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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第十章 夢の聖剣
102/129

誰か代りに説明して(^^;

 ソフィアが連れ去られたその先は、、、。

 ソフィアも夢美ももうどう考えていいのか良く判らない事態に陥る。

 サスカッチの問題が判明し対処に動く。前向きなゲートルード達を後押ししようとするソフィア。




 はっ!


 目覚めるととても豪華な装飾のある室内のベッドの上だった。

 日本でドロミス神に『連れ去られている』と言われて焦って治療したけどどうやらその緊急事態は脱したようだ。


 この部屋はなんだか凄くおかしい感じがする。直ぐに違和感が判ったよ。

 真っ白なリネンのシーツだけどとても小さなベッドで、いくつものベッドが並べられて私はその上で寝ていたんだ。

 気を失って寝ていた時間は短かったと思うけどどれくらい寝ていたんだろ。


 室内のテーブルも用意されているお皿もかなり小さい。

 小人!?

 もしかして私はあの青銅の人種に攫われたのではなく小人に攫われたのだろうか?


 確かザルツが『悪い子はゴブリンに攫われる』という話をしてミスリアが焦っていたのを覚えている。

 という事は私は悪い小人ゴブリンに攫われたのだろうか?

 それにしてもイメージとは違って部屋の中が豪華で綺麗過ぎる。


 あっ刀がない。いや寝てたから外していたのか。ベッドの脇にあったよ。


 えっ!

 二本ある。ウエストポーチも置いてあったけど中のヒヒイロカネがなくなっていた。


 まさかと思って外見がそっくりの刀を抜くと、、、。

 スカーレット色に輝く綺麗な刀だった。


 と言う事はこれってドワーフ!? えっでも私かなり早めにこっちに戻ったよね。

 幾らなんでもそんなに早く作れるはずは、、、。

 

 これは本当にこんな短時間で作る事は不可能であり得ないと今の私には良く判る。


 時間の関係で前は詳しくは説明しなかったけど私と美鈴先生は刀匠の加治見さんが様々な用意をしてくれていたから1日のレッスンだったけど実際は、


 刀匠の加治見さんがたたら炉で砂鉄から玉鋼を作るのにまず寝ずに火の番をして3日かかる。

 その後、ほど(刀を熱する場所)であかねた後(鋼を熱した後)弟子2人の大槌と師匠の小槌で薄く伸ばし冷めないうちに水に入れ急冷して表面を硬くする。金槌の上で小割りして断面や硬さ不純物を確認し小割りした玉鋼を選別する。集めた玉鋼の良い部分を積み重ね和紙でくるみ藁灰をまぶし、その上に泥汁をかけて熱が芯まで伝わるようにする。ほどの中で熱しじっくりと1200度~1300度の熱を加える。

 ほぼわいたと判断したらほどから出し大槌で軽く叩く。冷めないうちに藁灰をまぶし本わかしを行う。

 鍛錬は炭素を均一化する為になんども叩く。


 わかされた玉鋼に切れ目を入れて折り返し鍛錬で何度も折り叩きまた一塊になるまで鍛錬する。

 これは15回程折り返す。単純にこれは15乗になるので刀の玉鋼はミルフィーユの様に32768の層で出来ている。これで粘り強さが出て鋼に模様が生まれる。

 炭素量が少なく柔らかい『しんがね』を炭素量が多い『かわがね』で包むという構造で成り立つ。

 作り込みはその二つを組み合わせる作業でナタのように少し成型したしんがねが少しさめた状態でやや大きめのかわがねをわかし大槌で真ん中に挟むように打ちこむ。かわがねが外側を包み込むような形だ。

 沸かしながら伸ばす素延べを大槌1つ小槌1つで行う。これで内側が柔らかく外側を硬くした刀の元になる。


 私と美鈴先生は刀匠の加治見さんからそれらの説明を聞き、この作り込みを行う所を見せて貰い、素延べの終わった玉鋼を刀にする所から実際にやっている。

 刀の成型を行い、片側を薄くしようとすると自然と反っていってしまうので調整も大変だ。

 ほぼ形が出来た後、センややすりを使い形を整えていく。成型とこの削る作業でほぼ刀の形が決まる。

 

