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ドゥープレックス ビータ ~異世界と日本の二重生活~  作者: ルーニック
第一部 第一章 美味しい夢
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夢見が悪い

 ふぁ~あ、うーん、眠い~。

 あっ、しまった、ごめんなさい。えーと、、、。


 私の名は九条(くじょう) 夢美(ゆめみ)


 私のおじいちゃんはこの家の裏で何代か続く剣道場をやってるけど、父は体育会系ではなく、反抗期に勉強に励んだせいかおじいちゃんの願いとは違って財務省に務める役人で母は日本舞踊の先生をしている。兄は私立の有名校に通っていて妹の私から見てもとても優秀な兄だ。

 お家は大金持ちという訳ではないけど世間で言う『中の上』という位じゃないかと思う。


 私、寝るのが大好きなんです。子供には必要ないけど私が履歴書を書いたら趣味に寝ることって書いたと思う。寝るの嫌いな人っていないよね。本当に寝るって気持ち良くて両親に柔らかいお布団と気持ちいい枕を買って貰ってからは睡眠時間も長くなってぐっすり。私のお年玉やお小遣いは快眠グッズに消えてま~す。朝の微睡(まどろ)みも大好きで、父は私の名前は「夢のように美しくなるように」って付けてくれたって言ってたけどこの頃は「寝過ぎていつも夢を見てる夢見だね」とか言うのってホント失礼しちゃうよ。



 当時、小学生だった私はお勉強が嫌いな普通の小学生で忙しい両親の代りに夕食なんかを作ってくれるお手伝いさんの沢さんとお買い物に行くのが楽しみだった。沢さんは料理の達人で学生の頃生物資源学部の食品栄養学科という事を学んだといういわば私の想像できないくらい凄い本物のプロだね。沢さんと買い物に行くのは私がお勉強から逃げる為だなんて大きな声では言えないけど。


 私の記憶にはなんとなくしか残っていないのだけれど幼稚園の頃、夏休みに母の実家へ遊びに行った際に行方不明になった事がある。後で周りの大人達から説明を聞くと、川の側で遊んでいる時に小さな崖のような所から落ちて恐らく穴のような所にすぽっと嵌まってしまい気がついたら母に抱き抱えられていた。その穴のような所にいた時はとても暖かい記憶だけが残っていた。正直良く覚えていないんだよね。行方不明になってから見つかるまで2日も経っていたそうだ。


 その頃からだと思うけど、私は不思議な夢を見続けていた。


 何年かそれが続くとどうやら夢の中では私が赤ちゃんだった事が判った。しばらくして離乳食が始まり、口元に運ばれるあまり美味しくないお芋やニンジンを『いやだなぁ』と思いながら食べて夢の中なのに何度も寝ていた。これが離乳食である事が判ったのは沢さんに食事内容を説明して聞いたからだ。


 さらに時が過ぎて夢の中の私が歩けるようになると部屋の中で一日中アニメに出て来るようなメイド服の女の人と遊び、夕方になって夕食を食べた後、夢の中の父と母、そして恐らく兄弟達に挨拶して部屋に戻って寝る事を繰り返した。何故かずっとこの夢なんだよ。


 でも私って凄いよね。海外で生活した訳じゃないのに日本語の他に別の国の言葉も大分判るようになってるんだよ。バイリンガルだよバイリンガル。でもどこの国なのか判らないんだけどね。

 そこでは私は『姫様』か『ソフィア』と呼ばれていた。


 メイドさん達にようやく外に連れて行って貰えるようになって綺麗なお庭に出ると私は初めて夢の中の私が住んでいる所が見えた。お城だ! わ、私のお家はお城だったんだ。


 とても驚いた私はその夜の夕食の時、日本の母に夢の話をした。


「夢美は小さい頃お姫様に憧れてたでしょう? そういう憧れを夢で見るのよ」


 うーん、、、。

 私はそうなのかなと思って小さな頃を思い出すと、確かに童話や本でそういう物語をいくつか読んだ事はあるし、その時に憧れていてもそんなの全然不思議じゃなかったよ。


 でもこの前友達のチカちゃんやマイちゃん達に帰りにあまりに長い夢について聞いたけどチカちゃんは

「私もこの前南の島の夢を見たの。白い砂浜でとっても綺麗なの。でも水際に走って行ったら目が覚めちゃった」


 マイちゃんも

「わたしもお花見の夢を見たんだ。春のお花見楽しかったんだもん。でも直ぐに終わっちゃって起きたら美味しいお団子食べたはずなのに味もあんまり覚えてなかったよ」


 たっくんは

「俺の夢は空を飛べたらカッコイイなと思ってたら本当に夢で飛べたんだ。『あっ』って声を出すと飛べると思って『あっ』って言ったら、地面すれすれなんだけどすいーって飛べたんだぜ。楽しかったけど俺も直ぐ目が覚めちゃったよ」


 地面すれすれって、それは空を飛んだって言うんだろうか?


