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赤い髪のステラ  作者: ねむりにゃんこ
第一章 転移
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3 地球転移

ドキドキワクワクほのぼの、そしてちょっとミステリアスを目指してます。

 楽しんでもらえるとうれしいです^_^


 チュリルはミャムを交換したその足で、ブナの木のファントームのブーヴァのもとに向かった。

 ブーヴァは転移を請け負う特殊な力を持ったファントームだ。


 ブーヴァに1000ミャムを支払えば、これで晴れて地球に行ける。


 チュリルは森の奥深く、ブーヴァの棲家へと急いだ。


 湖のそばにブーヴァの姿はあった。

 天を突くように高く伸びた枝に、緑のみずみずしい葉っぱが無数に茂っている。

 森の女王という呼び名にふさわしく、ブーヴァの悠然とした姿は、すべてを包み込むような大らかさを醸し出していた。


 ブーヴァは、森に溶け込む深い緑色のドレスに、漆黒の羽をつけている。

 

 ―とうとうこの時がやってきた。


 チュリルは少し緊張しながら、ブーヴァに近づいて行った。


「ブーヴァさま、こんにちは」


 チュリルはエメラルドのドレスを揺らしながら、クルクル回って挨拶した。


「だあれ?あんたは」


 ブーヴァの低くてよく通る声が返ってきた。


「チュリルといいます。地球に転移したいんです。1000ミャムを持ってきました。」


 チュリルはドレスをつまんで、うやうやしく少し体を沈めるようにして挨拶した。


「チュリル?」


 ブーヴァは少し考えた後、何かに気がついたように、ふーん、と言ってチュリルをまじまじと眺めた。


「黒チューリップのチュリオンの娘、そうなのね?だから地球に行きたいのね?」


 チュリルは、ブーヴァが父親のことを知っていてくれたという嬉しさと驚きで、頬を紅潮させながら大きく頷いた。


 しかしブーヴァは、チュリルの様子には構わず、


「父親の仇を打ちたいの?だったらやめておきなさい。」


と、厳しくピシャリと言い放ったのだ。


 ブーヴァは木の幹をを揺さぶり、葉っぱをならした。


 ザワザワ、ザワザワ。

 風が起こってチュリルの頬を撫でた。


「違います。仇打ちなんかじゃありません。」


 チュリルもここで諦めるわけにはいかない。


「取り戻したいんです。滅びた6つの星も、そしてパパも。全部取り戻しに行きたいんです。ファイヤースターの花を咲かせれば、滅びた星もみんな、愛と癒しの星として再生できるはずです。お願いです。地球に転移させてください」


 チュリルがそう懇願すると、しかしブーヴァはチュリルのその言葉には答えずに、話を続けた。


「ファイヤースターの種は全部で7つ。そのうちの6つは、花を咲かせる前に邪悪なエネルギーを浴びてしまったわ。邪悪なエネルギーのせいで、星もろとも宇宙の塵になってしまったのよ。あんたも知ってるでしょ?残りはあとひとつ。それが地球にあることは確かだけど、あんたには無理よ。」


 ブーヴァは、太い幹をゆすりながら、はっきりとそう告げた。


「あんたの父親のチュリオンは勇敢だったわ。でもそれでも、ファイヤースターを邪悪なパワーから守り抜くことはできなかったわ、悔しいけれど」

「いい?あんたがファイヤースターを咲かせようとして地球に転移すれば、それはすぐにヤツらに知れる。そうなったら、、、」


「ヤツらって、、、ヤツらとは誰なのですか?」


 チュリルがそう尋ねると、ブーヴァは何かを思い出しているかのように、ゆっくりと話し始めた。


「ファイヤースターの種を探し出して、愛と癒しのパワーを注ぐことができるのは、わたしたち愛と癒しの星、ブルームハートのファントームだけよ。ファイヤースターの種を探すことも、愛と癒しのパワーで育てることも、ファントームでなければできはしない。これまでわが星ブルームハートは、争いに満ちた星からの要請を受けて、強力な愛と癒しのパワーを持つ者たちを、戦士としてそれらの星に送り込んできたの。目的はもちろん、ファイヤースターの種を探し出して、花を咲かせること。そうして愛と平和の星へと生まれ変わらせることよ。」