 焼き入れを行う為の土置きをする。これは色々と刀匠によっても違うようで粘土や木炭、砥石などを調合したものを水で溶き、『ひきつち』というへらを使い刀全体に薄く塗る。

 混合比を変えた置土を置く。加治見さんの場合、砥石の量を増やし粘度を増したものだ。この置土の厚さ違う部分が波紋となるのでそれを想定して置いていく。

 焼き入れでこの刀が良い物になるかどうかが決まる正念場だ。暗い中で色を見て何度もほどの中に差し入れする。これはおおよそ800度でこのわいた状態だと色を見て判断した瞬間、気合を入れ水中で急冷して焼き入れが完了。


 私と美鈴先生が一日で出来たのは加治見さんがこのとてつもない作業を色々と準備して整えてくれていたからであって決して一日では作れるものではない。正直不可能だよ。

 鍔や鞘を作るのも簡単ではなく、私のは黒漆のこしらえだけど、この短時間では黒漆が渇く時間があったかどうかも怪しいよ。


 この気の遠くなりそうな大変な作業をこっちでやって貰ったのがシュミット親方でこしらえが出来た頃には疲れきって親方は寝込んでいたからね。勿論報酬は高額なんだけど本当に彼らにとってはお金じゃないと言うから技術者というものは本当に飽きれる人達だと思う。

 そこまでやって木工職人のマーティンが黒漆の鞘を作りツバはフェリックスが細工している。

 こうした大変な作業を経てみんなが何日もかかってやっとこの刀『フェラーリ』が作られている。


 だからあり得ないと、、、。



 外に幾人かの声が聞こえた。隠れる所もないし私は刀を持ったまま迎えた。


 ガチャ。

 小人だ。結構な人数がいるね。


「おお、目が覚めたのか。ここへ運べば直ぐに治ると思うたがもう治ったのか?」


 いや、私が魔法で治しましたよ。(っていうか人間と普通に話せるんだ)


「おやおや、おやおや、この子はなんて綺麗なんだろう」


 褒め殺しか。


「おまえさんの名前はなんというのかな?」

「わたしはソフィアと言います。あなた方がこちらに運んで頂いたのですか?」

「そうじゃよ。ここにいれば直ぐに治るかと思うての」

「この刀はあなた方が?」

「そうじゃよ。勝手にコチーネウムを使ってしもうたが迷惑じゃったかの?」


 ヒヒイロカネの事をコチーネウムって言うのかな。


「いえ、私はこの加工の方法を探しに来たのですよ。そして刀にしようと思っていましたから助かります。でも加工方法や何の合金なのか教えては貰えませんか?」

「いや、人にはもうむりじゃな」


 ダメなのか。でもヒヒイロカネでこんな短時間に刀を作って貰えるとか本当にファンタジーだね。


「勝手に使ったお詫びに山に金属を取りに行っていた。この入れ物に入れておくから持って帰るといい」


 良く判らないけど一応お礼を言っておく。


「ありがとうございます」


「おまえさんは早めに帰らねばならんが、あのトライポッドにやられたんじゃな?」

「そうです。樹海の外まで出ているとは判りませんでした」

「うむ。青銅の人種がおかしい動きをせんかもうずっと見守っておるがあれはやはりいかんな。わしらがこれからこらしめてやるからその後で帰るといい」

「わかりました」


 小人さん達は楽しそうだ。


「わしらは少し出て来るがこの家に青銅の人種が来ても木窓を開けてはいかんよ」

「はい」


 マルテやノーラ達が心配だけどここは一応ドワーフ達小人の言う通りにしてみよう。

 小人達が家を出て行く。


 小人達が何かを入れていたウエストポーチを見てみると金や銀の鉱石で、まるで全部が金で出来ているくらいに純度が高そうだった。

 これ相当な価値だよね。まあヒヒイロカネの代わりならこんなものなのかな。

 っていうか私はヒヒイロカネを提供した事になってるけど刀を作って貰ったんだから普通に得しているだけじゃん。


 窓の外に誰か来たようだ。

『青銅の人種が来ても木窓を開けてはいけない』と言っていたので悪い人達って事だよね。

 

 と、左側の木窓がそのまま開いた。


 うわっ、鍵とかかけてないんじゃんか。そんなのわかんないよ。


 青銅の人種だ。凄く綺麗だった。これ完全にロボット? というか自動人形だっけ。動いてるの不思議だけど人間っぽくて両手で何かを差し出して来た。


 えっ。それヒヒイロカネじゃんか?


