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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第十章 夢の聖剣
101/129

人ならざる者/トライポッド

 アルフビートの貴族から『人ならざる者』について詳しく聞きゾームの樹海に行くソフィア達。

 巨大な三脚器の自動人形にやられ『もう嫌だ』と思い始める夢美!

 果たして!

 大叔父様の昔馴染みだというアルフビートの貴族の館に向かって出発する。

 アルフビートの街はかなり大きくて貴族の館はアルベルタという北にあるからサスカッチの街から抜けて来たここの位置からだとルントシュテットで言えばブランジェルからリバーサイズ位まで距離がある。

 北上するんだけど道が良ければスピードが出せるけど同じ街の中なのに一日くらいだね。


 夏なのにあちこちの山の上には雪がちらほらと残り、森林や湖の大きなものが沢山ある。自然が豊かで水が綺麗なので地酒が美味しいらしくて大叔父様がとても嬉しそうにそれを話してくるよw。

 畜産が盛んで根菜も有名な土地なんだけど、私が嬉しいのはメープルシロップが沢山取れるという事だ。

 いやー、今からパンケーキやフレンチトーストの事を考えると私もちょっと嬉しくなっちゃうよw。


 もう相当北に来ている。昨日の夜遅くに見て感動した満天の星がとても綺麗だったけど、朝、日が出るのが異様に早いんだよね。真夏なのに気温も夜は恐らく10度以下だと思うし昼間も20度はないかと思う。

 夏はとても短いそうだけど天気は殆ど晴れているらしい。雲も少なく空が綺麗だ。

 でも今、窓から取り込む空気も美味しくて息を吸い込むととても気持ちがいい。


 サスカッチで見たようにクマが近くまで出て来るような事は少ないけど、道の脇にある森林には鹿(チェルブス)や大型のヘラジカ(アルチェス)なんかが見えるよ。

 牛みたいなパイソン(パイトン)もいる。


 なんか私の感覚だと野生動物公園のようで正直感激なんだけど、地元ではそうは思わないんだろうねw。

 あんなのが走って近づいて来たら怖いからね。


 ヘラジカ(アルチェス)なんて普通に大人の身長よりも大きいよ。重さも相当ありそうで昨日見たクマと同じ位かもしれない。


 そこまで高速で走っている訳ではないので飛び出して来る鹿などを避けながら綺麗な景色の道を行く。

 でも結構飛び出して来る動物が多いから危ないね。


 それでも気持ち良く車を進めていると小さな村ヴァルキリーへ着いた。


 ノアさんによるとこの先の大き目の村エルギントンまでは相当距離があって途中の小さな村ルーベル・チェルボルムには食事が食べられる所はないのだそうだ。

 まあ観光地じゃないからね。

 ノアさんはエルギントンまで行くとお昼を相当過ぎてしまうからこの村で食材を調達する方がいいという。

 クルト達と一緒にノアさんに案内してもらう。


 大叔父様やランハートさん、レイモンドさんも身体が大きくてやはり肉が好きだ。

 こういう村では普通は手に入りにくいんだけど、さすがグレグリストは畜産が盛んなだけは有ってお肉は一応買えたよ。でもやっぱり結構硬いお肉だ。

 冷蔵設備がある訳ではないのでタイミングが悪いと干し肉しか買えないのだそうだ。


 以前ルントシュテットのブロンベルグのドイツ料理でのお肉の呼び方をご紹介させてもらったけど、こっちの一般的なのは牛はヴァッカ、牛肉はブブレと言うよ。鶏はプールムで鶏肉はプルンチブムだね。家畜をお肉にするのは痩せこけて年老いたのばっかりなのでやっぱり硬いのは仕方がない。

 勿論脂身もあるから牛脂も買う。鶏肉も硬そうだけど沢山買いましたw。

 なんか途中で見たパイソン(パイトン)の方がお肉が柔らかそうだった。


 根菜といっても日本のような見事なものではないけどジャガイモ(アヌーム)やニンニク(アリューム)、玉ねぎ(シェーパ)なんかがあったよ。白い人参もあったけどこれはいいかなw。


 そんなに高い訳ではないけど、こういう村だと現金収入が嬉しいようでとても喜ばれたよ。

 食材は買えたけどこの村ヴァルキリーは他には何もなかったよ。

 まあ田舎だし仕方ないよね。


 ノアさんに聞くと、次の村ルーベル・チェルボルムの近くに2つのラルスラークスとシルバイラークスという大きな湖があってその各湖の南側に小さな集落があるそうだ。その集落の近くにどちらも休める場所があるからそこでお休みするのが良いですと聞きさっそくそこに向かった。


