウムとやらの混じった鉄ではなく思いのままに固さを作れると言う。
固くなりすぎてしまえば割れやすくなり思いのままの形に変形は出来なく成るがこれは焼き入れをする事で形を作った後に固くする事も出来るそうだ。
叩いて直ぐに判るが音が違う。明らかに炭素を余計に入れた物の方が音が高く固いのだ。
更に姫様はこの炭素を混ぜた鋼鉄の方がサビづらいとおっしゃっていた。
最も固い物は磨ぐのさえ難しい程に固く刃にすると飛んでもない切れ味だった。
あり得ない。なんであんなに幼い公爵様の娘が俺の知らない事まで知っているんだ。
姫様は鍛冶の神ヘーパイストスの生まれ変わりなのではないかと思う。
鉄は混じりけのないものがいいとされていた。
それをわざわざ藁灰を混ぜて脱炭しないように叩き込むなど聞いたこともない。
しかし現実はこの通り違っていた。
厚さも全て同じ、大きさも全て同じに出来たと思う。
姫様に報告しもう一度やって来た。
「凄いです。10通りでなく20通り作って頂いたのですね?」
「はい。姫様のおっしゃる炭素量が少ないもの程音が低く炭素量を増やした物は音が高くなりました」
「音が!? 成る程、シュミット親方は鉄の音で固さが判るのですね。凄いです。それでは固い物と柔らかい物と打ち合わせればどちらが勝ちますか?」
「そりゃ固い物でしょう」
「それは違います」
「えっ!?」
「固い物は割れやすくなるから必ず勝てる訳ではありません」
作った短冊を槌で割ってみて欲しいと言われ斜めに立てかけ試すと固い方から8番目までは割れたが柔らかい物は曲がっただけだった。割れかたも全て違い曲がり易さも全部違った。
その後刃を合わせ叩いてみて欲しいと言われやって見ると固すぎる物は刃こぼれしたが柔らかい方はめり込んだ。
「最も固く刃こぼれしない物はこれで、打ち合わせても折れない物はこれですね」
「はい。ここまで性質を自在に出来るとは思いませんでした」
「焼き入れをすればもっとよくなりますよ」
「成る程」
「これまでの剣は鉄を鋳型でおおよその形を作り叩いて加工硬化させ研いでいた訳ですがこの作り方は根本的に異なり、割れない鉄を中身にして外側をこの刃こぼれしないギリギリの固い鉄にします」
姫様のおっしゃる事は理解した。
切れ味を求め固くすれば剣が割れる。柔らかければ割れないが切れ味が悪く他の剣に負け曲がる。
その双方の良さを取り入れ内側を柔らかい割れない鉄にして外側を最高の切れ味の固い鉄にしろとおっしゃっている。
この方法ならば普通では割れてしまう程の切れ味を実現し折れず曲がらないものが作れる。
但し、このそれぞれの固さを見誤れば作る事など不可能だろう。
こ、こんな剣の作り方は聞いた事がないがこれこそ最高の剣が出来るだろう。
姫様のおっしゃる通り鉄を何度も折り曲げ叩く作業に熱中して寝食を忘れ鍛冶に打ち込んだ。
作り込みで柔らかい芯がねを固くなる皮がねに打ち込み構造を作る。
ここから細い剣に叩いて形を作るのだ。
数日かかり俺は姫様のおっしゃる寸法通りの少し反りのある二本の細い剣を作った。
これを研いで切れるまでにする。
流石に休んでいなかったので普段ならもうぶっ倒れていただろうがおかしな興奮状態が続き全く平気だった。手伝って貰った弟子達はもう何度も倒れている。これは俺も体力が落ちれば作れないだろうな。
姫様に報告すると飛んで来た。
粘土、砥石などを混ぜ土置きをし最後の焼き入れをすると言う。
最初に置いた茶色の粘土は均等で後から置いた砥石を多く混ぜた黒い土置きは裏側の峰の方に波状に置いていく。姫様に聞くと焼き入れ加減が変わり柔らかい部分と硬い部分とが波になりしなやかさと粘りが出るのだそうだ。
鍛冶場を暗くし俺がほどに入れて抜き差ししながら姫様は徐々にオレンジから赤くなる鉄の色を見ているようだ。
「今です!!」
姫様が大声で叫ぶ。
俺は気合いと共に水に入れ急冷した。
リネンで綺麗にすると峰側に見事な模様が入った。これはまるで芸術作品だ。美しい。
「これは成功です。約800度です。この暗い状態でないと温度の色がわからないので作れません。今度は親方が独りでやってみて下さい」
「判りました」
姫様が判断したと思った色を頼りに焼き入れした。
ジュワ!!
「お、惜しい。ほんの少し温度が高くて恐らく刃こぼれしてしまうでしょう。でも初めての焼き入れにしては良く出来ました」
「申し訳ありません。ではこの姫様が判断した成功した方を拵えを作らせお届けしますがこちらの失敗した方はどういたしましょう」
「うーん、そうですね。試し切りをしてもいいですか?」
「か、構いませんが何を切りますか?」
「最初に親方に他の剣に勝てると言ったので切ってもいい剣はありますか?」
こんな機会はそうあるものではない。
しかし他の剣を切るだって?
冗談のつもりで俺は以前作った剛剣を提供した。
何故か姫様に冗談が通じず「わーい」と喜んでいらっしゃった。
姫様が持ち手に布を巻き、剣を自在に振る。
かなり重いと思うが姫様は大丈夫なようだ。
それどころか渡した剛剣を台に置き隙間を作り本気で試し切りをするようだ。
う、嘘だろ。
「では切ってみますね」
ブワッ!
一瞬で姫様から恐ろしい気が発せられ俺は恐怖を感じた。
キン!
まさか、き、斬ったのか! う、嘘だろ。
「あー親方。ほらちょっと刃こぼれしてますよ。やっぱりもう少しでしたね」
ズシャ。ガラン、ガラン。
剛剣が真っ二つに切れ床に落ちた。
「この細身の剣の作り方で作った剣は『刀』と言います。これ以降もお願いすると思いますからよろしくお願いね親方」
「は、はい」
刀、、、。
こんなの世界一の剣だな。切れ味と折れにくさ曲がりにくさを兼ね備えている。
しかしここまでの知識と加工技術とでようやく作れる物なのか。
姫様が置いて行った刃こぼれした刀と真っ二つに切れた剛剣はこのまま家宝にしよう。
木工職人のマーティンやフェリックスにこの『刀』と言うものがどれ程尊い物なのかを説明し鍔や拵えを作って貰おう。
俺は興奮覚めやらぬままの勢いで二人に説明しその後疲れはてて倒れ数日寝込んだが、鍛冶人生で最も充実した日々を姫様に感謝した。
この際に作った刀はオレアンジェスの戦闘で割れてしまいますがシュミット親方の次の刀はずっと残ります。