 私は思わず近づいてしまった。

 ヒュン!


 二本の手とは別の手が青銅の剣になっていて横に切りかかって来た。

 私は咄嗟に後ろに飛びながら刀でその青銅の剣を切った。


 シュバッ!

 

 全く抵抗なく剣が切れた。何この感覚。この剣は普通の刀じゃないかなり凄い感じだね。


 しまった。こんな単純なしかけに引っかかりそうになるなんて。

 青銅の人種が私が切った青銅の剣を手の先から取り外して腰につけられた別の鉄の剣に付け替えた。


 カシャッ!


 えっ! あれ、日本の母の実家で出土した剣と同じ形じゃんか。こうやって取り付けてこの青銅の人種が使ってたんだ。

 そのまま振って来る剣の剣筋を変えてと思って斜めに斬り当て首元の弱そうな所を叩こうと思ったら、鉄の剣がまるでお豆腐のように斬れ、首元から青銅の人種の首が斬れ落ちた。


 全くと言っていい程抵抗なく切れた。

『他の剣を切り裂く』とアドリアーヌ王妃が言ってたの本当だったよ。


 透明な液体が青銅の人種から流れ出し身体が崩れ落ちた。

 これ、透明な血って言ってたやつだね。

 やばそうだから触らないようにしよう。


 私はそのまま窓を閉め(かんぬき)をかけた。


 これトンデモない刀だ。

 私は落ち着いてからヒヒイロカネの刀の目釘を外し刀身を外すと中に

『ルインソミア』と書かれ『ヘーパイストス』と名が彫られていた。


 えー。まさか鍛冶の神様が作ったって事じゃないよね。

 でもこの刀の名前が『ルインソミア』か。なんかカッコイイね。


 刀を戻しているともうドワーフ達が帰って来た。余り時間は経っていないけど何をしていたのだろうか。


「外に倒れている青銅の人種はおまえさんが倒したのかい?」

「はい、なんか窓が開いてしまって近づいたら斬りかかられたので咄嗟にやっつけてしまいました」

「ほう、そうかそうか。中々に強いようじゃな。その剣も嬉しかろう」


 まるで刀に人格があるように言うね。


「しかし、イーコールが溢れておるから人であるお前さんは近づかん方がいいじゃろ」

「判りました」


 やっぱりきっと人間には悪いものなんだね。


「では、行こうかの」


 私はドワーフ達の後に続いて家を出た。

 何かかなり雰囲気が変わったように感じた。


 外に子供が乗るようなおもちゃのゴーカートのようなスリッパのような形をしたものが3つありどうやら車輪で動いているようだ。


 ドワーフ達と樹海の中を進むとさっきの巨大なトライポッドが見えて来た。

 3本足を順番に僅かにその足を上げて滑らせるように足を円弧を描き順に動かして地面に足をつく事によって動いているようで、樹海の木々よりも大きいのにどの木にも当たらずに計算されたように動いている。トライポッドの三脚の角度を変えながら動いているんだね。足の通った跡には地面に筋がついている。

 どうやってこんな自動人形を作れたのか本当に不思議だけどドワーフ達や神様だったらそんな事も出来てしまうのかもしれない。


 複雑な円弧を組み合わせ木々の隙間を正確に移動しているんだ。

 あのトライポッドは通る道筋に地面に筋が付いているからあそこから外れれば大丈夫そうだね。


 ドワーフ達はこれからトライポッドが来そうな位置にさっきの金属のスリッパを3つ共置いた。

 

『~フィエリインチュンスムカルチュアメントゥムエタリオスインデュエレ~』


 ドワーフが何かの呪文を唱えたけど難しくてよく判らなかった。


 キキー、ズズーン!