 先の方にあったラルスラークスの方にして直ぐに着いたよ。

 結構大きな湖でやっぱり景色も良かった。

 お昼を一から作るので一旦蒸気機関を切って食事の準備を始める。


 大叔父様や護衛の人達はその辺を見て来てくださいね。

(多分直ぐに練習を始めそうだけど、、、)


 さて、クルトと相談してどうしようかという事になったんだけど、昨日はルーロー飯だったけど今朝はおにぎりとお吸い物と浅漬けだけだったので今回はがっつりとお肉を楽しんでもらう為にステーキと唐揚げにしようかと思う。

 付け合わせはジャガイモと青菜だね。


 ここまで硬いお肉だとそのままだと私では嚙み切れないくらいなんだよ。

 ご飯を炊きはじめ油にも火を入れる。

 ジャガイモをふかしてスープ用の鍋も鶏を煮込んで用意する。


 クルトに頑張って貰ってw、フォークでお肉にめっちゃ沢山穴を開けてもらう。パイ生地よりも沢山でなんかお肉が切れそうなくらいだよw。

 以前私が『こうやって沢山開けるんですよ』って実演してみせたら、別にお肉が憎い訳ではないんだけど、私がめっちゃすごい勢いで開けてたらしくて『姫様、なんか怖いです』と言われた位一生懸命穴を開けるw。


 私がフォークで猟奇的にはぁはぁ言いながら穴を開けてる姿w(妄想)

 

 ニンニクをすりおろして牛脂を混ぜて大量のお肉に揉み込む。一生懸命揉み込むと沢山開けた牛肉の穴に牛脂とニンニクのすりおろしたのが入り込むからこのまま暫くなじませるよ。


 その間にボールにお水と砂糖を入れて砂糖水を作り、買って来た硬い鶏肉を唐揚げの大きさに小さく切って砂糖水に漬け込む。


 大体20分くらい漬けるんだけど、油も温まって来て丁度いい感じだね。

 砂糖水につけて水っぽくなったのをフキンで水気を取る。

 しょうゆ、お酒、おろししょうが、おろしにんにくで作ったタレに移して軽く下味をつけて、所々残る皮の部分をお肉に巻つけて俵状に成型して並べて行く。ビローンって出ちゃってる鳥の皮もここで上手く巻き付けるよ。これで端っこの方がビローンって飛び出ちゃってる変な唐揚げにならなくて食べやすくなるよ。


 今日は小麦粉とカタクリを半々位でまぶして適温の油で揚げる。

 この人数だからかなりの量だよ。

 私の場合は3~4分くらいで一旦出して余熱で中まで火を通してから油を高温にして表面を二度揚げする。

 

 硬い鶏肉は茹でて調理したり、玉ねぎを混ぜたりしても柔らかくなるけど、今日の唐揚げはこの砂糖水に漬けておくやり方だと唐揚げのお肉がとってもジューシーになるよ。

 

 付け合わせは青菜(ほうれん草)を少し塩を入れた鍋でゆがいて出汁で味をつけポテトを簡単に潰す。

 玉ねぎをすりおろして、ニンニク、醤油、みりん、砂糖、水を使った和風ソースにしよう。

 スープは鍋で茹でた鶏をほぐして味を整えコーンを入れてカタクリでとろみをつけたコーンスープ。

 ご飯も炊けたのでさっき牛脂とニンニクを揉み込んでおいた牛肉を焼く。

 マルテとノーラにお昼が出来たとみんなを呼びに行って貰うよ。


 牛肉の柔らかステーキとジューシー唐揚げのお昼だよ。

 うんうん、お肉が硬かったのでちょっとクルトに頑張って貰ったけど美味しそうに出来たよ。


 キャンピングカーのテーブルを出してお外で綺麗な景色を見ながら食事してって最高か!


 大叔父様が神に食前の祈りを捧げて食事を始める。


 お肉は、、、うん、柔らかく出来たよ。安かったけど食感も高級肉みたいだw。

 唐揚げは凄くジューシー!! 肉汁が溢れてるよ。


 美味しい!


