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赤い髪のステラ  作者: ねむりにゃんこ
第九章 ファイヤースター
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6 運命の扉

「あっ、ちょっ、、、ちょっと待って。くっそー、消えちまった。幸運を祈るってなんだよ」


 騎士は慌てて周囲を見回したが、アンジェリーナの姿どころか、無数に浮かんでいた光すらも、どこかへ逃げてしまったのか一つも見えない。


 しかし、あれこれと考えている時間はない。


 遠くから、稲妻のような光を(まと)った宇宙船が近づいて来るのが見えた。


「さあ、とにかくみんな乗るんだ。どうやらボクたちには、他に道は無さそうだよ」


 ラルフの言う通り、とにかく今は船に乗って逃げるしか無い。


 ステラたちが大急ぎで船に乗ると、船はそれを待っていたかのように全速力で発進した。


 船と言っても、五人乗りのボートのような単純な造りだ。


 何ができるというわけでもなく、ステラたちは船の中でただ身を寄せ合うしかなかった。


 暗闇の中を静かに、しかし想像を絶するほどのスピードで、船は進んで行く。


「何にも見えないね」


 ブランが不安そうに言ったちょうどその時、後ろから眩しいくらいの光で船が照らされた。


 思わず全員が振り返ると、、、。


「くそっ、真後ろに宇宙船だ。気をつけろっ」


 ラルフがそう言うと同時に、船がグラリと揺れて垂直になった。


「ピロッ、ピロッ、ギーッ、ギーッ」


「ああっ、落ちるーっ」


 騎士が驚いてステラにしがみついた。


「騎士、体が船にくっついてるって、そうイメージするのよ。この世界ではイメージした通りになるって、そう人魚さんが言ってたわ」


「そうでち。ほうら、あたちは大丈夫。何があっても地球に帰るでちよ」


 シエルは進行方向の一番前にちょこんと乗って、羽を広げてピロロロロピロロロロと鳴いた。


 体は小さいけれど、強気のシエルらしい姿に、騎士の気持ちも少し落ち着いてきた。


「おうっ、ここでやられてたまるか。〝体が船にくっついてる”。くっついてる、くっついてる、、、」


 そこでまた背後からの強い光とともに、今度は逆側に船がグラリと傾いた。


「うわーーーーーっ」


「ブラン、大丈夫か?」


「うん、くっついてる、くっついてる、、、」


 ブランはラルフに応えながら、〝くっついてる”と念仏のように唱えた。


 その時、垂直になった船底のすぐ横を、青い炎のようなものが(かす)めた。


「今のが闇のエネルギーでちね、きっと」


「炎みたいだったな。アレに当たったら、光は消滅するってアンジェリーナは言ってたけど。オレたちは光じゃないから、当たったら燃えるのかな。鳥の丸焼き、、、」


 騎士がイタズラっぽい顔でシエルを見た。


「ピロッ、ピロッ、ギーッ」


「船は正確に操縦されているようだ。ちゃんと攻撃を()けてる。きっと大丈夫さ。さあ、最後の旅だ。絶対に地球に帰ってみせるさ」


 ラルフはそう言いながら、しっかりと立って、前方に広がる暗闇の向こうに地球を思い描いた。


「そうさ。永久にこの世界にいるなんて、真っ平ゴメンだぜ。まあ、その、料理は確かに美味かったけど、、、」


 騎士の口元がだらしなく緩んだ。


「もう、騎士ったら」


 ステラが思わずそう言って笑うと、みんなも一瞬、得体の知れない敵から攻撃されていることを忘れて、声を立てて笑った。


 しかしそれもほんの束の間、また船が大きく斜めに傾くと、進路を変えてグルリと旋回した。


「わぁーーーーっ」


 不意打ちを喰らって、ラルフが船の(へり)から飛び出しそうになった。


 青い炎が、ラルフの顔のすぐ横でスパークして、ラルフの顔が青く照らされた。


「ラルフッ」


 みんなが一斉に叫んだ。


「おっと、危ないところだった。何とか燃えずにすんだよ。フーッ」





 ステラたちは、何度も何度も数えきれないくらいの攻撃を受けながらも、素晴らしい船の力に助けられて、どうにか〝闇のエネルギー”に当たることなく、何とか宇宙の旅を続けていた。