 トライポッドが来た。


 ドワーフ達と一緒に私も茂みに隠れた。

 キーンという音がさっきのスリッパからしてみるみるとオレンジに変わりさらに真っ赤になった。


 トライポッドの長い足が来る。


 キキー、ガシャン!


 トライポッドの足が真っ赤に焼けたスリッパに乗り上げた。

 まるで靴を履いたように赤くなったスリッパがトライポッドの足にくっつく。

 他の足もみるみると順にくっついていく。


 トライポッドはまるで狂ってしまったかのようにめちゃくちゃに動き出し樹海の樹木をなぎ倒しながら踊るように樹海の中に消えて行った。


「ふぉっふぉっふぉっ。これでしばらくは人にイタズラも出来んじゃろ」


 なんとなくイタズラではない気がするけど、聞いてみるとさっきのスリッパの靴のようなものは真っ赤に焼けた熱いものでトライポッドの足に履かせて踊らせてみたのだという。


 なんか、、、。(いや、まあ、愉快犯的なヨーチューバーの様だけど、ここはドワーフ達に突っ込まないでおこう)


「ソフィアさんや。わしらの名は、ナルニィル」

「イグニル」

「ドゥーリ」

「ヴァーリ」

「ナフール」

「トリーポス」

「トリヤ」


「と言う。何か困った事があれば、ドワーフにわしらの名を言えばどうにかしてくれるじゃろ。外の時間はわしらの家とは違ってとても速い。わしらの家に一日おれば外ではその何倍もの時間が経っておる。早く戻らんと周りがみな年寄りになってしまうぞ」


 えっ! 時間の経過が違うの!? 

 やばいじゃんか?


「その剣を使う時には『ルインソミア』に願う『~ボーロインルインソミア~』と唱えて使うといい」

「判りました。ありがとうございました。では、私はこれで失礼します」

「うむ、達者でな」

「こっちの方角に行けば最初に飛ばされた辺りに出られるじゃろ」

「はい、ありがとうございます」


 私はドワーフ達にお別れをして手を振って樹海の外に出た。

 う、浦島太郎的なのになってないよね。


◇◇◇◇◇


「いた! ソフィアっ!」

「あれ? ウルリヒお兄さま」


 ウルリヒお兄さまが走って来て私に抱きついた。

 なんかみんながこっちへ走って来た。

 でもなんでお兄さまが、、、。


 そう言えばあのトライポッドの足に飛ばされてそのままだったよ。

 なんか色々あったけど向こうでは寝てたのも含めて一日位だと思うんだけど、、、。


「2週間も行方不明だったんだぞ」


 な、に、2週間経ってるの!?

 マルテはまだ頭に包帯を巻いてるけどノーラもクルトも無事だったようだ。

 

「尖塔師からの報告を聞いて心配でわたしも父上に言って探しに来たんだ。本当に無事で良かった」

「はい、ご心配をおかけしました」


 なんか経過している時間は違うとかどう説明していいか判らないけど取り敢えずみんな無事そうで良かった。


 マルテの傷を治して後で全部説明したいけど色々とあって上手く説明できる自信がないよw。

 誰か代りに色々と説明してくれないかなぁ。


◇◇◇◇◇


 日本では2週間経過している訳ではなく私はそのままだった。

 普通2週間も目が覚めなかったら今頃病院のベッドで寝ていると思うから助かったよ。


 それはいいんだけど、美麗の所から前回をはるかに上回る金額の報酬が振り込まれていた。宝くじに100回位当たった感じだ。

 この前の100倍くらいなんだけどもうこうなると子供の私では金銭的にと言うか感覚的に何がどうなっているのか良く判らない。完全に私がどうこう出来る額ではないので父母に相談するしかない。