「ソフィア様。今日の肉もとても上手いな」

「はい、美味しいですね」


 大叔父様も高評価だね。


 中でも美味しいと驚いていたのはランハートさんとレイモンドさんとノアさんだ。

 ランハートさんとレイモンドさんは『うまいうまい』と言いながら野性味溢れる食べ方であっという間に平らげてました。

 おかわりもありますから遠慮しないでいいですよ。


 ノアさんはさっき一緒にお肉を買いに行ったのでより驚いている。

『あそこで買った肉がこんなに美味しくて柔らかいはずはないのですが、、、』

 と、不思議がっていたけど調理で少しはどうにかなるものなのですと説明した。


 はぁ、美味しかった。


 マルテとノーラに食後のお茶を入れて貰う。

 紅茶を少し飲んで景色を見た。

 少し肌寒いんだけどいい天気だね~。湖も広くて、、、


 ブ~~~!!


 私は紅茶を吹き出してしまった。


「ソ、ソフィア様!? どうされましたか?」

「いや、あれ! あれは一体!」


 私は湖の方向を指さした。


 湖の上に足漕ぎ式のスワンボートが浮かんでいる。


 えー。


 ここにはかなり似つかわしくなかったけど、私も小学生の時に舞ちゃんと知佳ちゃんと一緒に乗ったし、あれって昭和の時代に日本で流行ったものだよね。

 な、なんでこんな所に、、、。


「ああ、あれは領主の所の亡くなられたルーファス様が作られたそうですよ」

「幼い頃に亡くなったと伺いましたが小さい時に?」

「はい。とても優秀な方だったそうで本当に幼かった時に作ったそうです」


 成程、確かマレーネさんも優秀な方だったって言ってたけど、この似つかわしくないスワンボートは流石にちょっと驚いたよw。

 なんか私のイメージ的にはカヌーとかが使われているのかと思ったよ。


 後はアルフビートの貴族の館まで走るだけだけど、蒸気自動車に火を入れて貰い、運転しているカーマイン、ビアンカそれにオットーさんを呼んで『野生動物が飛び出して来て危ないから慎重にゆっくりめで行きましょう』と話し終わるとミスリアがやって来た。


「姫様、リバーサイズでも父上が蒸気自動車を購入したのですが、どうも野生動物が多くて先日も車の前に当たって結構前の部分が曲がってしまいました。今は修理をして貰っている所です」

「そうなのですね。野生動物が多い地方は気を付けて運転しないと大きな野生動物だと事故を起こすと乗っている人も危ないですね。そうだ、今度何か回避できるものがつけられないか考えてみますね」

「そんなものがあるのですか?」

「作れるかはまだわかりませんけど確認します」

「よろしくお願い致します。姫様」


 確か鹿避けの笛があったよね。車の走行の風で人間に聞こえない野生動物が嫌がる音を出すんだったと思うけど、プラスチックじゃないと作れないという事はないよね。

 全てじゃないだろうけど効果があるならやってみて損はないよね。

 細かな事かもしれないけどこの時代には必要だし気になる所は直して行かないとねw。


 馬車のスピードじゃ風圧ではダメだろうけど口で吹けばどうにかなりそうだよねw。

 子供達に任せると音がしない笛だと直ぐに飽きそうだけどw。


 美鈴先生と調べて考えてみよう。


 

 夕方エルギントンの街を過ぎ暗くなる頃にようやくアルフビートの街の貴族の館のあるアルベルタへ着いた。かなりややこしいけど、アルバータ・フォン・アルフビート男爵だそうだ。

 アルフビートの街のアルベルタに住むアルバータ・フォン・アルフビート男爵w。


 全員が車から下車して男爵に挨拶した。

 大叔父様とは旧知の中だそうで、爵位は違うけどかなり親しそうだ。

『ガハガハ』と大声で笑い合っているよ。


 私達もご挨拶を済ませて『食事の後に詳しく話しましょう』と言われた。

 なんか私に対しては流石に丁寧な言葉だったよ。

 大叔父様と仲がいいなら別に大叔父様相手のように馴れ馴れしくても良かったんだけどね。流石に公爵家だと難しいのかな?


