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赤い髪のステラ  作者: ねむりにゃんこ
第七章 邪の森
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2 邪悪の化身

 スロームスロームメルディスメルディス、スロームスロームメルディスメルディス、、、。


 「ヴォルデュー様、、、」


 リオンは呪文のリズムに導かれるように、森の中の湖へと進んだ。


 湖面からは邪気が立ち上り、辺り一帯が紫の霧に覆われている。


 「さあ、湖に体を浸すが良い。腐気(ふき)となって生き続ける動物たちの思念を、お前の体に取り込むのだ」


 この星を支配する邪神ヴォルデューの声が響いた。


 湖水には、これまでリオンが闇に葬ってきた動物たちの思念が、時を経て腐気(ふき)となって溶け込んでいる。


 怒りや憎しみや恐れや哀しみなどの念が、消えることなく、腐気(ふき)として、湖の中に生き続けているのだ。



 スロームスロームメルディスメルディス、スロームスロームメルディスメルディス、、、。


 リオンは、ヴォルデューの奏でる呪文のリズムに合わせて体にそのリズムを刻みながら、湖の水に体を(ひた)していった。


 一歩、また一歩と深みに向かって足を踏み出す度に、リオンの体は腐気(ふき)の渦に、深く、深く、()かっていく。


「おおっ、動物たちの断末魔の叫びが、腐気(ふき)となってワシの体に染み込んでいく、、、」


 湖の揺らぎに身を任せながら、リオンは次第に、憎しみとも恐れとも、哀しみとも怒りともつかぬ思念に、全てを支配されていくのを感じた。


「おおっ、お前は、、、マリオン」


 リオンの目の前に、幼少の頃よりずっとそばにいた名馬マリオンが姿を現した。


 砲弾に首を飛ばされて焼かれながら、ヒヒィーンッと叫ぶ、その断末魔の叫びが腐気(ふき)となって、リオンの体に()みた。


「ぐううぅぅっ、、、」


 マリオンの受けた衝撃が、そのままリオンの体内に取り込まれた。


 リオンの目の前には、かつてリオンが操り、闇に葬った動物たちの姿が、次々に現れては消えた。


 そしてその度にリオンは、彼らの痛みや苦しみなどの衝撃を腐気(ふき)として体に取り込んでいったのだ。


 スロームスロームメルディスメルディス、スロームスロームメルディスメルディス、、、。


 邪神ヴォルデューの刻むリズムに包まれ、リオンの顔は、青白い炎のように水の中でゆらめいた。


 そしてついに、リオンの体が腐気(ふき)でいっぱいに満たされた時、リオンは、痛みと熱さの中で、恍惚の表情を浮かべたのだった。





 「さあ、リオン。邪の森の胎内へ。新たなる邪の王として、生まれ出づるのだ」


 リオンは湖から出て、すぐそばに群生する木々の中央に立った。


 木々は、湖から()み出る腐気(ふき)の溶け込んだ水を源としており、真っ黒な木肌で、(いびつ)な形をしていた。


 スロームスロームメルディスメルディス、スロームスロームメルディスメルディス、、、。


 リオンが両手を上に上げて、天を仰ぐと、木々からは無数の枝が伸びて、リオンの体に巻き付いた。


「ブレス」


 ヴォルデューの声が響いた。


 すると一斉に木々は、リオンに巻き付いた枝先から、リオンの体内の腐気を吸い取った。


「うおおおぉぉぉぉーーーっ」


 リオンの叫び声が森にこだました。


 すると今度は一斉に、木々は、吸い込んだ腐気を邪気に変えて、リオンの体内に吹き戻したのだった。


「うおおおぉぉぉぉーーーっ」


 再度森にリオンの声がこだますると、巻き付いた枝は解かれて、今度はリオンの頭上に紫色の雲が現れた。


 スロームスロームメルディスメルディス、スロームスロームメルディスメルディス、、、。


 青白い炎のようなリオンの頭部から、紫の髪の毛が上へ上へと伸びていった。


 毛先はまだわずかにオレンジ色をしている。


()の色は、われらにとって忌むべき色、、、」


 ヴォルデューの声が響いて、リオンの髪の毛は雲と繋がった。


 スロームスロームメルディスメルディス、スロームスロームメルディスメルディス、、、。


 オレンジ色は少しずつ紫に変化し、やがてすっかり紫色を取り戻すと、今度は根元から先まで、さらに一層深く妖し気な紫の光を帯びていったのだった。


「ヴォルデュー様、、、」


 リオンは、髪の毛から伝わる邪気に全身が包まれていくのを感じた。


「うおおおおおおおーーーっ」


 全身にみなぎる邪気に、リオンは両手の拳を振り上げ、天を仰いで叫んだ。


 そして、、、。


「さあ、リオン、仕上げだ」


「ブレス」


 ヴォルデューの声が響き、リオンは全身から、森に漂う妖気と邪気を体内に取り込んだ。


 そして次にリオンは、頭内にこびりついたステラの風の残像を霧のように噴出した。


 スロームスロームメルディスメルディス、スロームスロームメルディスメルディス、、、。


 呪文のリズムに合わせて、リオンは紫の髪の毛を揺らし、天に轟くような声で笑った。


「フッフッフッフ、ハッハッハッハ、ハーハッハッハッハ、、、」


 青白い炎のようにゆらめいていたリオンの顔は元に戻り、邪気に満ち溢れている。


 邪神ヴォルデューの息を吹き込まれた邪悪の化身として、リオンは完全に蘇ったのだった。

 






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