 送って貰った明細によればこの額でも税金が既に引かれているものなのだそうだ。


 恐らく私の家族全員がずっと寝ながら暮らしても困らないと思うけど父母もそんな事は事は許してくれるはずがないのはもう判っている。


 美麗からのメッセによれば


「契約にあった効果があればと言う条件の効果のマージンを振り込んだから確認して頂戴。こんなものではないからもう暫く待ってなさい。驚く程の報酬を出せると思うわ」


 いや、もう驚き過ぎて言葉がないよ。


 でもこれ気が付けば私は完全に美麗の会社に取り込まれていてどうにもならない状態にされてしまっていたよ。

 あ~。美鈴先生は勉強ばかりだから私がしっかりしなきゃと考えていたけど、私の方が完全にダメだったよ。あの穴に落ちて以来、外堀から完全に埋められてしまっている。


 毎月の報酬も入って来てるし年末や年度末にはさらに特別報酬が振り込まれるそうだ。

 こんなのもう完全に私は西園寺財閥で美麗の配下の社員というか執行役員じゃん。中二だけど。


 完全に美麗にやられた感があるというよりもやられた感しかない。


 でも、この額ってそんなに儲かっているのだろうか?

 おそらく私じゃこんなのは無理で、色々と商才のある美麗だから出来るのだと思う。


 うー、もうどっかに寄付しちゃう?

 その前にこれを父母に相談しなきゃなんないんだけど、誰か代りに説明してくれないかなぁ。


◇◇◇◇◇


 何か気が付けば夏休みも少なくなってたよ。

 と言うかこんなに日数が経過してたの知らなかったからね。


 アルフビート男爵にお礼を言って大まかな説明はしたよ。私が行方不明で相当焦って心配もしてくれたそうだ。

 その間に大叔父様は他の人が止めるのも聞かずに何度も樹海に入り探してくれていたそうで、青銅の人種と何度も出くわしてそこらじゅう怪我をしていて私が治すのが大変だったよ。

 私は何度も大叔父様に心配をかけた事を謝り涙が出そうになりながら何ヵ所も治療をしていると大叔父様は何も言わずに傷を見て泣きそうな私の頭をずっと撫でてくれた。

 

 ウルリヒお兄様も連絡を受けて直ぐにルントシュテットを飛び出して来たそうだ。勉強は大丈夫かな。

 マルテの傷も尖塔師のウイルソンさんに癒しを与えて貰っていてかなり治っていたけど私が完全に治すとマルテが泣き出した。マルテも相当心配してくれたようだね。ごめんね心配かけて。


 私は大叔父様達全員に小さな家にいてドワーフ達に刀を作って貰った事を話した。

 つまり天使カスヨイヤの話はゾームの樹海の南と言うのは樹海の中だったんだね。


 マルテが真剣な顔をして私に

「姫様。わたくしを助ける為にあのような危険な事は二度となさらないで下さい。わたしは姫様がもしも戻らなければ、、、」


 私はマルテの話をわざと遮った。


「イヤ!」

「えっ!」

「だからそんなのはイヤ。マルテが危険な目に合うと判ってるのに見てるだけなんて出来ないよ」


 ノーラが、


「ソフィア様。二度とあのような事がないようにわたくし共も注意して参りますが無茶は、、、出来るだけなさらないようにお願いします」

「はーい」


 なんか久しぶりのノーラのお説教だけど二人の気持ちが伝わってくる暖かくなるようなお説教だったよ。

 出来るだけね。


 みんなが見ている前で刀を見せた。

 そのまま大叔父様に渡したけど大叔父様が抜こうとしても抜けなかったよ。


 私はあれ? っと思って返して貰い抜いてみるとスラッっと抜けた。


 両手で構えて集中力を高め聞いた呪文を唱えてみる。


『~ボーロインルインソミア~』


 ポウッ。


 スカーレット色の刀が輝き出した。


「「おおっ!」」


 あっ、これ前にピシュナイゼルのクラウディアさんがやってた槍のと似てるね。


「せ、聖剣ですね」


 ランハートさんが驚いたように言う。

 