 ご馳走になった食事はスープにつけないと食べられない硬いパンと子牛肉を焼いたもの、鳥の煮込み料理で猟師煮込みと言われるカッチャトーレというものだったけど子牛肉も柔らかかったよ。

 わざわざ結構栄養のいい子牛を大叔父様の為に用意したのだと言う。そんなの出来るの貴族だけだろうけど美味しかったです。大叔父様達はもうお酒を飲んでいる。この辺りは水が綺麗で美味しいお酒が造れると言ってたのを確かめてる?のだそうだw。


 ご馳走様でした。


◇◇◇◇◇ 


 私達はお茶を頂いてゾームの樹海について教えて頂いた。


「ゾームの樹海はマニウスセルブスラークスというグレグリストで二番目に大きな湖の北側にあるもので湖の大きさは長さ450km、幅は20km~230kmで迂回するだけでも馬車では幾日もかかります」

「おそらく蒸気自動車なら直ぐに行って来れると思うぞ」

「そんなに凄いものなのか」

「うむ」

「ではその心配はないな。幾日かかかるようならこの屋敷から通えば良いでしょう。ベンタスは準街で元はセルブス族という部族が住んでおった際の名前からマニウス(優れた)セルブスという湖の名になっています。その北側では金が取れてフラバスという街が生まれているが人はかなり少なく宿泊施設などもありません」

「キャンピングカーという蒸気自動車は車で宿泊する事も出来るのだ。なあソフィア様」

「はい。大丈夫ですけど食料などが買い足し出来ないと厳しいですからアルフビートまで毎回戻った方が良さそうですね」

「そうじゃな。それが良かろう」

「アルフビート男爵。話によりますとゾームの樹海は『危険地帯』であり『人ならざる者』が住んでいると聞いた事がございます。これはどういう事で何が住んでいるというのでしょうか?」


「うむ。良くご存知ですな。危険地帯でゾームの樹海に入る事は禁止されている為中の様子を知る者はかなり限られております。ソフィア様は聖典に書かれている人の始まりはご存知ですかな?」


 こっちの聖書のようなものだ。神が人を作ったとか書いてあるけど、、、。神様に聞いたら聖典は正しくないって言ってたけどねw。


「はい。少しでしたら存じ上げています『神は暗闇に光を作り昼と夜が出来た。天を作り、大地を作り、海が生まれ植物が出来た。太陽と月と星を作り、魚と鳥を作った。獣と家畜を作り、神に似せた人を作った』という話ですね」


「はい。でもそれは神が作った人の歴史を表したもので、実際には神はその前にこの地に住むものを作ったと神話に残っていますがご存知ですかな?」

「すみません、存じ上げていません」

「そうですか。時期は異なりますが『金の人種』『銀の人種』『青銅の人種』の3種族を作ったと言われています」


 人の歴史の前!?

 金とか銀とか青銅って金属だよね!? ロボット!?


「それはどんな人達ですか? 何によって動いているのでしょうか?」

「これも神話にもありますが、リオベムが現人類の前に「金の人種」、「銀の人種」、「青銅の人種」を造ったと言われています。金の人種が神に似せて作った高貴な人達で知性のないものが銀の人種、人の進化に合わせて作ったのが青銅の人種です。鍛冶の神ヘーパイストスもタロスという青銅の自動人形を作っています。この自動人形は敵がくれば身体から高熱を発して抱きついて焼き殺すという恐ろしい自動人形で身体の中に神の血イーコールが流れ、それにより動いていると言われています。踵にくぎのようなものが刺さっており、これを抜かれるとイーコールが身体から抜けて死んでしまうそうですが、そうでない限り彼らは永遠の命を持つと言われています」


 リオベムはとても偉い神様の一人だ。

 永遠の!? イーコールって何? 半減期のとても長い核エネルギー的な何か? それも永遠ではないけど、、、。


「永遠の命は凄いですね。イーコールはどんなものなのでしょうか? 人の血のように赤いのでしょうか?」

「イーコールは神の血と言われているもので神もしくは不老不死者の霊液とも言われています。ディオメーデースが女神アプロディーテーに傷を負わせた時の話が神話にありますが、この一節には『~血を拭う時しかく宣んして双の手をのし()()()()()()()~』とありますから透明の血ですね」

 

 透明ってつまり神もこれらの自動人形も酸素で生きてるんじゃない事は確定だねw。赤血球のヘモグロビンで酸素が運ばれてはいないんだよね。


「その際の青銅の人種がゾームの樹海を守っており入って来た人を殺すと言われているのです」

「人はそれに対抗は出来なかったのですか?」

「ドワーフ達が鍛冶の神ヘーパイストスに習い、三脚(トライポッド)で歩く青銅の自動人形を作ったと言われていますが、かなり大きなものですが見た者はおりません。噂では見た物は生きて帰れないからだと言われています」