 しかしそれも、もうすでに7時間を超えて、もうすぐ神殿を出発してから8時間近くが経とうとしていた。


「何かおかしくないか?行きは確か6時間くらいで到着したはずだが、、、」


 ラルフに言われるまでもなく、ステラはもう1時間以上前から異変に気づいていた。


「そうね。わたしもおかしいと思っていたんだけど、、、」


「船が道を間違えてるってことなのか、、、?」


 いつも威勢の良い騎士も、さすがに不安そうに言った。


 何せ真っ暗闇で、どっちにどう行けば良いのか、まったく見当がつかない。


 船だけが頼りなのだ。


「道を間違えているのかどうかはわからないけど、、、。でも、何度も何度も攻撃を()けて旋回したりしているから、きっとそれで時間がかかってしまっているのだと思うの」


 ステラがそう言うと、しばらくの間、全員の間に何とも言えない沈黙が広がった。


 しかし、考えている場合ではない。


 さっきから、ステラのハートアクティベーターは、残り時間があとわずかしか残っていないことを、ステラに告げていたのだ。


 それにも関わらず、どんなに目を凝らして見ても、敵の宇宙船が発している光以外、相変わらず暗闇が広がっているばかりで、どこにも光のカケラすら見つけることができない。


 ポータルはどこなのか、もう近くまで来ているのか、まだ遠いのか、ステラたちには見当もつかなかった。


 ―どうすればいいの?このままでは、、、。


 ステラは、胸の中に、最悪の事態が浮かんできて、息をするのが苦しくなった。


 このまま宇宙を彷徨(さまよ)いながら、命絶えてしまうのか、、、。


 ステラは、大きく息を吸い込むと、何か決心した様な顔でみんなに向き直った。


「時間がないの。多分、残りはもう10分もないわ」


 ステラはそう言うと、もう一度大きく息をした。


 ハートアクティベーターが残り僅かになると、ステラは全身に力が入らなくなる。


 その症状が、すでにステラに出始めていたのだ。


「10分って、じゃあオレたち、、、」


 騎士の言葉に、みんなも息を飲んだ。


「どうすれば、、、」


 いつも冷静なラルフが、力なく座り込んだ。


「ボクたち、どうなっちゃうの?」


 ブランも立っていられずに、ラルフにしがみついた。


「きっともう見えてくるでちよ」


 強気な言葉とは裏腹に、シエルの声は震えている。


「このままポータルが現れるのをただ待っていても、、、本当に現れるのかどうか、、、。何もせずに、ただ待っているなんて、、、そんなの、耐えられない」


「でも、ステラ、じゃあどうすれば、、、」


 いつも強気な騎士にも、名案は浮かんでこない。


 しかしステラは、ここで意を決したように、


「みんな、聞いて。こうなったら、もう方法は一つしかないわ」


 と言った。


「どうするんだよ、ステラ」


「何でもするでちよ」


 ステラの言葉に、一瞬みんなが色めき立った。


「瞬間移動よ。覚えているでしょ?あの時は出来なかったけど、でも人魚さんは、誰にでも簡単にできるって、そう言ったわ。みんなで一緒に、あのポータルに瞬間移動するのよ」


「でも、、、ボク、、、」


 ブランが泣きそうになっている。


「よし、そうだな。それしかない。ブラン、やるしかないんだよ」


 ラルフが自分の頬をブランの頬に擦り付けながら、優しくなだめた。


「あの人魚にできて、オレにできないことはないさ。よーし、やってやるぜ」


「誰にでもできるって、そう言っていたでちよ」


 ピロロロロピロロロローーー。


 シエルが自分を奮い立たせる様に、顔を上げて鳴いた。


「さあ、時間がないわ。みんな一緒に、地球に帰るのよ。いいわね?みんな、手を繋いで」


 とその時、また宇宙船の攻撃で船が大きく傾いた。


 青い炎が船に向かってスパークしたその時だ。


「光り輝くポータルを思い浮かべて。瞬間移動よ」


「えいっ」


 ステラが掛け声を掛けたその瞬間、ラルフも騎士もブランもシエルも、みんなが繋いだ手に力を込めて、ただただ必死にあの光り輝くポータルを思い描いた。


 そして、、、。


 次の瞬間、閉じた(まぶた)の上から強い光が降り注ぎ、ステラは恐る恐る目を開けた。


 目の前にあるのは、あの黄金の扉。


 そしてその扉は、ステラに向かって大きく開かれていた。


 ステラは、ファイヤースターをしっかりと胸に抱いて、開かれた扉に向かって夢中で飛び込んだ。


 続いて、ラルフも、騎士も、シエルも、そして最後にブランも、無我夢中で開かれた扉の中へと飛び込んだ。


「うわーーーーーーっ」


 喜び合う間もなく、何かを考える時間もなく、扉をくぐった途端、ステラたちは来た時と同じように、目が(くら)むほどの強い光で、何も見えなくなった。


 そして、今度は猛スピードで真っ逆さまに落ちていくような感覚に襲われた。


 つい一日前に感じたのと同じ恐怖。


「うわああああーーーーーーっ」


 ゴオオォォォォ。


 ステラたちは意識を失い、運命はポータルに託された。



読んでもらえてとてもうれしいです。

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