「伝説のお話に幾つもありますが、緋に輝く光を放つ英雄のみが使える剣と書かれていましたがこんなに神々しいものだったのですね」

「ソフィア様。わたくしも幾つか読んで知っておりますがこれで切れない悪はないと言われてました」


 モーリッツさんもそう言うのは詳しそう、と言うかこの人達完全に剣のオタクだよね。

 

「確かにこの刀で樹海の中の青銅の人種が持っていた剣を斬り青銅の人種も斬れました」

「そうなのかソフィア様。わしは鋼鉄の剣で斬れずに苦労したがやはりその剣がそれだけ凄いのかソフィア様の剣技が凄いのか、、、」

「いや、たまたまこの刀をドワーフ達に頂いたからですよ」


 私は刀を持つ集中をやめて刀を鞘に収めた。

 これはクラウディア様に会う必要がありそうだね。


 一応、私は直ぐに治癒魔法で治療してからたった1日位しかドワーフのところへいなかったとみんなに説明すると、ヘルムートが、


「ある者の子供がドワーフに連れて行かれ、後に戻ったと言う話がありますが、子供は三日間ドワーフと共にそこで過ごしたと言ってましたが待っていた親の方は七年もの月日だったと言う事を聞いた事があります」


「わー、それではわたしもかなり危険でしたね。彼らは時間の早さが違うと言ってました。人間の元では長い時間があっても彼らにはほんの少しで、彼らが人より長生きだと言われるのはこちらの何百年が彼らには普通の時間経過だからじゃないですかね」

「成る程、おそらくそのようですね」


 ヘルムートも納得したようだ。

 でもそれだと人と一緒に長くいたら長生きじゃなくなりそうだね。でもその間に色々と作ってたんだね。


 あれ? 私しか抜けない聖剣って確かあの日本のも私しか抜けなかったよね。


 私達はルントシュテットへ戻る為に帰り支度をして今晩男爵の家に泊めて貰い帰る事になる。

 男爵様から沢山のメープルシロップを頂きましたw。

 途中、ゲートルード様の様子やエルフリーデ様の取引なんかもあるから寄って行かないとね。


 ようやくヒヒイロカネの騒動も落ち着いてゆっくりと眠ろうとすると外でミスリアとヘルムートのひそひそ声が聞こえた。


 オーロラが今夜も出ているから一緒に見に行こうと言ってる。  


 ドアの前についている必要なんてないから感動するから一緒に行っておいでよ。

 はぁ、なんかいいな。私は二人のキラキラでロマンチックな夜を想像しながら眠りについた。


◇◇◇◇◇


 私は発掘した赤い剣の方を抜いた。


 スラッ。

 

 確かこうだったよね。


『~ボーロインルインソミア~』


 ポウッ。


 あっ、やっぱり光ってる!


 こ、これ聖剣の一つかもだよ。

 なんか色々と繋がって来た気がする。人類よりも前の人種。

 だとしたらもうあそこも後回しにも無視も出来ないね。


 そうだ。お金も沢山あるし母方の伯父様の子供達は『もう税金が大変で土地も手放さなきゃ』と言ってたから私が伯父様から買えばいいんじゃない?

 親族以外の他の人に売ったり都市開発とかしないであの廃病院のところに別荘でも建てて時々遊びに行きますとかの約束なら手放すよりもいいと思うけど売ってくれるかな。

 後で母に相談してみよう。


◇◇◇◇◇


 帰り道はかなりの距離があるけど道も覚えているし来た時よりもスピードが相当出せると思う。

 カーマインさんは運転も上手いし私が一番前の車で周りの動物達を感じていれば飛び出してくる動物も判ると思う。来た時の倍位のスピードで走れば今日の夜にはゲートルード様のいるルーファスの街まで行けると思う。