 わきゃー、もうトンデモない話だよ。

 絶対に会いたくないね。人ならざる者って永遠の命を持つ核エネルギーみたいなので動く自動人形だったんだね。本当に核エネルギーだったら放射線の事を考えればもう近寄りたくも触りたくもないね。


 ちょっとだけ興味があるのが三脚で歩く自動人形だね。三本足でどうやって歩いているんだろうね?w


「判りました。詳しく教えて頂いてありがとうございました。明日からの探索では決してゾームの樹海に入らないように南側を探索したいと思います」

「はい、注意してくださいね。ではビッシェルドルフ様。この後ご一緒に飲みませんか?」

「うむ。わしも美味い酒を用意したぞ」

「それは楽しみですな、ははははは」


 ・・・。


 後は大叔父様に任せて私は明日に備えて寝ようと思ったらアルフビート男爵の側使えの方が男爵に耳打ちすると私に


「ソフィア様。少し寒いので上着を羽織って外に出て見てください。丁度綺麗なアウローラが湖の方に見えるようです」


 アウローラってオーロラの事だよね。


「はい。ありがとうございます」


 マルテが上着を用意してくれて私は嬉しくなって外へ飛び出した。

 もう結構な遅い時間だけど空はようやく暗くなって来たようで湖の向こうにとても綺麗なオーロラが見えた。


 マルテもノーラも息を吞んで空を見上げた。

 想像していたよりも大きくて夜空に壮大なスペクタクルが展開されている。

 オーロラの動きや大きさの壮観さに少し恐怖すら覚えるような美しい景色だった。

 湖にオーロラが反射して二重になっていた。


 ノアさんが、


「あれはドゥープレックス・アウローラという湖に反射したアウローラと二重に見えるもので湖が凍らないこの時期にしか見ることが出来ない珍しいものです」


 はぁ~。

 私は景色に感動して自然と涙が流れて来た。

 私、凄い所に来たんだね。


◇◇◇◇◇


 片神無 千里さんが歴史研究部に入部した。

 美麗は相当嫌がっていたけど文科系の部で入部したい人を断る方がおかしい。

 そして早速部室で発掘物の黒い刀を見つけて面白がっていた。

 あー早く私の家に持って帰るんだったよ。


「オーパーツとかエモい~」


 高一になった葛城部長からそう聞いたらしい。

 色々とあって私と美麗、そして神功先輩は青い顔をしてドキドキしていた。


「どうやっても抜けへんやん」(千里)

「九条さんなら抜けるのよ」(御手洗)

「やばたにえん、とりま抜いて見せて」(千里)


 新部長~!(三年になった御手洗さんが新部長だよ)

 私は仕方なく抜いた。(御手洗部長も知ってるから誤魔化せないよね)


 スラッ。


 千里さんが刀身を見てハッとした表情を一度見せてから手を出して来るので私は剣を引っ込め鞘に戻す。

 千里さんが鞘に収まった剣をもう一度抜こうとするけどまた抜けないようだ。


「何でしまっちゃうん? 抜けへんやん」(千里)


 刀身を出したままは渡せないよ。

 いやーこの理屈は流石に私も判らないからね。


「な、何でなんでしょうね」(夢美)

「もっかい抜いて見せて」(千里)


 スラッ。


「九条夢美本当に同じ人間? 人の姿をしてる『人外』なんじゃないか説」(千里)


 ギクッ! っていうかこの人やばいね。


「何その中二病設定、『人ならざる者』うける~」(神功 任那)


 神功先輩も陰キャなのにギャル!?


「みまっちはもう中三やんか。ねぇ、でもみまっちなんで?」(千里)

「勇者だから!?」(神功 任那)

「説あるコアトル。でこれ見つけたのどこさヘキサエン酸?」(千里)


 あがっ!!

 美麗と神功先輩と一緒に驚いた。


 ダメだ。このギャルの話を上手く切り上げて別の話題に、、、。


「九条さんのお母さまのご実家ですよ」(御手洗)

「何それ超エモい~」(千里)


 新部長~!

