人を顔で判断してはいけません
星歴1230年の初夏。
私、シャミィは幼い頃に母を亡くし、父によって男手一つで育ててもらっていた。
ある日、父の手伝いで薪を取りに二人で山に入った私だったが……
「さぁ、どうするんだお嬢ちゃん。親父さんを助けるにはお前が頑張るしか無いんだぜ?」
「ううっ……」
ボロボロの姿で猿轡を嵌められた父が椅子に縛り付けられている。
父を縛り付けたバルキンという大柄な強面の男は私をじっと睨みつける。
「うぅ……ひぐっ……できないよ……」
「泣いてたってどうしようもねぇだろ!いいのか?このままじゃ親父さんがどうなっても知らないぜ?」
「そ、そんな……………わ、わかりました。あなたの言う通りにします。だけど、せめて父に見られたくは……」
「そうかい。それじゃあこうするか」
バルキンはそう言うともがく父に目隠しをする。
これから行われる行為を父に見られたくはない、
「それじゃあ、お嬢ちゃん。覚悟は出来たな?」
「…………はい。覚悟は、出来てます」
そして……
「ひ……ひぐっ……」
「こらっ!何をしている!そんなんじゃだめだろうが、もっと真剣にしろ!父親がどうなってもいいのか!!」
「は、はいっ!!」
泣きながら私は必死に身体を動かす。
父が涙を流しながら暴れているのがわかる。
ごめんなさい、お父さん。でも私は……
時間にして一時間も無かった。
だが、このおぞましい行為は永遠に続くようにすら感じられた……
□
「ふぅ……これでひと安心だ。よく頑張ったなお嬢ちゃん」
「…………これで父は大丈夫なんですか?」
「ああ、毒で腫れている部分は斬り落として焼いて消毒もした。親父さんを負ぶって行ってやるから医者に診せてやろうぜ」
山に入った私達はベノムサラマンダーという魔物に遭遇してしまった。
父はその魔物に噛まれ毒に冒されてしまったのだ。
下山しようにも身体が上手く動かないらしく途方に暮れていた所にバルキンさんが現れ自分の山小屋に連れて行ってくれた。
そこで応急処置として毒でダメになっている部分を切り落とし火で消毒する事になった。
だが麻酔も無いので施術には激しい痛みを伴う。
バルキンさんは父を椅子に縛り付け私に身体を抑えておく様に言ったのだ。
父の眼を見ると思わず手を離してしまうかもしれないと目隠しまでしてもらった。
「本当によく頑張ったな。偉いぞ」
父を背負ったバルキンさんは私の頭をポンポンと叩く。
「こ、子ども扱いしないでください。これでも19歳になるんですよ?」
「わははは、俺はてっきりもっと幼いと思ってたぜ。悪かったな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんってまた子ども扱いを!私にはシャミィって立派な名前があります!!」
「わははは。そうやって怒っている内はまだまだ子どもだぜ」
3人は山を下っていく。
その先にある未来へ向かって。