 二度程ゆっくりと走って貰った以外は結構なスピードで進みサスカッチの街に入るとまたあの嫌な感覚が始まった。

 道も悪いからゆっくり目で、それでも順調に進んでいたけどカーマインさんが車を止めた。


 山側から崩れていて道を塞いでいる。あのパネルが沢山ぐちゃぐちゃになって道まで崩れていた。

 もの凄く嫌な感じがする。


 どかさないとダメだけど、結構な土砂とパネルなので護衛の人達が全員でやってもちょっと時間が掛かりそうだ。

 私も車を降りて見に言った。


 黒っぽいパネルで網が絡まっている。

 こんなもので干物を作っても儲かるとは思えないけど損をしていないのなら、、、。


 お兄さまがパネルの裏にとても小さく魔法文字が刻まれていると見つけた。


 えーと、


『マレディクタ テーラ。マレディクトス ビーベンス。フィエリポルータテルス クワエデボラス ムートワ』


 えっ! これ


『呪われよ大地。呪われよ生き物。互いに喰い尽くし穢れた土地となれ』


 だ。

 これ呪いの黒魔法だよ。こっちのパネルにも同じ黒魔法がかけられている。


「ウルリヒお兄さま!!」

「えっ? 何??」


 あれ? えーと、いや、もしかして勉強が遅れていてお兄さま読めないのかな。

 こ、ここはスルーしておこう。


「トンデモない黒魔法の呪文が書かれています」

「何だって!」


「どうしたソフィア様」

「大叔父様! このパネルはダメです。この土地や生き物に対して黒魔法の呪いをかけています」

「何じゃと!」


 ノアさんが物凄く青い顔をして、


「こ、こんなのが沢山、、、ウルサも狂暴になって人里に降りて来ているし、この辺りは人熊(じんゆう)も多くて滅んだ村もあるそうなのですが、、、」


 恐らくどちらもこのパネルのせいだと思う。


 山肌に並んだパネルを見ると、所々崩れている。

 木を切り取って並べているんだからそんなの当たり前だ。

 でもこんなに沢山の呪いを受けているなんて、、、。

 嫌な感覚の正体はこれだったんだね。


 山間から人が出て来た。

 何人もいる。

 

 うぇ~。

 私のダメなやつだ。

 これゾンビだよね。


「姫様。お下がり下さい。人熊(じんゆう)です!」


 あ、あれが人熊(じんゆう)


 あわわわ。私は車の中に退散した。

 ランハートさん達が剣を構える。


 いや、その人達村人だよね。


「ランハートさん、村人ですから殺さないでください」

「えっ! 人熊(じんゆう)は人狼と同じく火刑ですよ」

「このパネルのせいだと思うのです」

「ど、どうやって、、、」


 あ~、もうやりたくないけど私は親方に作って貰った方の刀を出してもらいもう一度車を出た。


「ランハートさんの剣は両刃なのでみねうちは出来ませんね。なので鞘に入れたまま柄の方を使いましょう」


 私がお手本のようにこちらにゾンビのように向かって来る人熊(じんゆう)に対して柄だけで対処した。

 とても背が高い人だったのでみぞおちに入れてから頭が下がった際に喉を突く。

 喉を押さえて倒れた。痛みは普通に感じるんだね。


「こんな感じで的確に急所に柄を当てて対処してください」

「は、はい」


「お、おい、ランハート。こんなのやった事がないぞ」

「柄も剣の一部だ。我々が扱えないなどないだろう」

「判った」


 ハッ!

 フッ!


 うんうん、最初こそ戸惑っていたみたいだけど呼吸を吐きながらの突きもほぼ正確になってきたね。

 うん、このゾンビ人熊(じんゆう)さん達は任せようw。


 車に戻りノーラにノート(白本)を借りて白魔法のおまじないを作る。


『リペレ マールム エテダ ミーヒ スピリトム サンクストム ~ベオーク~』


 邪悪を退け聖なる息吹を与えたまえ~浄化~と言う呪文をいくつも書く。


 定規でそれぞれを切ってノリを貰う。


「マルテ、ノーラ。手伝ってください」

「「はい」」


 車を出て呪文を唱える。


『~ノニントレビット~』


 ポゥ。


 日光が当たった白い紙がより光ったように見えた。


「これをあそこのパネルの黒魔法の書かれた隣に張り付けてください」

「判りました」

「はい」


 ノーラとマルテが順に張り付けて行く。

 私も、、、。


 黒魔法の隣に貼るとこのパネルの嫌な感じが消えて行った。


「ヘルムート。この対処の終わったパネルを一枚車に積み込んでください」

「畏まりました」


 なんかミスリアは凄く怒っている顔をしてたからそのまま私の護衛だけにして貰った。


「ソフィア。凄いな。嫌な感じがなくなったよ」

 