 だとしたらとてもおかしい。私の夢の中では少なくみても8時間位は生活している。夢の中の私が夜に眠らないと日本の私は目が覚めないのだ。


 美味しいお団子? 私の夢の中で食べるご飯はとても不味い。

 サラダなんてキャベツっぽいのも大きくてナイフで切って貰ってから美味しくないソースで食べるんだよ。全体的にパンが硬くて大きくて小さな私だとほぼパンでお腹を満たす位だしスープも塩味ばっかでクタクタの野菜でとても不味い。あれは茹でて柔らかくなった野菜を塩のスープに後で入れたんだと思う。

 良く焼かれ過ぎてコショウばかりが多い目玉焼きのようなものが一番無難なものだと感じている自分がちょっとかわいそうだと思うくらいだ。

 

 私が「自分の夢はとても長い」という事を話すと「そんな長い夢は見たことないよ」と少し残念な顔をされた。私が異常な(おかしい)のだろうか?


 仮に私の夢がお姫様やお城に憧れての夢であればみんなの夢と同じようにもっと私の望んだようになって欲しいと思う。でも私のお城の生活やお姫様の幻想はトイレのおまるや不味過ぎる食事でことごとく夢が砕かれたのだ。


 寝るのは気持ちいいんだけど、不味いご飯を毎日食べる夢を見るという事はこれはもしかすると『夢見が悪い』というのではないだろうか?


 そうだ!


 毎日不味いご飯を食べる苦痛を無くすには夢の中で私がご飯を作ればいいんじゃない?

 上手く作れなくても今の不味いご飯よりはいいと思う。流石にそのままでは出来ないので沢さんにお料理の作り方を相談する。


「そうですね。まず出汁ですね。小魚や鳥の骨なんかでもいいですし干しシイタケなんかでも美味しいですよ。美味しいパンもお教えしますから一緒に作りましょう」

 とスーパーでパンを作る為のものを色々と揃えて行く。

 沢さんが製パンのコーナーでドライイーストを手にすると私は

「沢さん、そうじゃなくてそのドライイーストを自分で作るにはどうしたらいいんですか?」

「えっ、そ、そこから、、、判りました。私に任せてください。生イーストを採るにはイチゴや干しブドウやリンゴがいいと思いますが、まさか干しブドウの作り方からでしょうか?」

 私がコクコクと頷くと沢さんは呆れる訳ではなく逆に嬉しそうに「じゃあそこから一緒にやりましょう」と小さなブドウを購入した。


 結構時間は掛かるかもしれないけどこれは私の長い夢の中の生活を少しでも良くする為のものだ。私は気持ちの良い睡眠を『悪い夢』ではなく少しでも『良い夢』にしたい。


 でも困ったよ。最近夢の中の4歳年上のウルリヒお兄さまとお城の外に遊びに行く事が多くなったけど小魚や鳥の骨なんて手に入りそうにないんだよね。勿論お兄さまの側近や私のメイド達から隠れて逃げて出かけている。

 夢の中では私は日本の私よりもさらに小さな子供でお菓子なんかもないからお兄さまと森や雑木林に出かけては木の実を取って食べたりする。恐らく夢の中の私は日本の私より5歳年下だと思う。


「父上や母上には内緒だぞ」

 と沢山あるクルミをお兄さまと一緒に拾って食べるのだ。ナッツ類の美味しさは日本でも同じで夢の中でも一番美味しいんじゃないかと思う位だ。私はようやくクルミを一人で上手く割れるようになってきた。