 美麗が慌てて話を遮った。


「今はご許可が頂けないから無理よ。オーパーツなのだからこれ以上考えても仕方ないでしょ」(美麗)

「でもこれ一人の人にしか抜けないとか魔法の剣の説あるコアトル」(千里)

「たまたま何かのコツが九条さんに出来ているだけでしょ。時間も無くなるから九条さんに返して御手洗部長のテーマ、神話の討論を始めましょう」(美麗)

「西園寺、面白かったのに強引。ダルおも~」(千里)

「なら貴方はもう帰りなさい~」(美麗)

「うぇ~西園寺のお嬢様マックス憤怒。ほらギャルピーして」(千里)

「「うぇ~い!」」


 パシャ!


 なんかギャルらしくなく三脚を立てたリモートの本格的な写真撮ってたよw。

 いつそんなの用意したの。


『ギャルじゃない!』(夢美)


 こちらの怒りや焦りを上手くかわすようなギャルだね。なんか怒りづらいよ。

 剣を返して貰って神話の話で一応誤魔化せたと思う。


◇◇◇◇◇


『こんな面白い話調べんでどうするんや。あの九条夢美っていうのを西園寺と任那で隠しているんやね。うーん超エモ~』


◇◇◇◇◇


 クルトに簡単におにぎりを用意して貰った。

 ゾームの樹海までは距離があるので朝早くアルフビートの街のアルベルタを出て移動しながら朝ごはんにする。お茶を入れた小さな保温ポットが役に立つよ。


 マニウスセルブスラークスという大きな湖を西廻りで迂回する。湖岸線がかなり長くやっぱり結構時間は掛かりそうだった。さらに北に湖が伸びていて難しい進路をノアさんに教えて貰う。

 こんなの案内のノアさんがいなかったら複雑な湖に足止めされて行き詰ってたね。

 

 暫くしてようやくゾームの樹海が見えて来た。

 このゾームの樹海は何故かまん丸の形に木が生えているようだ。

 ノアさんによれば外に生えた時にはその青銅の人種が出て来て切り取って整備しているのだそうだ。


 ゾームの樹海を迂回して南側に廻る。


 丁度真南くらいに来たけど、マジエの小さな家は見当たらなかった。

 取り敢えずキャンピングカーを止めて辺りを探してみよう。


 ここに来るまであれだけ森林の中に野生動物の姿や気配があったのに、このゾームの樹海にはまったく見えないし感じられなかった。鳥の鳴き声も樹海側には一切聞こえず湖側を飛んでいる。

 この樹海はまるで死んだ森のようだけど木々は生い茂っていた。


 天使のカスヨイヤが小さき家と言ってたけどまさか豆粒のように小さい訳じゃないよね。


 一応見つかってそこの人達と何か話せたら直ぐに話が出来るようにウエストポーチにヒヒイロカネを入れておく。かなり重いんだけどマルテもノーラも自分が持つとは言わない。流石にアドリアーヌ王妃から頂いたこんなに貴重なものに何かあったらと私以外は触れない感じだからね。


 一応探索しなければならないのでシュミット親方に新しく作って貰った刀を腰に差して護衛達と手分けして探す事にしたよ。

 クルトとマルテ、ノーラ、ハイデマリーはキャンピングカーで待って貰う。


 キャンピングカーから先の方へノアさんと大叔父様、ミスリアとヘルムートと共に向かう。

 右手に拡がる湖は綺麗だけど左手の樹海は音もなくとても不気味な感じだ。

 いや、耳をすませば樹海の方から変な音が聞こえた。


 大叔父様も気が付いたようで警戒しながら私と一緒に樹海の方を見た。

 

 ギー、カシャ。


 機械音だ。青銅の人種だっけ? 本当にロボットがこの中で動いているのだろうか?

 人類の前とかだと青銅なら普通は錆びちゃうだろうしエネルギーが持続するはずがない。


 近づいている感じで樹海の奥の草が揺れた。

 僅かな木漏れ日がソレに当たり見えた。


 !!


 仮に本当に青銅だったら鈍い銅のような色を予想していたけど白みがかった金色で全く錆びてなどいない出来立ての新品のような色だ!

 青銅に対してどんなメンテナンスをすればあんなに新品のような色になるんだろうと私はおかしな事を考えてた。

  

 青銅の人種が3体いるようで近づいて来たけどこの樹海の外までは来ないようだ。

 成程、でもお話の通りでこれは助かったかもだね。


 キー、ズズーン!


 !!