 ブーヴァは視線を下に落とした。


「でもね、あんたも知ってのとおり、その目的が達成されることはなかったわ。ファイヤースターを探し出すことはできても、探し出した途端にヤツらが現れて、結局ファイヤースターは邪悪なパワーにやられてしまった。そしてみんな、、、宇宙の塵よ」


 ブーヴァはそう言うと、氷のように冷たく悲しいため息をフーッと吐いた。


「この宇宙にはね、愛と平和を求めるものたちもいるけれど、邪悪な力ですべてを支配したいと考える者たちもいるのよ。そういう者たちにとっては、ファイヤースターは脅威なの。あんたにだってわかるでしょ?」


「もちろん、わかります。だけど、、、」


 チュリルの言葉が終わらないうちに、ブーヴァは言葉を続けた。


「花を咲かせることを許してしまえば、たちまち邪悪なものたちは滅びるのよ。そしてその星どころか、これまで滅びてきた6つの星も、愛と平和の星として再生してしまうのだから。そうなったらもうヤツらは終わりよ」

「チュリル、いい?だから今このときだって、いつファントームがやってくるかと、ヤツらは地球の周りを監視しているはずよ。ファントームが種を探し出して、花を咲かせようとすれば、邪悪なパワーを使って襲いかかってくるのよ」

「ヤツらは、、、ファイヤースターの花を咲かせることを、絶対に許しはしないわ」


「でもっ、、、」


 チュリルがそれを聞いてなお食い下がろうとすると、その言葉を遮って、ブーヴァが静かに言った。


「わたしはもう誰も失いたくないのよ。あんたの気持ちはわたしにもよくわかるわ。でもわたしは、転移の請け負いなんて二度とやるもんかって誓ったのよ。さあ、悪いことは言わないわ。地球に転移するなんて考えは忘れなさい」


 ブーヴァがそう言い終わると同時に、背中についた大きな漆黒の羽から光が発せられた。

 チュリルが発せられた光の先を見上げると、そこには光のスクリーンが出現していた。

 そのスクリーンに映し出されていたのは、、、。


「パパっ」


 チュリルは思わず叫び声を上げた。

 そこには、チュリルの父親であるチュリオンの最期の姿が映し出されていたのだ。


 おそらくファイヤースターであろうと思われる植物の緑の葉っぱが、みるみる黒色に変色していく。そしてその変色していく植物に向かって、必死でパワーを送ろうとする父、チュリオンの姿がそこにはあった。


 チュリルが叫んだ次の瞬間、ファイヤースターはメラメラと黒い炎を上げて燃え盛った。

 なすすべもなく、チュリオンの驚愕の表情は、一瞬でどす黒い炎に飲み込まれていったのだった。

 スクリーンには、ただただどす黒い炎が、踊っているかのように、メラメラと大きく強く燃え盛る様子が映し出されていた。


「こんなものをあんたに見せたくはなかったわ。でも、わかってほしかったの。ファイヤースターを咲かせようとすることが、どういうことなのかを。さあ、もう恐ろしいことを考えるのは終わりよ。それよりも、このブルームハートをもっともっと愛と癒しに満ちた星にするために、あんたの力を貸してちょうだい」


 ブーヴァはそう言うと、背中についた大きな漆黒に光る羽を、ゆっくりとはばたかせた。

 その瞬間、ゴールドの粒の混じった淡いピンク色の風が巻き起こって、チュリルのからだをやさしく包み込んだ。

 