 これもクルミだろうと石の上で割ってみるとそれは薄皮が黒くなっていたけど食べれば一緒だよねと思って口にすると、、、。

「うぇっ!」

 口の中で粉のようになって驚いて吐き出した。

「ソフィア!」

 お兄さまが慌てて駆け寄る。

「あー、これはハズレだよ。食べられない訳じゃないんだろうけど、ほら外の殻が少し赤っぽくなってるだろう?」

 確かに他のクルミとは違うけど、、。

「これはサーヤの実と言って、まあイグランディウムのハズレだね。頭が良くて結構厄介な鳥がこの実を好んで食べるんだけど普通は人は食べないよ。ソフィア、口を開けて見せてごらん」

 ここではクルミの事をイグランディウムと言う。

 私はお兄さまの言う通り口を開けた。


「あーん」


「あーっははは、ソフィアの口の中が真っ黒だぞ」

 お兄さまがお腹を抱えて笑い出した。

 どうやら黒い粉のようなものは口の中で溶けて、今は口の中が黒くなっているらしい。


 私は少し恥ずかしくなって口の中に残った味をツバと共に吐き出した。薄茶色だった。


 ん? 余り味は感じないかなと思ったけど良く口の中を味わってみるとこれはなんとなくコクがあるよ。上手く言えないけどなんかの味に似てる? いや似てない? 良くわからないや。


 その日はお兄さまと美味しそうなブドウとブルーベリーを沢山取ってお城へ戻った。


 私は自分の部屋へ戻るとさっそくメイドのマルテにお願いして一緒にブドウを房から外してボウルに水を満たし、塩を入れて良く洗い、トレイのようなものに並べて天日干しにして欲しいとお願いした。

 マルテは天日干しを知らないらしく私は数日間でいいから昼間に太陽に当てて洗濯物のように干して夜部屋に入れて欲しいとお願いした。

 マルテは「姫様、こんな美味しそうなウバエを食べないんですかぁ」と不満気だったけど私の願いを聞いてくれた。ウバエは葡萄の事だ。


 出汁は自分で取れるとしたらシイタケかな。でも毒キノコと間違える事も多いんだよね。私は日本のネットで詳しく調べて沢さんにも色々な話を聞いてようやく夢の中で雑木林の中の朽ちかけた倒木にシイタケを見つけた。

 間違えない。似た毒キノコであるツキヨタケや他の似たものとは違いシイタケであることを確認出来た私は嬉しさのあまりスカートにこんもりと持ちきれない程収穫した。

 こっちでも食べられるキノコは普通に料理に使われたりもする。あまり美味しくはないけど、、。

 シイタケもマルテに手伝ってもらい軽く洗って水分を拭き取ってから石づきを切り落とし5~6mmに切ったものとそのままのものを作ってこれも「風通しの良い所に干して欲しい」とお願いした。


 一週間くらいしてマルテが

「姫様、美味しそうだったウバエがシナシナにしおれちゃいましたよ」

と悲しそうな顔をして干しブドウとブルーベリーを持ってきた。


 やった! 出来たよ。


 いやいやいや、マルテ。それでいいんだって。

 私は試しに一つをひょいと摘み口に入れた。


「ひ、姫様!」


 もぐもぐもぐ。


 美味いよ。これだけでもおやつになりそうだよ。干す前に少し酸味があったけど甘味も増しているしコクも凄く出てる。


「大丈夫ですよ。マルテ。あなたもお一ついかが?」

「ほ、本当ですか。では失礼して、、、」


 マルテは恐る恐る手を出すが口に入れてからが速かった。


「姫様、とても美味しいです。これは一体なんですか?」

「いや、なんですかって、マルテが作ってくれたレーズンじゃないですか」

「は、はい、そうですね。もう一つ頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい、勿論。美味しいですよね」


 パクパクパク。


 最初に作ったレーズンと干したブルーベリーは私とマルテのお腹の中に消えた。


 でも美味しかったから今日は気持ち良く眠れそうだよ。そう考えた時、私はもしかして美味しい食べ物よりも先に快眠グッズだったかもと思って想像したらそのまま眠りについた。



「姫様! 姫様!? どうしました? うん? はぁー、びっくりした。疲れて寝ちゃったんですね。ソフィア様は本当に寝るのが好きですね。幸せそうで可愛い寝顔だわ。うふふ」

 



 ドゥープレックス ビータを始めてしまいました。

毎週もしくは隔週で更新出来たら良いかと思っています。

よろしくお願いします。


 次回、ソフィアがやっと料理が作れます。

 お楽しみに。

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