 突然凄い大きな音がした。


 音のした方を見ると樹海の木々の更に上、巨大な塔のようなものが見えた。


 大叔父様も驚いたように見ている。


「70エルス(約21m)、いや100エルス位はありそうだな」


 確かに日本で言えば巨大なクレーン車がクレーンを上空に伸ばしているのを下から見上げている感じだ。


 キー、ズズーン!

 

 えっ!

 塔ではなくて巨大なカメラの三脚のようなものでその足の一本が完全に樹海の外に出ている。

 しまった!

 地面をよく見ると樹海のあちこにに大きな円弧の筋が地面に描かれているけど完全にあの三脚の足が通った跡だ。向こうに止めてあるキャンピングカーが完全にその筋の上だ。


 私は咄嗟に身体強化と筋力強化を掛けキャンピングカーのこちらにいるマルテとノーラ、クルトに向かって走り出した。ハイデマリーは湖の方だ。三人は音には気が付いているけど巨大な足がその筋でキャンピングカーに向かってきていることには気が付いていない。


「何で樹海の外に出てるの!!」


 後ろから遅れてノアさんの声が聞こえた。


「身体は樹海の中で出ているのは足だけのようですよ」


 そんなの先に言ってよ! ってノアさんも見た事はないか。


 大叔父様やミスリア、ヘルムートも気が付いて走り出すけど私の半分くらいのスピードしか出ていない。

「マルテ、ノーラ、クルト! 巨大な足が迫っています! 逃げて!」

「えっ!!」


 ダメだ。気が付いたけど全く動けてない。

 私は必死に走ったけど全然間に合わず巨大な足がコンパスのように円弧を描きながらキャンピングカーを倒し、三人が衝撃で飛ばされた!


「マルテ! ノーラ! クルト!」


 ドサッ!


 かなりのスピードで自動車に追突されたように空中に飛ばされ三人共地面に落ちた。


 くっ!


 次の別の足が来る。

 地面に描かれた円弧の上にマルテが倒れている。


 巨大な足がマルテに迫り私はギリギリでマルテまで届いて、そのままマルテを左手で引きずり飛ばした瞬間、私の身体が巨大な足に打ちつけられた!


 ズガッ!!


 うっ!。


 自分の身体が宙を舞うのが判り、私はそのまま意識がなくなった。


◇◇◇◇◇


 くあっ!


 真夜中。日本のベッドの中だった。


 ぐっ。めちゃくちゃ痛い。身体の右半分にあの巨大な三脚の足が凄い勢いで当たって足も腕も顔もシビレと痛みで泣き叫びたい位だ。

 もう痛すぎて涙と鼻水が止まらない。


『ソミア。早く寝るのだ。樹海の中に飛ばされ奴らに連れさられているぞ』


 えー! そんなのこの痛さじゃ寝るの無理だって。


 これは日本の治療を受けている時間もないし自分で直した方が早い。

 私は力を振り絞って治癒魔法を掛けた。


 これは時間がかかりそうだけど、こんな事に時間を掛けてたらドロミス神の話ではソフィアが死んじゃうかもしれない。

 でも、この痛みは治さないと真夜中だけどもう一度寝るなんて無理だよ。


 んぁっ!

 左手を動かすだけで衝撃を受けた右側が痛い。

 私はこれまで感じた事の無い半身の痛みと止まらない涙と鼻水に魔法で治療しながら考えてしまった。


 私はなんでこんな痛い思いをしてまでやってるんだろう?


 夢なんだしもうそんなに頑張らなくてもいいんじゃない。


 たとえソフィアが死んでも、、、。


 ソフィアが死んでも、、、。


 ソフィアが死んでもいい!?


 それはイヤだ!


 これまでも何度も酷い目にあっても私は生き残る為にやって来たんだ。

 今は考えてる場合じゃない。


 どんなに苦しくても私は顔を上げて前を向かなきゃ!


 待ってて私、直ぐに治して行くからね!


 私は涙と鼻水だらけになりながらも必死に飛んでもない痛みだった右半身を治癒してそのままもう一度どうにか眠りについた。


◇◇◇◇◇

 

 ソフィアが連れ去られた先は、、、。

 ソフィアも夢美ももうどう考えていいのか良く判らない事態に陥る。

 サスカッチの問題が判明し対処に動く。前向きなゲートルード達を後押ししようとするソフィア。


 次回:誰か代りに説明して(^^;


 お楽しみに♪

 

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