 ―なんという優しさなんだろう。


 チュリルは今まで感じたことのないほどの心地良さを感じた。


 風がからだのすみずみまで染み込んで、父親を失った悲しみも、さっき見た光景も、すべてが風に溶けて癒されていくように感じていた。

 風に包まれながら、いつしか悲しみは癒えて、チュリルの顔にはいつもの輝きが戻ってきた。


「ブーヴァさま!」


 チュリルの心は決まった。


「それでもわたしは地球に転移したいのです。お願いします。私を愛と癒しの戦士として、地球に送っていただけませんか」


 ブーヴァはチュリルの言葉を聞くと、やれやれというような表情になって、羽を羽ばたかせて上空へと上っていった。

 そして、


「みんな聞いて。チュリルが地球に転移するわ!」


 と声を響かせながら風を巻き起こした。


 ブーヴァのドレスの色と同じ深緑の風に、ブーヴァの声が乗って、ブルームハート全体をすっぽりと包んだ。

 こうして、チュリルが地球に転移することは、ブルームハートのすべてのファントームに知らされた。


「チュリル、よく聞いて。大切なことよ。地球に転移しても、姿は人間になるけれど、あんたは影であり幻、ファントームであることに変わりはないわ。命の源は今と同じ、ハートアクティベーターなの。地球上では、一度チャージすれば24時間生命を維持できる。でももしチャージできなければ、そのときはファントームの宿命として、光の塵となって宇宙に消えていくことになるわ。あんたにその覚悟はある?」


 ブーヴァの問いかけに、チュリルはしっかりとブーヴァを見返しながら、


「もちろんです!」


 と、きっぱりとこたえた。

 そして続けて、


「でも、どうやってチャージすればいいのですか?」と聞いた。


「花とつながればチャージされるわ。どんな花でもいいけど、ただし、必ず24時間に一度チャージすること。これは絶対よ。いいわね?」


「はい、わかりました」


 チュリルの答えを聞いたブーヴァは、次に深緑のドレスから、枝を手のように使って何かを取り出した。 

 ツルで作られた輪っかに、紫色の星形の石を通したペンダントだ。


「これを持っていくといいわ。何かあったときは力になってくれるから。」


「ありがとうございます」


 ブーヴァがさっそくそのペンダントをチュリルの頭にかけてくれた。


「さあ、わたしに出来ることはこれだけよ。地球に行ったらあとはもう、あんたが自分でやるしかないのよ。宇宙に愛と平和を。健闘を祈るわ」


「ありがとうございます。ブーヴァさま、最後にわたしから、お礼に愛と癒しのパワーを送らせてもらえませんか?」


 チュリルの言葉に、ブーヴァはにっこりと微笑んで、


「ありがとう」と言った。

 

 チュリルは、すぐそばの湖から深い癒しを呼び起こし、水色の風に乗せた。

 そして次に、森の精霊たちからの愛を集めると、光に溶け込ませた。

 と、そこに、星中のファントームたちからの、愛と癒しのエネルギーが風や光となって届けられた。

 旅立つチュリルへのエールだ。


 チュリルは、水色の風と愛の光、そして星中から集まった愛と癒しのエネルギー、そのすべてを融合してゴールドの光輝く風に変えた。


 シュルルルルル、ヒュー、ヒューーー。

 

 チュリルは、ゴールドの光輝く風を、森や丘や草原や、星のあらゆるところに吹き渡らせたのだった。


 かつてないほどの愛と癒しがブルームハートを包み込み、上空には虹がかかった。


「みんながあんたの勇気を称えているわ。さあ、別れの時が来たようね。また会えると信じてるわ」


 チュリルが頷いた。

 

 チュリルの頭上に浮かぶ1000ミャムの光の塊に向かって、ブーヴァの羽から紫色の光線が放たれた。

 頭上のオレンジ色の光の塊が大きく伸びて、チュリルの体をすっぽりと包み込んだ。

 そしてその表面を、紫の光線がいく筋も稲妻のように走ったのだった。


 天空にまばゆい光のポータルが現れ、光と稲妻に包まれたチュリルが、吸い込まれていった。

 次の瞬間ポータルは閉じて、そこには何事もなかったかのようにいつもの青空が広がった。


読んでもらえてとてもうれしいです。

評価&感想いただけると泣いて喜びます。

そしてブックマークいただけましたら、、、

めっちゃ頑張ります!

どうぞよろしくお願いします^_^

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