 私は大叔父様に聞こえないようにとても小さな声でお兄さまに耳打ちした。


『お兄さま。これ貴族学院の授業で習ってますよ』

『そ、そうなのか。ソフィアは優秀だな』


 いや、全員習っているはずなんだけど、、、。


 カーマインさんがパネルを土砂の手前に立てて車で押して土砂も片付けた。これ馬車でここを通ってたら相当土砂で時間もかかったね。


 出て来たゾンビ人熊(じんゆう)も対処が終わったようだ。

 

「大叔父様。クマの餌がなくなっているのも事実でしょうけど、この呪いで互いに喰い尽くし穢れた土地となれとトンデモない黒魔法になっています。グレグリスト伯に報告して改善が必要だとお伝えしなければなりません」

「国も絡むこんな話であったのだな。判った、わしに任せてくれ」

「お願いしますね」


 人熊(じんゆう)もここで処分したり連行したりしないで黒魔法によるのではないかと説明して回復して貰えたら嬉しいけど多分、、、。


 再度ルーファスの街に進み、途中クレーデル商会の馬車がクマに襲われていたので助け、所々パネルが崩れているのを避けてようやくルーファスの街についた。


 私達はゲートルード様が蟄居しているグレグリスト伯の別宅へ向かい、大叔父様はパネルを持ってモルキッソのグレグリスト伯の館へ向かった。


 ゲートルード様の館へ着くとマレーネさんじゃなくてメアリさんという若いメイドさんが出て来た。

 私が大叔父様を追って直ぐにモルキッソの街へ行かないといけないと説明するとゲートルード元王妃とエルフリーデ様がドアの外に並び私とお兄さまに深々と頭を下げた。

 ゲートルード様は少し痩せたかもしれないけど顔色は良かった。


「こちらが取り引きをお願いしますエルフリーデ署名の取引書になります。どうぞよろしくお願いします」

「わかりました。氷室の技術や蒸気車をこちらから提供させて頂き円滑にお取引が出来るようにお父さまにお伝えします」

「ありがとうございます。そしてマレーネの事ですが、、、」


 カチャ。

 旅支度をしてマレーネさんが出て来た。

 年をとってもカッコイイ人はやっぱりカッコイイ。


 うんうん、男女も年齢も関係なく、勉強したいっていう人は私は応援しちゃうよ。


「はい。お任せ下さい。ルントシュテットでマレーネさんが困らないようにわたくしの方で対処させて頂きます」

「ソフィア様。よろしくお願い致します」

「はい。沢山学んで頂いてゲートルード様達に美味しくて健康的なお食事が提供できるように頑張りましょう」


 私達はマレーネさんを乗せモルキッソの街へ向かった。



 少し考えただけでもやる事は沢山ある。


 もうすぐ二年生になれば私の婚約者のオスカー様も貴族学院に来るし国を考えれば発展なんてまだまだだよ。


 でも大変でもくじけないでいつでも顔を上げて前を向いて行こう♪



 以前から読んで頂いている方々はご存知ですが、人気がない為ここで打ち切りにした回ですw。

 今は残っていた話も追記して第二部も始まっていますが、やはり人気がないのは変わりないですねw。


 次回:数百年後の歴史学者のルントシュテットの考察のお話。

 多くの事象は時の経過と共に正しくは伝わらなくなります。


 なんか予想外に結構ご要望が多いようなので二部も適当に開始ますね。

 次の章は多分かなりヤバイ話になると思いますw。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々な方の物作りの話を読み鍛冶職人の話も好きなのですがルーニックさんのように詳しく判るように日本刀の作り方をリアルに書いている方はいません。 これを読んでからは他の方の刀作りが偽物のように…
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